第2話:羽ぼうきで
羽ぼうきでパタパタ…。
和屋杏子は新婚さんである。去年の6月に大恋愛の末、結婚をした。だが、愛する旦那様は何と…オタク様だったのだ。
「いやぁ、良いねぇ。メイドに羽ぼうきで頭をパタパタされるのは…。ご主人様、パタパターなんて…」
毎回、何かしらのコスプレを強要してくる旦那。今回は黒服のメイド。それを来て掃除をしてくれるだけで良いからと旦那が言うので、昼間に掃除をしたにもかかわらず杏子は黒のメイド服を身に纏い掃除をする。だが、いい加減に我慢の限界である。
杏子は中学・高校と体育会系の部活に所属していた。つまり、体育会系の女の子はこういう腑抜けた輩を見ると…。
「だぁぁっ!!お前、いい加減にしろよな!?あたしゃー、あんたの着せ替えフィギュアじゃねぇんだよ!!」
デジタルのカメラでぱしゃぱしゃとメイド姿の杏子を撮っている旦那に杏子は低空ドロップキックを喰らわせる。
「ふぎゃあ!?」
旦那はドスンとその場に尻餅をつく。
「あわわわわっ、杏子ちゃん?ややや、落ち着いて」
言葉の始めを震わせながら杏子に落ち着いてくれと旦那は手を前に出し体を震わせる。その旦那の姿を見て、まずは、お前が落ち着けよと杏子は思うのだった。
「たく、私はお前のフィギュアじないんだぞ?嫁だぞ?奥様だぞ?」
む〜っと、眉を八の字にして杏子は旦那に訴える。そして、ちょこんと旦那の前に座りぐりぐりと旦那の胸に人差し指を押し付ける。杏子としては、ただ新婚なので甘えて訴えてみただけなのだが…。
「でたぁぁあ!!黒メイドのツンデロ状態!?いやいやいやー、やっぱ、コレだよねぇ〜」
旦那のオタク脳は、そう認識せず。杏子の訴えは脆くも打ち砕かれるのだった。さらに、ぱしゃと杏子の甘えた仕草をカメラにおさめる旦那。いやはや、杏子の怒る姿が撮れているとも知らずに旦那はぱしゃぱしゃと続ける。
「お、おま、お前なぁ…。あたしの、私の愛を返せぇえっ!!」
愛さえ有れば趣味の差なんて…。そう思わない事もなかったのだが、旦那があまりにも駄目男なので杏子は怒る。
全くもって、不条理である。二人は同じ場所で同じ時間に同じ位に愛を誓ったというのに…。
要望が通るのは大抵が旦那の方だ。
ウサウサランド(市内の遊園地)に行きたいと言っても旦那の仕事の都合で行けなかったり、じゃ、別の所でデート、というと必ず旦那お得意のオタクスポットになってしまう。他にも、一緒に寝たいのにプラモデルを作るからと深夜まで起きてたり、朝のキスをしたいのにさっさと仕事に出掛けていく旦那。
「なんでコイツと結婚したんだろ?」
不意に出てしまった言葉。別に本気で思った事ではない。杏子にとって、ただ、何となくの一言だったのだが。
「ふぇ!?ええっ!!あ、ああああ、杏子さん!?うぇっ!?な、何を、言って…?いや、いやぁ、捨てないで…僕を捨てないでくれぇぇぇえーん!!」
杏子の不意にでた言葉にわんわんと泣く旦那。まるで、子供だ。ただ、言っている事は子供ではないが…。
「ごめよぉ、ごめよぉ。もう、ゴスロリや黒メイドのコスプレを強要しないからぁー。捨てないでぇ。愛してるよー、愛してるんだよー。杏子がいなくなったら僕は半日でこの世から消滅してしまうよぉー!!いいのぉ?本当だからねぇ、本当に消滅してしまうんだからねぇ!?良いかい、僕の脳内はもう八割がた杏子に占められてるんだからねぇ?それが無くなるって事は脳死だよ?体があっても死なんだよ?現在の法律では脳死は死んでいる事にはならないけど、僕の場合は本当に死ぬんだからぁぁぁあっ!!」
意味不明である。旦那の言っている事が杏子にはよく分からない。だが、旦那が自分を深く愛してくれている事は分かる。杏子は何だか気恥ずかしくなってしまう。体がむずむずとしてこそばゆい。
杏子は体育会系で強い。そのためか学生時代から杏子に近寄る男性はいなかった。それに、杏子自身も男にあまり興味が無かったのでより男が近寄らなかった。つまり、杏子にここまで言ってくれる男性は家族意外で旦那が初めてであったのだ。
自分の何処が良いのかと聞いたら『全てが』と言ってくれた旦那。プロポーションは良くても性格が男っぽいぞ、と言ったら『それは君が人一倍女の子だからだよ』と言ってくれた旦那。
「ばか…」
愛さえ有れば趣味の差なんて…。不条理さえも愛になる。そう、新婚さんである和屋夫婦、二人はまだまだ甘くてラブラブなのだ。
こんにちは。
和屋夫婦は面白い関係にあるようで…。杏子は男っぽいけど何処か少女趣味、旦那はヘタレでやっぱりオタク趣味(笑)
そんな二人だけど相手を想い合うのは一緒。中々に良い夫婦かと…?
それでは、失礼致します。ありがとうございました。