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第三十二話 キノミ激戦~それが究極 その3~





なろう史上最悪の手抜きエンドを君に……

「いやほんとこれ、参っちゃうわね……」


 アイルは自覚していた。自分は今、幾つかの要因により危機的状況にあると。

 第一に、先ほどの戦闘もあってかなり疲弊していること。

 第二に、自分の今いる場所が、恐らくは魔術によって形成された異空間であること。

 第三に、推測するにこの異空間を作り自分を閉じ込めたのが敵側ワールドショックの関係者であること(但しこれはほぼ確定と見て間違いあるまいともアイルは確信していた)。

 第四に、異空間の内部は一面暗闇であり、幾ら目を見開き凝らしても自分の手元さえ満足に見えない状況にあること。

 第五に――これこそまさしく最も恐ろしい要因なのであるが――スーツの機能発動を含め一切身動きが取れず、すぐ近くからバイオロードの息遣いが聞こえること。即ち――


「(ここでこのままゆっくりしてたら……まあ確実に死ぬわね。当たり前だけど。多分、動かなかった事を悔いる間もなく)」


 アイルの独白モノローグはその内容こそ彼が如何にも絶体絶命の危機に陥っているかのようであったが、然し実際この妖艶にして薄気味悪い奇々怪々な医者の態度そのものは何故だか余裕綽々といったものであった。




「(フフフ、グリーンセンチピードこと医師アイル・ア・ガイアー……妙な魔術だか何だかを使ってバイオロードをあそこまで翻弄してみせたのはまさしく称賛に価するわ。けれどそんな貴方も最早ここまでよ)」

 ワールドショック首領・クイーンDCDことダニエラ・チャミィ・ディルレヴァンガーは、つい先ほどまでアイルとバイオロードが戦っていた場所を眺めながら不敵にほくそ笑む。

「("暗黒虚無ダークネス・ヴァニティー"……敵の見動きを封じつつそうそう簡単には脱出できない異空間に閉じ込めるこの大魔術からは、幾ら貴方でも逃げられるわけがないのよ……! しかも今、中には暗黒虚無の中でも問題なく動き回れる"拘束無用バインドレス・フリーダム"の効果を受けたバイオロードがいる!)」

 因みに彼女の独白は二種類の魔術をさも自分が構築・発動したかのような口ぶりであったが、然し実際魔術を構築し、例え魔術の心得がまるでない者であろうとも任意のタイミングで好きに発動できるよう専用の魔術具へ封入したのはジェム・ザ・ソーマであり、自身は命令を下す以外殆ど何もしていない事を付け加えておく。

「(だからねぇアイル・ア・ガイアー、もう貴方を待ち受ける結末は確実なものになってんのよっ! そう、ファミリーレストランに入ったらオムライスとハンバーグが食べたくなるってぐらい確実なもの――に……?」

 刹那、クイーンDCDは妙な光景に絶句し面食らう。然しそれも無理はなかった。何故ならば――

「何で……何でバイオロードの姿がなくて、あの医者が生きてあそこから脱出できてるのよっ……!?」




「いやあ、『適合化に際しておまけでついて来ます。結構発動条件緩いのでその辺りだけ注意して下さい』なんて言われたからまあ覚悟はしてたし多分あの状況下ならああなるだろうって思ってたからそれほど焦らずに済んだわけだけど……」

 アイルはつい先程暗黒虚無の内側で起こった出来事を回想する。




「ガグルルルルルルルルルルル……」

 拘束無用の効果を受けたバイオロードは鋭い嗅覚でアイルの位置を特定、低い唸り声を上げ自慢の爪と牙で引き裂かんと、わざとらしく大きな足音を立てながらゆっくりと歩み寄っていく。普通に殺せばすぐに済む所を敢えて回りくどく動いているのは『どうせだからアイルの恐怖心を極限まで煽り立てた上で惨殺してやれ』という命令を受けた為である。

 命令を下したクイーンDCDは思っていた。『あの医者は中々どうして侮れない奴だ。普通に殺そうとしたとして、余裕を持ち冷静である限り何らかの策で此方に被害を齎す可能性が高い。ならば敢えて時間をかけてでも恐怖心を煽り立て、策を検討する程の余裕や冷静さをを無くしてしまった方がより安全であろう』といった具合に用心していたのである。

 然し今回ばかりは、その用心がまるっきり裏目に出てしまったわけであるが。


「ガゥルルルルルル……」

 バイオロードは尚も唸りながらゆっくりとアイルに近付いていき、遂にアイルが拘束されいるとされる場所まで辿り着き、鋭い爪の備わった剛腕をアイル目掛けて振り下ろす――が、振り下ろされた爪は骨肉を裂くことなく異空間の底面に突き刺さる。

「?」


 何かがおかしい。

 小難しくそう考えたわけではく、本能で察したバイオロード。然し彼がそこから次の動作に移るより前に、彼の右肘から先が削り取られたかのように消滅する。一体何かと気付いた時には右腕が肩まで無くなっている。抵抗しようとしたバイオロードだったが、健闘も空しく彼の体は姿も見えず気配も感じられない得体の知れない何かによって損なわれていき、完全に絶命・消滅するのにそう時間はかからなかった。死に際彼の脳内には苦痛より疑問が満ちており、遂には自分が死んだという事実にさえまるで気付きはしなかったのである。


 そしてこれは言うまでもないことであろうが、このようにしてバイオロードを始末した"何か"とはつまるところ、他でもないアイル・ア・ガイアーその人であった。異空間の暗闇に拘束され万事休すかと思われた彼の命は、自らの身体へ後天的に植え付けられた異能により救われる事となる。

 後に"モード-363"と名付けられることとなるその異能を一言で言い表すならば『暗中豹変』といった所か。自身の周囲がある一定の暗闇に包まれると発動するそれは、持ち主の肉体を異形のそれに変化させ、如何なる拘束からも解放し、時に眼前の敵を殲滅までも全自動で行うというもの。但しその最優先事項は持ち主を安全な場所まで移動させる事であり本来は戦闘用の異能ではないらしいが、然しアイルにとってはその方が寧ろ好都合ですらあった。


「(さて、あたしの方は何とか終わったわけだけど……他の皆は大丈夫かしらね?)」

次回、永谷VSギア・クライム!

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