第十八話 くらげのさくせん~これもある意味お約束~
紀和VSキメラE、その戦いの行方とは……
切り札『王頭七栄円陣』を発動し、真紅の鳥とも翼竜ともつかない巨大な怪物"ビリジアンアイズ・レッドホーク"へと姿を変えたキメラEの攻撃は、以前にも増して激しくなる一方であった。
『さあ喰らいなさい、プロミネンス・フェザー・フレイム!』
羽ばたきもせず空中に佇むキメラEの尾が放射状に展開し、連なる目玉模様連なったような――言うなれば孔雀の尾羽が如き形――へと変じたかと思うと、それぞれの目玉模様から円盤状のエネルギー弾が連続で射出される。回転しながら飛びまわるそれらは変幻自在かつ予測不可能な動きで的確に紀和を撃滅しにかかる。
「ちょっ! 待っ! 何これっ!?」
紀和は最初、このエネルギー弾を肩と腕の装甲内部に備わる小型機関銃で撃墜しようとした。だがそれらのスピードと機動性が自身の想像を遙かに凌駕するものだとすぐに理解した紀和に残された選択肢は『ただひたすら逃げ回ること』のみであった。液状化や霧散化といった
『んーははははははは! 哀れなもんねぇブルージェリーフィッシュ! この程度でそこまで追い詰められてるようじゃ、下手すると1000字も行かない内から惨敗しちゃうわよ?』
「そうね、そうよねー。全くそうだわーいや本当マジでそうだわー。それは私もたった今あんたが言ってるのと同じこと思ってたわー。この弾やたら早いし数多いし動き複雑だしで結論言うと避け辛いったらないし、これでまだ序の口も序の口なんだとしたら、本当冗談抜きで勝てる気しないわー」
逃げ惑う中、いつの間にか紀和はキメラEと適度に言葉を交わすようになっていた。何故そうなったのか、理由など見当もつかなかった。ただ、気付けばそうなっていたとしか言いようがなかったのである。
然しこの一見不利にしか見えない戦況が、後になって紀和に思いもよらない逆転のチャンスを齎すこととなる。
『――というわけで、私はワールドショックに身を置いてるって訳』
「つまりあんたはっ、ただ敵として向かってくる女を凌辱したいが為にあのクイーンDCDってのにつき従ってるの?」
『そういうこと。他の連中はもっと高尚な目的や明確な野望があるっぽいけど、私はそんなの全然持ち合わせちゃいないのよ。だって――』
キメラEと言葉を交わすにつれ、紀和は必然的に彼女の人物像について理解を深める事ができていた。
それらを箇条書きにしてまとめると、以下のようになる。
・彼女は『美女を凌辱し屈服させる趣味』を持つ一種の変態である。
・然し同性愛者ではない。彼女にとって美女とは使い捨ての玩具である。
・また、彼女は特に『見るからに勇ましく気高そうな者』や『普段から冷静に振舞っている者』等、一見簡単に屈伏し得ないようなタイプの美女(自身曰く『戦士』)を好む。
・彼女がワールドショックに加担しているのは『臨母界の敵になれば自分好みの戦士が向こうから集まってきてくれるので探す手間が省ける』というだけのことで、組織の掲げる目的についてはそもそも知ってすらいないという。
・好みのタイプは先に述べた通り『簡単に屈しないであろう強靭な精神を持つ美女戦士』だが、基本的に美女ならば性格は二の次に考えている所もある(例えばマゾヒズムを末期まで拗らせた好みの美女が彼女に自ら犯してくれと頼み込んで来たのなら、彼女がそれを断る理由はない)。
・自覚はないが、口ぶりから察するに彼女はかなり自惚れの強い性格である。
そして言葉を交わしながら逃げ回る内、紀和はこれらの情報を元にある作戦を思いつく。この方法なら、もしかすれば実力差の圧倒的なキメラEをもさほど苦労せずに倒せるかもしれない。
「(勿論確実に成功するとは限らないけど、試す価値はあるわよね……)――ねえ、ちょっといいかしら? ちょっと思ったんだけど」
『ん、どうしたの?』
覚悟を決めた紀和は、立ち止まってキメラEの方へ向き直り言う。対するキメラEはと言えば、突然逃げ回るのをやめた紀和に何かを感じたのか、攻撃をやめたばかりか律儀に地上まで降りてきた。
「これは凄く真面目な話だから、笑ったりしないで真剣に聞いてほしいことなんだけど……」
『何よ? 何なの? 貴女くらいの美女がそこまで言うんならどんな内容だろうと真面目に聞かざるを得ないんだけど、とりあえず内容が気になるわ。なるべく早く言って頂戴?』
「そう、有り難う……じゃあ、言うわね。もしかしたらなんだけど、私……――」
紀和が演技抜きに躊躇いながら口にした台詞は、確かに言うのを躊躇いたくなるような、色々と衝撃的なものであった。
「私、もしかしたら……貴女を好きになってしまうかもしれないの」
あー……まあほら、某角の勇者とかもやってた作戦だし、多少はね?




