第二十六話 マグネネネ!~世界最多の金属~
流星、まさかの脱出。そして明らかになる第四の姿とは……
「――よオ。待タセたなあ豊穣! てメーに会うべク、化ケモんの腹かラ舞い戻ッタぜエっ!」
柵木の魔術によって作り出された毛でできた怪物の体内より生還した流星の口ぶりは、殺されかけた所を脱出してきた者の台詞とは思えない程に意気揚揚としたものであった。
「ぶったまげたのぅ。並のもんならあのまま毛に押し潰されとっても可笑しゅうはねぇ筈なんじゃがな……」
「おメーの毛に圧殺さレる前ニ燃凄炎熱の『神秘解放』を一発ブっ放しタ……だカラ、抜け出セた……たダソれだけノコトだローが。なニをたマゲることガアる? そモソもおメー、そンナタまげテネーダろ」
「ち、バレたか……」
「そリゃバレるダろじョー識的に考えテヨう」
『変形、第三十・三十一按鍵輸入-磁力双臂・北南極』
言いつつ流星は鎧を変形させていく。全身至るところのパーツをフル稼働させた変形はこれまでの中で最も大掛かりであり、鎧そのものも光沢のある黒と鈍い銀をベースに両肩へ細長い小型の砲塔を備えつつ両腕へ磁石の如き意匠(右にNと書かれた赤いパーツ、左にSと書かれた青いパーツ)を取り入れた重厚感溢れるものであり、その有様はヒトの着るスーツというより最早一つのロボットを思わせた。
「ほうほう、こりゃまたでーれぇごっつぅなりょおってからに……如何にも頑丈で力のありそうな奴じゃなぁ」
「おウヨ。こノ『磁力双臂』、おメーの察すル通り頑丈デ腕っ節も強エ……が、真の強みハソれじゃネーって事を理解さセテやラァ……ふンッ!」
そう言うや否や、流星は両拳を堅く握りしめ力強く掲げる。すると辺りに不可視のエネルギーが漂い始める。柵木は最初それが何なのか理解できなかったが、目の前に舞う黒い粒によってその正体を悟る事となる。
「(この黒い砂粒のようなもんはもしかせんでも"砂鉄"か? つまりあの鎧の能力とは"磁力"っちゅう事か……!)」
柵木の推理は当たっていた。流星の繰り出した『磁力双臂』は、文面から分かる名前の通り磁力を意のままに操り、鉄製或いは鉄分を含む物体をある程度ならば自由自在に操作する能力を持っているのである。
「(あノ顔……どウヤら気付いタラしイナ。だガ気付いタ所でもウ遅エ! 磁力双臂の磁力操作は、まサニオめーの想像を絶すル代物なンダからよオっ!)」
「(っと、いかんいかん。さっさとこの場から抜け出し奴を始末せにゃ! このまま奴を止めれんかったら周辺地域のみならず臨母界全域をも巻き込んだ大事件に発展しかねん!)」
思い立った柵木は寄り集まって銃弾のような形になりつつある砂鉄や、それと同程度の大きさでやはり彼女目掛けて飛んでこようとしている様々な鉄屑を魔術で撃ち落としつつその場から逃げだし距離を取ろうとする――が、ここで問題が発生した。
「(な、何じゃこれはっ!? か、体が動かんっ……!)」
何の前触れもなく巻き起こされたその異変は、まるで全身の殆んどをセメントで固められたかのようであった。或いは、世に言う金縛りなるものがを実際に体験したのならこのように感じるものなのかもしれないと、柵木は思った。
「(し、然し! 体が動かず逃げられんと言うてもこの攻撃だけは流石に全力で防がんとヤバい! 体は動かん言うても首と内臓はこの通り何とか動く! これなら体を取り囲むように障壁を展開する程度の事は何とかできる――ハ、ズ、じゃあああああ!)」
発射寸前の敵弾を前に全身の殆んどを動かせないという絶望的な状況下に置かれながらもそこから脱しようと必死にもがいた柵木は執念で障壁魔術の発動に成功、流星が磁力で集め飛ばした弾丸をすんでの所で防ぎきる事に成功する。
「(ほホーう、俺ガ集メた砂鉄やラ鉄屑を、拘束さレ身体動かネエナがらに魔術デ止めヤガるたアヤるじゃネーの! だが、なラこイツはドーだああアアアっ!?)」
「(四肢が動かん状態での魔術発動……ケニーギ・スプリングフィールドの論文では理論上可能とされながら、安定して使いこなすなら最低でも三年専門機関で訓練せにゃならんとは言われとったが、確かにこりゃぼっけー難しいのぅ。正直失敗前提での賭けじゃったが……どねんか成功して良かったわい。これが攻撃のような遠距離で他のもんへ効果を及ぼすような魔術であったなら、若しかすりゃ失敗しとったかもしれんが、障壁の対象はあくまで自身じゃけぇな――って何じゃこりゃああああ!?」
その時、それまで黙りこんでいた柵木は大声を上げてしまう程に驚いたのだが、それも無理のない事であった。何せ彼女の身体はその時驚くべき勢いで空中に浮かびあがっていたのである(当然四肢は拘束されたままであり、それどころか拘束の度合いが更に強まった結果口を動かす事すらできなくなっていた)。
「上げタな、大声……つマリ、俺の行動ニソんだケ驚いタっテこッタロう? いイぜ……イい反応ダぁ……そウイウ面が見たカッたんダよ……いイモん見せテクれた礼だ、豊穣! 一つおメーの現状にツイていイコとを教えテやラあ! まアオめーの事だ、もシカすットとックに気付いテッかも知れネーが……おメー、最初こウ思ったンジャねーカ? 『こイツの力は磁力を操ル能力だ。なラ何で金属でナく、金属類もそレホど身につケテイない筈の自分の体が磁力に引ッ張らレていルノだろウカ?』ってヨう。そのトリックはまあ至極簡単ナモんだ――要すルニ利用しタノさ、オめーの体内に宿リ流れル"鉄"――赤血球ン中のヘモグロビンを構成すルソの鉄分をなア!」
「(や、やはりかっ! 然し血中の鉄分などと……そんなん文字通り手も足も出んじゃねーかっ!)」
「さテ……解説モソこそコに、そロソろおメーを始末さセテ貰うトスるゼ……」
そう言って流星は幾らかの弾丸を手に取り、これを両肩の砲塔へ装填する。
「おメーのコッた、磁力テぇ時点で気付イテるだローが、こイツはレールガンっツう火薬の要らネー鉄砲デよ。威力半端ネー癖に連射キくッつー素敵性能なンダぜぇっ! 何時もハソの辺の鉄屑で済まスンダが今日は特別ダあ、値が張ルンで普段は使わネー専用の焼夷弾を使っテヤる! つーワケで食らイヤがレ、んデ吹っ飛んドけイ、跡形も無クナあっ!」
『神秘解放、第三十・三十一按鍵輸入-磁力双臂・北南極』
両肩に備わった左右二問のレールガンから発射された焼夷弾は、空中に拘束されたまま動けない柵木に直撃。彼女の全身は爆炎に包まれた。
やめて!磁力双臂の特殊能力で身動きが取れない所に焼夷弾なんて喰らったら、幾らゴールドソレノドンのスーツでそこそこ頑丈になってる柵木でもやられちゃう!
お願い、死なないで柵木!あんたが今ここで倒れたら、残った三人と一匹やフォロワーはどうなっちゃうの? 魔力はまだ残ってる。ここを耐えれば、流星に勝てるんだから!
次回「柵木死す」。バトルスタンバイ!




