第五話 標的はそいつでしたが~すげ替えられました~
そろそろワールドショックの元ネタとかわかる頃合いかも
「OK。現状は姐さんがあっちのカンフーチビ、永谷ちゃんがスタインバート博士を相手取ってくれてるわ。永谷ちゃんについては正直あたし抜きで大丈夫かと思ったけど、あのスーツの出来は想像以上だったみたいだからまあ大丈夫でしょう」
「だな。残るは首領のチビガキに狼の化け物と女二人、地下から飛び出してきたタコだかイカだかが合体したグロいのとそれを操ってるウネウネした奴と」
「動きからして、宝石ジャラジャラさせてる方の痴女は魔術師ね。とすると白黒の痴女が前衛を勤めてると考えられるわ。あと同じ関係は頭足類と触手の痴女、狼と首領の小娘にも言えるだろうから……」
「ちょうど三等分できたわね。それじゃあたしは触手を捌くから紀和は女二人を叩きのめして、ガランは狼とロリを殺って頂戴」
「おっしゃ」
「任せて」
戦闘スーツ(という名のコスプレ衣装)に備わった特殊加速装置の搭載された通信機を用い上記のようにしてそれぞれの担当を決めた残る面々――アイル、ガラン、紀和の三名――は、此方へ向かってくる敵を迎撃しようと動き出した。だがこの直後、事態は彼等にとって予想外の方向へと転がり始める。
「はァァァァ――」
「ッラァァァ――」
「ふンぬぁぁ――」
三人は揃って狙い通りの敵へ攻撃しようと勢いよく飛び掛かった。だがその刹那、予想外の出来事が起こった。それぞれの狙っていた各敵の位置が、突然何の前触れもなく入れ替えられてしまったのである(則ち、アイルの前にはバイオロードが、ガランの前にはシェイドエッジとジェム・ザ・ソーマが、紀和の前にはキメラEと改造頭足類が、それぞれ立ちはだかっていた)。
「「「――!?」」」
突然の出来事に三人は当然面食らい、思わず動きに乱れと隙が生じてしまう。そして当然、ワールドショックの面々がその隙を逃す筈もない。
「グァウッ!」
「ぎゃふあっ!?」
バイオロードは腕の一振りでアイルを数百メートル近く叩き飛ばし、
「ふっ!」
「うお!」
「シェイドの蹴りを受け止めるとはやるじゃない。けど、その勢いもここまでよ!」
「な、にぃ!?」
どうにかシェイドエッジの回転蹴りを受け止めたガランも、ジェム・ザ・ソーマの魔術により二人諸共異空間へ姿を消し、
「シュギワゥッ!」
「っ!?」
「エクセレント! よくやったわラブリールちゃん!」
「……くっ」
キメラEに操られる頭足類"ラブリール"は、巧みな触手裁きで紀和を拘束する。
戦闘開始早々、三人は思いもよらない展開に翻弄されつつあった。
「アイル様!? アイルさm――」
「何をやっている」
「くっ!」
振り下ろされるギア・クライムの長剣を、永谷はすんでの所で回避する。
「上司の事が心配なのはよくわかるし、その点のみを踏まえれば君は理想の部下と言えるだろう。だが、だからと言って余所見をして貰っては困るな。君が戦っているのは私なんだ。ならばまずこの私を真っ直ぐに見ることだぞ、ピンクワスプ。上司の心配をするのは、私を倒してからでも遅くはない筈だ。私の記憶と憶測が正しければ、彼は君に心配されずともそれを咎めはしないだろう。だが然しその一方、君が傷付き追い詰められるようなことは決して望まない筈だ」
「そうですね。浅はかな考えと無礼をお許し下さい、ギア・クライム。ここからは貴方という敵をただ真っ直ぐに見据えて力の限り戦わせて頂きましょう――エンプレスコード入力。バレル・オン」
《コード承認、バレルアームド》
刹那、永谷のスーツが再び光り輝き瞬時に変形する。小回りが利くよう腰からは細身の機関砲が顔を出し、右肩には太短い榴弾砲、左肩にはそれを補助するものであろうレーダーらしきものがそれぞれ展開されている。
「完成、ハイパーピンクワスプ・バレル……さあギア・クライム、準備は整いました。ここからが私の全力です」
「火力に特化した形態か。素晴らしい……ならば私もそれ相応の姿で相手をしなくてはいけないね」
ギア・クライムが両手の握り拳を胸の前で交差させる構えを取ると、羽織っていた白衣の色が赤から黒に変わり、全身を覆っていた黒い毛皮は灰銀色の金属光沢を放つ細かな産毛の生えた外皮に変異する。
「……焼き焦がし打ち砕く勇猛なる情熱よ、私に力を与え賜え……ホイール・チェンジ、ワイルド・スフィンクス」
最後に全身の筋肉量が増加し全体的に屈強な体格となった所で、彼の変異は終了した。
「来るがいい、ピンクワスプ。君のその火力、私の情熱で掻き消してあげよう」
かくして二人の戦いは装いを新たに再開される。
「なっ――ガランっ!? 紀和ぁ!? アイ――」
「ヨソ見しテンなブチ殺すぞBBAーっ!」
「ぬおわぁっ!?」
永谷同様一瞬ばかり弟分・妹分達に気を取られてしまった柵木を、流星によって生成・射出された光り輝く黄金色をしたバスケットボール大の岩石球が掠める。間一髪の所で回避したため柵木に傷はなかったが、僅かでも反応が遅ければ戦闘不能に陥っていたであろうことは想像に難くない。
「ケ、避けヤガったカ。まあアの程度の攻撃、てめえなら避けて当たり前っチャーそウダがよう」
流星は地面に減り込んで輝きを失った岩石球を片手で器用に拾い上げる。すると球はまるで熱せられた蝋細工のように溶け始め、瞬く間に流星の体内へと浸透していく。
「コッからはっ、この先カラはかなり違えぜ!?」
岩石球が溶けてできた黄金色の流体が流星の体内へ浸透していくのと同時に、彼の身体に明確な変化が現れた。
「ドンぐれえ違うっテヨう、そりゃもう芋虫が蝶になるっつーか、センスのねー地味イな田舎者ネーチャンが野郎どころか女やホモや犬畜生までサカらすエロ女優になっちマウぐれえ違えぜ!?」
逆立つ頭髪の色は、元の鮮やかな青色から輝かしいまでの黄金色に変わり、
「そしてババア、てめえはソンな俺と戦って、俺のそコソこ圧倒的でまアマあ絶対的な力を思い知るンだ!」
濃いピンク色をしていた瞳を含む両眼球の全体は血を思わせる深紅に染まり、
「ソこそコだが圧倒的で、マあまアだが絶対的な、そんな力だ! 踏ん張りゃドーにか勝てルカもシれねえ! だが逆モマた然り、気ぃ抜いテットすぐ死ヌぜぇ!」
手足や胴が驚くべきスピードで伸びていき、柵木と同程度だった背丈はその1.5か2倍程にもなり、
「だから気いつケロよババア! まあ、ドー頑張ろーがてめエは俺が殺すがなぁっ!」
締めとばかりに全身の皮膚が藍色に、星空のような黒い道着が黄色にそれぞれ変色し、変異は完了した。
「テメえの運命は、俺が決定るっ!」
次回、吹き飛ばされたアイルはどうなったのか!?