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覚悟

 一番 キャッチャー 安島愛里

 二番 センター 桜庭

 三番 ライト 広橋

 四番 サード 樋浦

 五番 ファースト 黒谷

 六番 レフト 常見

 七番 ピッチャー 宍戸

 八番 セカンド 国方

 九番 ショート 四ノ沢


 シーズン終了まで残り六試合、俺はここまでほぼ完全固定してきた打順を変更した。

 桜庭と広橋をそれぞれ二番と三番に置き、常見を六番に下げた。

 初戦は新打線が完全には機能せず、コスモスの渡瀬さんに完敗しシーズン十九勝目を献上してしまったがその後は復調して連勝を記録した。

 その週末の二試合は一勝一敗で乗り切り、首位のコスモスと二位のサンフラワーズのゲーム差は一ゲームをキープしていた。

 そして残り四試合となった翌週、コスモスはこれまでとっていた渡瀬さんを強引にサンフラワーズにぶつけるという作戦を選択してこなかった。

 元々デイジーズの二番手投手である伊良波の負傷離脱によって、楽になったデイジーズ戦であれば渡瀬さんを使わなくても白星を拾えるという計算でこの作戦は始まった。

 しかし今は選手として復帰した監督兼任の赤石さんがここ最近の四先発で四連勝と絶好調、渡瀬さんを当てないととても止められないと判断したのだろう。

 そして渡瀬さんと赤石さんの対戦は五番を打つ赤石さんが自らのバットでツーベースを放つなどでチャンスメイクしたものの、後続がそのチャンスを物に出来なかった。

 結局、最後は佳矢がツーランを放ってその試合に終止符を打った。

 コスモスが二対〇で勝利、渡瀬さんは大台となる二十勝目を記録した。

 そのままの勢いでコスモスは日曜日の試合も勝利して連勝を決めた。


 一方のサンフラワーズは、土曜日の試合に一つのアクシデントがあった。

 試合は六回、三対〇でサンフラワーズがリードする展開で二塁ランナーに四番の樋浦を置いて打席には五番の黒谷が入る。

 黒谷が放ったライト前ヒットで樋浦は強引に本塁に突入した。

 クロスプレーとなりブロックした捕手と交錯する、それでも捕手はしっかりとボールを握ったままでアウトが宣告される。

 それと同時に樋浦が左手首を抑えてうずくまった、コールドスプレーを持ってフォローしにいくも思ったよりも重症のようで辛そうに顔を歪めている。

 イニングが終了した後、次の回の守備から途中交代で樋浦はベンチに下がった。

 試合は四対二で勝利を収めたものの、不安の残る一戦となってしまった。

 翌日の日曜日の試合、ここまで全試合で四番として先発出場してきた樋浦がスタメン落ちして代わりの四番としてチーム二位の本塁打を放っている広橋が入った。

 主砲である樋浦をスタメンから欠いたのはあまりにも痛く、この試合はなかなか得点を入れることが出来ないまま終盤までももつれていく。


 試合は七回、二死一・二塁とサンフラワーズにとって数少ないチャンスを掴んだ。

 ここで打席に九番ピッチャーの小森さん、打撃には期待できず実際にシーズンでここまでヒットは一本しか打っていない。

 その代わりバントは上手いのだが、走者がいても二死では活かしようがなかった。

 ここで俺は代打を起用する、今日はベンチスタートとなっている樋浦だ。

 左手首に幾重にも巻かれたテーピングのがとてもよく目立つ。

 ここで一点が欲しい場面だったが、樋浦のスイングは本来のものではなかった。

 スピードがなく、不安定なスイングで中途半端な三振に倒れてチャンスを逃した。

 そこからサンフラワーズは詩織がロングリリーフ、延長十回までを完璧に抑えた。

 最後は五番を打つ黒谷が放った一発で決着、苦しみながらもサンフラワーズが一対〇で勝利を収めてこの週末を連勝で終えることが出来た。


 コスモスも連勝としたためゲーム差は変わらず一のまま、優勝の行方は来週末に行われる二試合で決定されることになった。

 来週末の試合は、土曜日にサンフラワーズとコスモスの一戦が予定されている。

 この直接対決にコスモスが勝利すれば最終戦を待たずにコスモスの優勝が確定、サンフラワーズが勝利した場合は最終戦に決着が持ち込まれることとなる。

 そしてもしも最終戦を終えて勝数と勝率がともに並んだ場合には、最後に一試合プレーオフを行って優勝チームを決めるということが取り決められている。

 コスモスとの直接対決に負ければその時点で全てが終わってしまうのだが、その試合には間違いなく渡瀬さんがシーズン二十一勝目と優勝をかけて先発してくるだろう。

 厳しい戦いになるのは避けられそうになかった。


「監督、お話があります」

 小森さんにそう声を掛けられたのは試合後の事だった、振り向いて小森さんの表情を見た時そのあまりの悲壮感に言葉を失いそうになった。

 只事ではない、誰が見てもそんな風に考えそうなそんな表情だった。

「どうした、小森」

 それを知るのは怖かったが、俺が逃げるわけにはいかない。

 精一杯平静を装ったつもりだったが、俺の声は微かに震えていた。

「恐らく、私は近々もう投げられなくなると思います。この感じだと来週末の試合で肘が完全に壊れるかもしれません」

 絶句する俺を尻目に、小森さんは言葉を紡いでいく。

「既に肘には二回メスを入れてますからなんとなく自分の体の限界はわかるんです、だから私がいつ壊れてもいいようにその心構えだけはしておいてください」

 淡々とそう話す小森さんを見ていると、なぜか涙が出そうになった。

「優勝が掛かってるからって無理に登板することはない、肘に不安があるならそれを理由に登板回避すればいい。小森を生贄に捧げるようなことをするつもりはない」

「私の肘は永遠に完治しない爆弾なんですよ。ここで登板を回避しても爆発の瞬間がほんの少し先延ばしにされるだけで、その未来が遠くないということは変えられない」

「それでも今年一杯は耐えられると思ってたんですが、もう歳なんですかね」

 そう言って小森さんが作り笑いを浮かべようとでもしたのか表情を歪ませる。

「どちらにしろ残り長くない選手生命なら、サンフラワーズの優勝のために捧げさせて欲しいんです。優勝の礎になれるのであれば私はそれ以上何も望まないですから」

 小森さんの声も震えている、もう投げられなくなることを完全に受け入れることが出来たというわけではないのだろう。

 それでも、完治するものではないのであればこの重要な試合で戦力として最後まで投げ抜くのが一番なのだというのは理屈の上では理解できる。

 そう頭で理解した上でも感情的に納得することは出来ないでいた。


「赤石さんと約束してたじゃないか、来年もっといい状態で勝負しようって」

 そのことは小森さんにも心残りだったのか、視線が泳いだ。

「あれは勝ち逃げすることに決めました、赤石さんが復調したら私なんかが適うわけないじゃないですかぁ……だか、ら……」

 軽口を叩こうとしても上手くいかない、小森さんが少しずつ言葉を紡げなくなる。

 一分程空白の時間が過ぎてから再び小森さんが口を開いた。

「監督が私を指名してくれて本当に嬉しかったです、私がプロ入り出来るなんて夢にも思っていなかったから話を聞いた時は信じられなくて」

「だからこそ監督に恩返しがしたい、最後にサンフラワーズを優勝させて私の野球人生を終えることが出来ればこれ以上ない終わり方じゃないですか」

「悔いなんて……悔いなんて何一つもないですよ……」

 もう小森さんは顔を上げることが出来ない。

 小森さんの強い覚悟が、俺の感情を揺り動かしていた。

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