第四十話 終の毒生物~ダイジェストナイト~
やっとこさ完結です。応援して下さった皆様、本当にありがとうございました。
かくして臨母界第四階層にて引き起こされた『ワールドショック』による大規模テロ事件は、組織の実質的な壊滅という形で無事閉幕と相成ったのであった。仮に地球で起こったのであれば組織壊滅後も様々な問題が後を引きそうな事件ではあるが、怪物騒ぎが日常茶飯事な臨母界ともなると八議長を初めとする公的機関や住民たちはこの程度の事件になど慣れきっており、諸事への対応がそれなりに迅速かつ的確な為か事態の収拾も早くつきやすいのである。
ただそれでも、八議長は今回の一件を自分達の管理ミスによるものと考え更なる対策強化に尽力するよう決意し、特に第三階層のケルベルや第七階層のフレージの決意は議長達から見ても相当なものであったという。
上層部がそんな調子で気を引き締めている一方事件現場となった第四階層の町はと言うと、事件現場となったことを逆手に取って大々的に自分たちを宣伝。二重三重の意味合いで聖地と化した自分たちの土地に数多の観光客を呼び込むことに成功しているらしい。
また現場の当事者と言えば、本作で主役を張った元・反乱の四凶こと現ザ・ブッコロガシ・クロッカスの五名であるが、彼らの人気も当然ながら凄まじいものとなり、様々なメディアミックスが行われている。中でも人気なのはパイレンジャイをモデルとしたヒーローの登場する特撮ドラマ番組『猛毒戦隊トキシンジャー』であろう。これは嘗て臨母界を守ったパイレンジャイの後継者として選ばれた五人が『猛毒戦隊トキシンジャー』なるヒーローチームとなって悪と戦う物語であり、一年の放送を終了して尚その勢いは衰えず、後世の特撮作品とコラボしたり、スピンオフ作品が作られるほどの人気を誇っているという。
これらメディアミックスに対し最も精力的にかかわっているのは間違いなくTBCのリーダーたる柵木豊穣であったが、彼女は同時に臨母界政府上層部と結託しある計画を進めていた。その計画とは『アミク・ステッラ救済計画』であった。即ちかの事件で対峙した流星の故郷、アミク・ステッラが現在どのような状況であるかを調査し、解決すべき問題があるならばその策を練るというものである。当初は八議長等からの反対意見も多かったが、説得の甲斐あり現在は積極的な調査活動が行われている。
他にTBCメンバーで大きな変化が起きた人物と言えば、やはり何といってもガラン・マランであろう。かの事件でシェイドエッジからの猥褻行為を受けたガランは、著名人の性犯罪被害者として各地で公演を行い、被害者の救済並びに性犯罪そのものの防止と抑制の為に尽力している。また薬草トラクスによる肉体変異現象もグリクス・ニーディ氏が後に得たデータから認知・自覚することとなり、サンプルとして氏の研究に協力。自身の意志でコントロール可能な一種の異能の段階にまで昇華したそれが氏の研究データに割り当てられた番号を元に『モード682』と名付けられ、ただでさえ凄まじい戦闘能力を誇る彼をより恐ろしくしていくのはまだ少し先の話である。
ワールドショックの元メンバーで唯一生存したギア・クライムことクライム・スタインバートはあの後自ら公的機関に身柄を確保・拘留されることを選んだ。どうあがいても自分は臨母界という世界そのものに歯向かった許し難き犯罪者であることに変わりはなく、ともすれば法の裁きを受け罰せられるのは当然だと考えた為である。彼はあらゆる刑罰を覚悟した。刑罰の合法性・倫理性などはこの際無視されて当然だろう。安心できる生活、生物として真っ当な生活などは送れないに違いない。待っているのはただ絶望や悲愴だけだ。兎に角待ち受ける状況をネガティブな方向にイメージし続ける。別にその反動で思っていたより悪くない状況で過ごそうなどとは思っていない。寧ろ希望のようなものに縋っていい自分ではないだろう。
そんな事を思い続けていたクライムは、気が付けば法廷に立たされていた。弁護人は向こうが勝手に用意した人物らしく、見るに案外まともそうだと彼は感じた。
そして裁判が始まる。クライムはただ、自分の知っていることだけを答えた。自分への問いかけ以外で他人が何を言ったのかは覚えていなかった。だがどうせ何をどうしようとも結果は変わるまい、とだけ思っていた。
裁判の結果が出た。どうやら極刑――肉体はおろか魂までも解体され存在そのものを抹消される最も重い刑罰――は免れたらしい。だがそれは逆にもっと過酷な生活が延々と続くということでもある――などと考えていたら、確かに終身刑判決が下った。『さあ、どこの留置所だ?』などと思っていると、どうやら異次元に放逐されるらしい。『なるほど留置所にぶち込むより効率的というわけか』と心の中で呟く彼に告げられた行先は進轍、つまり彼の生まれ故郷だった。
彼は思う。『ああ、進轍……我が故郷……あそこもソグマに荒らされているからな。今の私ならすぐに死ぬだろうな』。然し裁判長に告げられた刑の詳細は、彼の予想斜め上を行くものであった。
曰く、クライム・スタインバートには荒廃した進轍で生活するための十分な物資を与える。
曰く、その物資の中には彼が臨母界で得てきたありとあらゆる財産も含まれる。具体的に言えばそれは彼の自宅と研究所及びその内容物である。
曰く、希望するならば臨母界よりある一定数の人員を派遣することもできる。
曰く、彼には使命が与えられる。使命とは、荒廃した進轍をあるべき姿に戻すことであり、それは荒廃の元凶たるソグマ並びにソグマの傘下にあるあらゆる者の根絶によってこそ成し遂げられる。
それはまさに、かつて彼がワールドショックに加担してでも成し遂げたかったことであった。刑罰という体ではあったが、実質的に自身の計画を補助してくれるというのである。最初は信じられず混乱しかけたクライムだったが、無理にでも自分を落ち着かせその"刑罰"を甘んじて受け、使命を全うすると語った。
数日して、単身進轍に戻ったクライムは早速行動を開始する。補助があるとは言えソグマの帝国も次元一つを支配する程に強大である以上、上手くいく可能性は京に一つもないかもしれない。だがそれでも彼は満足だった。
例え一寸先が闇でも地獄でも構わない。その先に何が待ち受けていようと彼は気にしない。
希望を忘れぬ彼の未来は、どんな時でもすこぶる明るい。
蠱毒成長中の次回作にご期待する気があるならご期待ください。
とりあえず次は既存作品のスピンオフでない全くの新作を始めようと思います。




