16/21

緩叙

　朝、目覚めると雨が降っていた。

　取り込み忘れた洗濯物は、屋根に覆われたごく一部分のみ乾燥しているが、その他はことごとくびしょ濡れだ。覚醒しているとは言い難い目をこすりながら濡れた衣類をかき集め、洗濯機をまわした。洗い終わるまでの時間は少なくないため、その間に朝食を摂ることにする。フライパンを火にかけ、目玉焼きを作り始めたところで電話が鳴った。母からだった。

　先日教えたインターネットでのホテルの予約方法をもう一度だけ説明してほしいとのことだった。手先は器用だがちょっとばかり機械に弱い母でも理解できるよう言葉を選んでいたため時間がかかってしまい、電話が終わってふとフライパンを見ると、とても美味しそうには見えない黒焦げの目玉焼きが完成していた。

『緩叙法《かんじょほう》』

言いたいことを表面上遠まわしに言っておき、その実かえって意味を強調する手法。二重否定や、ひかえめな語を付加する方法もある。

※例えば2行目の「取り込み忘れた洗濯物は、屋根に覆われたごく一部分のみ乾燥しているが、その他はことごとくびしょ濡れだ。」では、「びしょ濡れ」を強調するために「びしょ濡れ」てない部分を先行して提示しています。