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公式戦 VS エレガント・チェリーブロッサムズ①

 それからの小森さんは少しずつ調子を上げてきていた、その要因としては対戦回数が増えてきたことで相手のデータが集まってきたというのが非常に大きい。

 小森さんはボールの力ではなく打者との駆け引きで打ちとっていくタイプだ。

 それを考えると相手の打者の打撃傾向、得意コース、得意なボール、そういった細かい情報の積み重ねが勝負の結果を大きく左右するというのは当然の話である。

 もちろん当初から全く研究していなかったわけではない、東戸大学時代の試合はその多くが映像やデータとして残されているし、希望する選手はそれを参照して対策を練る事もでき、事実小森さんもそれを積極的に利用してきた。

 その上で愛里のリードも相まってそれなりに打者のデータはあったのだが、やはり直接対戦して収集したデータに勝るものはないということだろう。

 対戦する球団はわずか三つでそれぞれに所属する選手の数も少ない、対戦する顔ぶれが大きく変わらないというのもデータの収集のしやすさに拍車をかけた。


 そして今日の試合はチェリーブロッサムズとの一戦、こちらが二番手の小森さんが先発なのと同じく相手の先発はここまで二番手として投げている真由が予想される。

 各球団の二番手投手の中では真由はここまで一番いい内容で投げてきていた、対戦相手もエース格ではなく二番手であることを考えると単純比較は出来ないがエースとして起用されている牧原さんより勝ち負けではいい数字を残してきているぐらいだ。

 元々いい投手であり二番手で投げてること自体が不思議なぐらいの相手、この試合は厳しいものになろうだろうがだからこそ勝てれば非常に大きな勝利となる。

 真由も好投しているとはいっても防御率にして二点台前半という数字、単純計算で言えば一失点までなら勝てる見込みが高いということになる。

 あくまでも目安だが一失点が目標、しかしチェリーブロッサムズの打線の厚みを考えるとなかなかそれも難しいと言える。

 彩音と東堂さんが並ぶクリーンナップはやはり規格外の破壊力を持っており、一失点というただでさえ高いハードルがますます高くなってくる。

 それを踏まえた上で小森さんがどういうピッチングを見せるかが注目される。


 試合が始まる、今日はサンフラワーズが先攻のため先に真由がマウンドに上る。

 まず一番の愛里が綺麗な流し打ちでレフト前ヒットで無死一塁となる。

 そこから何度か真由が牽制を入れるが、真由は牽制にもクイックにも特に秀でた技術があるというわけではない。

 愛里の盗塁技術と俊足が上回り二球目にあっさりと盗塁を決める、これで無死二塁とチャンスが大きく広がった。

 しかしここから崩れないのが好投手の条件である、二番の常見は真由が得意とするチェンジアップで空振り三振に倒れる。

 続く三番の桜庭も完全に打ち取られる、それでもセカンドゴロでランナーを三塁に進めたのは巧打者の桜庭らしいいい仕事だった。

 二死三塁で打席には四番の樋浦、高校時代から続く勝負弱さは少しずつ影を潜めてきてはいるが今でも得点圏で百パーセントの力が出せているように見えない。

 外のスライダーに何とかついていったが打球は二遊間に転がるゴロ、セカンドの大石が大きく横に走って打球に追いついて体を捻って送球しようとする。


 しかし少し難しい体勢になったせいかボールが手につかず送球が大きく逸れた、チェリーブロッサムズのファーストを守る入澤は守備名手だったがその入澤をもってしてもどうしようもないぐらいの暴投でボールはファールグラウンドまで転がっていく。

 三塁ランナーの愛里がホームベースを踏んで一点を先制、このタイムリーエラーでの先制点は言うまでもなく大きな一点だ。

 チェリーブロッサムズのセカンドを守る大石は守備範囲が広く基本的にはいいセカンドなのだが守備範囲の割にエラーが多く多少不安定な面がある。

 普段の打球処理で数多くのアウトを取ってもらってるだけにこのエラー一つでどうこういうのも理不尽ではあるが、今回はその不安定さが悪い方に出てしまった形だ。

 この回の攻撃はこの一点で終了したが、初回の攻撃としては上出来だろう。

 このリードを受けて小森さんがどういうピッチングを見せるかだ。


 まず先頭は一番の氷室奈央ちゃん、ここまで高打率を残す活躍を見せている。

 比較的ボールを見てくるタイプということでストライク先行で攻めていく、ツーストライクと追い込んでから一球ボール球を見せてワンボールツーストライク。

 最後に選んだボールは低めのフォーク、あまり落差はないため空振りは取れなかったが十分にスイングを崩させる事が出来た。

 崩れたスイングで放たれた打球は正面のピッチャーゴロ、小森さんがその打球を処理して一塁に送球して確実に一つ目のアウトを取る。


 続いて二番打者、今日の試合では堀越さんが二番に入っている。

 彼女は癖のないオーソドックスな打者、それだけに数多くの打者が苦手としているコースを使って攻めて行けばいい。

 そういう基本に沿って考えるのであれば一番安全なのはアウトローだ、

 そこを中心にボールを出し入れしてファールを打たせながら追い込む、カウントはツーボールツーストライクとなっている。

 そこから一転してインコースにシュートを投じる、シュートと言えばうちのエースである真紘の得意球だが真紘のシュートに比べれば子供騙しのようなボールだ。

 しかしそれでも外に意識を振られた堀越さんを打ち取るには十分だった、スイングしたものの芯を外れた打球はサード正面へのゴロでツーアウトとなる。

 そして三番の彩音が左打席、文句なしで一番小森さんが苦手とする打者だろう。

 もともと彩音は軟投派に滅法強い上に多少間合いを外されても柔軟に対応するだけの高い技術も持っている、どう考えても小森さんに分が悪い勝負だ。

 その予想通り彩音が二球目のカーブを捉える、打球は右中間を破って長打コースとなりそのまま二塁まで彩音が到達する。


 二死二塁のピンチで四番の東堂さん、勝負強い打者であるしこの場面では一番怖い。

 とはいえ一塁が空いている、完全に歩かせるまではいかずともボール球を中心に攻めていけば抑えられないこともないかもしれない。

 制球力の無い投手だとそういうことはやり辛いが、小森さんの制球力は折り紙付きであるしそういう条件の上では問題ない。

 厳しいコースを攻めてツーボールワンストライク、ボール先行となってからの四球目の膝下に食い込むスライダーを東堂さんが捉えた。

 強い当たりだがファーストの正面、こちらのファーストを守る黒谷が多少守備に難があることからヒヤッとしたが無事に打球を処理してスリーアウトチェンジとなる。

 いい立ち上がりだったと評価していいだろう、天敵である彩音に打たれるのはある程度仕方ないと割りきって周りを抑えることで失点を防ぐことを考えていくべきだ。

 そういう観点で見れば彩音以外の打者をしっかり抑えたこの回は良かったと言える。


 その後はお互いに点が入らずサンフラワーズ一点リードのまま試合は五回を終了。

 そして六回裏、この回の先頭打者は一番の奈央ちゃんという好打順。

 その先頭の奈央ちゃんが追い込まれてから粘る、二球ファールで逃げた後小森さんの投じたフォークを上手くバットで拾った。

 ライト前に落ちるシングルヒット、これで奈央ちゃんは二打席連続ヒットだ。

 先ほどは出塁した後三球目にスタートを切って盗塁を決めている、その時招いたピンチは凌いだがなかなか危ない場面だった。

 その時は二死からのランナーだったからまだ良かったが、今回は無死のランナーということで緊張度も大きく変わってくる場面だ。

 小森さんがボールを手にしてセットポジションに入る、しばらくボールを持ってから素早く体を回転をさせて矢のような牽制を一塁に投げた。

 奈央ちゃんの反応が一瞬遅れた、足元の一番タッチしやすいコースに飛んだその牽制球はファーストの黒谷が掴んだ時点で既にタッチが可能な位置だった。


 牽制で無死のランナーを潰した、値千金のアウトだと言える。

 一般的に左投手の方が一塁牽制はやりやすいというのがよく言われているが、右投手でも牽制の非常に上手い投手というのは存在するものだ。

 小森さんはその典型だと言えるだろう、トップクラスの技術を持つコスモスの渡瀬さんと比べても決して引けをとらないのではないだろうか。

 それにこの牽制には伏線があったと俺は考えている、前の奈央ちゃんが出塁した際の盗塁の場面で小森さんは殆ど走者への警戒をしていないような様子だった。

 それだけに奈央ちゃんに盗塁を決められたのだが、あれは二死からであって二番でアウトを取ってしまえば危険な三番の彩音まで打順は進まない。

 だからあの場面ではあえて走者を警戒していないように装ったのだろう、そのことで今回の奈央ちゃんにもわずかな緩みが生まれた可能性は否定出来ない。

 これが先ほどの場面で牽制をしたりして、奈央ちゃんの警戒心を呼び起こしていたら恐らくアウトには出来なかったのではないだろうかとそう考えてしまう。

 元々牽制でのアウトなんて何度も狙えるものではない、それならばここ一番の切れ味に賭けるべきという発想がそれほどずれたものだとは俺には思えなかった。

 この牽制は試合の流れを大きく動かすかもしれない、そんな予感を覚えていた。

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