第10話:話進みて、寿司オヤジ
途中、(訳:○○○)など文章がかなり読み難くなっていますが、一応必要な物なのでご勘弁のほどをお願い致します。申し訳ございません。
それでは、本編へどうぞ。
遂に私は旦那のハートを射止めてやった。人間不信になっていた旦那を口説き落とし、大学でのラブストーリーが始まったのだ。
「ふんふんふん、ふふ〜ん♪
「ご、ご機嫌だね、杏子ちゃん?」
「えぇ〜?だって、ねぇ〜?……あっ、待っててね?すぐご飯作るから」
「いや、うん。…と、いうか、俺、自分で自炊出来るし、別に毎日毎日、ご飯を作りに来なくても良いよ?」
「遠慮しない、しない!あたしが作りたいの!未来の旦那さまのご飯だもん!」
「そっ、そうね…」
毎日毎日、旦那のアパートに通っては手料理を奮ってあげた。まぁ、料理なんて生まれてこのかたやった事の無かった当時の私な訳で。母親から教わって作っていたものの、不器用な私の作った料理の味は想像を絶する物だったに違いない。良くもまぁ、旦那もその全てを完食してくれた物だと今でも感心している。愛だね、愛。
「えっ?あんたマジで和屋センパイと付き合ってんの?」
「うん、毎日、手料理を作りに行ってるんだぁ〜」
「毎日って、夕飯でしょ?夜でしょ?」
「うん!」
「うん!って、あんた。マズイわよ、あんた変なことされてないでしょうね?」
「てか、もう…ねぇ?」
「いや。もう、ねぇって言われても、あんた…。だって、いい加減男だよ?部活でも、ぐぅたらしてるし、狭間センパイとは何かオタクな会話してるし、単位は取れてるみたいだけど、あれだよ?髪の毛ボサボサで厚底メガネで秋葉原みたいな所を徘徊してるような男だよ?」
「よ、要は仁美はオタクが嫌いなんだね?」
「あんたもそうでしょ?中学の時、クラスのオタク野郎を見る度に絞めてやったの覚えてる?高校の時だって、あんなの見るだけで蹴りが飛ぶ杏子だったでしょ?」
「むっ、昔は昔だよ」
「………」
「あの、仁美?……えっと、その…むっ、昔は昔だよ?」
「…………はぁ〜、まぁ、杏子が好きになった人だからねぇ〜。仕方ないか、幸せにね?てか、あの男が裏切ったらまず私に言いなさい、懲らしめてやるから。それから、別れたい時も言うのよ?後腐れなく、ゴミに出してあげるから!」
「ゴミにって…」
「で、あんた家族には言ったの?特にあの頑固なお父さんには話したんでしょうね?」
「モッ、モチロンダヨ……」
話せる訳が無かった。我が父親は昔気質の頑固一徹を思わせる堅い人。仁美が言ったように当時の旦那は髪の毛ボサボサのビン底メガネ。紹介しようにも、出来る訳がない。
家庭教師として面識のある母親と妹には会わせる事は出来るが、そこから漏れないとも限らないので家族全員に内緒。ちなみに、何故に父親が旦那と面識がないかというと、前も話した通り父親は寿司屋なので朝イチから河岸に魚を買いに行き、夜遅くまで店で寿司を握っているので、夕方に来て夜には帰る家庭教師時代の旦那とは母親から話しに聞いても会うことが無かったのだ。
そして、もし家庭教師時代に2人が会っていたらならば、あんな事件も起こらなかったかもしれない。
あんな事件。それは、私と旦那が付き合い始めて約2年の歳月が流れた時の話だ。
「ねぇねぇ、杏子お姉ぇ。彼氏が和屋先生だって本当ですの?」
「ぶっ!?いっ、いきなり何!?」
この妹の食卓でのいきなり発言が事の発端であった。
「いや〜、昨日、偶然に和屋先生と会ってしまってぇ。おかしいと思ったですの。2年ぐらい前から、いきなり、お姉ぇがママに料理を習い出したり、いつも散らかしっぱなしだった部屋を自分で片付けてたり。これは、なぁ〜んかあるなぁと思っていたら、ズバリですの」
「ぐっ、あんた、また探偵ごっこして、あたしをつけ回したな!?」
「ごっこではなく、探偵ですの」
「んな事どうでもいいっ!!重要なのは…」
「杏子がどぎゃん(訳:どんな)男と付き合っとるか、が重要たい!!」
「いや、お父さん。あのね、別にね…」
「和屋先生?何ね(訳:何だ)、その和屋先生って言うとは!?(訳:言うのは)教師ね、教師と付き合っとっとね!?(訳:付き合っているのか!?」
「あらぁ、和屋先生って言ったら杏子が高校時代に付いて貰った家庭教師の先生じゃない?へぇ〜、やるじゃない杏子ちゃ〜ん」
「母さん!あのね、お父さん、宗一郎さんはね…」
「宗一郎さん!?」
「宗一郎さんですの?」
「あらまぁ、宗一郎さんですって。まぁまぁまぁ、今日はお赤飯が良かったわねぇ」
「母さん!じゃ、なかった。お父さん、あのね、和屋さんはいい人で、頭も良くて、七草大学も適当にしながらも卒業なんか出来てるし…」
「適当っ!?」
「あっ!いや、別に和屋さんは適当な人じゃなくて…」
「なるほど。お姉ぇが高校の時、推薦が決まった大学を蹴ったのも、そうまでして七草大学に入学しようとした事も、おかしいおかしいとは思っていましたが。なるほど、なるほど、七草大学に和屋先生がいたから、あんなに必死になって勉強してたですの〜?」
「まぁまぁまぁ、じゃ、杏子ちゃんが高校生の頃から?まぁまぁまぁ、やっぱり、お赤飯作らなくちゃ!」
「あ〜、もう!そうじゃなくてぇ〜」
「…杏子」
「なっ、なに、お父さん…」
「明日、その男をここに連れて来い!良かね!?(訳:良いな)」
さぁ、大変な事に。そんな事を急に言われたってこっちはまだ心の準備が出来ていなかったし、旦那を着飾る時間もないと来たもんだ。再会した当時の旦那はオタク文化に毒されており、普段からオタクなスタイルでいるため、父親に会わせるなんて無謀としか言い様がなかったのだ。
しかも、大学も卒業出来、就職先も決まり、春休みを満喫中の当時の旦那は私が知る限りで今まで一番、最悪のスタイルだった。親友の狭間センパイと同じ格好であちらこちらと変な所に渡り歩き、もはや、百年の恋も冷める勢いだった。……まぁ、それでも、呼び出したんだけどね。
「なんでそんな格好なの!?」
「いや、そんな急に呼び出されたから。これでも、一応、服は着替えて来たんだよ?」
「むぅ、ボサボサ髪の毛は後ろに縛るとして…なんでメガネ!?コンタクトはっ!?」
「それがどこにも無くて、探したんだけど…」
「もぉ〜、どうすんのさ!?あたしのお父さんは頑固だって言ったじゃん!?うぅ〜、別れろなんて言われたら、どうしよ〜…」
「大丈夫、信じて!」
「信じられないよ!……ううっ、でも、もうこれで行くしか…」
「杏子?店先で何ばしよっとね?(訳:何をしている)はよ、入らんね?(訳:早く、入らないか)店の中からお前の姿が見え……」
「おっ、お父さん!?うわっ、なんでいきなり?あの、あのあの、これがあたしの付き合っている人で、家庭教師をしてくれた人で、あの、和屋宗一郎さんって言って…」
「どうも、和屋宗一郎です。お父さん、挨拶が遅れてしまってどうもすみまっ、ぐはっ!?」
「ふえぇえっ!?なっ、なななな、なんでいきなり、宗一郎さんを殴る訳、お父さん!?」
「せからしかっ!!(訳:うるさい!!)娘をくれてやるのは、男の中の男と決まっとっと(訳:決まっている)!!彼氏が出来たて言うけん、どんな男か期待しよったとに…。こげん(訳:こんな)、優男にくれてやる物は塩でも無かっ!!(訳:くれてやる塩さえもない)」
この時ほど、父親との血の繋がりを強く感じた事はない。父親の無遠慮かつ、暴虐な鉄拳を喰らった旦那は、やむ無く父親と会話することなく帰宅する。その後、旦那と父親が出会うことは無かった。そして、2人が次に出会うこととなったのは、結婚の挨拶の時だった。
「………」
「………」
「(ねぇ、パパと和屋先生…2人向き合ったまま全然喋らないですの…)」
「(うぅ、やっぱり、2人だけににするんじゃなかった)」
「(………大丈夫よ、きっと……)」
「(きっとって、なに?きっとって、母さん?)」
「(一番危ないのは、あそこに昔から飾ってある名刀・右京一文字ですの。パパがとある有名な刀鍛冶に特注で作って貰ったやつですの。確か、値段は国宝級。ですから、一度も人を切った事は無くても、切れ味は、それなりに…ですの)」
「(まっ、まさか〜…)」
「それで?」
「……先ほども言いました通りに、娘さんを頂きたく参りました」
「………最初に会った時よりは、幾分かマシな着物を着とるばってん(訳:着ているが)、中身はどぎゃんかね。(訳:中身はどうだろうな)」
「お答えしかねます。俺は、中身も無くて見栄えも悪い。直ぐに怠けるし、服装だって適当です。お父さんの言う、男の中の男とは程遠い。……しかし、杏子さんを思う気持ちなら、誰にも負けません」
「誰にも……だと!?」
「はい!」
「貴様、俺よりも杏子の事を思いよるとでも言いよるつもりか!?(訳:思っていると言うのか)」
「……はい!」
「きさまーっ!!」
「(あわわわ、パパが刀に手をつけましたですの?ひゃあ〜っ、刀身を抜いちゃいましたですの〜っ!?)」
「(えっ、ちょっ、宗一郎さん?逃げっ、逃げて、逃げてって!?くっ、こうなったら、あたしが行かなきゃ…)」
「(大丈夫よ、杏子ちゃん)」
「(お母さん、どこが!?大丈夫じゃないよ、刃先を宗一郎さんの目の前に突き付けてるんだよ!?)」
「貴様、俺から杏子を無事に奪えるて思うなよ!?この刀のサビに…」
「片腕でも、片足でも、差し上げましょう!」
「なにぃ〜っ!?」
「いくら切られたとしても、俺は娘さんを連れて行きます。もはや、彼女は俺の一部だ。彼女が居なければ、俺は生きてはいけません。だから、彼女を失うくらいなら、腕や足の一本二本……惜しくは無い!!たとえ、例え、首だけになったとしても、俺は杏子を愛して、奪ってみせます!!」
「こんガキャぁあっ!!なら、望み通り、貴様の首をっ…」
「待った!!」
「っ!?母さん邪魔ばせんでくれ!俺はこいつば、叩っ切るけん!」
「そんな事をすれば本当に貴方の負けです」
「なにぃ〜っ!?」
「彼は首だけになってもと言いました。つまり、彼が生きていようといまいと、杏子が彼と一緒になる事は免れないという事です。むしろ、彼をここで首だけにしてしまえば、杏子も彼の後を追い、首だけになってしまうでしょう。杏子を不幸にする事は貴方の本意では無いでしょう?」
「んぐっ…」
「彼が杏子を思う覚悟を見せた所で貴方の負けは確定してしまったのです。もう、誰にも2人を止めることは出来ませよ?ねっ、あなた?」
「………」
「あなた!!」
「くっ……す、好きしろっ……ばってん、(訳:しかし)貴様!杏子ば泣かしたり、裏切ったりした時は……覚えておけよ!」
こうして私と旦那は親公認で結ばれる事になる。その日から去年の6月までせっせと結婚の準備をして、そして、めでたくゴールイン。相も変わらず、旦那はオタクだけれど、愛は常に私の方に向いているとその時の私は信じて愛を誓ったのだった。
さて、途中途中、省いた話はあるけれど、とりあえず、これが私と旦那の昔話。
大好きで、愛して、信頼して。それでもって、憎らしい旦那様。本当に、もう嫌になってしまう。消えない思い、消したくない思い。後から後から沸いてきて、本当にどうしようもない思いがここにある。だから、私は今も昔もずっとこれから、旦那に恋をして生きていくんだろう…。
…
…
…
…
…
…
…
「…ぐすっ」
時は土曜日、お昼過ぎ。私は今朝から出掛けている旦那を待っている所だ。そして、ちょっとした事に、ナーバスになり戸棚からアルバムを引っ張り出して昔の事を思い出していた。
「もう、お昼過ぎだ。旦那…帰ってきちゃう……ご飯作らなきゃ……でも、帰って来ない……よね?」
だって、今日は旦那の携帯電話のスケジュールに書いてあった、浮気の日なのだから…。
『アイミちゃんと、ハート』と書かれた携帯電話のスケジュール。それを見た私は直ぐさまソレを叩き折ってやろうと携帯電話を振り上げた。しかし、結局私には出来なかった。
旦那がオタクなのは我慢出来た。あまりにも多すぎるマンガで1部屋潰れているのも。フィギュアの群れが私たちの寝室にまで侵入してきた事も。休みの日、デートもせずに溜めに溜めたゲームやアニメを見ている事だって。さらには、デートをするにあたってそのデートの場所が何かオタク系統のイベント会場であっても我慢出来た。
しかし、しかしだ。流石に、そんな私でも浮気には…。もう、涙を流しその場に座り込む他、どうしようも無かった。
鼻歌まじりでお風呂に入っている旦那。携帯電話を握りしめ、そんな旦那のいる風呂場を見る私。この書かれたスケジュールについて聞こうか、聞くまいか。もうすぐ、旦那がお風呂からあがる。聞こう。聞いて殴って、許してやろう…。
『ふぅ〜、いいお湯でした〜と。ん?どうしたの杏子?』
『えっ!?うっ、うんうん?何でもない……何でもないよ、うん……』
『…ふーん』
いつもの私なら、間髪入れず殴っているはずなのに、何故か私は何事もなかったように夕飯を作っていた。今思い出しても情けない。動揺、していたのだろうか?その日から私は旦那の顔が真っ直ぐ見れず、ぎこちなく過ごしていた。そして、遂にその日がやってきたのだ。
「旦那の浮気…か」
切ない。苦しい。悲しい。寂しくて淋しくて、嫌になる。今から旦那の居る所にいって浮気をしている所を押さえて、その浮気をしている女の目の前でボコボコにして……
と、そこまで考えて、ため息が出た。いくら考えた所で体が動かない。言い様のない脱力感が私を襲うのだ。刻々と時が進み、私だけが置いてきぼりにされる。…本当に、本当に切ない。
「浮気って、何ね?(訳:何だ?)」
「浮気っていうのは、旦那が他の女と逢い引きをして〜………ん?って、おっ、おおおお、お父さん!?」
「杏子、浮気っていうのは何ね?(訳:何だ?)浮気しとっとね(訳:浮気しているのか?)、宗一郎くんは?」
「いやっ!!いやいや、いやっ、いやっ!!してない、してない、してない!!宗一郎さんが私を置いて他の女と浮気なんて……てか、お父さんどうして?」
「お前の顔ば、見に来たったい。だけど……そうね、浮気しとっとね?(訳:しているのんだな)……あん(訳:あの)、ろくでなしがっ!!」
何?何なに、この展開!?何ゆえに我が父親が私の家に?てか、今の一人言聞かれた!?ヤバい、旦那……殺される!?