展望
ドラフトでの選手分配も終わった、そして日程等もかなり詳細に決まってきた。
今年の規定では一チームが登録出来る選手の数は最大で十六人、シーズンを通しての試合数は四十八試合となっている。
通年での成績で順位を決定するのは通常行われるペナントと大差ない形だ。
試合が行われるのは毎週末の土日が基本、中止になって予備日が必要となる場合は翌週の金曜日を基本として可能な限り集客が見込める週末に試合を行う。
十六人という選手枠は決して大きいとは言えない、まずどのチームも投手は最低四人は指名している。
この時点での残り十二人が野手の人数の目安となる、その内スタメンとして出場する野手が八人で最終的にベンチに残るのは僅かに四人となる。
その四人をポジション別に振り分けるとしたら捕手が一人、内野手が二人、外野手が一人といったところが妥当になるだろうか。
もちろんこれでも足りているとはとても言えない、多くの選手が複数ポジションをこなして穴を埋めていかないと不測の事態には対応できないだろう。
一週間で二試合が行われるいうことは必要な先発投手が二人、残りの二人がリリーフに回る形が基本となるはずだ。
こう考えると一人でも頼れるエースと言える投手がいる球団は圧倒的に有利だ。
単純計算でいけばそのエースが全四十八試合の半分で先発出来ることになる。
プロ野球で言えば先発ローテーションは五人前後となるが、その状況と比べて一人優秀な投手がいた時の影響が段違いに強いということは誰の目にも明らかだ。
その観点で評価するのであれば、コスモスとデイジーズが強い。
コスモスが一位指名した渡瀬投手は高校時代は一年生の時から天帝高校のエースとして活躍、三年間常に勝ち星を積み上げ続けて全国大会三連覇を成し遂げている。
大学に入ってもその左腕が衰えることはなく、むしろ大学に進んだことで周囲のレベルが下がりますますその成績は驚異的なものとなっていった。
高校時代の実績で評価するのであれば、他のどの投手よりも実績はある。
ただしその当時の世代と今の世代では全体のレベルが違うということを考慮する必要はあると思われる。
渡瀬さんの世代では周囲と比べて渡瀬さんの格が一人だけ違ったからこそこれだけの好成績が残せたという側面があることは否定出来ない。
投手で見ても野手で見ても今の世代の方が優れた選手は多いのは確かだ。
その中に渡瀬さんがいたとして、果たして同じだけの成績を残せたのかという風にか投げると疑問が残るだろう。
どちらにしろそういう事象を考えた上でも優秀な投手であることは疑う余地もない。
後はデイジーズが一位で獲得した黒崎さん、彼女の能力の高さもまた間違いない。
彼女は高校時代にあの彩音から三振を奪うことに成功した唯一の投手である。
一度も全国大会には出ておらず高校時代の実績という面では薄いが、彼女の投球を見ればそんな実績など関係なく凄みを感じることが出来るだろう。
この二人に比べると、チェリーブロッサムズとサンフラワーズはどうしても劣る。
チェリーブロッサムズは牧原さんと真由の二人が中心となるだろうが、どちらもトップクラスと言えるほどの投手ではなくどうしても格が落ちる。
そして俺が率いるサンフラワーズでも同じようなことが言える、宍戸さんも詩織も共にいい投手ではあるがあの二人に対抗出来るかと言われると厳しい。
投手力ではコスモスとデイジーズ、これは認めざるを得ないだろう。
一方で打撃力ではどうかというと、これはなかなか難しい。
優位にドラフトを進めたという意味では間違いなくコスモスだ、二位指名で佳矢を三球団競合で引き当てた上に四位指名でも二球団競合で日下部さんを引き当てた。
これだけ最高のクジを見せたということはコスモスにいい選手が入るのが自然だ。
しかし他の球団もそれに劣っているとは決して言えないと思う。
まずはチェリーブロッサムズ、東堂さんと彩音の両取りに成功している。
他にも真由の妹である奈央ちゃんに加えて杉坂女子の堀越さん、そして港南女子の正捕手で打撃も決して悪くなかった会田さんがその周りを固める。
続いてサンフラワーズ、桜庭さんと愛里の二人が上位打線を固めてクリーンナップは樋浦さんや広橋さんの長打力に期待する形になるだろう。
そして次々と競合選手を引き当てたコスモス、千隼の一番は動かないとして二番は恐らく羽倉さん、クリーンナップに佳矢と日下部さんがいるのは強力だ。
最後にデイジーズ、ここは関西国際女子からの指名が非常に多かった。
上位二人は柏葉姉妹で間違いないだろう、そして主軸は神代さんと和泉さん。
それに加えて黒崎さんが先発するときは主軸として期待できる打力がある。
こうして改めて考えても打撃力で優劣をつけるのは相当に難しい。
東堂さんと彩音という二大打者を両方抱え込んだ上で、周囲の打者の質も低くないチェリーブロッサムズが打力では優れるという印象は確かに受ける。
それでもコスモスの佳矢と日下部さんの主軸も捨てたものではないし、デイジーズの柏葉姉妹から神代さんにつながる打線の流れも強力であると言えるだろう。
評価としてはチェリーブロッサムが一歩リードというのが妥当なところか。
一方でサンフラワーズは今ひとつ、上位の二人はともかく主軸の樋浦さんと広橋さんの実績が薄く期待値は決して高くならない。
事前の選手評だけで考えれば他の三球団よりどう評価しても劣っている。
しかしその事前の評価で全てが決まるわけではない、評価されていなかった選手が想定外の素晴らしい成績を残すというのは決してあり得ない話ではないのだ。
そしてそれを実現するために俺は全力を尽くす、最初から諦めても何も始まらない。
まずチームとして考えないといけないのは投手の起用法だろう。
サンフラワーズにいる投手は四人、宍戸さんと詩織と小森さんに加えてドラフト下位で指名した西里さんという投手がいる。
その西里さんは実力的に数段落ちる数合わせに近い存在、実質的に中心となって投手陣を回していくのは他の三人となる。
宍戸さんは当然先発として、俺は小森さんが先発で使えればベストだと考えていた。
以前からずっと考えていたことだが詩織は先発よりもリリーフの方が向いている。
左キラーという特性はピンチでのリリーフに置いて最高に威力を発揮する。
一週間での二試合のうちどちらか一試合で先発するより、リリーフとして二試合に両方投げられる状態の方がより多くの左を迎えたピンチで詩織が活躍出来るはずだ。
そして詩織には先発完投型としてやっていくだけのスタミナが足りないのが実情で、このこともリリーフ転向を後押しする要素の一つとなる。
問題は小森さんが先発として通用するかどうか、女子野球においては高校が一番レベルが高くそこから大学社会人と進む度にレベルが下がるというのが現状だ。
その行き着いた先の社会人野球で防御率一点台という数字でどこまで通用するか。
スタミナに関してはなかなか優れたものがあるようだが、肝心のボールの質が足りずに打たれるようではそのスタミナも役に立たない。
打線に関しても事前の評価よりも高い実力を発揮する選手が出てこないと苦しい。
そう考えるとかなり苦しいチーム作りだが、それでも可能性は感じていた。
俺がしっかりとそれぞれの良さを引き出すことが出来れば栄冠に手がとどくはずだ。
そう信じて俺はチームの編成について知恵を絞り続けた。