表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/37

開幕戦 VS エレガント・チェリーブロッサムズ②

 試合は序盤の三回を終えてお互いにノーヒット、しかしその内容は対照的だ。

 真紘は打者九人を相手に奪三振は三つに留まったが一人の走者も許していない。

 一方の牧原さんはアウト九個のうち七つが三振という驚異的な奪三振率を残した。

 これは九回に単純換算すると二十一奪三振ペースということになる。

 その反面制球に苦しんでいるのは明らかだ、初回こそ三人で終えたものの二回に一つ、三回には二つ四球を出して得点圏までランナーを進めている。

 元々制球力よりも球威で抑えにいくタイプではあったのだが、フォームを変えてからその傾向がさらに顕著になっているようだ。

 連打や一発での得点は難しいだろうから、四球で出してもらったランナーを何とか得点につなげるような形が理想的になるだろうか。


 そして四回表、相手の打順も二回り目に入ることになる。

 左打席には一番の奈央ちゃん、先ほどは内角を上手く使って三振に取った。

 奈央ちゃんも決して悪い打者ではないが、フロントドアシュートを使った真紘の左打者に対する厳しい内角攻めはこの試合まで全くデータがなかったものだ。

 それを考えても一打席程度で対応できるとは思えない、しばらくは安泰のはずだ。

 その予想通り、この打席の奈央ちゃんは追い込まれてから最後にフロントドアのシュートを叩き平凡なファーストゴロに倒れた。

 真紘のシュートの切れ味は相当なもので、フロントドアとして使う場合には比喩ではなく本当に体にぶつかりそうなコースからストライクゾーンまで変化していく。

 そしてかなり手元で変化することも相まって見極めが難しい、そして見極められなければフロントドアのシュートに対して踏み込むことは不可能に近い。

 もしもストレートだったら体にぶつかりケガにつながりかねないのだ、そんなボールに対して踏み込むことが出来るはずもない。

 これは選手としての能力とかそういった部分の話ではなく、人間はどんな状況だろうと本能的にボールが体にぶつかりそうになれば防衛本能が働くのが当然だからだ。

 そしてその本能により体を守ろうとしてしまう状態から強引にスイングしたところで良い結果が生まれるはずもない、崩れたスイングで凡打するのが関の山だ。


 続く二番の会田さんについても内角攻めを基本とした配球、最後は第一打席と同じように外へのシュートを選択して空振り三振に仕留めた。

 真紘はとにかく横に広くストライクゾーンを使うのが上手い、あれだけ内角を攻められればただでさえ外角に対応するのは厳しいのにそんな状況でベースの角を舐めて逃げるようなシュートなど打てるはずもない。

 そもそも今まで内角攻めが機能していた右打者に対しては絶対的優位と言ってもいいぐらいの素晴らしい対戦成績を残してきている。

 その上で左打者相手にもしっかり内角を攻めることで苦手を打ち消すことが出来たのであれば、これはもう手のつけようがない投手になっているのかもしれない。


 そして左打席に三番の彩音が入る、先ほどはセカンドゴロに打ちとっている。

 その時は他の打者同様にスイングが崩れていた、さすがの彩音でもこのフロントドアのシュートには手を焼くことになるだろう。

 そんな甘い考えはあっという間に吹き飛ばされることになった。

 彩音に対しての初球はインコースへのストレート、体に当たりそうなボール球だ。

 しっかり体を動かして彩音がそれを避けてワンボール。

 一打席目は普段投げないスライダーとカーブで上手く追い込んだがあれは大して質の高いボールでもないし何度も投げられるようなものではない。

 それは愛里も理解しているだろうからこの打席では使わないだろう。

 続いての愛里の要求はフロントドアのシュートだった、内角でぶつけられそうなぐらいのストレートを見せられた直後のそれに対応出来るはずがない。

 確実にストライクを取れる配球だと、俺自身もそう思った。

 しかし彩音はそれに対して臆することなく踏み込み、綺麗にはじき返した。

 打球は狙いすましたかのように右中間のど真ん中を破っていく。

 彩音は悠々と二塁に到達する、ツーベースヒットで二死二塁となる。

 右中間の真ん中に打球が飛んだのは狙ってそこに飛ばしたのだろう、実際に彩音がそれをやってきたのを何度も見てきたしそれ自体には今更驚かない。

 問題はあのストレートの後に来たフロントドアのシュートに対して踏み込み、しかも弾き返す位置すら調整出来るぐらいの余裕のバッティングが出来たことだ。

 仮にそれを読んでいたとしても、体にぶつかりそうなコースに対してあれだけしっかり踏み込むというのは通常出来ることではない。

 続く四番の東堂さんと無理に勝負する場面でもない、五番の堀越さんも悪い打者ではないにしろ東堂さんと比較すれば遥かに安全な相手だ。

 勝負を避けるようにサインを飛ばして東堂さんを歩かせて二死一・二塁。

 そこから得意の右打者である堀越さんをショートゴロに打ち取りピンチを脱した。


 しかしベンチに戻ってくる真紘の表情は冴えない、原因は彩音に打たれたツーベースに他ならないだろう。

「真紘、彩音に打たれたのは気にするな。あいつは怪物だからしょうがない。後続を抑えてあの一打は結局得点につながらなかったんだしな」

「あのコースのシュートにどうしてあんなに踏み込めたのか……それが分からなくて」

「その答えは簡単だよ、彩音は投げてからストレートかシュートかを見極めてるのさ」

「そんなことあり得ません、と天城さん相手にだけは絶対言えないなぁ」

 真紘の言う通り通常はあり得ない、真紘の速球は速球派と言ってもいいぐらいのスピードがありシュートはかなりストレートに近い速度を持つ変化球である。

 その上手元で鋭く変化する、これらの条件の下で見極めることは非常に難しい。

 しかし彩音ならその見極めが出来てもおかしくないと思えるのも事実だ。

 彩音の打撃は卓越したバットコントロールはもちろんだが、その目の良さがそれを大きく後押ししている。

 動体視力に優れるといったところだろうか、選球眼でもバットコントロールでも彩音よりも優れた選手を見たことは一度もないぐらいだ。

 その彩音であれば真紘のストレートとシュートを見極めても不思議ではない。


 それだけでは想像の域を出ないが、彩音が真紘のフロントドアのシュートに対して思い切り踏み込んでスイングしたという事実を見ればそう判断するしかない。

 彩音も人間である以上ぶつかるかもしれないというボールに対してあれだけの踏み込みと綺麗なスイングを見せられるはずがない。

 それが出来たということはあれがシュートだと分かっていたと考えるしかない。

「確かに彩音に対してはフロントドアはあまり機能しないかもしれない、けれども他の打者には相変わらず有効だ。他に同じことが出来るとしたら東堂さんぐらいだろう」

 彩音は特別中の特別として、東堂さんなら同じようなことも出来るかもしれない。

 しかしその他の打者には難しいだろう、長い間時間をかけて研究して経験を積んだ結果多少の対応が出来るといった程度が限界で今この時にどうにかは出来ないはずだ。

 そういう意味ではますます彩音の能力の高さが際立つ、他の打者が四苦八苦するフロントドアのシュートに二打席目で対応してしまったのだから本当に恐ろしい。

「ん、私が投げるのは勝利のためだからね。天城さんに打たれても他の抑えて勝負に勝てればそれでよし、そういう心構えはちゃんと出来てるから大丈夫だよ」

 そう言って真紘が笑顔を作る、先ほどまでは少し彩音に打たれたことを気に病んでいた様子だったが完全に吹っ切れたようだ。

 それを引きずりさえしなければ今日の試合で真紘が打たれる可能性は低いはずだ。


 四回裏、こちらの攻撃は四番の樋浦からだったが三者凡退。

 五回裏は先頭バッターである七番ピッチャーの真紘に牧原さんが四球を出した。

 得点圏に一死でランナーを送ってなんとかしようということで八番の国方にバントの指示を出すも牧原さんの球威に押されて上手くバントが出来ない。

 結局追い込まれてから強攻策に切り替えたものの空振りの三振に倒れた。

 セカンドの国方はバント技術の高さが一つの持ち味である選手、その国方ですらバント出来ないとなると牧原さん相手にバント絡みの戦術は難しいかもしれない。

 九番の四ノ沢も三振、続く一番の愛里が四球で二死一・二塁とチャンスを広げる。

 しかし二番の常見が空振り三振、チャンスは潰えて無得点に終わる。

 試合は前半五回を終えて〇対〇のスコアレスで後半へと移っていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ