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第三十四話 倉イムさん~止まれぬ猫と白蛇のダイス~

皆さんあけおめッ! とりあえず今年もダラダラ更新してくぞ!

「フゥー――すぅぅー――っ、はぁぁあああっ!」

「うぬぅおぉぉっ!?」

 赤い炎のようなエネルギーを纏ったギア・クライムの拳が勢いよく突き出されれば、拳に纏わりついたエネルギーが解放され彼の眼前数メートル四方の空間は爆炎に包まれる。永谷はこれをすんでの所で回避したもののその強烈な爆風の煽りを受けてバランスを崩してしまう。

「(何という凄まじい火力……成る程、デッドリー・レックスとは肉体を強化すると同時にある種の魔力に近い変幻自在の熱エネルギーを生み出しこれらをただ近・中距離での戦闘行為にのみ費やす形態というわけですか。確かに説明不要なほどシンプルな能力ですね。同じ重装甲の近接パワー型たるガラン様のレッドヴァイパーや変幻自在に臨機応変な運用が可能な柵木様のゴールドソレノドンなら対等に渡り合うこともできましょうが、私のピンクワスプではどうにも相性が悪い。ここはやはりあの機能を使う他ありませんね……)」

 永谷が先ほど空中に出現させ浮かべていたままのダイスを握りしめた腕を大きく横に振ると、同時にピンクワスプのスーツ左側頭部が展開。内部よりアームに支えられた小さな液晶画面らしきものが現れ永谷の左眼を片眼鏡の如く覆う形となった。

「さて……゛打って勝つ゛としますか」

 永谷の左目を覆う液晶画面に写し出されたのは、先程空中に浮かんでいたものと同じようなダイスの目であった。

「賽子回転・準備ダイスロール・タンバイ……開始スタート

 永谷が呟くと、液晶画面に表示されたダイスの目が素早く不規則に回転し始める。少しして永谷が『回転・停止ロール・ストップ』と呟くのと同時に左右それぞれで異なる目を出したダイスの動きは止まった。

結果リザルト、四三で勝利――模蜂児飯球もほうじはんきゅう・不可視試作型の製造条件達成……と」

 永谷がSF風に呟いたのと時を同じくして、ギア・クライムは若干の虚脱感らしきものを覚えたが、そんなものは所詮気のせいだろうと流してしまう。

「(もし仮に気のせいでないとしても別段構いはせん。それより心配なのは残り時間・・・・だ。デッドリー・レックスは劇的な爆発力を誇る一方、名称に゛致命的デッドリー゛の単語を含む通り使用者自身の肉体にかかる負担も凄まじいものだ。実験で試した限りでは常時最大出力で運用し続けようものなら約30分足らずで軽い意識障害が起こり、45分もすると四肢の動きに明らかな支障が出始め、55分で立っていることすらままならなくなり、一時間で意識を失っていた……あれから改良に改良を重ねたとは言え、それでもこうして細かに出力調整をしていなければわりとすぐにエネルギー切れで動作が止まるか、或いはそれより前に私の身体が動かなくなってしまうからな。そう考えるなら、デッドリー・レックスが未完成の状態で臨母界へ下る羽目になったのはある意味で幸いなのかもしれん)」

 攻め込んできた永谷の攻撃を受け流しながら、ギア・クライムは回想する。死して臨母界に下る前――自分がまだ機械工学者『クライム・スタインバート』として生きていた・・・・・頃の出来事を。



 彼――ギア・クライムこと本名:クライム・スタインバートは元々識別番号HR16-D7-43、通称を『進轍シンテツ』という次元の出身である。この次元は流星ルーシンの生まれたアミク・ステッラに近い性質を持ち、魔術が存在せず科学技術――とりわけ機械工学がこれに取って代わるように文明の根幹を担う世界であった。

 そこで彼は、やはり流星同様多くの仲間たちに囲まれながら技術を悪用する者どもから世界を守らんと日々努力を続けていた。仲間の中でも特に親しかったのは、自身と同じ猫亜人(カタル・ティゾルの禽獣種に相当)である警察官の青年・水白ススム、及びススムの同僚にして恋人でもある犬亜人の言寺リコ、並びにリコの実弟にして写真家のツヨシであった(この他にも大勢の仲間が居り、独身で身寄りのないクライムにとっては以上の三名共々家族同然の存在なのであるが、その辺りについては割愛させて頂く)。

 劇中いまでこそ自ら武装を纏い前線へ赴き戦いに身を投じるクライムだが、元々彼は装備の開発や調整を担う科学者であり、戦闘は専らススムやツヨシ、また時にリコの担当であった。そんな彼等と敵対していたのは、クライムと双璧を成すとも言われた科学者・天班あまだらソグマにより産み出された人造怪物゛神皇隷種じんおうれいしゅ゛。

創られた身ながらヒトに匹敵する高度な知性と心を持つ神皇隷種は自身の種としての在り方を探し求める余り思い悩み迷走を続けており、その為に幾度となく進轍人と敵対。中でもクライム及び彼の仲間たちは神皇隷種を種族として、また組織として率いる族長クラスの者達との接触や交戦を繰り返していた。


「(何時からだったか、対話と戦闘を繰り返していた彼らと我々との間に奇妙な絆らしきものが感じられるようになっていたのは……特に族長クラスの中でも特に中心的な人物だった神皇隷種の男カリドゥス・コルと我が親友ススムとの関係は、対立しながらも互いを認め合う強敵ともとでも言うべきか、正直嫉妬してしまいそうになる関係だった……そしてそういった出来事を経たためだろう、犠牲はあったが二つの種族を隔てる溝は徐々に埋まっていった。このまま上手くいけば近いうちに両種族の完全和解さえ夢ではないと、誰もがそう思っていた……だが、そうは問屋が卸さぬとばかりに邪魔建てをしてきた男が居た――死んだものと思われていた天斑ソグマだ。奴は死後も自らの意識を電脳空間に留まらせ、カリドゥス・コルを初めとする穏健派を快く思わない神皇隷種の個体を率い陰で陰謀を張り巡らせていた……奴の目的は簡単に言えば『世界征服』……今時どこの悪党も考えそうにない古臭い目標だが、奴にはそれを実行しうる力がある)」


 すぐさまこれを知ったクライムとその仲間達――カリドゥス・コルを初めとする神皇隷種の穏健派も含む――は、ソグマの軍勢に立ち向かうべく一丸となって戦いに身を投じた。然しソグマの有する力は底知れず、クライムとその仲間たちは呆気なく全滅に追い込まれ、機械工学の次元・進轍は遂に完全なる悪意の支配下に置かれてしまったのであった。

 そして死したクライムの魂はマイノスに拾われ臨母界へ至るのであるが、ここでとんでもない問題が起こった。



 臨母界に至り得たのはクライムのみであり、彼以外の仲間達は死んだにも関わらず臨母界へ至れず、臨母界へ留まるには損傷の激しい死者が至る空間"霊界"にも存在していなかったのである。

次回、何故クライム・スタインバートはワールドショックに入ったのか?

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