前半戦終了
そして前半戦が終わった、季節は夏に差し掛かろうとしている。
ここまでのサンフラワーズは四球団中二位というなかなかの好位置につけている。
好調の要因としてはサンフラワーズのエースである真紘がいい成績を残せていることが大きいだろう。
前半戦で先発した試合数は全部で十二試合で結果は八勝四敗と大きく勝ち越し、しかし真紘がこのような結果を残せたのは小森さんのフォローによるところもある。
というのもコスモスのエースである渡瀬さんがあまりにも絶対的なエースで真紘といえども投げ勝つのが難しいと見た小森さんが自ら渡瀬さんの相手を申し出たのだ。
小森さんは登板を重ねるごとに復調しつつあるという内容でこそあったものの、真紘と比べれば劣るのは否めない状況であった。
真紘が渡瀬さんとの二度目の対戦でも敗れた時に勝てる可能性が低い渡瀬さん相手にこちらのエースである真紘を投入するのは得策ではないと気付かされた。
そのことには俺も気づいていて、渡瀬さんにぶつけてエース対決とするよりはその試合を回避してより勝てる可能性の高い試合で真紘を投げさせるべきだと思った。
しかしそれに気づいたところでとても小森さんに切り出すことは出来なかった。
要するに真紘でより確実に白星を拾うために小森さんに負けを前提として渡瀬さん相手に犠牲になってくれと告げるのと全く同義であったからだ。
誰が好き好んで、自ら望んで勝ち目の薄いマウンドに上がろうとするだろうか?
さらに言えばこれを告げるというのは小森さんに対して戦力として高く評価していないと突きつけることになる、それが良い結果を産むとは思えなかった。
そんな風に考えて結局俺はそれを小森さんに切り出すことは出来なかったが、小森さんが自ら渡瀬さんの相手をするという申し出をしてきてくれた。
それがチームのためになるだろうと考えることはそう難しいことではない、少し野球を知っていれば誰にでも思いつくことであろうしそのことは驚きに値しない。
そして俺が小森さんにそれを要請して小森さんが首を縦に振ったとしてもさほど驚かなかっただろう、自分を殺してでもチームや監督に忠実な選手もいるはずだ。
しかし、小森さんが自らそれを名乗り出てくるとは全く想定していなかった。
いくらそれがチームのためになると完全に理解していたとしても、監督から指示されたわけでもなくそれを実行出来る投手がいるという事実が今でも信じられない。
日本の野球はピッチャーが中心となるのが常識だ、そのピッチャーをプロのような大舞台でも続けているのはエリート出身でプライドの高い選手が多い。
そういった投手であれば自ら負け戦に登板するなんていうのは絶対にしないことだ。
その点小森さんは泥にまみれ、長年苦労に苦労を重ねて一勝の重みを味わいながら野球を続けてきた投手だからそういった投手とは別タイプということなのだろう。
日程の関係上通常土曜日に行われるコスモスの渡瀬さんとの対戦をエースの真紘が回避して、翌日の日曜日に回る場合はデイジーズ二番手の伊良波さんとの対戦となる。
ブロッサムズのエース牧原さんと四試合戦って四勝〇敗、コスモスのエース渡瀬さんには〇勝二敗だったがローテーションを変更してから当たった伊良波さん相手には二試合戦って二勝〇敗と完勝している。
そしてデイジーズのエース黒崎さんとは四試合戦って二勝二敗の五分まで持ち込んでいる、黒崎さんの投手としての高い実力を考えれば大健闘と言ってもいいだろう。
他球団の事情では相変わらずコスモスが首位をキープしている、この快進撃に最も貢献してる選手を上げるとしたら文句なしでエースの渡瀬さんだろう。
ここまで十二試合に登板して十一勝〇敗という規格外の成績を残している。
防御率で見ても〇点台、これだけの数字を残している先発はもちろん他にいない。
このうち勝ちが付かなかった一試合はデイジーズのエース黒崎さんと対戦したときのものだ、お互いに無失点の好投を続けて試合は延長の十一回まで進んだ。
結局球数が嵩んだ事で渡瀬さんが無失点ながら先に降板、その後リリーフしたドラフト下位入団の川見という投手が四番の神代さんに決勝打を浴びてコスモスが敗れた。
この試合で黒崎さんに勝ちが付き、渡瀬さんには勝ちが付かなかったものの無失点の好投を見せられた上に全く打てなかったのだから渡瀬さんの負けとは言えない。
前半戦での十二試合で渡瀬さんが攻略されたと言ってもいい試合は一つもなかったという評価が妥当になるだろう、実際にこれまでの最多失点でも一点に留まっている。
ブロッサムズに関しては開幕時エース扱いだった牧原さんが前半戦でわずか一勝という結果になってしまったのが余りにも大きな痛手となってしまっている。
そうは言っても牧原さんのエース起用自体が全くの見当外れだったとまでは言えない、ストレートの威力には眼を見張るものがあるし間違いなく悪い投手ではない。
しかし勝敗は相手投手あってのものだ、エース格であるその相手投手と比較すると劣ってしまう時点で投げ合いになれば勝てる見込みは相当に薄くなってくる。
そして牧原さんは無失点できっちり抑えるタイプの投手ではない、球威で抑えこむことは出来てもコントロールの粗さや足攻めへの弱さを突かれると失点してしまう。
そして一、二失点程度で抑えても相手のエース格は平気でその上を行くことが多く内容の割に白星という形での結果につながってこない。
最後はあまりにも勝てないことを監督が危惧したのかローテーションをずらして二番手に当てることでなんとか最後にプロ初勝利を拾う形となってしまった。
間違いなく今一番不遇な投手だと言えるだろう、この内容なら五分は無理でももう少し勝てていてもおかしくないのだが巡り合わせが余りにも悪すぎる。
一方で二番手という立場でエース格を回避出来る比較的楽な立場の真由は大きく勝ち越した、このことがブロッサムズにとっては救いになっている。
デイジーズはエースの黒崎さんが好調、うちのエースである真紘には二勝二敗でコスモスのエース渡瀬さんに対しては一勝三敗で唯一勝ちをつけない試合を作った。
ブロッサムズのエース牧原さんに対しては三試合で三勝〇敗と完勝、最後の一試合はローテをずらされて真由が相手となったがその試合でも勝利を収めた。
通算では七勝五敗、途中からローテションをずらして渡瀬さんを回避した真紘に白星で一つ及ばなかったものの内容的には真紘以上に素晴らしい物となっている。
小森さんの献身的なローテずらしで効率的に白星を拾うことはできているものの、これも本質的な解決にいたるようなものではない。
優勝を目指すのであれば渡瀬さんをなんとかして直接叩かないとコスモスを抜かすことは不可能、このような状態が続くのであればどんどん差は開いていく一方となる。
しかし現時点ではそのための綻びすら全く見えていないというのが実情だ、例えるのであれば越えないといけない壁が大理石で出来ているような感覚だ。
少しでも亀裂があればそこに手を掛けて登っていくことも出来るかもしれない、しかし表面が磨き上げられた美しい大理石ではどうすることも出来ない。
今は戦いながらなんとかして綻びを見つけるしかない、そんな綻びが渡瀬さんにあるのかどうかと考えるとその可能性は低いように思えるが見つけられなければどうしようもない以上死ぬ気でそれを探すしかない。
本当に何一つ欠点がない投手などこの世には存在しないと俺は考えている、投げているのはサイボーグではなく人間なのだ。
現時点で最も完全無欠に近いであろう渡瀬さんですら例外ではないはずだ、その欠点が小さく、数が少なく、そして見えにくいから目に入っていないだけであるはずだ。
そして、そう信じて前を向くしか道は残されていないのだから。
録画された渡瀬さんの全登板のビデオを何度も何度も繰り返しチェックする。
渡瀬さんの亀裂を見つけるのは俺の仕事だ、そんな使命感を覚えていた。




