ドラフト会議
そしてついにドラフト当日を迎える、この日までにチーム名もそれぞれ決められた。
由来としては各季節の花とその花言葉を結びつけたものが採用されたようだ。
内山監督が率いるのがエレガント・チェリーブロッサムズ。
俺が率いるのがシャイニング・サンフラワーズ。
古谷監督が率いるのがシンシア・コスモス。
赤石監督が率いるのがノーブル・デイジーズ。
夏の花である向日葵が由来というのはいいものを貰えたなという印象を覚える。
太陽に向かって真っ直ぐ伸びていく力強さというのはいいイメージを残してくれる。
華やかであったり研ぎ澄まされた洗練美のようなイメージを残す他のチーム名は今の俺にはまだ早すぎるだろう。
今の俺には愚直に太陽を求めて伸びようとする、そんな向日葵が妥当なところだ。
既に東戸大学に進学している選手や、近場の選手はこのドラフトが行われる会場に来て直接自分でそれを確認することも出来る。
遠方の選手もいることも踏まえてそれはあくまでも任意のものであったが、それでも東京近郊の選手は殆どが顔を出している様子だった。
今回行われるドラフトの形式では全ての指名順において重複すれば抽選が行われる。
重複して抽選を外したらその時点で残っている選手から再指名という形となる。
いよいよドラフト開始、現在のプロ野球では完全に電子化されているがこちらにそのようなシステムが構築されているはずもなく紙を使っての原始的なやり方だ。
一位指名に関しては大した見どころはない、どこも縁故関係の指名が殆どだ。
唯一の例外が赤石監督のデイジーズだが、佳矢を一位指名しないと公言している以上その他の指名候補はかなり絞られてくる。
まずはチェリーブロッサムズの一位指名が東堂さん、そしてサンフラワーズが宍戸さん、コスコスは渡瀬さんと次々と発表される。
ここまでは全て縁故関係の指名、あとはデイジーズが誰を指名するかだ。
その指名が発表される、デイジーズの一位指名は黒崎さんだった。
佳矢を指名しないという前提で他の縁故三人を除けばもっとも妥当な指名だろう、なにせ東戸大学時代はナンバーワンの投手だったわけで力があるのは間違いない。
そして二巡目、俺は早々に公言した妹の愛里の指名を紙に書き込んで指名終了。
他の三球団は全てが佳矢を指名してきた、指名重複により初めての抽選に移行する。
これで愛里はサンフラワーズの単独指名で確定した、事前の予定通りの展開だ。
そしてこのくじ引きを誰が引くかというのはリーグの結果を左右するかもしれない。
佳矢という存在はそれだけ大きいのだ、トップクラスの打力に加えて扇の要になることが出来る捕手能力を兼ね備えた存在がチームに与える影響は測り知れない。
くじ引きを終えて三人の監督がクジを開く、その手を上げたのは古谷監督だった。
佳矢はコスモスへ入団決定、チェリーブロッサムズとデイジーズは再指名となる。
ハズレ二位の指名でチェリーブロッサムズは彩音を指名してきた。
タイプこそ違えど東堂さんと肩を並べるトップクラスのバッターであることを考えればこの評価は妥当、あるいはハズレ二位で取れるなら安いぐらいかもしれない。
問題はデイジーズがどう動くかだ、佳矢に続き彩音で再重複する可能性も十分ある。
そう考えながらデイジーズの指名を見守ったがその相手は神代さんだった。
同じ外野手で共にセンターを守っている二人だが、タイプは大分違う。
スイッチヒッターの安打製造機である彩音とパンチ力のある総合的な打力に魅力がある神代さんとの比較では単純にどちらが上とは断言しづらいものがある。
それを踏まえて守備能力を比較すると、肩の強さという点で神代さんが彩音を大きく上回っており守備力では上をいくことになるだろう。
それらを総合してみれば彩音より神代さんを高く評価する人が出てもおかしくない。
だがしかしそれは外部の人間からみた評価であろう、三年間彩音の凄みを感じ続けてきた俺の立場で言わせてもらえばやはり彼女の存在は別格であると言うしかない。
例え守備力で劣っていることを考慮しても彩音の方が総合力では上だと思う。
チェリーブロッサムズは上手いことやったものだ、クジを外し東堂さんと佳矢のクリーンナップ再現こそできなかったものの代わりに彩音を引き入れることが出来た。
これで打線の核はどこよりも質の高いものになるのは確実であろう。
二位指名が終了して三位指名に移る、ここも事前に決めた詩織の指名のままでいく。
チェリーブロッサムズの三位指名は牧原さんだった、正直に言えば意外な指名だ。
高校時代の実績という意味では真由の方が上であるし、東戸大学時代の成績でいっても真由や浅野さんの方が上を行っている。
その二人の方が候補になるかと思っていたが、それだけ牧原さんの素質を内山監督が高く買っているということなのだろうか。
コスモスはその浅野さんを指名、高校時代は三年の全国大会決勝の一試合しか投げていないが東戸大学時代は黒崎さんに次ぐ防御率二位の好成績を残している。
その実力以上に人格者である浅野さんがチームに与える好影響を同じチームで監督をしていた古谷監督はよく分かっているのだろう。
選手としての実力以上にそういったプラスアルファの面も大きい指名となる。
デイジーズは双子の姉である柏葉歌帆さんを指名してきた。
事前の話し合いに従うのであれば四位は柏葉詩帆さんとなるはずだ。
そして四位指名、少しずつ有望選手も絞られてきて指名が難しくなってくる。
しかしここまでの展開は概ね予想通り、つまり事前の予定通りの指名でよし。
俺は紙に選手名を書き込んで提出する、ここを乗り切れればいいドラフトに出来る。
チェリーブロッサムズの四位指名は真由だった、これで東戸大学時代の投手成績上位五人が全員消えたことになる。
成績から考えれば四位指名は破格だと言っていい、もしも四位で真由が取れるのであればその指名は大成功であることは間違いない。
サンフラワーズの指名、俺は関西国際女子の日下部さんを指名した。
ここまで指名した野手は捕手の愛里一人だが愛里は長打力のあるタイプではない。
そして三位指名まで終えた残り候補の中で、長打力があり一番よさそうな選手という条件で見ていくと日下部さんがその条件に当てはまるのだ。
チームの四番候補としての指名となる、この指名が一番妥当なはずだ。
そしてコスモスの指名、ここで被らなければデイジーズは柏葉妹にいくはず。
そんな場面だったが発表された指名選手は日下部さんだった、重複で抽選となる。
抽選になってしまったのは痛いが予想された事態ではあった、あの残り選手で言えば日下部さんはかなりの有力候補だし重複しても全くおかしくない。
そもそも日下部さんの能力で言えば四位指名まで残ったのが出来すぎといってもいいぐらいの選手だ、それを単独指名で獲ろうというのはいくらなんでも欲深すぎる。
くじ引きの順番は俺が先、当たりくじを引くことが出来る立場にあるわけだ。
これがもしも引くのが後であれば相手が先に引いてしまえば俺は絶対に当たりを引くことが出来ないことになるが、このケースでは自分の手でそれを選べる。
迷いに迷った末に一つのクジを選んだ、残りの一つを古谷監督が取る。
くじを開くが俺のくじの中身は白紙、外してしまったようだ。
佳矢の時と同じく古谷監督が手を上げることになる、三分の一を引き当てたあと再び二分一を引き当てるとは強運な人だ。
外してしまったからには方向転換するしかない、理想はスラッガータイプの日下部さんの指名だったが同じ外野手でアベレージタイプの桜庭さんへと指名を切り替えた。
桜庭さんの外野守備は超一級品であることを考えるとセンターラインの強化という目的が達せられる、その点では決して悪くない指名。
ただこれでアベレージタイプが並ぶことになったのは不安要素として残った。
五位指名、チェリーブロッサムズ真由の妹である奈央ちゃんを指名してきた。
内野手としては安定して高い能力を持つ、内野が欲しいならいい指名だろう。
一方でサンフラワーズとしては樋浦さんを指名した、日下部さんを外した今樋浦さんが四番候補の筆頭ということになるのだろう。
コスモスはスピードスターである千隼を指名、このまま入団が決まれば尊敬する日下部さんと同じチームでプレーすることが出来る。
千隼にとってそれは嬉しいことだろう、良い結果になったなとそう思う。
デイジーズはここまで唯一投手を一人しか指名していなかったこともあり、五位指名でサイドスローの伊良波さんを指名する。
二年の時に全国準決勝までほぼ独力で投げ抜いた彼女も、三年時には主力が多く卒業したことによりチーム全体の大きな戦力低下に耐え切れず予選で敗退している。
そのことで評価を下げての五位指名となったが、彼女自身の実力と潜在能力を考えれば五位であれば割のいい指名になるだろう。
指名も六巡目に入って煮詰まってきた、ここからはより選手を見る目が問われる。
チェリーブロッサムズはここまで一人しか指名していない外野を埋めるために杉坂女子の掘越さんを指名してきた。
高校時代の実績には乏しいが東戸大学進学後想定以上の成績を残したことで六位指名という評価を受けたのだろう。
サンフラワーズの六位指名は桜京でも一緒に戦った広橋さんを選んだ。
彼女も荒削りだがパンチ力のある打者、チームに足りない長打力を補える人材だ。
コスモスは羽倉さんを指名、内野手が欲しい中で残った候補から一番いい選手を選んだという形だろう。
ユーティリティプレイヤーの羽倉さんなら内外野を両方守れる、いい指名だ。
デイジーズは捕手の和泉さんを指名、佳矢と愛里という二大捕手が二位で尽きてからしばらくは捕手を後回しにしてきたがそろそろ指名しておこうというところか。
その後サンフラワーズはドラフト七位で八王子女子野球クラブの小森さんを指名。
他にも多くの選手が入団を決め、ドラフト会議は幕を閉じた。