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第十六話 竜属巨漢は動じない~サルガソス死闘編その4~




※今回は思いっきり下ネタがあるので注意

 一部の方は存じ上げていようが、ガラン・マランという男は一見在り来たりなようでいてその実中々風変わりな人物である。例えば厳つい外見の割に温厚で知的であったり、或いは見るからに肉体派であるにも関わらずスポーツよりはビデオゲームや楽器演奏を嗜んだりといった事柄が挙げられる。


 そして、そういった事柄の中で一際注目されがちなものの一つに『恋愛や性に対する考え方』がある。というのもこの男、一時は先天的に性欲がないのではと周囲から心配される程恋愛や性に対する興味や執着が無かったのである。然しその実、彼(というかマラン家の者ども)は人並み以上に強い性欲と優れた性的素質を持ちうる一種の絶倫である。そしてそれ故なのか何なのか、彼を始めとするマラン家の者どもはまた『自身に相応しい至高の異性』しか性的な対象として意識できないのである。



「んっ……ふぅ、はぁん……」

「……」


 甘ったるくベタつく謎の気体と虚空から生じる強靭にして変幻自在の鎖を用いてガランを無力化したシェイドエッジは静かに彼に歩み寄り、ゆったりとした動作で周囲を動き回りながら、自身の引き締まっていながらも肉感溢れるスタイル抜群の肢体を見せつけた。所謂一種の色仕掛けという奴であろうか。並大抵の男ならば容易く引っ掛かっていても何らおかしくはないであろう。

 然し先程述べたような気質のガランがシェイドエッジ如き安っぽい女の色仕掛けに引っ掛かるような事はまるでなく、寧ろ彼にとってそれは至極不愉快極まりないものでしかなかった。

「(ああ……度量が欲しい……こんな女の安っぽい色気でも好き嫌いなく勃てるぐれーの度量が……)」

 何か少しでも動きがあるとつけ上がって余計厄介な事になると考えたガランは無表情で耐え続けシェイドエッジが飽きるのを待ち続けた。その態度が逆に彼女の対抗心を煽りとんでもない事態を招いてしまう事になるなど、当然知る由もない。

「(うーん……今一反応が薄いわね……。事前調査でこいつがゲイでもインターセックスでもトランスジェンダーでもないって事は判明してるから反応しないって事はないと思うんだけど……硬派ぶってるのか照れ隠しなのか、それとも目と耳だけじゃ刺激が弱いのかしら? となったら、もっと刺激してあげなきゃねぇ)」

 変態的な笑みを浮かべたシェイドエッジは、両手を覆っていた白と黒の手袋をゆっくりと外していく。中から現れた手は格闘家のものと思えないほどに細く、左右五本の指はまさしく(絹糸のようにきめ細やかで透き通るような色合いも相俟って)白魚という例えが相応しい美しさであった。

 手袋を外したシェイドエッジは、拘束され身動きの取れないガランに真正面からゆっくり近寄っていく。そして密着しつつ耳元で『味わわせてあげるわ……』と静かに囁き、手始めに彼の首筋へ指を這わしこれまたゆっくりと撫でていく。それでもガランは平然としていたが、やがて白く細い指が腕や胸板、腹筋を這うようになるのと同時にその精神は冷静さを欠いていき、事あるごとに震え上がるようになっていた――主に、触られる毎に全身へ走る悪寒によって。

「(あらあら、凄い身震い……そろそろ興奮してきたみたいね? 大丈夫よ。素直になりなさい。そうすればちゃんと気持ち良くなれるんだから……)」

「(ぐおぉぉおおおーっ! ンなろぁあああっ! 離れやがれクソ女! こちとらてめえにセクハラかまされるなんて真っ平御免なんだよ! 今もてめえに触られてるってだけで全身悪寒が止まらねえってのにこれ以上触って来てんじゃねぇぇぇぇぇええええっ!)」

 口を縛られたガランの叫びは、当然シェイドエッジの耳に届いてなどいない。それどころか自身の色気に絶対的な自信を持ち『自分に誘惑できない男など居るわけがない』と信じ切っている彼女は、拘束されて尚暴れるガランが『快感と興奮の余り身震いしている』のだと考えた。そして『もっと刺激してやろう』と思い立ち、更に密着しては耳元で卑猥な言葉を囁いたり、そのまま自身の豊満な乳房や引き締まった太腿をガランの体に押し当て擦り付けたり、比較的短いスカートの中を微妙に見せ付けたりと、あの手この手で彼を誘惑しにかかる。然し一方のガランはと言えば、不快感に昂る神経を鎮めようと躍起になっており、却って冷静になっていくばかりであった。

「(いや待て、落ち着け俺! よくよく考えたらここで暴れたって見動き取れねーのに変わりはねぇし、それどころか体力を無駄に消費しちまうじゃねーか! それにこのクソ女だってつけ上がらせちまう! 何もいいことなんてありゃしねぇ、悪ぃことだらけだ! だったらここは一先ず落ち着くっきゃねぇ……そうだ、落ち着け……)」

 猥褻行為の不快感に耐えんと必死になっていたガランは、その過程でふとある事を思い出す。

「(そうだ……そういや俺、近頃何だかんだ落ち着きが無くてキレたり取り乱したりばっかだったんだよなぁ。みんな『大丈夫だ。気にすんな』って言ってくれてたけど、やっぱ気になっちまうわけで……鬱状態ってのかな。自分が嫌んなって、柄にもなく夜中布団ん中で散々泣いて……)」


 その後、ガランはSNSへその事を何気なく書き込んだ。すると数日後、知り合いでもない見知らぬ何者かから『その悩み、詳しく聞かせてくれないか』という返信が届く。プロフィールを見るに研究者であるというその人物に悩みの詳細を話すと『それなら私に名案がある。もし良ければこの週末にでもオフで会わないか?』と誘われた。

 ものは試しと誘いに乗ったガランは、その場に現れた人物を見て驚愕する。何と彼がSNSで悩みを打ち明けた研究者とは、ずば抜けた実力と数多の功績から"臨母界の生物学界で五本の指に入る程のカリスマ"とも称される高名な鬼頭種の老生物学者、グリクス・ニーディ氏だったのである。兎も角ガランから詳しい事情を聞いた氏は『それならばいいものがある』と言って彼を自宅へ招待し、緑色の粉末が入った広口瓶を手渡した。曰く、この粉末は氏が研究の一環として開発した入浴剤であるという。原料はトラクスというショウブ科の植物で、これに含まれるトラキールという天然有機化合物には精神を安定させる作用があるのだそうだ。

『私もついこの前まではすぐにカッとなってしまう事が多かったのだが、この入浴剤を使い始めてからというものの、並大抵の事では怒らなくなった。個人や種族によって差はあるだろうが、使ってみる価値はあると思う』

 氏はそう言ってガランに大量の入浴剤を無償で譲り渡した(ガランは最初氏から入浴剤を買うつもりだったが『同じ悩みを持つ者として、また友人として君を助けたい。代金など受け取れない』と言われてしまった)上でその用法用量や注意事項についても事細かに説明し、更には『もしその瓶が空になっても効果がないようだったら連絡をくれ。補充してあげよう』とまで言ってきた。ガランは申し訳なく思いながらも氏の好意に大層感謝しつつ、その夜早速入浴剤を試すことにした。

 結果から言えば、入浴剤の効果は絶絶大であった。ガランがその事を氏に報告すると、氏は涙を流して喜んだという。


「(……そうだ。俺にはニーディ博士から貰ったトラクスの入浴剤があるんだ。何だかんだ言って物々交換で未だに補充して貰ってるアレの効果がありゃ、こんな状況どうって事あねー筈だ……落ち着け、落ち着くんだ俺……ここはとりあえずこの変態が俺弄りに飽きるのを待ち続けよう……)」


 かくしてガラン対シェイドエッジの戦いは、実にくだらない方向で熾烈さを増していく。

 戦いは両者ともに一歩も譲らぬまま、やはり平行線を辿るばかりであった。シェイドエッジはガランを誘惑しようとあれこれ猥褻行為に及び、ガランは溢れ出る苛立ちと不快感を抑え込もうとする。そしてそのまま10分が経過しようかという時、遂に事態は急展開を迎える。


「(これだけやっても無反応……ならもう、強硬手段に打って出るしかないわよね?)」

 痺れを切らしたシェイドエッジはそれまで以上に力強くガランへ抱きついては左手を下半身へと伸ばしていき、ゆっくりと、然し確実に、彼の股間を鷲掴みにする。

「(!? こ、このクソ女! 俺が何も抵抗できねぇからっていい気になりがやがって畜生がぁぁぁぁぁああああ――……ぃいや待て待て、ここで感情を表に出したらそれこそ奴の主ウツボ――じゃなかった、思う壷じゃねぇか。そうだ、落ち着け。性犯罪って奴ぁ被害者が毅然とした態度で加害者に立ち向かわなきゃ負けだ……そうだ。とにかく今は――)」


 衣類越しとは言え性器を弄ばれるという最悪レベルの屈辱を受けながらも、ガランは苛立ちと怒りを堪え冷静さを保とうと必死になった。だがその態度は逆にシェイドエッジの変態的な欲求を刺激してしまい、彼女を更に過激な猥褻行為へと駆り立てる。


「(これはもう、本気出せってことよね?)」

「(こいつ、次は何を――)」


 ガランの感じた信じがたい悪寒と凄まじい不快感がハッキリとしたものになった時、シェイドエッジの両手は既に彼の履く格闘技用スパッツの中にあり、隠された彼の性器を揉むように弄んでいた。

「――っっ、っっっ……」

 ガランは落ち着こうとした。

 確かにこの上ない屈辱だが、まだギリギリ何とかなる筈だと、そう思っていた。だが彼の胸中に"何か"が現れ、彼の理性や落ち着きといったものを破壊し始める。

『このままでは駄目だ』

 ガランはすぐに落ち着こうと思ったが、最早どうすることもできぬまま、沸き上がり逆巻く怒りに身を任せる事しかできなくなりつつあった。そして彼の怒りを、タングステンを編みこんだ強固な緒により押さえ付け内包する特大堪忍袋が破裂寸前まで膨張するのに、そう時間はかからなかった。


「(この震えよう……漸く化けの皮が剥がれ始めたみたいね。さあ覚悟なさい、ここからが本ば――ん?)」

 意気込むシェイドエッジの耳に、ふと『ガキン』とか『ばきぃ』というような音が飛び込んできた。

「(一体何かし――)」

 何事かと音のした方へ目をやったシェイドエッジが見たのは、虚空から飛び出しガランの右腕を縛り上げていた筈の鎖が、何故か断ち切られだらりと垂れ下がっているという異様な光景であった。

「(な、何で鎖が!? 私の記憶が確かなら、PBシステムはどんな男にも脱出できない無敵の拘束システムの筈! それを打ち破るなんて――っひ!? ま、またなの!?)」

 一人混乱するシェイドエッジを尻目に、ガランを拘束する鎖は内側からはじけ飛ぶように次々と断ち切られていき、遂には鼻口部マズルに巻きついたものを除いた全てが断ち切られてしまった。

「(ど、どういうこと!? どういうことなの!? 何で鎖が全――ぶふぅっ!?」

 刹那、冷静になろうとスパッツから両手を抜いたシェイドエッジの腹を凄まじい衝撃が襲う。それにより彼女はリングの端まで吹き飛ばされてしまった。

「ぐ、うぅ……な、何なのよ一体……何がなんだかさっぱりなんだけど……」

 吹き飛ばされたシェイドエッジがどうにか持ち直すのと同時に、リングへ鎖の分断される音が響き渡る。今度は何かと恐る恐る目を向けた彼女は、驚愕と恐怖の余り絶句した。

「――!?」

 彼女の視線の先にあったもの。それは強引な方法で鎖の拘束から脱したガラン・マランに他ならなかった。別段、それだけならば彼女は驚きも恐れもせず、したとして言葉を失うような事は無かったであろう。ならば何故絶句にまで至ったのかと言えば、それは――


「……Grrrrrrrr……HuuaAaaaaaahhh……!」


 只でさえ怪物として通用するような容姿の彼が、より恐ろしげで化け物じみた姿へと変貌していたからに他ならなかった。

次回、ガラン豹変の真相とは!?

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