頓呼
朝、目覚めると雨が降っていた。取り込み忘れた洗濯物がベランダでびしょ濡れになっている。何の恨みがあるんだい、お天気の神様よお。
寝ぼけ眼で濡れた衣類をかき集め、洗濯機をまわした。朝からご苦労さん、だな。洗い終わるまでに時間があるので、その間に朝食を摂ることにする。フライパンを火にかけ、目玉焼きを作り始めたところで電話が鳴った。母からだった。ああなんだってこんなめんどくさいことばっかり続くんだ。母は先日教えたインターネットでのホテルの予約方法をもう一度説明してほしいと宣った。機械音痴の母が理解できるように言葉を選んでいたため時間がかかってしまい、電話が終わってふとフライパンを見ると、目玉焼きは黒焦げになっていた。全く、なんて日だ! あんたもそう思うだろ?
『頓呼法』
語り手または作者が語りを休めて、そこに存在しない人物または抽象的な属性や概念に直接語りかける、感嘆の修辞技法のこと。頓呼法は擬人化と関連があるが、頓呼法の中では、目の前に人がいるように語り手が話しかけることで、目的語と抽象名辞に、はっきりした人間の特質(たとえば思いやりのような)がほのめかされている。