第十四話 嗜虐的変態暴力痴女・陣野音葉~サルガソス死闘編その2~
シェイドエッジの正体とは……
シェイドエッジ。
ワールドショック首領、クイーンDCD(本名:ダニエラ・チャミィ・ディルレヴァンガー)にその確かな戦闘能力を買われ幹部に就任したこの女とて元は生者であり、死後その実力や実績を認められ臨母界で第二の生涯を歩み始めた住民である。故に彼女にも生前というものがあり、その生き様というは(前回彼女が発した台詞からも分かるであろうが)かなり物騒で過激で変態的なものである。
まず彼女の"陰の刃"という名前はワールドショックへ加入した際に得たコードネームであり、本名は陣野音葉という。陣野家は代々『様々な分野それぞれの最高峰に君臨する実力者を育成する』という目的の為に動き続けている一族の一つであり、ある年に生まれた音葉も(自身の嗜好や才覚に基づく)何らかの分野で最高クラスの実力を身に付けるべく丁寧に育てられた。
元々気が強く体を動かすことが好きだった音葉は、数あるスポーツの中でも総合格闘技を好むようになり、これに合わせて陣野家は彼女に最新技術の粋を集めたシステムによる訓練を施した。
そのシステムとは、所謂"バーチャルリアリティ"という技術を用いた代物であり、彼女は仮想空間で物言わぬCPUの対戦相手を(実質生身で)叩きのめし、併せて基礎的な鍛錬を続けるなどして瞬く間に総合格闘技の達人へと成長していった。その戦闘能力は僅か10歳にして男女問わず自分より大柄な同級生や上級生をも打ち倒す程であった。それは中学に上がっても変わらず、彼女は入学二ヶ月にして校内で無敵の存在となっていた。校内には彼女より強い者も居たが、それらは皆用心深くエネルギーの無駄使いをよしとしない性格だったため音葉との戦いを避ける傾向にあり、また音葉自身も敗北や負傷を嫌い自身より格下の相手ばかり狙っていたため、もしかすると彼女の無敵さは名ばかりのものだったのかもしれない。だが仮にそうだとしても、彼女の能力が高い事に変わりはなかった。
そして中学を卒業し高校へ入学した頃、彼女は『自身より弱い異性を一方的に痛め付け蹂躙する行為に興奮を覚える。特に相手へ性的な屈辱を与えた場合にはより興奮できる』という自身の残忍な異常性癖を自覚するに至り、それを受け入れ衝動のままに生きてやろうと思い立つ。幸いにも彼女の入学した高校には気性の荒い生徒が多くそれなりに治安が悪かった為、校内の治安を良くするという名目で生徒会執行部に立候補すれば、正当な理由によって欲求を満たすことができた。
時折『やり過ぎだ』と非難されることもありはしたが、誰しも治安維持の恩恵に与っている為かそれほど強くは非難されなかったし、女子である音葉が男子を痛めつけるという構図は、平成の時代にあって尚古臭く時代遅れでバカげた男女観を正しいものと思い込んでいる多くの者達にとってはさほど異常なものでもなく、寧ろそれこそ女性のあるべき姿だなどとのたまう戯けまで居た程である(作者の私論だが、年齢・性別や社会的な地位を問わず、無抵抗な者が暴力的手段により一方的に蹂躙されるような事は、原則として先進国で正当化されていい事ではない)。
ともあれ歪んだ本性を隠しながら高校をも卒業し大学へ進学した音葉は、不得手な投げ技や固め技を学ぶべく柔道部に入部――しようとした。だが百戦錬磨の顧問にその余りにも歪みきった本性と、それまで格下しか相手にしていなかったを見抜かれ『相手を敬わぬ者に格闘者の資格無し』とまで言われてしまう。腹を立てた音葉は、然し自身より圧倒的に格上であろう顧問に挑む事もできずにその場から立ち去ることしかできず、結局クラブ活動をしなかった。その理由は『柔道部顧問との一件が広まり大学内での立場が弱くなった為』であるが、同時に『クラブ活動より以上にもっと自分に向いた活動場所を見付けたから』という理由もあった。
その場所は所謂"地下格闘場"などと呼ばれるもので、ただの力自慢からアマチュア、プロの格闘家まで年齢・性別・国籍・人種・経歴まで様々な者共が方々から集い力の限りルール無用の殺し合いを繰り広げる違法施設であった。音葉はそこに選手としてエントリーし、大学生活の合間を縫っては格下相手に大暴れし、ファイトマネーを稼ぐという生活を送っていた。因みにその施設は一種の風俗店が如き側面も持った施設であり、スタイル抜群の身体を扇情的な衣装で着飾った音葉は、戦わずともただそこに在るだけで観客達の視線を釘付けにできていたし、人気故か対戦相手をある程度自由に選べるなど優遇されていた。
かくして音葉は自己の欲求を満たしながら地下格闘場の頂点にまでのし上がっていった。
然しある時、彼女はその立場や実力を妬んだ同僚の手に掛かり命を落としてしまう。そして死後マイノスに拾われ臨母界の住民となるも、その僅か数日後クイーンDCDに誘われワールドショックの幹部となったのである。
さて、場面は変わってサルガソスのリング内。
「はぁっ!」
「ほっ」
「たぁあああっ!」
「おいしょー」
前回ラストより幕を開けたガラン対シェイドエッジの戦いは、お互い一歩も譲らぬ状態のまま尚も続いていた。シェイドエッジが攻撃を繰り出せばガランがそれを防ぎ、またガランが攻撃を繰り出せばシェイドエッジがそれを避ける。
「そい」
「っく!」
「ぃよーっ」
「ふっ!」
それは一見ごく普通の、体格差や種族差がある以外は何の変哲もない格闘戦のようであった。然しその戦いを管制室から見物していたジェム・ザ・ソーマは、二人の戦いに於ける不自然な点に気付いていた。
「やっぱりそうだわ……あのトカゲ、まるで本気を出してないどころか、かなり手を抜いてるじゃない。しかもその癖、それなりに全力のシェイドエッジと対等に渡り合ってる……普通、あの程度の男なら多少強くても大抵ボコボコにされてるってのに、どうして? ……ともかくこれは由々しき事態だわ。早く知らせないと……」
ジェム・ザ・ソーマは早速準備をし、シェイドエッジの脳内へ直に言葉を伝える。
≪シェイド、残念だけど今の貴女じゃそいつに勝つには相当なエネルギーを無駄にしなきゃならないわ。ここはアレを使って!≫
≪了解。確かに私もそろそろアレを使わなきゃとは思ってたし、丁度いいわ≫
脳内での会話を終えたシェイドエッジはガランと距離を取るべく一気に後方へ跳躍し、リングの隅へ佇みながら静かに唱える。
「……チェンジソウル――ザ・トルネード」
刹那、シェイドエッジの周囲に逆巻くような風が吹いたかと思うと、何時の間にやらメイド服かウェイトレスの制服を思わせる衣装の右半分が白から緑に変わっていた。
「これぞ私の本領"ファイト・ザ・ハーフ"の一端、シャドウトルネード……」
次回、シェイドエッジが調子に乗ったり乗らなかったり。ガランがキレたりキレなかったり。




