七話
「そう言うと思った」
エレシーは困ったように笑うと、それじゃあと続けて口を開く。
「出るのは明後日にしなさいな。明日は準備して体を休めて、計画を立てる日にしたら?」
「…うん、そうする」
薫は素直に頷くと、ナズナに明日ではなく明後日に出ることにしたことを説明した。ナズナはそれに了解してから、エレシーに向かって頭を下げる。薫もそれになって、緊張気味に言った。
「ご迷惑おかけします」
「ふふ、やあねえ。そんな改まらないで。いいのよ、ここはあなたたちのおうち。行き詰まったらここに帰ってきていいからね」
薫は優しいお母さんはこんな感じなのだろうか、とエレシーの優しい笑みを見て思った。
そのあとはたわいもない話をしながら夕食を片付けて、元いた世界とは仕様の違うお風呂に入ってから、薫とナズナは硬い布団に身を包んだ。
翌日、薫が目を覚ましリビングへ行くと既にエレシーとナズナは朝食の支度を始めていた。
午前中は旅支度にあてられた。エレシーは二人に一番近い街までの地図を書いてくれた上に、方位磁石や保存食、着替えなど今後必要になる可能性のある物を与えた。さらに、ナズナには護身用にとナイフを渡した。
その後薫は魔法を練習し、さらにエレシーは近接戦闘まで心得があったので、ナズナはナイフの使い方を教わった。
夕食時の会話だ。
「明日は日の出とともに出発するから、ちゃんと起きてね薫。」
「早くない?」
「エレシーさんの話だと、街まで半日はかかるでしょ? 明るいうちに宿を探したいから。」
「そっか。」
「あのさ、言葉を教えてくれないかな。」
「言葉?」
「うん、いつまでも薫に翻訳してもらっていたら悪いから。」
「僕は大丈夫だよ。」
「でも、不便だし。お願い。」
「分かった。」
「ありがとう。」
そこでエレシーが来た。
「二人とも今日は早めに寝なさいね。」
二人が頷く。それから料理から立ち上る白い湯気を見ながらナズナが尋ねた。
(『おやすみなさい』はどうやって言うの?)
夕飯と、片付けを済ませた。二人は今日はもう寝ることになっている。薫が寝室のドアに手をかけた。
「「おやすみなさい。」」
被ってしまったのがおかしくてナズナと薫は顔を見合わせて笑っていた。エレシーは驚いた表情をしてから、笑っておやすみなさいと返した。