第三十六話 私が君を裏切らないとでも思ったかい?~実は前々から計画してたんだよ~
いざ最終決戦へ
「ぬっくぅぅぅぅぅ~! どうして!? どうしてこうなるのよっ!?」
ワールドショック創設者にして総帥でもあるクイーンDCDことダニエラ・チャミィ・ディルレヴァンガーは、目の前で起こった一連の出来事に混乱と怒りを隠せないでいた。
「何でみんな殺られちゃってるのよ……キメラEにシェイドエッジ、ジェム・ザ・ソーマばかりか流星やギア・クライムにバイオロードまでっ……あんなパイレンジャイとかいうわけわかんないバカみたいな連中に、こうも呆気なく……有り得ない……有り得ていい筈がないわ、こんなこと……」
糸を切られた操り人形のようにがっくり崩れ落ちたクイーンDCDは、そのままああでもないこうでもないとひたすらうわ言を言い続けるばかりであった。
「……なるほどわかった」
うわ言を言い続けるクイーンDCDからかなり離れた位置の物陰に座り込むクライム・スタインバートの表情と口ぶり、またその全体的な在り様は『死を通り越し肉体のみならず魂までも完全に消滅した筈の自分自身がはっきりと意識を保てる状態で生きている』という衝撃的な事実に直面して尚至って――いっそ不可解なほどに――冷静沈着としていた。
「つまりあの時、君は寸前で無数の蜂に分裂して私の砲撃を回避、同時に私から予め奪っておいた異能の幾つかで私の内部構造を解析、瞬時に組み替える事で消滅するという事実を回避させたと……」
「そういう事です。適当にやった所も九割程はあるのでまさか成功するとは思っても見ませんでしたよ」
「(ほぼ完全に適当だったんだな、本当に何故成功したんだ……)然し疑問だな。何故私を助けた?」
「簡単な話です。助けねばならない、殺してはならないと感じたから――それだけですよ」
「……私と君らは敵対関係だ。組織の殆どの面々が死滅し壊滅寸前という今でもそれは変わらない。こうして話し込んでいる隙にも君らを罠に嵌めて殺すかもしれないと、そうは考えないのか?」
「考えませんよ。そうするつもりなら既に我々は全滅している筈です。敢えて油断させる手も無いことはありませんが、貴方はそういうタイプではない」
「では、私はどういうタイプだと言うのかね」
「そうですね……私の推論が確かなら――というより、私の推論はこの場に限り絶対のものですが――貴方は今まで自分がしてきたことを悔い、せめてもの償いにとワールドショックを裏切り我々の側につくことでしょう。そしてそれを公然とかの首領に告げ宣戦布告、激戦を繰り広げる……」
「全く持って荒唐無稽で馬鹿げた話だな。そんなことが実際にあり得るとでも思うのか? その根拠はどこにある?」
「根拠、ですか……それもまた至極単純なものですよ。というよりは、如何に複雑難解な理屈を立て並べようとも結局はただ一つの結論に到達するんですがね」
「……その結論とは?」
「"貴方が貴方であるが故"、ただそれだけです。貴方という男がクライム・スタインバートであるならば、先に私が述べたような判断を下し臨母界を救うため力の限り行動を起こすであろうと」
「……それだけかね」
「ええ、それだけです。というか先程も申し上げました通り、如何なる理屈を並べようと辿り着く結論はこの一言なんですよ。これ以上に最適な言葉が見付からず、また探す気も失せるんです」
「……そこまで言い切るかね」
「ええ、そこまで言い切ります。それが貴方という男ですから」
「……」
静かながらも確かな強い意志を秘めた永谷の言葉を受けたクライムは少し考え込み
「……面白い。そこまで言うのなら協力してやろうじゃないか」
「よろしいのですか? 曲がりなりにも彼女は貴方の上司でしょう?」
「肩書の上ではな。思い返してみれば奴との思い出は基本的に不愉快なものしかなく、まして奴自身に対する忠誠心や敬意、仲間意識などというようなものは欠片ほどもない有様でね。奴よりは君らに協力する方がよっぽど有意義だと感じたのさ」
「つまり貴方と彼女は目的達成のため互いに利用し合っていたに過ぎないと」
「そういうことだ。まあ、ここでどちらを選ぼうとも私の辿る結末は変わらないだろうがね。さあ、そうと決まれば早速行くか」
「行くって、どこにです?」
「決まってるだろう? 奴に別れの挨拶をしてくるのさ。まあ心配はいらない、生きていればすぐ戻るから」
そう言って軽快に駆け出して行ったクライムの彼女に対する行為は然し"別れの挨拶"等という生易しいものではなかった。
「やあディルレヴァンガー、久しぶりだね」
「いや久しぶりっていうかあんた今まで何して――」
「ところで突然なんだがねー」
「たがっ!?」
挨拶もそこそこにクイーンDCDの顔面を思い切り殴りつけ、
「私は君に伝えねばならない」
「おぶ!?」
割れたマスクの破片が刺さり血がダラダラと流れ続ける顔面を更に踏みつけ、
「今まではぁ~、長らく君がどうしてもとせがむのでぇ~、仕方なく……そう! し、か、た、な、く! ワールドショックの幹部として君に従うフリをしてきてやっていたわけだがっ!」
「がばあ!?」
嘲るような口振りで宣いながら暫く踏みにじっては蹴飛ばし、
「出会ったその一時から君の事が大嫌いでねぇ!」
「ひぐ!? わがぐがげがぐぐぐう!」
のけ反った所で首を掴んで締め上げながら乱雑に振り回し、
「常日頃から殺してやろうと思っていたんだっ! その夢が此処で叶えられると思うともう感動でどうにかなりそうだぁっ!」
「おぼばぼぶべばぼばっ、ぶばがーべげっ!」
そのまま顔面を幾度となく殴り付けた後、大きく振り被って放り投げた。
「やあみんなお待たせ。彼女は少々複雑な心境だったようだけど、誠意をもって話しかけたら何とか理解を示してくれたよ」
駆け足で戻ってきたクライムは、まるでぼろ雑巾のように転がるダニエラを尻目に血生臭い暴力行為など無かったとでも言わんばかりの爽やかな態度で言ってのけた。
もう死んでそうですがまだ死んでません。そして戦隊とつく通りオチはやっぱり……




