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第二十八話 キノミ激戦~サクランボはないです~





バイオロードの脅威とは

「ガアアアアッ!」

「くぉわっはあああっ!?」


 グリーンセンチピードことアイル・ア・ガイアーとバイオロードの戦いは尚も壮絶に続いていた。

 バイオロードは相変わらず不気味な木の実らしき何かを貪り食っては体毛の色を変え、それに応じた武器を身体から生み出し(言葉も話せない獣とは思えない巧みな手つきで)使いこなす。対するアイルはグリーンセンチピードとしての武装や機能を最大限に活用して強敵たるバイオロードに立ち向かう。

「グルアァッ!」

「ほっ、と!」

 全身の毛を青く染めたバイオロードが刀で宙を薙ぎ払えば、アイルはそれを難なく避けつつ空中へ跳び上がりムカデの牙を模した短い曲刀をブーメランの如く投げつける。独特な構造をした短刀の変則的な軌道にバイオロードは若干ばかり混乱したがどうにか左手で掴み取り、即座に反撃へと転ずる。

「グアゥ!」

 まさに鋼鉄の如く強靭なバイオロードの筋肉が脈打つのと同時に、その皮膚を突き破って次々に薄平たい銃弾のようなもの――よく見ればそれは小ぶりなクナイであった――が無数に射出される。跳び上がった勢いで魔術により滞空するアイルはこれをスーツの背中部分から生やした無数の節足で弾き落としながら考える。

「(――っ! あれはまさか、ついさっき"赤いマンゴー"を食べて毛を赤くして暴れまわった後に"青いイチゴ"を食べて出してきた奴!? だとしたらやっぱり、同じ色の武器は果物を食べなくても出せるって訳ね。今この防御節足を伝わる感触から察するに威力やなんかは結構落ちるようだけど……)」

「ゴガァッ!」

「うわっと!? 飛び道具を追いかけさせるようにモーニングスターを! っくぅ!」

 右足から飛び出し蹴りによって振り回されるモーニングスター(対応する果物は青いパイナップル)をどうにか防ぐも大きく吹き飛ばされてしまったアイルは、やり返しとばかりにグリーンセンチピードのスーツに搭載された更なる機能を発動しにかかる。

「さあ、こいつで苦しみなさい!」

「グウアアッ!?」

 アイルが能力を発動するのと同時に、バイオロードは自身の左手に異変が起こったのを嫌と言う程察知させられた。痛いし痒いぞ何だこれはと左手を見てみれば、彼の左掌には五本の指が動かせなくなる程にも巨大な腫脹ができていた。

「グ!? アガアア! ガア、ギギアアア!」

「フフフ、痛いでしょう? 痒いでしょう? 苦しいでしょう? これぞグリーンセンチピードのスーツに搭載された目玉機能の一つ、『凄まじく痛みとても痒い(フュースリーペイン・アンド・ヴェリーイクティ)』よ。それが名前かって突っ込み来そうだけどこれで名前だから」

 痛みと痒みに苦しみ悶えるバイオロードの苛立ちを煽るように、アイルは華麗に舞いながら説明する。然し当然ながら、腫れ上がった左手を何とかしようと躍起になっているバイオロードの耳にはアイルの説明など微塵も入っておらず(そもそも仮に聞こえたとしても理解できはしないだろうが)ただひたすら腕を掻き毟ったり振り回したりを繰り返すばかりであった。然しそれでもアイルは構わずダラダラとあれこれ説明を続けていく。

「――そもそもこの毒殺戦隊パイレンジャイってユニット、発端は柵木姐さんでね? 普通にはない戦隊っぽいユニットを作ろうってなった時、毒のある生き物で統一してみないかって事になったのよ。それでスーツデザインに取り入れる生き物のラインナップだけど、元々は地球の東に伝わるアクション映画を参考にして蛇、サソリ、ヒキガエル、ムカデ、ヤモリの五つって予定だったのね。でもヤモリって実際には毒持ってなくて、じゃあ名前が似てて毒も持ってるイモリでどう? ってなったんだけど、それじゃ元ネタに忠実じゃないし何か違うような気がするって話になったの。それでまあ、ムカデはそのままで、蛇はより厳密にマムシにして、紀和は種族的にクラゲがいいってことでクラゲ、あと空飛べるのも居た方がいいからスズメバチ、シメに何故か姐さんがソレノドンをチョイスして五種類が決まったってわけ。まあ正直――」

「ガアアッ!」

 長ったらしい説明を遮るように、バイオロードはアイルへ何かを投げつける。

「ん――っと」

 その物体は猛スピードで投げられたが、アイルの曲刀はそれを軽々と貫き止めてしまった。

「何よもう、いきなり危ないじゃないの。そもそも何を投げてきたのよあんたは。こんな大きくて湿った肉の塊みたいな――ってこれあんたの左手じゃない! 説明しながら呻いてばっかで何時まで経っても襲って来ないわねー何があったのかしらーなんて薄々思ってたら必死で左手首押えてるとかどういうこと――よおおおおお!?」

 アイルは喋りながら驚愕した。先程まで右手で押さえられながらも血がだらだらと流れ出ていたバイオロードの左手首が、気付けば傷口から伸びているらしい白く細長い触手のような何か――恐らくは植物の根――によって再構成・修復されつつあったのである。

「ちょっと待って待って待ってどういうことなのそんなの聞いてない聞いてない聞いてないってばああああっ!」

 信じがたい光景にアイルが狼狽している間にもバイオロードの腕は完璧に修復され、その上この獣は腕から伸びてきた極太の根を鞭の如く振り下ろし攻撃してきた――

「よっ、と! このアイル・ア・ガイアーがそんな単調な攻撃避けられないとでも――」

「グラァァァ!」

「って何それえええええ!?」

 と、思わせて根を地中に潜らせ鉤縄かロケットアンカーの要領で引っ張り大きく跳躍、瞬時に武器を展開し空中より急襲してみせる。降り注ぐ無数のクナイ、打ち下ろされるモーニングスター、そして着地と同時に地を砕く刀の一撃。

「おが、ぐぎゃば、ぎびああっ!?」

 猛烈にして壮絶な連続攻撃に、地上のアイルは圧倒されてしまう。避ける余裕すらない彼にバイオロードの攻撃はもろに降り注ぎ、遂にアイルの身体はグリーンセンチピードのスーツごとバラバラにされてしまった。

「――」

 バイオロードは思った。

――何て弱い奴だ。呆気なさすぎる。あれだけ動き回っておきながらこの程度か――

「……」

 然しまた、バイオロードはこうも思った。

――いや待て。変な奴には大抵裏があるものだ。こういう、見るからに不自然な奴は特にそうだ。これで終わっているわけがないのだ――

 バイオロードは思案する。狂気に毒され言葉すら発せられずとも、ものを考えることはできるし、敵の気配を察する事だってできる。

――どこに消えた、ヘナヘナ野郎。こんなんで終わりじゃねえんだろう? 勿体ぶってねえでさっさと出て来やがれ――

 バイオロードの心中を彼らしく和訳するなら、こんな所であろう。


 そして十数秒、彼の予想は的中する。バラバラになった筈のアイルが突如バイオロードの背後にふわりと現れては『凄まじく痛みとても痒い(フュースリーペイン・アンド・ヴェリーイクティ)』を仕込んだ刃で巨獣の背を切り付けたのである。


「『逃げるように脱皮する(トゥー・ザ・モルティング・トゥー・フリー)』……傷を無かったことにしてその場から抜け出しより強くなって復活する能力よ。まあ、燃費が結構悪いからあんまり使いたくはないんだけど」

次回、更なる武器が登場!

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