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比喩
朝目覚めると、窓の外は雨で塗りつぶされていた。昨日取り込み忘れた洗濯物はベランダでびしょ濡れ、一段濃い色に染め直されている。
目垢でのりづけされた目蓋をこじ開けながら衣類をかき集め、洗濯機をまわす。洗い終わるまでに時間があるので、その間に朝食を食べることにする。目玉焼きを作るため、コンロの火でできたベッドにフライパンを寝かせて、卵を落とす。その外側がわずかに白い衣に纏われ始めたところで、電話が鳴った。母からだった。
先日教えたインターネットでのホテルの予約方法をもう一度説明してほしいとのことだ。機械を触らないために生まれてきた母にも理解できるよう、脳内ウィキペディアのリンクを次々にたどりながら言葉を選んだ。電話が終わってふとフライパンを見ると、目玉焼きは炭の塊になっていた。
『比喩法』
字・語句・文・文章・出来事・作品全体などの物事を、それと共通項のある別の物事に置き換えて表現する手法。読み手に対し、例えられる物事を生き生きと実感させる効果を持つ。