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第二十一話 乙女心ですとらくしょん~乙です~





本当最近更新ペース落ち過ぎでごめんね……

「この際だからはっきり言うけど……正直、今すぐにでもあんたを殺してやりたい気分だわ」


 飾り気がないどころではないレベルのストレート過ぎる紀和の言葉を受けたキメラEは、まるで全身の水分が一瞬にして凍り付いたかのように硬直してしまった。然しすぐさま立ち直り、どういうことだと問いかける。


「どういうこと、って……そのままの意味だけど? まさか聞こえてなかった? ならもう一度言うわ――私は、今すぐにでも、あんたを、殺してやりたいのよ。殺意をぶちまけるように、敵意を注ぎ込むように、悪意を叩き込むように……徹底的に追い詰めて、叩きのめして、痛め付けて……ね」

 残忍さを醸し出す紀和の口ぶりに、キメラEは思わず戦慄する。

『な、ど、どうして……どうして? どうしてそんな気分になったのよ? あなた、私の事が好きなんじゃないの!? 私――』

「何勘違いしてんのよ」

『へ?』

「誰があんた如きを『好きだ』なんて断言したのよ? 私は『好きになるかもしれない』とは言ったけど『好きだ』って言ったことは一度もないんだけど」

『え!?』

「そもそもその『好きになるかもしれない』っていう発言からして真っ赤な大嘘だったんだけどね」

『そ、そんな……つまり私を騙してたの!?』

「え、何? 今更気付いたの? 遅くない? さっきの殺したい云々発言でとっくに気付いてるだろうと思ってたんだけど。しかもその『騙してたの!?』っていうのは何? まだ確信しきれてないの? 質問を質問で返すにしてもそこは普通『騙してたのね!?』じゃないの? あんたまさか『もしかすると間違いかもしれなくて本当は好きになってくれてるのかも。心変わりが起こるかも』っていう無量大数に一つもあるわけがないような希望に縋りたがってたりするの? それともあれなの? 私がさっき言った殺したい云々が、まさか素直になれないが故の照れ隠しか何かだとでも思ってるの? 私をツンデレだと思ってるの?だとしたらあんたって馬鹿も馬鹿、数千世紀に一人も現れなさそうな常識の範疇を遙かに超えた大馬鹿ね。本当、そんな高性能能力持ってて大丈夫なのかって思うくらいの大馬鹿だわ。あるいはあんたの馬鹿ぶりを補うべくそういう無駄に強くて優秀な能力が与えられたんだとしたらまあどうにか納得もできないわけじゃないかもしれない可能性もあるとは思われると推測できそうな気もすると考えられているんじゃないかなーという感じはしそうだという仮説を立てられる――」

 早口で捲くし立てる紀和の煽りを遮ったのは、キメラEの放った一発の光弾であった。

「……救い様のない超絶馬鹿だとは思ってたけど、まさかここまで馬鹿だとは思わなかったわ。訂正しておいてあげる。あんたは――」

『いい加減になさいよっ!』

 キメラEの怒号は正直それほど大したものではなかったが、それでも紀和は一応臆すフリだけはしてやる事にした。

『さっきから黙ってれば馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿五月蠅いのよ! 純情で繊細な乙女心を弄んだばかりかその傷口へ粗塩を摩り込むような真似をするなんて……貴女って本っっっっっ当に最低の屑ね! 私が救い様のない超絶馬鹿ならあんたはもっと救い様のないウルトラスーパー超絶屑よっ!』

「……この流れでそういう台詞を言っちゃう辺りがもう馬鹿っていうか雑魚キャラ感丸出しだって言うのは――」

『けど安心なさい! そんな屑はこのキメラEが徹底的に殺してあげるから! 快楽なんてないわ、あるのは苦痛だけ! ものを考えるどころか意識を保つことさえもすぐにやめたくなるような最低最悪の激痛だけが貴女を苦しめ、|苦痛に満ちた真なる生き地獄ハートフル・トゥルー・リヴィングヘルへと引きずり落とすわ、覚悟なさい!』

 それはキメラEにしてみれば『相手を震え上がらせる最高の脅し文句』であったが、紀和にとってはやはり『在り来りな気取った馬鹿の妄言』程度のものでしかなく、恐怖など感じる筈がなかった。

「あー、そう。それなら私も、生涯最後だし月並みだけど言わせて貰おうかしら……その言葉、そっくりそのまま返してあげるわ」

『ハンッ! 散々馬鹿にしておいて最後の言葉がただのハッタリだなんて、乙女心を弄ぶような最低の屑に相応しい哀れぶりね! その台詞を言ったこと、すぐに後悔させてあげるわ!』

 そう言ってキメラEは現在の姿である『エメラルドアイズ・ヴァイオレットディノ』特有の強靭な足で紀和を踏み潰そうとするが、そこで異変が起きた。

『――な、う……動け、ないっ……!?』

 突如として、キメラEの全身がピクリとも動かなくなってしまったのである。

『こ、これは……一体、どういうことっ!? 何故こんな……まるで、全身が見えない糸にでも縛られてるみたいなことに――』

「はぁい、ご名答ぉ。馬鹿の癖に冴えてるじゃない」

 困惑するキメラEの言葉を遮るように、紀和が言う。

『ご名答って、どういうことよ!? 煽ってないでちゃんと答えなさいよ!』

「どういうこと、って……ご名答はご名答。あんたの言う通りって事よ。あんたの身体は透明な極細の糸――正確には糸みたいに引き伸ばした私の体組織――つまり身体の一部だけど、それで縛られてるの」

『か、身体の一部ですって!? そんなバカなこと、ありえないわ!』

「ところがどっこい、あり得るのよねこれが。私も暫く前になって気付いたんだけど、この『ブルージェリーフィッシュ』のスーツ、流体種わたしたちみたいにクラゲと近縁だったりとかの理由でシステムとの適合率が高いと色々な追加機能がアンロックされるんだけど、その中に『肉体触手化』っていうのがあってね。身体の一部を炭素繊維のような強靭で刃物も通じない極細の糸にして相手を縛ることができるのよ。それでその分離させた身体の一部を、解説の合間にあんたの体を触らせて貰った時ドサクサに紛れて仕込ませて貰ってたって訳」

『そ、そんな……』

 あからさまに困惑するキメラEに対し、紀和は『それから』と更に付け加える。

「あんたの身体を縛ってるそれ、幾ら強靭で刃物も通じないとは言ってもその太さだからあんまりにも強い力には耐えられず千切れちゃうのよ。多分あんたの事だから、そうね……『ホワイトライノス』や『ゴールドレプティル』、『ヴァイオレットディノ』辺りのパワーならどうとでもなるんじゃないかしら? まあ千切ろうと思うと結構痛いからお勧めはしないけど」

 そう言って紀和はくるりと背を向け、その場から立ち去ろうとする。

『ちょ、ちょっと! どこへ行くつもりよ!?』

「どこって、仲間の所だけど」

『何しによ!?』

「助太刀」

『どうして!? そういう台詞は普通私を倒してから言うものでしょう!?』

 それは至極当たり前の理屈であったが、然し紀和はやはり煽るように返す。

「……え? 何言ってるの? 確かにその理屈は正しいけど、だとしたら私の行動だって正しいんじゃないの? だって私、実質的にあんたを倒したも同じなんだし」

 キメラEは怒りの余り絶句したが、その怒りを察して尚も紀和は口を閉じようとしない。

「まず"倒す"っていう動作は必ずしも"殺す"ことと同義じゃない。相手を戦えない状態にすればそれは"倒した"ことになる。例えば戦意を失うとか、動けなくなるとか」

『だから私を縛り上げて倒した事にするっていうの? 馬鹿げてるわね! そんなの私がこの糸を引き千切ってしまえばいいことじゃない!』

 そう言うとキメラEは『スカーレットアイズ・ホワイトライノス』の姿になり、自身を縛る糸を力付くで引き千切ろうとする。硬い外皮は糸の食い込みを防ぎ、程なくしてミチミチと糸の千切れそうな音が聞こえて来たのでキメラEは勝利を確信し――そしてすぐさま絶望した。

『(さあどうよ、これで私は――ぐぎあああああ!?』

 突如キメラEの全身に走るのは、今まで感じた事のない程の凄まじい苦痛。何事かと見てみれば、何やら空中で輝く極細の糸から、細長く鋭いギザギザのついた刺が飛び出しては『スカーレットアイズ・ホワイトライノス』の外皮すらものともせず肉を貫いていた。

『あぐ、あぎ、あがぎががぎぐひぎいいい!』

 苦痛に悶えるキメラEを哀れむように紀和は言う。

「あーあ、言わんこっちゃない……だから言ったじゃない、"千切ろうとすると痛い"って」

 然しその言葉は当然キメラEに届いておらず、彼女は尚も狂ったように叫び続ける。

次回、決着!

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