第十三話 阿婆擦れシェイドの参上~サルガソス死闘編その1~
おーくーれーばーせーなーがーらっ
こーうーしーんっ
でーすわーっ
おーまーたーせーしーまーしーたっ
いーやーマージーでっ
(某左手が個性的な霊能教師が主人公の学園伝奇アニメの主題歌っぽく)
「……はあ、どうしてこうなったのよ」
ランドメイジグーレイの全滅以降、ジェム・ザ・ソーマは更なるグーレイの強化個体を生産してはガランにけしかけ続けた。
それらは例えば竜の頭を備え炎のブレスを吐くフレイムメイジグーレイの強化個体『ヴォルケーノドラゴングーレイ』であったり、電撃を操り翼で空を飛ぶハリケーンメイジグーレイの強化個体『テンペストサンダーグーレイ』、冷気を操り鞭の如き触手を持つウォーターメイジグーレイの強化個体『ハイドロブリザードグーレイ』というのや、重力を操り岩をも砕く腕力を誇るランドメイジグーレイの強化個体『ホライゾングラビティグーレイ』等であった。
然しそれらも結局の所ガランには一切歯が立たず惨敗を喫するばかりであった。
そこで追い詰められたジェム・ザ・ソーマはそれら強化個体四種と控えさせていたグーレイの群れを融合させた上位個体『アルティメット・ドラグーレイ』を作り出しガラン抹殺に向かわせる。ただでさえ大柄なガランの、更に数倍程もある有翼竜といったアルティメット・ドラグーレイは、持ち合わせた能力も相俟ってまさしく"究極"の名に相応しい絶大な力を誇る(とジェム・ザ・ソーマは考えている)。
だが、やはりと言うか何というか、巨大になろうが姿が変わろうがグーレイはグーレイだと言わんばかりにアルティメット・ドラグーレイもガランによって(多少時間はかかったものの)あっさり始末されてしまった。
「はあ……もうどうすればいいんだか全くわかんないわ……」
自慢の作品であるアルティメット・ドラグーレイを倒されたジェム・ザ・ソーマは、ただただ絶望しきった様子でうなだれ机に突っ伏していた。万策尽きた彼女には、最早新たな運勢データをチェックする気力すら残されていない。
そしてそんな彼女を傍目から見ていたシェイドエッジは、落胆する友をいい加減鬱陶しくなってきたなと思いながらも、同時に何とかしてやらねばと考える。そしてある事を思い立った彼女は、ジェム・ザ・ソーマに提案する。
「ねえソーマ、ちょっといいかしら」
「……何?」
「思うんだけど、貴女がって何もかも自分一人で背負い込んでない? たまには自分以外の誰かに頼ってみたら?」
「頼るって、誰によ? もうグーレイは全滅しちゃったのよ? 今更頼れる部下なんて――
「いるじゃない」
「――え?」
「いるじゃない、貴女が頼れる相手。部下じゃないけど」
その言葉の意味を察したジェム・ザ・ソーマは、然し何処か躊躇いがちに言う。
「……いいの? 何時も迷惑かけてばかりだから、今回こそは貴女に苦労させないって誓っちゃったのに?」
「いいわよ別に。私達、同僚で友達でしょう? 困った時には助け合わなきゃ。それに……」
刹那、それまで穏やかだったシェイドエッジの表情と声色がガラリと変わる。
「私だって、この手で直接あいつを叩きのめしてみたいのよ……」
そう呟く彼女の浮かべる笑みは、例えば非力な稚児を一方的に痛めつけ凌辱して愉しむ狂った性犯罪者の如き残忍で変態的なものであった。
「初めて見た時から思ってたの。あいつの、あの筋張ったドでかいばかりの、如何にものろまそうな図体を徹底的に痛め付けて、硬派ぶってるスカした顔を苦痛に歪めさせて……ああ、同時に快楽漬けにして蕩けさせるのもいいわね……待って、発狂しそうな程焦らして情けない声で喘がせてやるってのも最高だわ……どこをどう苛めてやろうかしら? あの見た目からするとモノの構造が気になるけど、まあ男の体なんて種族問わず大体同じだし何とかなるでしょう……何にしても楽しみだわ。あんなにそそられる獲物は久しぶりだから」
美しくも気味の悪い歪んだ笑みを浮かべながら、シェイドエッジは何とも物騒かつ猟奇的で変態的極まりない事を口走る。そしてそれを傍らで聞くジェム・ザ・ソーマはと言うと、うんうんとその発言に同意しながら何やら魔術の準備を進めている。
「さて、これでもうそろそろ準備が完了するわ……シェイド、貴女の方も準備を進めておいたら? 私の方も、貴方があの木偶の坊で遊ぶのに最適のステージを用意しておくから」
「有り難う、ソーマ。それじゃ、準備に取り掛かるとするわ」
そう言ってシェイドエッジは静かに、然し確かに意気揚々と部屋を後にした。
そしてそれと同時に、闘技場に居たガランを取り巻く風景が徐々に歪み始め、その姿を変えていく。
「な、何だこりゃ!?」
根底から崩れ歪むようにして姿を変えていく空間に、ガランは驚愕し取り乱す。然しそんな彼を嘲うかのように、石造りの闘技場は瞬く間にボクシングやプロレス等と言った格闘技で使われるような屋内リングへと姿を変えた。
「……こいつぁ、リングか? ブランク・ディメンションってのにはこんなバージョンもあんのか。だだっ広くて縦横無尽に跳ね回るイメージしか無かったんだが――
『ごきげんよう、クソトカゲ野郎! お前にとって最悪の地獄へようこそ!』
ガランの言葉を遮るように、リング内へ再びジェム・ザ・ソーマの声が響き渡る。
「この声……ついさっきまでグーレイだか言う雑魚共を嗾けて来やがった、やたらベスト尽くさねー奴か。いい加減姿見せろっつうのよ、直に殺してやっから。然し、地獄にしちゃやけに清潔だな――」
『この空間は「異界戦域サルガソス」! 術者の思うままにあらゆる姿を取る、変幻自在の闘技場!』
「何かヒーローユニットみてーな、そうでねーような名前だな」
『サルガソスの効果は至ってシンプル! ルールを破ると自動的に攻撃される! ただそれだけ! まあ、ルールは予め設定しておくものだから複雑にもなるんだけどね』
「どっちだよ。つーかそうなると、そのルールってのが気になるわけだが――」
『但し、今回は如何にも頭の悪そうなお前の為に比較的簡単なルールを設定しておいたわ』
「否定はしねぇでおくが、他人を外見だけで頭悪そうとか言うお前も大概頭悪そうだよな」
『ずばり「定められた以外のものを身につけてはならない」というルールよ。ここはリングだもの、そんな鎧を着て戦うなんて認めないわ。従うならそう宣言なさい、サルガソスのシステムが自動的にお前の鎧と服を此方で定められたものに置き換えるから。正直、サルガソスは容赦がないから従っておくのが身のためとだけは言っておいてあげるわ。置き換えた服や鎧はお前が試合に勝てたらちゃんと返却されるから安心なさい。まあ、勝てっこないでしょうけどね』
「妙に丁寧で親切だな……いっそ気味悪いレベルだぜ。まあいい、そこまで言うなら従ってやろうじゃねぇか」
刹那、ガランの身に纏っていた戦闘スーツや衣服はシンプルな黒い格闘技用ハーフスパッツに置き換えられた。
「闘技場の褌宜しくジャストサイズなばかりかご丁寧に尻尾穴までついてやがる」
『ルールに従ったようね。馬鹿にしては賢明な判断だわ。それじゃ、早速試合を始めるわよ。先ずはお前がこれから戦う事になる相手を紹介してあげるわ――シェイドエッジ!』
呼ばれるままどこからともなく颯爽と現れたのは、左半分が黒で右半分が白のメイドかウェイトレスを思わせる衣装を身に纏ったスタイルのいい黒髪の若い女――もとい、ワールドショックの幹部が一人・シェイドエッジであった。
次回、シェイドエッジの変態ぶりとその過去が明らかに!




