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開幕戦 シンシア・コスモス VS ノーブル・デイジーズ

 予定より少し早く第一試合が終わり、グラウンドの整備が行われている。

 コスモスとデイジーズの第二試合は予定通りの時間に始められそうだ、客席を見ても席を立つお客様の姿を確認することは出来なかった。

 どうやら来場したお客様を呆れさせるような試合にはならないで済んだようだ。

 試合が行われていない側の選手は高校野球でベンチから外れて応援に回る選手のように内野スタンドから試合を見守っている。

 場所が設けられたものの義務ではないが、これからの対戦相手の情報を得られる可能性が高いことを考えても選手は全員このスタンドでの観戦に参加している。

 先ほど観戦していた二球団の選手と入れ替わる形でスタンドに向かう。


「修平くん」

 名前を呼ばれ振り返るとその声の主はチェリーブロッサムズの彩音だった。

 それを確認してどちらからともなく足を止めて二人で話すような体勢になる。

「彩音か、さっきのバッティングは凄かったな。まさかいくら彩音相手だとはいえ真紘があんなに捉えられるとは思っていなかったから驚いたよ」

「真紘? 修平くんって宍戸さんのことそんな風に呼んでたっけ?」

 愛里も似たようなところに反応していたなとそんなことを思い出す、別に深い意味があって呼び方を変えたわけでもないのだけれども。

「ちょっと成り行きでな、呼び方に大した意味は無いよ」

「ふーん……別に修平くんが誰と仲良くなろうが私には関係ないけどね」

 そう言いながら彩音がどこか俺を訝しむような視線を向けてくる。

「彩音に聞きたいことがあったんだ、真紘のストレートのシュートを見極めてたのか? あのバッティングを見る限りそんな風に見えたんだけど」

「それは企業秘密だよ、と言いたいところだけどどっちにしても修平くんの目は誤魔化せないだろうからね。真紘さんが投げてから見極めてるだけ、フォームに癖があってそれで見極めてるとかそういうことじゃないから心配することはないよ」

 さすが彩音だ、探りを入れた時点で俺が心配していることまで見抜かれてしまった。

 フォームの癖が原因だというのであれば改善しないとこれから手酷いダメージを受ける可能性がある、それが心配だった。

 それと同時にその可能性はあまり高くないと思っていた、彩音以外の打者は殆ど対応出来ないなかったことを考えると癖が原因とは考えにくい。

 もっとも彩音レベルの目利きでないと見極められない微細な癖だった等そういう可能性も考えられるが、どちらにせよ癖とは違う原因である方が自然な状況ではあった。


「それを聞いて少し安心したよ、同時に彩音がまた怖くなったけどな。あともう一つ少し気になることが……」

「代打で出た長森さんのことだよね?」

 こっちも見抜かれていたようだ、それならば話は早い。

「そうだ、想像以上に彼女の打撃が良かったんで驚かされてね」

 以前ビデオで確認した時点で打撃が悪い選手ではなかったが、今はさらに格違いだ。

 長森さんは俺の世代よりも一つ年下、愛里などの同じ世代の選手だ。

 だから東戸大学でのプレーをしていたわけでもないし、そういう選手と比べるとどうしても調査の精度という点であまり良いものにはならない。

 その隙間を付いて急成長したのではないかとそんな予想をしていた。

「彼女はすごい練習熱心だからね。特に私や東堂さんに張り付いて色々参考にしたり助言を求めてきたりしたときもあったし、それでいてその飲み込みがすごく早い」

「彩音と東堂さんが同じチームにいる時点でこれ以上の教科書はないだろうからな」

 それぞれアベレージヒッターとスラッガーの最高峰の選手、その二人から技術を盗むことが出来れば非常に大きな財産になるのは間違いない。

 もちろんそれには本人に高い打撃技術がないと無理だ、そう考えると長森さんの打撃力に一定のものがあるのは確かなのだろう。


「あの打撃で高校時代にスタメン落ちしてたって聞いた時は耳を疑ったけど、あの守備じゃさすがにね。本当にもったいないよ、せめて指名打者制ならよかったのに」

「彩音から見ても、長森さんには魅力を感じるところはあるってことか」

「打撃センスという意味では彼女は素晴らしい選手なのは間違いないよ、少なくともこれまで出会った選手の中で十指に……もしかしたら五指に入るぐらいかもしれない」

 彩音からもこの高い評価を得ている、そして長森さんはまだ本領を発揮していない。

 真に得意としているはずの左投手に対して今の彼女がどんな打撃を見せるのか、敵チームの選手ながらそれを見てみたいとさえ思っていた。


「彩音は次の試合どっちが勝つと思う?」

 そのまま彩音と一緒にスタンドに向かいながら、もう一つ聞いてみる。

 コスモスのエース渡瀬さんとデイジーズのエース黒崎さんの投げ合いが確実だ。

 この好投手同士の戦いの結果をどう彩音が予想するのか気になった。

「うーん、何度も対戦した投手が相手という意味では黒崎さんだと言いたいところだけど渡瀬さんと直接対戦したことがないから難しいよ」

「それもそうだな、まずは渡瀬さんがどんなピッチングをするのか見てみないと」

 高校時代の三年間、そして大学時代の四年間を負け知らずという伝説的な存在。

 その渡瀬さんがついにマウンドでベールを脱ぐことになる。


 スタンドついて間もなくしてから試合が始まった。

 先攻はコスモスということで、黒崎さんが先にマウンドに上がることになる。

 注目のエース左腕対決、まずは黒崎さんがどういう立ち上がりを見せるかだ。

 コスモスには俊足の千隼が所属しているが、今日はスタメン落ちしている。

 俺が同じチームだった高校時代にも黒崎さん相手の試合ではスタメンから落としていたし、妥当な判断だと思える。

 とにかく千隼は左投手が相手だと全く打てない、さらに言えば速球派も比較的苦手で超一級品の速球派左腕である黒崎さんに千隼を当てるのは自殺行為としか言えない。

 一番に羽倉さん、二番に竹沢さんという巧打の二塁手、三番に佳矢、そして四番に日下部さんというのが上位の打線となっている。


 その初回、黒崎さんは立ち上がりから快投を見せる。

 羽倉さん、竹沢さんと二人を連続三振に仕留めてあっという間にツーアウト。

 そして打席には三番の佳矢、飛び抜けて危険性の高い打者だと言える相手だ。

 ボール球を使いながらツーボールツーストライクと追い込む。

 そこからストレートを二球続けたが、佳矢は共にファールで粘る。

 キャッチャーからの返球を受けた黒崎さんが足場を整えて間合いを取る。

 せっかく二者連続三振といい流れで来ていたのにここで粘られるのは嫌だろう。

 モーションに入った七球目、誰も予想していなかったボールが投じられた。

 スローカーブ、佳矢が完全にタイミングを外された空振りで三振に倒れた。

 これで三者連続三振、黒崎さんが最高のスタートを切った。


 高校時代、そして東戸大学に進んでからも黒崎さんはあんなカーブを投げていない。

 ストレート、スライダー、そしてフォークの三つで投球を組み立ててきた。

 どれもスピードがあるボールで、緩急がつけられないのが一つの弱点だと以前に考察したことがあったがこのスローカーブでその欠点はかなり解消されたかもしれない。

 そのスローカーブ自体は大したボールではない、来るのがわかっていれば全打者の九割は余裕で打ち返せる程度のボールだろう。

 しかし他のボールの中に織り交ぜられれば強力な武器になるのは間違いない。


 続いてコスモスの渡瀬さんがマウンドに上がる。

 その投球練習を見ていて一番印象的だったのがそのフォームだった。

 洗練された美のようなものを強く感じさせるフォームだという感想。

 投げるボールは速球派といってもいいだろうが目が覚めるような豪速球とは言えないぐらいのストレート、それに加えてスライダーとカーブ、そしてチェンジアップだ。

 デイジーズの上位打線は一番にセカンドの柏葉詩帆さん、二番にショートの柏葉歌帆さんと柏葉姉妹が並び、三番にピッチャーの黒崎さん、四番に神代さんが入る。

 かなり強力な相手だが、それに対して渡瀬さんがどんなピッチングを見せるか。

 まず先頭の柏葉詩帆さんがセカンドゴロ、続く柏葉歌帆さんがレフトフライとなる。

 二死を取って三番の黒崎さん、スライダーを引っ掛けてファーストゴロに終わった。

 三者凡退、奪三振はゼロと黒崎さんに比べると地味な立ち上がりとなった。

 しかしピッチングの本質というのは奪三振にあるわけではない、そう考えると二人の間に大きな差はないとも言えるのかもしれない。


 試合は大方の予想通り投手戦で進んでいった、試合が動いたのは八回表だった。

 それまで奪三振十五を記録するなど快投を見せていた黒崎さんだったが、この回は少し今までと様子が違った。

 先頭打者である一番の羽倉さんに黒崎さんが四球を出してしまう、先頭を出してしまったのはこの試合初めてだった。

 無死一塁となってすかさずコスモスの古谷監督は代走に千隼を使ってくる。

 黒崎さんの牽制とクイックで千隼を止めることは出来ない、あっさりと三塁まで走られてしまう。

 その間に二番の竹沢さんから三振を奪ったものの、一死三塁とピンチが広がる。

 そして打席には三番の佳矢、ここは歩かせるという選択肢もあるかと俺は考えた。

 しかしベンチの判断は勝負、この時点で俺はコスモスの勝利を予感した。

 佳矢はとにかく勝負強いバッターだ、ここぞという場面で結果を出してくれる。

 それは俺が理想とする打者に非常に近い、そんな彼女とこの場面で勝負するべきではないとそう思った。

 黒崎さんが投じた直球を佳矢が捉えた、レフトのフェンスを直撃する一打となる。

 三塁ランナーの千隼は文句なしでホームイン、ついに均衡が破れた。

 一方で渡瀬さんは七回を投げ終えて奪三振こそ六つに留まっているが、無四球で被安打は僅かに一本という安定感のあるピッチングを見せていた。

 ここまで手も足も出なかった渡瀬さんを残りの二回で捉えられるはずもない。

 そのまま渡瀬さんは一安打完封でプロ初勝利を手にした。

 コスモスとデイジーズのエース左腕対決は渡瀬さんが制した。

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