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一ヶ月経過

 開幕してから一ヶ月が経過した、ここまで八試合が消化されたことになる。

 サンフラワーズはここまで四勝四敗の勝率五割という成績を残している。

 ここまで先発したのは真紘と小森さんが四試合ずつ、真紘が三勝一敗と白星が先行している一方で小森さんが一勝三敗と黒星先行となってしまった。

 最多勝はコスモスの渡瀬さんで四勝〇敗と頭一つ抜けた実力を遺憾なく発揮している形だ、抜群の安定感でここまでの失点は僅かに一点しかないというのは驚異的だ。

 コスモス二番手の浅野さんも二勝二敗と五割を維持しており、総合して六勝二敗のコスモスが現在首位を走っている。

 三位と四位に三勝五敗で並んでブロッサムズとデイジーズが上位を窺っている。

 ここまでコスモスが快調なのはやはりエース渡瀬さんの好調ぶりが大きい、相手もエース格の投手であることを考えると四勝〇敗という単純な数字以上にその価値は高いものになっているのは間違いない。

 好投手相手に投げ勝てるというのはその実力の高さを証明しているだろう、渡瀬さんに欠点らしい欠点がないことから得点するのが非常に難しくなっている。


 どこか欠点のある投手相手であればそこを攻めていけばなんとかなることも多い、例えば東都大学組では一番の投手だった黒崎さんもクイックなどの技術に弱点を抱えているだけに足を絡めた攻撃で得点に結びつけるという作戦を狙うことが出来る。

 しかし渡瀬さんはそういった技術面でも超一級品で、実際に足を絡めての攻略を狙った愛里が牽制で刺される等の結果につながってきている。

 その他にも盗塁を試みた選手はいて、合計で四回盗塁を仕掛けられているがその全てをアウトにしており成功率はここまで〇パーセント。

 渡瀬さんのクイックや牽制の技術だけでも盗塁を成功させるのは相当に難しいが、それに加えてキャッチャーが強肩の佳矢というのがさらにハードルを高くしている。

 盗塁以外にも送りバントを成功させるのすら難しい、その精密なコントロールでバントしにくいコースにしっかり渡瀬さんが投げ込んで来るため転がしにくい。

 そして少しでも悪いバントになれば渡瀬さんが素早く処理して二塁でランナーを封殺してくる、彼女のフィールディングはトップクラスでその送球も正確だ。

 それだけに軽々にバントで得点圏という作戦も取りづらい、普通なら成功する範囲にバントで転がしてもアウトにされてしまうとなれば当然そういう判断になる。

 好投手が失点するパターンはワンチャンスから、というのが典型的なケースだがそのワンチャンスすら作らせないというのが渡瀬さんのスタンスなのだろう。

 どの球団が最初に渡瀬さんに黒星をつけるのか楽しみになってしまうぐらいだ。


 一方の野手成績の方は概ね予想通りの結果となっている。

 首位打者は彩音、打率四割半ばという数字は二位以下に大差をつけている。

 打率二位は東堂さん、そして打率三位には好調の愛里が強打者を抑えて食い込んだ。

 本塁打では三本を記録している佳矢がで現時点でトップ、二本に東堂さんや神代さんなどの多数の打者が並んでいる。

 打点のトップもここまで六打点の佳矢、二位の東堂さんが五打点で続いているがこの二人の勝負強さは高校時代から優れた部分があったし妥当な結果だろう。


 そんな風にチームや選手の成績と照らし合わせながらここまでの試合を振り返っていると部屋のドアがノックされる。

 机から離れてドアを開けると小森さんがそこに立っていた。

「小森さ……小森か、どうした?」

 チームでの話し合いで俺は選手に対して敬称をつけるのを禁止されていた。

 年上の選手もいるのだが、采配は年齢に関係なく行われるべきであるし普段の言動からそういう枠組みを作っていくのは良くないという結論が出されたのだ。

 それ自体はもっともだと思うし、そういう方向で行こうということには同意した。

 それでも自分の中では年上相手への呼び捨てというのはなかなか切り替えられないし、実際に口にする場合でもどうしても違和感が残ってしまう。

「監督、私より成宮さんを先発にした方がいいんじゃないですか? ここまで宍戸さんがせっかく貯金を作ってくれたのに私が台無しにしてしまってます、先発失格です」

 遅かれ早かれ小森さんがこういう風に言ってくるのではないかというのは予想ができていた、ここまでの内容が良いとは言えないし実際に黒星が先行している。

 防御率にすると三点台という数字は物足りないというのが正直な所ではある。

 さらに言えばここまでリリーフで五試合に登板した詩織は無失点を続けている、詩織にも先発経験はあるし小森さんと入れ替えるという選択肢が無いわけではない。


 しかし俺は現時点でそれを実行する気は全くなかった。

「その提案は受け入れられない、今の時点で先発は宍戸と小森の二人でリリーフは成宮と西里の二人という形を崩すつもりはない」

「どうしてですか? 成宮さんの好調ぶりを見れば彼女が先発した方がいいと私は思うのですが、正直にいって今の私が彼女以上の投球を出来る自信はありません」

 小森さんは相当自信を失っているようだ、他の選手よりも高い年齢でプロ入りしただけにもう少しやれると自分でも思っていたのかもしれない。

「今の形のままいく理由は二つある、ここまでの試合での小森の失点は出会い頭に見える不幸なものもあったし使い続けていけば良くなってくると考えている」

「もう一つは成宮を先発にしても結局小森次第という状況は変わらないということだ、成宮に完投するだけのスタミナがない以上小森か西里のリリーフが必要になってくる。現時点で西里には期待が持てないから小森がリリーフするしかないことになる」

「でも、私が先発で抑えるのはムリでもリリーフで短いイニングだけだったらなんとかなるかもしれないしそれだったら……」

 そんな風に小森さんが口にするも俺はそれを考えた上でその提案を受けるべきではないと考えていた。


「俺は前々からずっと成宮には先発よりリリーフに適正があると考えてきてたんだ、そしてここまでリリーフとして良い結果が残せてる以上そこは動かしたくない」

 内容がいいのもあるが、実際に投げているボールも先発時代よりさらに良くなっているように俺の目には見えた。

 先発時代でも好結果を残せていたことを考えると、リリーフとしての詩織は手のつけようがないぐらいの絶対的なリリーフになれるだけの素質があるはずだ。

「小森はスタミナもあるし先発向きではあるんだ、だからしばらくは先発で頼むよ」

「監督がそうおっしゃるのであればそれでいいですけど……」

 そう言って視線を伏せる、ここまで結果を残せていない小森さんとしてはこの機会にリリーフに転向したかったのだろう。

「もっと人数がいるならダメだから別の選手ってことも出来なくもないけど、こうして限られた人数でやってる以上今のメンバーでなんとかやりくりするしかないんだ」


 結局の話配置換えでお茶を濁してなんとかなる問題ではないのだ、少人数で投手に至っては四人しか存在しない以上不調だからといって見切ることなんて出来ない。

「小森は結果なんか気にしないで自分の気が向くまま投げればいいんだ、俺はそんな小森のピッチングに惚れ込んで指名を決めたんだからな」

 小森さんが自分のピッチングをすることができれば必ず結果は付いてくる、多少結果が出ていない今でも俺はそう信じている。

「……そうですね、私がなんとかしないとダメなんですよね。先発でなんとか結果を出せるように頑張ります、もうリリーフに転向するだなんて考えたりしません」

「ああ、期待してるよ」

 そう言葉をかけながら小森さんを部屋から送り出す。

 今の投手陣の形は崩さないというこの判断が良かったのかどうか、結果はシーズンが終わってみないと結論を出すことは難しい。

 それでも今の俺にはこの判断が一番なのだとそう信じることしか出来なかった。

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