5/21
倒置
――目覚めた朝、降っている、雨が。
ベランダでびしょ濡れになっているのは、取り込み忘れた洗濯物だ。洗濯機をまわすため、濡れた衣類を寝ぼけ眼でかき集める。
朝食を摂ることにしよう、洗い終わるまでには時間がある。目玉焼きを、火にかけたフライパンの上で作り始めた。――途端に、鳴り響く、電話のベル。母からだった。
もう一度説明してほしい、と母は言った。先日教えたインターネットでのホテルの予約方法のことだった。説明には時間がかかった。言葉を選んでいたからだ。母は相当な機械音痴なのだ。電話が終わってふとフライパンを見ると、そこには黒焦げの目玉焼きがあった。
『倒置法』
文章は通常、主語-目的語-述語 の順で記述されるが、この順序を倒置(逆転)させ、目的語を強調する手法。




