第三十話 キノミ激戦~それが究極 その1~
アイルVSバイオロード、そろそろ佳境……!
「グルルルルルルルルッ! グルラガアアアアアッ!」
「ぬっ、くううっ! これしきのことぉぉぉぉ!」
橙色の外骨格を纏ったバイオロードとグリーンセンチピードのスーツに隠された更なる機能を解放したアイルとの戦いは、例によって拮抗状態のまま激化の一途を辿るばかりであった。
バイオロードが大剣を振るえばアイルはそれを避け(或いは受け流し)、アイルがガントレット『七巡、爪は牙へ(セブンラウンド・ネイル・トゥ・ファング)』から手裏剣の如き刃『牙は回って飛ぶ(ファング・フライ・アラウンド)』を射出すれば、バイオロードは大剣に仕組まれた機関銃を展開し不規則に飛び回るそれらを余裕綽々と撃ち落とす――といったような説明をしたならきっと読者諸君は拮抗状態の原因が両者の武装面にあるのだと思われるだろうし、事実両者の有する武装の性能・威力は確かに拮抗状態を作り出す原因の一つにもなってはいた。だがそれは原因の二割も占めておらず、残る八割はほぼ別の理由で占められていた。
「(くっ……また微妙にGの加減と向きを弄って来たわね……ったく、如何にも知能低そうなのによくやるもんよ腹立つわねぇ)」
その八割を占める理由とは、橙色の外骨格を纏うバイオロードへ新たに発現していた厄介極まりない異能と、それに対抗すべくアイルが解放したスーツの機能によるものであった。
バイオロードに発現した異能というのは、簡単に言えば『局所的な重力操作』であった。しかも先程の独白でアイルが言及したように知能の低そうな(というか、実際低い)バイオロードが制御している割にはかなり複雑な操作が可能であり、浮かせるも沈めるも自由自在であった。
一方アイルの解放した機能というのは、確かに重力操作には対抗できそうだが、その一方ムカデらしさとは一見縁遠く思える『引力を操る』というものであった。然し本作の前身たる小説『ヴァーミンズ・クロニクル』を最後まで読み終えた上で本作をここまで態々読んでいるような敬虔な読者ならばきっとお気付きであろうが、この機能はムカデと全くもって縁がないというわけでもない。何故ならこの機能の元になったのは、アイルを始めとするパイレンジャイの面々が生前の日々を過ごした異界『カタル・ティゾル』に古来より伝わる異能『ヴァーミン』の一つ――その名と象徴としてムカデを持つ第十異能――である。
「(ま、ヴァーミンの方のセンチピードの引力操作はあくまで応用利かせた場合のおまけであってその本質は『離れた物体同士を接合する』って異能だから、そう考えるとこのグリーンセンチピードのスーツに搭載された引力操作機能とは全くの別物なんだけどね)」
然し事実、その『本家とは全く別な機能』のお陰でアイルはバイオロードの重力操作に抵抗することができていた(具体的な方法を説明すると、重力と真逆の向きへ引力を発生させることで相殺させていたのである)。更に暫くすると引力操作機能の扱いに慣れてきたのかかなり自由に動き回れるようになっており、ただ普通に動き回るだけに留まらず、重力操作能力の影響下にない状況ですらそうそう出来なかったであろう、物理法則を大きく逸した動作さえも可能にしていた。
「ほあっ、っしゃあ! これで、どう!?」
更にバイオロードとの戦いを続ける内、アイルの戦術は単に『身を守るだけ』から『身を守りつつ攻める』方向へとシフトしつつあった。無論、あくまで基本は攻撃を受け流す動作なのだが――
「あんたのっ、鎧はっ、確かに硬くて頑丈でしょうよ!」
「グ、ガグ」
「更にはただ硬いだけでなくてっ、ある程度柔軟かつ可変性もかなりあぁーるっ!」
「ガゥグ、ガ?」
「だから普通にやったんじゃっ、刃物で斬ることも鈍器で砕くことも銃弾で撃ち抜くこともそうそうできない――と、いうよりはほぼ無理に近いわ! けれど、けれどよっ!」
「!?」
刹那、バイオロードの左腕に激痛が走る。何事かと痛みのする方を見た彼は思わず目を疑った。
「鎧に覆われてない部分なら、その限りじゃないのよっ!」
アイルの刃が貫いていたのは、バイオロードの左肘内側――即ち、関節を曲げねばならない為必然的に外骨格へ僅かながら隙間の生じる部位であった。刃はそのままバイオロードの左肘から先を切り落とし、同時に傷口へ毒素――勿論『凄まじく痛みとても痒い(フュースリーペイン・アンド・ヴェリーイクティ)』に他ならない――を流し込む。
「グウゥァガアアッ!」
すると当然バイオロードは怒り狂った様子で『またそれかてめえ、いい加減芸のねえ野郎だな!』等と言わんばかりに腫れ上がるより早く傷口から根を生やし腕を再生させつつ、未だ健在の右腕で死角からアイルを叩き潰しにかかる――だが
「そこで、そう、行かせると――思ってんのかしらぁぁぁぁぁぁぁ!?」
アイルはその動きさえ見透かしていたかのようにバイオロードの右腕を最低限の力で受け流すと同時に右腕の関節部へ刃を突き立て毒素を流し込みつつ右肘から先を瞬時に切断。序でとばかりに目にも留まらぬ早業で左腕を再生させんとしている根を残りの腕ごと切り刻んでしまう。
「ガ!? アガ、ガグ!?」
正しく『予想の斜め上をジェット噴射で飛んでいくよう』な出来事の連続に、バイオロードは現在の形態さえ早くも限界が近付いていると判断、新たなる形態への移行を決意する。
次回、バイオロードの新形態とは!?




