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第7話:帝王・柏木七海!!




「しかし、お兄さんはどこにいるですの?準・秋葉原を徘徊しているのは確実なんですけど…」




「うぇっ、あれはカードリスト修羅のレアカード!?」




「こいつは、探す気がゼロですの…」




準・秋葉原街に来て一時間後。浮気容疑のかかっている七海の義理兄はいまだ見つからない。




「むぃ〜っ!なんですの、このオタクオタクした道は!?ムカつくです、癇に触るです!なんですの、この猛乳娘って!?乳があるからって有り難がっているんじゃないですの!乳が無くても女の子は女の子ですのーっ!オタク嫌い、オタクキモい、オタク暗いですのーっ!!」




「いや、オタクが悪い訳じゃ…」




「ウルサイですの、オタクキング!略して、オタッキン!」




「ヘタレキングからオタクキングにーっ!?…いや、いいかも。むしろ、それのがオッケー?」




「何を悦に入ってるですの!?オタッキンが嫌なら、ハゲちゃびんですーっ!?」




「グレード下がったぁーっ!?部長、オタッキン、オタッキンでお願いします。てか、俺、ハゲてねぇーーっ!!」





何やらぎゃーぎゃーと騒ぐ七海と阿久津。周りのオタクたちは二人を居た堪らないといった感じで暖かい視線を送る。きっと、オタクたちは二人の姿を見てこう思ったのだろう。



学生服のカップルがあまりのオタク文化にカルチャーショックを受け、混乱しているんだ。そうだ、そうに違いない。そっと、そっと、しておいてあげよう……と。



「あっ、この猛乳娘くださーい!」




「にゃーっ!?誰ですの?言ったそばから猛乳娘を購入しようとしている、ド馬鹿は誰ですのーーっ!?」




「おっ、和屋さーん、来たねー。猛乳娘ね、毎度ありーっ!」




「…………」



「部長、オタッキンで、オタッキンでお願いします。何なら、オタッキーでも可でって……部長?」






七海はあまりの出来事に動くことができない。ここはとあるオタク道。阿久津いわく、オタクのメッカである秋葉原以外のオタク街をそう呼んでいるらしい。シルクロードとかと勘違いしていると思われる。そして、そんな中。そんなオタク溢れる道で七海は信じられない物をみる。




「ふふふん、ふふふん、ふふふふ~ん。お休みはー、買い物をして~、ストレス発散、発散!今日は、猛乳娘を、買いました~と…」




そこに居たのは紛れもなく七海の姉・和屋杏子の旦那様である和屋わや 宗一郎そういちろう、その人であった。




彼は事もあろうに、貴重なお休みを使って、嫁である七海の姉・和屋杏子とデートするでもなく、嫁である七海の姉・和屋杏子の為に宝石の類いを買うでもなく、なにやら如何わしいパソコンゲームを買い漁りに来ていたのだ。しかも、買ったのは七海が先ほど、タイトルやコンセプトに激怒した猛乳娘。七海は心の底から思う。



(此奴、どうしてくれようかっ!?)




この男の浮気疑惑を晴らす為に自分が部長をしている探偵クラブを私的に使用してまで浮気調査を決行したというのに…。猛乳娘を買いましただと?お休みは買い物をしてストレス発散、発散だと?ふふふん、ふふふん、ふふふふ~んだとぉぉおっ!?



七海の怒りは限界寸前。阿久津はそんな七海の憤怒の表情をみて、なにやらオロオロとうろたえ気味である。




「ぶっ、部長、な、ななな何かのみ、飲み物を買いますね?ここコッ!?コーラでいいですよね?」



「炭酸なら何でも良いですのっ!!」



「うわわ~い!じゃ、そそそこの自販機で買ったきますねねね~っ…」





あまりにも恐ろしいオーラを発する七海から逃げるべく阿久津は素早い動きで目の前のゲーム屋に置かれた自販機へ向かう。




「えぇと、百円、百円。しっかし、何を怒ってるんだ部長?わかっんねぇー、んん~、あんな時の部長には近づかない、オア(もしくは)、ご機嫌を取る!これに限る、うん、うん!」




それから、己の今後の命を保証する為に、彼女のご機嫌を取っておくべきだと、無類の炭酸系ジュース好きな彼女の為にコーラを一本仕入れようとする。




「…っと、百円見っけ、て、うぉっ!?俺の百円が落ちちまった?こら、待て俺の百円!」


だが、その時、阿久津愛用の細長の財布から百円硬貨が見事に飛び出し、アーチを描いて地面に着地。その後も縦に着地した為にコロコロと転がる百円硬貨を追って阿久津は一歩、二歩と足を前に出す。




「…と、ホイ、百円」



「あっ、ありがとうございます」




すると、その落とした百円を拾い上げ様と阿久津が手を伸ばしたと同時に何者かの手が百円を拾い上げ、ポンとそれを阿久津に渡した。



それはなかなか背の高い男性であった。しかし、髪の毛は前髪が目を隠すくらいに長く、今どき珍しいビン底を思い浮かばせるレンズのした眼鏡をかけた男性だ。



「おや、君が持っているのは、もしかして、あの破格の値段で異例の売り上げを記録した幻の同人ソフト『アイマシテ』ではないかい!?」




「あっ、分かります?今さっき、そこのゲーム屋にあったんですよ!いつもいつも探してたんですけど、どこも売り切れで、偶然見つけて衝動買いしちゃいましたよ?男ならこれは買わにゃならん!って思いまして、あはは」



「うんうん、分かる。分かるよ、君の気持ち!俺も探したもんだよ、て言っても手に入れたのは最近なんだけど、そのソフト。かーなり、凄いよ?」



「まっ、まじすか?」




「うん、俺さ、幼なじみの香月美代までクリアしたんだけど、かーなり泣かせる!他の娘の話もマジ泣き必死のストーリーだからぁ~」




「うわぁ~、やぶぇ~、早く帰ってやりてぇ~!」




阿久津はジタバタと地面に足踏みをする。にこやかに笑う男性はそんな阿久津に色々とゲームに関する話をし、阿久津はその話の一つ一つに感嘆の声をあげて叫ぶ。




すると、ふと、阿久津は何やら背中を刺すような視線に気付く。このプレッシャーは一体!?阿久津は背中に背負う恐怖心にも似た感覚を心に押し込め、ゆっくりとプレッシャーのする方向に顔を向ける。




「(ア~ク~ツ~ク~ン!?)」


恐怖!?

まさに、その一言に尽きる。一体、何が起こっているのか?学生の身ではあるものの探偵として数々の事件を解決してみせた自称名探偵・阿久津当夜だが、しかし、これは理解出来ない。



何故なのか、しかし、それは確かに具現化する事実であった。先ほどから恐怖で空間を支配する部長。その部長が更なる恐怖を持って、見たこともない怖い表情でこちらを見ているのだ。




(ひひぃぃい!?何が、何が、何が部長をあんなにも怒らせいるんだー!?)



これには冷静さを欠かない阿久津でも無惨に取り乱してしまう。学校では、その愛らしさとクールな仕草からクールプリティーやら愛玩の(女子の間で部長は仔猫扱いなのだ)プリンセスなどと呼ばれている彼女。しかし、中学時代からの付き合いである阿久津にとって、そんな名前は彼女には相応しく無いと思っていた。



確かに、彼女は可愛い。それはそれは、絵本の童話に出てきそうなお姫様みたいな姿で、まさしくプリティプリンセスといった感じだ。しかし、阿久津は知っている。神社高校探偵倶楽部の部長・柏木七海の心の内には秘めたる帝王が棲んでいる事を…。



帝王とはつまり、『カイザー』。王、『キング』とは違い、己の道をただひたすらに突き進むが絶対主である。その為ならば、親しきものだろうと邪魔な者はその暴虐の名の下に排除する。己の障害・敵となる者を徹底的に滅しようとする。それが『カイザー・帝王』である。




そして、そんなカイザーが柏木七海の心の内に棲んでいる。それ故に彼女を怒らせるという事は、果てしない苦しみと痛みを味わう事となるのだ。




現に中学一年の夏休み。阿久津は彼女に、彼女の苦手なカエルを触らせるといった、ちょっとしたイタズラをしてみせた。当然の如く、カエルが嫌いな彼女は今にも泣きそうな叫びと共に逃げ惑った。イタズラは大成功であった。

だが、しかし、その翌日の朝。阿久津はその仕返しとして、思いもよらぬトラウマを植え付けられる事となったのだ。『真夏の田んぼとカエルの卵』、これが阿久津当夜が一生背負っていくであろうトラウマのキーワードである。



(何故だ、何故に部長は俺に、ガンガン殺ろうぜ!…みたいな視線を送り付けてくる!?お義兄さん探しを手伝わなかったからか?いや、しかし、手伝わなくてもそもそもこの事件の真相は…)




「ん?どうした少年?汗なんかかいて?」




「いへっ、なっ、なんでもないです…」




「そうだ、少年、ちょっと俺に付き合わないか?いま、ゲーセンにいいアーケードゲームが入ってんだ。今日、俺、それをする為にここに来たんだ」





「いえ、そんな、俺、用事がありますし…」



阿久津は心の中でひたすらに叫び続けていた。まずい…本当にまずい。これ以上、この男性と長話をして部長を怒らせるとマズイことになる。そして、このまま、この男性に付き合い、ゲーセンにでも行こうものなら…。自分は、一生ゲームが出来ないであろうトラウマを植え付けられることになる。阿久津は本気で心の中でそう思う。




「ん、もしかして、他人だからとか気にしてる?馬鹿だなぁ、オタクは皆同志!遠慮することはないってぇ~」




(違うチガウ、遠慮じゃない、遠慮じゃない!くそ~、なんで俺がこんな目に?原因は?部長を怒らせてしまった原因はなんだ!?)




「あっ、名前教えるね。俺の名前は和屋宗一郎っていうんだ。ちなみに、去年の6月に結婚して、只今新婚生活を満喫中さ~っ!!」




(原因はなんだ、原因はなんだ、原因は…和屋?…あれ、確か、部長のお姉さんの名字も和屋?てか、あれっ?もしかして、この人。眼鏡かけて髪の毛を下ろして顔がいまいち見えにくいけど……さっき部長のお姉さんの家の前に立っていた、旦那さんじゃね?)




阿久津は混乱していた。

先ほど部長のお姉さん宅前で見た、旦那さんはちゃんとスーツをビシッと決め、前髪も上に上げ、エリートビジネスマンをも思わせる出で立ちであった。しかし、何がどうなったのか、今自分の目の前にいる旦那さんはアニメのロゴと絵が描いてある服にジーンズと猛乳娘が入ったビニール袋を抱えた、まるっきりオタクなスタイルなのだ。




「てっ、猛乳娘ぇぇえっ!?」




「えっ?あっ、うん。いま、この店で買ったんだけど…?」




(分かった…。いま、部長が何故にあんなに怒った表情をしているのか…やっと、原因が理解出来た。つまり、つまり…)




阿久津はフラフラッとおぼつかない足つきで和屋家の旦那から離れる。『えっ?ちょっ、どうしたの?』と和屋家の旦那。阿久津は叫んでいた、心の中で氷解した事件の原因について叫んでいた。




(原因はコイツだぁぁぁあーっ!!)




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