第6話:まず、探偵…
まず、探偵といえば…
「ユ●サクっすよ、ユウ●ク!やっぱ、私立探偵っていったらユ●サクさんしかないっすよ、部長!」
「うっ、うっさいですよ、阿久津くん!●ウサク、ユウサ●って、あの人は探偵というより警察の方が有名です。なんじゃこりゃーっが有名なんです!」
和屋家の妹・柏木七海は、看板の影に隠れながら同じクラスで同じ部活の阿久津 当夜と探偵について語らっていた。
「まったく、分かってないですの。ユウ●ク先生は憧れても、真似しちゃダメなんですよ、阿久津くん。あの人は役作りの為に自分の足を切っちゃおうとした人なんですよ?私たちに真似なんて出来る訳ないですの。特にヘタレキング・阿久津当夜くんにわ…」
「ヘタレて…キングて…。俺、この部長に着いて行って大丈夫なんだろうか…」
「あっ、動きました。監視対象が動きだしましたよ、阿久津くん!何をそこで地面に話しかけてるんですか?探偵といったら尾行ですよ、尾行!我が神社高校・探偵クラブの出番です!」
「て、部長の姉夫婦の旦那浮気調査でしょ?他の皆は近所で起きた窃盗事件の方に行っちまいましたよ?っきしょ〜、ジャンケンで負けなきゃ、俺も向こうで色々と…部長と二人ってのがど〜もなぁ〜っ…」
「いいから、ウ・ゴ・ク・です!!」
七海の姉夫婦はとても仲が良く、七海にとって理想の夫婦であり、その姉夫婦の住む家はとても居心地が良かった。常に清潔で、いつも爽やかな風が入ってきていて、空間がそこだけ異世界のように幸せに溢れていた。
小さい頃からガサツで、男勝りで、おおよそ料理や掃除、洗濯なんて女らしいことをしたことの無い姉。しかし、結婚してからはそれが一変して毎日毎日、家を掃除して、料理をして、洗濯なんかもして、それはもうお嫁さんとしては完璧であった。人は変われば変わるものだなぁと七海自身そう思うくらいだった。
掃除嫌いだった姉は部屋の模様変えなんかも、季節毎にやっていて、春なら春らしく夏なら夏で秋なら秋で冬なら冬の内装に飾り付けていた。何が嬉しくてそんなに部屋を季節毎に模様変えするのか。きっと、これが不器用な姉の旦那さんへの愛情なんだろうなーっ、と七海は感じていた。
そして、数日前、七海はそんな幸せいっぱい春いっぱいの姉夫婦の家に訪れることとなった。当然、姉は春になった今、部屋を春らしく飾り付けていると思い、やって来た七海。だが、なんと驚いたことに内装がいつもと一緒で冬の内装であるではないか!?
先ほども言った通り、七海の姉は結婚してからというもの部屋を季節毎に模様変えをしている。しかし、いまは4月。春になった今、いまだ家が冬の内装というのはどういうことなのだろうか?この異常事態に七海は驚き、姉である杏子に一体これはどういう事なのかと問いただした。
「なるほど。で、部長がお姉さんにそれを問いただしたところ、旦那さんが浮気をしている、と…?」
「です!」
「で、それを聞いた部長は我が探偵クラブを私的に利用して、旦那さんを調査しようと、尾行していると…」
「です!」
「………部長、旦那さん、見失いましたけど?」
「ですーーっ!?」
…
…
…
…
…
…
…
見失った姉の旦那を探すこと数十分。携帯電話を調べ、居場所を特定した七海。
「…なんすか、このオタクの聖地は…」
「あ、秋葉原では無いですよ…ね?でも、玩具やゲーム、フィギュアや……エログッズ!?」
「エログッズって部長。あれは、恋愛ゲームですよ、恋愛ゲーム。しっかし、知らなかったなぁ、こんな所にオタク道があったとは…」
「えっ、何?オタクロード?」
「いや、俺の仲間内で言ってるだけなんですけどね?アキバ以外のオタク街の事をそう呼んでるです。アキバがオタクのメッカって事はそのメッカを辿る道がある訳でしょ?だから、アキバ以外のオタク街をオタク道って事で…」
「辿るですか?オタクは皆、その道を辿ってアキバを目指すですか?」
「いや、そんな西遊記みたいな…。別に辿ってアキバに行くんじゃなくて、アキバ以外をそう呼んでる訳で…」
そう言い阿久津はキョロキョロと周りを見渡す。そこら中にオタクが泣いて喜びそうなグッズを売る店が所狭しと並んでいる。アニメやゲームのポスターが店先で貼られているのは当たり前で、マニアックな店では子どもにとって悪影響だろうっとツッコミたくなるようなポスター等も貼られていた。
「んん〜、お兄さんのケータイを調べて位置を特定したはいいけど、まさか、こんな所にいるとはです」
「かなりのオタクですね、部長のお兄さん」
「義理ですけどね…」
ふぅ、と七海はため息をつく。まったく、あの義理兄ときたら姉を困らせてばっかりである。とりあえず、街のエロエロなポスターを横目に義理兄を探すことにする七海。
となりの阿久津は、というと『おぉ、すげぇ、これ幻の同人ゲームじゃね?』、『やべっ、今日って京都瞑想の発売日だったんだ!?』、『げぇ、なんだよこのフィギュア?かなり、クオリティー高くね?表情とかマジ自然!』などというたわ言を言って義理兄を探す気がないようである。
人選を間違えた。七海は義理兄の影を追いながら心の底からそう思う。
阿久津はこう見えて学校での成績は優秀で探偵としての能力も、難解な事件にて警察から直接アドバイスを求められるほど優秀であった。そんな彼だからこそ義理兄の浮気調査に役だってくれると思っていたのだが…。
「おぉっ!?スゲェ、アレは破格の値段で異例の売り上げを記録した、超激レア18禁 PCゲーム『アイマシテ』じゃねぇかぁぁあっ!?やっぶぇ、アレってあまりの人気にどこも売り切れだったんだよな、買わにゃならん、男として、アレは買わにゃならんだろ!?」
「(人選を間違えた…です)」