第三話 戦闘部隊は惨敗しました~そして現る不審者団~
まあ、名前が既にフラグだったし……
―白金通り中央の開けた場所―
エスカレンジャー。有能な十名の若き戦士からなる新進気鋭のこの戦闘部隊はフレージの予想通りワールドショックに惨敗しており、その光景は台詞込みで直接描写するのを躊躇うほどに無残なものであった。
ある者は全身を戦闘スーツごと切り裂かれ瀕死の重傷を負い、またある者は空が映り込むほど大量に血を流し、更にまたある者はその身を炎に焼かれ毒に体を蝕まれている。何れも常人ならばとっくに絶命しているような傷であるが、鍛錬により倍増された耐久力と生命力は肉体に死を許さず、延々と彼らを苦しめ続ける。
このような表記を目にすれば恐らく読者諸君は『作者が作者だし、全員が上記のように追いつめられていたのだろう』などと予想されるかもしれないが、敢えて書き記そう――『その予想は外れだ』と。
というのも、全十名からなるエスカレンジャーの内、上記のような深手を負っていたのはたった三名の男性隊士に過ぎず、彼ら以外の残る七名はまるで違った方法で無力化させられていたのである。その『まるで違った方法』と言うのは(正直表記するのを躊躇われるが)有り体に書くならば――
非道極まりない凌辱行為――『強姦』と呼ぶことさえ躊躇いそうな程凄惨なもの――であった。
二人の男性隊士――キザで女好きの色男と思春期真っ盛りの中世的で可憐かつ純粋な少年――は、ワールドショックの女幹部二人によって痛めつけられ辱められ、しまりのない哀れな醜態を晒していた(しかも二人はそれに対して満更でもない様子で、寧ろ悦んですらいたようなのだから呆れて物も言えなくなる)。
だがそれよりもっと酷いのは五人の女性隊士であろう。(エスカレンジャーやワールドショックが総じてそうであるように)それぞれ種族も年齢も性格も中々に異なるこの五人だが、然し彼女らの惨状はまるで同じものであった。即ち、この白金通りを破壊し尽くした巨大頭足類と、それを操っているらしいこれまた触手だらけの女怪人によって徹底的に凌辱されていた。
「んふふふ……んふふふひへふはははほほほはははーっ! ああ、愉快! 愉快愉快! 愉快よねぇ! 何てったって愉快だわ!」
空中に浮遊したまま声高らかに凄惨な光景を笑い飛ばす、一人の華奢で小柄な少女。赤に近いピンクと黒の縦縞レオタード及び同色のマントを身に纏い、緑色の仮面(西洋の舞踏会などで使われるようなもの)で目元を隠したこの少女こそ『ワールドショック』のトップ(自称"ハイパー大首領")にしてこの事件(曰く『侵略計画』)の黒幕たる人物"ダニエラ・チャミィ・ディルレヴァンガー(コードネーム:クイーンDCD)"である。
「エスカレンジャー……侵略がひと段落した所へ突然現れた時はほんのちょっとびっくりしたけど、実際やり合うとどうって事なかったわね! あたくしが出るまでもなくこうもあっさりやられちゃうなんて、本当可笑しくってお腹痛いわぁ~! んぉーっほっほっほ!」
遠目から再びエスカレンジャーの面々を嘲笑したクイーンDCDは、再起不能に追い込まれた敵の一人――
部隊の中でもリーダーとして指揮を執ることの多い赤スーツの青年隊士こと、コードネーム"エスカレッド"に歩み寄る。
「ふふふ……気分は如何かしら、エスカレッド?」
「……最悪に決まってんだろうが……」
「ふふふ、まぁそうでしょうね。自分が痛めつけられただけじゃなく、仲間だってあんな目に遭わされてるんですものねぇ。そりゃ最悪な気分でしょうよ。けど覚悟なさい。あんた達が今味わわされてる"最悪な気分"、そうそう簡単に終わらせは――ひうぃっ!?」
格好よく決めようとしたクイーンDCDであったが、突如弾丸らしきものが頬を掠めたのに驚き間抜けに跳び退いてしまう。
「わ、な、は、や、あ、わあ、なっ、何よ!? 何事!? 何なのよっ!? 一体何が起こって――「そこまでじゃ、変態ども!」
慌てふためくクイーンDCDの言葉を遮るように、やたら芝居がかった若い女の方言めいた声が響き渡る。
「!? い、一体何者!? 姿を見せなさい!」
「言われんでもそのつもりじゃあ! 行くでおめー等!」
刹那、瓦礫の山が土煙を伴い粉々に吹き飛んだかと思うと、土煙の中へ大小四つの人影が浮かび上がった。
「ななな、ななな、何なのよこれはっ!?」
「(あれは一体……?)」
クイーンDCDは相変わらず気の狂った大衆球技ファンか常識の通用しないアイドルオタクのように混乱し取り乱す。一方、ビジネススーツの上から白衣を羽織った猫系禽獣種のギア・クライムを始めとする彼女の部下達は、徐々に晴れていく土煙へ目を凝らす。
土煙はやがて晴れ、人影の正体が明らかとなる。
「……何なの、あれ?」
左右が白と黒できっちり分かれたメイド服のような衣装を着た女幹部・シェイドエッジが困惑しながらそう言ったのも無理はない。何せ露になった人影の正体とは、当然ながら多くの読者が予想した通りTBCの四人と一匹だったわけであるが、彼らは何れもやたら珍妙というか、この場に不釣り合いな身なりをしていたからである。
「イエローソレノドン!」
等と名乗りながら何故か馬歩の構えを取る柵木の服装は、鼠のような動物(名乗りが確かなら、牙に毒を持つトガリネズミの一種・ソレノドン)の意匠が見られる黄色の魔法少女めいた衣装であった。
「レッドヴァイパー!」
続いて名乗るガランの服装は、名前の通りマムシのような意匠の見られる赤く重厚なパワードスーツであった。
「グリーンセンチピード!」
派手なポーズで名乗ったアイルの服装は、ムカデの如き意匠の見られるライダースーツにムカデの頭そのものをモチーフにしたであろうフルフェイスヘルメットという出で立ちであった。
「ピンクワスプ!」
アイルと分離し浮遊しながら名乗る永谷は、殆ど全身を覆う細長いスーツによってピンク色で異様に細長いハチのようなような生物と化していた。
「ブルージェリーフィッシュ!」
シメに名乗る紀和の衣装は若干幅が広めのビキニもしくはスリングショットらしき青い水着にスカイブルーや青のクラゲめいた装甲を追加したようなものであった。
「「「「「五人揃って……毒殺戦隊パイレンジャイ!」」」」」
……皆まで言うな。草案だともっとわけわかんないラインナップだったんだから。