第九話 冥界老狐ホウジョーウ~どっちかって言うとHOJONETTA~
柵木VS流星回……の、筈でしたが……
「シャあアァぁああッ!」
「ほぅワらぁァアアっ!」
流星と柵木の戦いは尚も壮絶に続いていた。金色の岩石球体を取り込み大柄な姿に変異した流星の戦闘能力は『そこそこだが圧倒的で、まあまあだが絶対的』『踏ん張れば勝てるかもしれないが、気を抜いているとすぐ死ぬことになる』という本人の言葉通りにかなり高く、柵木は(一方的に追い詰められてこそ居なかったものの)苦戦を強いられていた。
「ザぉラァァァアアア!」
「ぬおぅっ!?」
流星の手にしたロッド(魔術で異空間に仕舞い込んでいた、長さを三段階で調節できる代物)の鋭い一撃が、柵木の鼻先を掠め地面に突き刺さる。否、それは"突き刺さる"というより"貫く"という方が妥当とさえ思えるほどに力強い一撃であった。
「ぅオらったッヒェい!」
更に流星は突き刺さったロッドを引き抜くでもなく、逆にポールダンスの要領で絡み付き回転しながら腕を振り上げ柵木へ迫る。対する柵木は当然四本の獣脚で後ろへ跳躍し逃げようとするのであるが、然し得体の知れない加速をした流星には追い付かれ、右前足首をむんずと掴まれてしまう。
「――なぁっ!?」
「捕マえタゼBBAーッ! 彼方へブッ飛バシてヤルっ!」
流星はそのまま勢いよく回転しながら柵木を投げ飛ばす――振りをして、右前足首を掴んだ手を放した直後の、飛んでいく寸前の宙に浮く柵木へ強烈な回転蹴りを叩き込む。蹴りは柵木の横腹を直撃し、肋骨三本を叩き折りつつあらぬ方向へ吹き飛ばす。
「ぐぎょぼ、ぶべぇっ!?」
飛ばされた柵木は錐揉み回転しながら地面に叩き付けられ(その拍子で更に骨が折れ内臓も傷付いてしまう)、余りの重傷に暫く動けなくなってしまう。そしてその好機を流星が逃すわけもない。
「ヒやハはハハハはァっ! ヘタってンなよBBAあーっ!」
流星は嬉々とした様子でロッドを引き抜くと、わざとらしい動きでゆっくりと、物言わずピクリとも動かぬ柵木に歩み寄っていく。
「よォォォーっ! BBAヨぉぉぉ~ッ! そンなシケた面ぁしテンなよっ――ナァァあああっ!」
流星は無抵抗な状態の柵木をそのまま打ちのめしてしまおうと力任せにロッドを振り下ろした――が、その一撃は肉を打ちも骨を砕きもせず、突如意識を取り戻した柵木によって片手で受け止められてしまった。
「お゛ウっ!? な、てメ、BBA! 何を、ンの、放シャがれテメ――おぶげらっ!?」
ほぼ再起不能にした筈の柵木が片手で攻撃を受け止めたという予想外の出来事に混乱した流星は思わず混乱し、慌ててロッドを納めようとする。だがロッドを掴む柵木の握力は見た目に反して地味に凄まじく、どうやっても振り解けそうになかった。そこで流星は力強く引っ張ったり精一杯揺さぶったり、果ては手首や頭に蹴りを入れたりとあれこれ試行錯誤を繰り返したのだが、それでも柵木はロッドを離さない。やがて心身ともに疲れ果てた彼は、ロッドを取り戻すのを一旦諦め休憩を取ろうとする。
「はぁ、ひぅう、ふへぁあ……くそ、再起不能なりソコなイの癖にやるジャねー――かぁっ!?」
流星が腰を下ろそうとしたその瞬間、彼の身体は宙を舞っていた――柵木の左掌から放たれた、魔術式の構築難易度と単純な爆発力に限れば同系統でトップクラスと言われる攻撃魔術『衝爆波』によって。
「ぅおぉああーっ――げべへっ!?」
流星が派手に吹き飛ばされ間抜けな姿勢で地面に叩き付けられている隙に、掴んだロッドを投げ捨てた柵木は、先程まで動けなかったのが嘘のような動作で素早く起き上がる。
「おーぅ、痛えなぁ……投げと思わせて蹴りでぶっ飛ばすとか容赦無さ過ぎ鬼畜の域じゃろおめぇ。治癒にめっちゃ時間かかったんで? 魔力も食うしなぁ、あそこであんだけの衝爆波打てたんも三割方奇跡みてぇなもんじゃて……そのお陰で動けん振りしておめーをハメられたとは言え、もちっと何かやり方っちゅうもんが有ろぉ?」
流星に対してあれこれ(若干ばかり説教臭く)愚痴りながら、柵木は(最早魔法少女のコスチュームと言うべき外見の)戦闘スーツの右手首に備わった腕時計風のツールを起動する。スライドするように飛び出したトレイから出てきたのは、一枚の木の葉あった。
「とは言えそれも決着しちもうたらチャラじゃけぇ、そうウダウダも言わんけぇな」
そう言って柵木は木の葉を頭に乗せ、魔術発動の構えを取る。一方起き上がった流星はと言うと、柵木の行動が理解できていないのか止めに入ろうともしない。
「アん? BBA、オメえ一体何を――どぶらばっ!?」
そして案の定、彼の身体は再び宙を舞う。今度は柵木の発動した変化魔術の(発動者である柵木自身ですら想定していなかった)実質的に攻撃魔術同然の威力を誇る"余波"によって。
「あぎゃばさほぶっ! ――っく、ソぉア……今度は一体何だっテン――だ?」
再び叩きつけられながらも何とか起き上がった流星が見たものは、変化魔術によって最早別物と言ってもいい程の変化を遂げた柵木であった。
「およ? 何じゃ、やたら派手な余波じゃなぁ。これまではちっと強めの煙が出るぐれーじゃったんじゃが……やっぱりこのスーツの所為じゃろか」
黄金色の頭髪は腰まで届くまで伸び、少女然としていた体格は妖艶にして豊満ながらもさほど無駄のない美しい成人女性のそれに、骨格もタウル型から直立二足歩行するヒト型に、尾はより毛が増えて立派に――といった具合に、当人がやたら暢気な様子な様子なのに反してその容姿は流星以上に様変わりしていた(しかもその上、魔法少女の衣装が如きイエローソレノドンのスーツは彼女の体格変化に伴いそのサイズと構造を変えていたのだから若干シュールでもあった)。
「さて、ほんなら何か決め台詞言うとかんと……よし――冥界老狐ホウジョーウ、安易な腹黒許しまへん!」
何を言っているのかよくわからない決め台詞だが、当人としては渾身の出来だと思っている為か無駄に誇らしげでやりきったような顔をしていた。
次回、紀和VSキメラE&ラブリール回!