第14話 頬を伝うは血の涙
アイアースは元来た石作りの階段を駆け上がっていた。
切り裂かれた身体の傷はそれほど深くはなく、上の階にて拝借していた回復役を頭から被ることで回復してきている。刻印は炎だけであるため、回復法術を使役可能な水や聖の刻印は身に宿していない。
身体には埋まっているだろうが、それによってあらゆる法術を使役できるようになるほど便利なものでもないのだ。
キーリアを産み出した人間達が定める行き先はそれも可能な戦士なのであろうが。
背後からの声。アイアースはかけていた段を逆に蹴ると一気に後方へと跳躍する。兵士の表情が目に映る。突然後方へと飛んできたアイアースの姿に目を剥いている。
それを視認したアイアースは、躊躇することなく剣を繰り出し、連なって駆け上がってきた兵士達を串刺しにする。
肉体をかき分けて突き進む剣。アイアースの手が戦闘の兵士を抉るとこまで進んでようやくそれは止まる。
突き刺したまま身体を回転させ、再び壁を蹴ると勢いを殺すことなく階上へと出ることが出来た。
フロアに居並ぶ兵士達。全員が殺気だった表情にてアイアースを見つめている。
地下では怒りに燃えるアイヒハルトが自分を追ってきているだろう。ここで時間を食っている暇はなかった。
剣を構え、一瞬の正眼。
一気に床を蹴ると先頭の兵士の元に突っこむ。表情を見ている余裕は無い。斬り上げ、蹴倒すと身体を捻って両側から斬りかかってくる兵士を横薙ぎすると、再び跳躍。回転しながら飛来する矢をかわし、接近してくる兵士達を切り刻む。
視界に地面。槍が繰り出されてきている。剣で穂先を切ると空いた隙間に槍。わずかに身体をずらして致命傷を避ける。刺された箇所が少し焼けたような痛みに襲われる。
着地と同時に前後左右上方へ身体を捻りながら、剣を振るい、その度に血飛沫が舞い上がる。足元に剣。再び跳躍すると槍を振るっていた兵士の首を飛ばし、足を薙いできた兵士を頭部から両断する。
鮮やかな鮮血をまき散らしながら、ふたつにわれる肉体と石畳を転がる首が停止すると、残された身体も同時に崩れ落ちた。
静寂。自分を取り囲んでいる兵士達は、遠巻きに自分を見つめているだけであった。
「45か。5秒もかけた割りには少なかったな」
切り伏せた兵士の数。思わず口をついていた。とはいえ、これ以上無駄な時間をかけるわけにはいかなかった。
周囲には剣だけでなく長槍を持った兵士だけでなく、弓や法術の類を使役する兵士もいる様子だった。
そう思うと、アイアースは剣を腰に収め、静かに両の手をかざす。わずかな疲労感の後、両の手に鮮やかな赤い火球が出現する。
兵士達が色めき立つ。ためらることなく、固まった兵士達の元へとそれを送り込む。光速で飛来したそれは、中心にいた兵士に激突すると、轟音とともに兵士もろとも大爆発を起こした。
一気に慌てふためく兵士達。
アイアースは石畳を蹴ると、次々に火球を放つ。
爆風が肌を焼く中、フロアに群れていた兵士達中を一気に駆け抜ける。やがて、牢獄の一角が空いていることに気付く。
中に飛び込むと、中にはティグ族の親子と思われる女性と少女。
一瞥したアイアースに怯える二人であったが、それを気にすることなくアイアースは鉄格子の縁に蹴りをいれた。
その人間離れした膂力に、鉄格子が軋む。見ると、そこがやや脆くなっている様子である。
そんなことを考えていると、背後から兵士の声。跳躍すると飛び込んできた兵士に蹴りをいれ、室内から追い出し、火球を放つ。通路の先で兵士達舞い上がるのが見て取れる。
刹那、全身が粟立つ。
顔を向ける。キーリア。巨大な体躯に白装束を身につけた男がこちらを見つめ、ほくそ笑んでいる。
それを見たアイアースは後方へと飛び退る。傍らに気配。ティグ族の女性が、少女を抱いたまま自分と同じように飛び退っている。
捕らえられ、衰弱しているとはいえ、そこはティグの血。危険を察し我が子を守ろうとしているのであろう。
と、アイアースが考えられたのはそこまでであった。
巨大な爆発とともに、アイアースは吹き飛ばされ、石造りの壁へと叩きつけられる。脇腹に痛み。見ると、鋭利な木片が脇腹に突き立っていた。
強引に引き抜きかけるが、激痛が増す。致し方なく先端部をへし折る。
「お母さんっ!!」
耳に届く少女の声。目を向けると、アイアースのそれ以上に大きな破片を腹部に突き立てた女性が、倒れ込んでいる。
「待ってろっ」
アイアースは、腹部の木片を引き抜く。しかし、そこから血が溢れるようにして出てくる。
「ごふっ。無駄だ……。せめて、この子だけでも……」
「っ!!」
「そんなっ!!」
「女とは言え、私もティグの戦士……。身体のことはよく分かる……。頼むっ」
「いたぞっ!!」
口から血を吐き、息荒くそう懇願する女性。本来であれば、こどもを連れて行くことなど自殺行為に等しい。しかし、自分と関わった囚人をここの人間達が何をするのか? アイアースは、想像する気にもならなかった。
「行くぞっ!!」
「いやぁっ」
アイアースは少女を抱えると、先ほどの牢獄へと向かって駆ける。背後から兵士達が駆け寄ってきているのは分かる。一瞬とて無駄には出来ない。幸い、先ほどの爆風で、壁は脆くなっているはずである。
しかし、自体はそう簡単に進みそうなモノでもなかった。
先ほど、笑みを浮かべてこちらを見つめていた巨漢のキーリアが、変わらぬ態度のままこちらへと歩み寄ってきているのだ。
「あきらめろ。逃げられはせんぞ?」
地の底から絞り出したかのような低い声が耳に届く。巨大な体躯にあったそれであったが、今はそんなことを評価している場合ではない。
腹に突き刺さったままの木片のせいか、現状のままでキーリアと対峙するのは困難であるし、傍らには少女もいるのだ。
そんなとき、アイアースの傍らを一陣の風が通り抜ける。
キーリアも目を見開いてそれを見つめると、キーリアの顔面に拳がめり込む。
「行ってっ!! 速くっ!!」
風の正体は、少女の母親であった。最後を悟り、決死の覚悟で時間を稼ぐつもりなのであろう。常人ならば動けるはずもないほどの傷と出血量であり、今もキーリアにすがるように接近して身体を支えている。
ティグの血が彼女を動かしているのかも知れない。
アイアースは、一瞬彼女の背にある女性の姿を重ねるが、今は感傷にひたっている場合ではない。彼女が決死の覚悟を見せるのならば、こちらは託されたモノを救う義務があった。
牢獄内に飛び込み、窓の鉄格子を蹴りつけるとアイアースが通り抜けるだけの穴が穿たれる。
アイアースは、少女を抱きかかえると穴から外へと身を乗り出す。
少女の叫び声が耳に届く。アイアースは着地した表紙に全身を襲う痛みと少女を母親から引き離した苦悩を抑えるべく歯をくいしばると、外を駆け回っていた兵士達を出会った端から斬り伏せる。
感情が暴走していることは分かる。しかし、一度燃え上がった炎は中々消すことが出来なかった。
「小僧っ!!」
そんなとき、アイアースの耳に聞き覚えのある声が届く。
目を向けると、建物の影から手を振っている男。近づいていくと、酒場のバーテンであった。
「なんでここにっ!?」
「お父さんっ!!」
アイアースが声を上げるのと、少女がバーテンに抱きつくのはほぼ同時であった。
「こういうことだ。こっちに」
バーテンの短い説明にアイアースは頷くと、走り始めた彼の背後を追う。建物の影を縫うように走るが、監獄やその周辺中で銅鑼や笛の音がけたたましく鳴り響いている。
ほどなく、男が立ち止まると、闇の中にぽっかりと暗い穴が空いている。
「川に繋がる水路だ。こい」
バーテンが少女とともに、穴へと身を投じる。
刹那、背後に気配。兵士達がこちらに向かって駆けてくる様が見て取れる。
そして、その背後。
ここからでもはっきりと見て取れるほどの獰猛な笑みを浮かべたそれと、視線が絡み合う。
アイアースは跳躍すると、落下に身を任せながら数発の火球を放つ。緩やかな弧を描いて飛んで行く様を見ながら、アイアースの視界は闇に包まれる。
ほどなく、水の感触を感じる。思いのほか流れが速い。とはいえ、あれから逃げ切れるほどの速さでもなかった。
「急ぐぞ。おっさんは、振り落とされないように捕まっていてくれ」
「むっ。了解した」
急に自分を掴んだアイアースの言に何事かを察したのか、バーテンはすぐに頷く。その仕草は商売人と言うよりも軍人のそれに近い。
ティグ族を妻に迎えていることからも、正体がなんなのかは見当がつく。だが、今はそれを確認している場合ではなった。
◇◆◇
(ほう……脱出したか)
火の手の上がる監獄に目を向けた女性は、先ほどから探り続けている闘気の動きに思わず眉をあげる。
単独で、『天使の顎門』へと乗り込んだキーリアに賞賛と侮蔑の感情を向けていた女性であったが、驚くことに自分が手を貸すこともなく、そこから脱出したキーリアに対しては、素直に驚きを向けていた。
しかし、その背後に迫るひとつの巨大な害意。怒りに身を任せているのか、それは非常に速くキーリアの下へと辿り着くであろう。
夜風が女性の銀色の髪を撫でる。
風に揺られながら露出する女性の肌。そこに刻まれた、刻印が月明かりに照らされ、白皙のごとく輝く肌に浮かび上がっていた。
◇◆◇
水路から川へと出ると、露出した岩を伝って対岸へと出る。
視線の先には町の灯りをわずかに目にすることが出来た。相当な距離を移動してきたことになる。
「ここで、別れよう。時間はほとんどない」
「ああ。よけいなことをしてスマンかった」
「その話は後だ。おっさん、生きていたらまた会おう」
バーテンと少女を岸に降ろしたアイアースは、バーテンの返事を待たずに地面を蹴る。
アイヒハルトの狙いは自分。
そういう確信があったため、別れることが出来れば、後は出来るだけ二人から離れなければならない。
これ以上、関係のない人間を巻き込みたくはなかったのだ。
「ふむ……。感心しますよ。その心がけ」
「っ!?!?」
そんなことを考えているアイアースの耳に届く男の声と首筋へと振りおろされる白刃。
強引に身を捻ってそれをかわすと、アイアースは大地へと降り立つ。眼前には、不敵な笑みを浮かべた紳士然とした男、死の天使アイヒハルトが立っていた。
「おや、私が追い付いたことを驚いているようですねえ。侮られたものだ。他を抱えたまま逃げ切ることが可能だと思いましたか?」
その言に、アイアースは思わず唇を嚼む。今になって後悔したところで遅いが、水路ないはいくらでも身を隠す場はあったのだから、二人と別れても良かったのだ。
よけいな優しさが、自身の窮地と会わせずに済むはずであった危険に二人を去らす結果になっている。
「ふふふ、そもそも、あなたは無駄が多すぎる。あの程度の兵士達相手に大立ち回りを演じなければならないのですからね。私ならば堂々と歩いて出て行きます。そして……」
刹那、アイヒハルトの姿が視界から消える。そして、わずかな風の動きとともに、背後に殺気。
再び身を捩ると鋭い白刃が髪を掠める。
「このように、無駄がなければ相手に気取られることもない。弱者であればあるほど無駄が多いものです」
そう言って、笑みを浮かべるアイヒハルト。その笑顔がシャクに障り、アイアースは顔を顰める。しかし、圧倒的な力の差がある相手のペースにのること自体が愚かなことであることも自覚していた。
ふっと、息を吐く。それまで、支配していた苛立ちは徐々に収まっていく。
「ほう? まあ、いいでしょう」
再びアイヒハルトの姿が消える。それを視認する以前に、アイアースもまた地面を蹴り、虚空へと跳躍する。
目を見開いたアイヒハルトの姿。見えるのはがら空きになった腹部。ためらうことなく剣を突き出した。
「っ!?」
しかし、再び視界からアイヒハルトが消えると、背中に焼けるような痛みが広がり、地面にたたきつけれた。
「ぐああっ!!」
痛みに思わず声を上げるアイアース。その声を聞いたアイヒハルトは、満足げに笑う。
「ふはははっ。良いですよ、その声。私の動きを一度だけでも読むとは。まだまだ楽しめそうです。おっと!?」
満足げにそう口を開くアイヒハルトに対し、アイアースは苛立ちともに斬りかかるが、それも涼しい顔のまま受け止められる。
思わず目を見開いたアイアースであったが、その表情がアイヒハルトの失望を誘ったようである。
「一撃を受け止められただけでその顔ですか? がっかりですねえ」
再び消える姿。目で追うことも気配を追うことも出来なかった。
左から斬撃。身を捩ってかわすが、かわした先に白刃。わずかに軌道をずらすが胸元を斬られる。吹き出る血に地面を蹴って背後へと回るが、手首を返すように振るわれた剣に左の胸元を斬り上げられ、後方へと弾き飛ばされる。
身体の中で何かが破れたような感覚。次の瞬間には、空中にて足を腹に受け、川底の叩き落とされていた。
濁流に身体が呑み込まれる。
ところどころを岩にぶつけながら川下へと流されいる。体内に浸入してくる水を必死に吐き出しながら、今は流れに身を任せるしかなかった。しかし、肉体の限界を見誤るわけにもいかない。
決死の思いで伸ばした左腕が、小さな岩を掴むことが出来たのは僥倖であった。
「はぁはぁはぁ…………」
急流から逃れたアイアースは、岸辺の草地へと身を委ねる。思いがけない急流であったが、おかげであの場を逃れることが出来た。
しかし、全身からの出血が止まらず、脇腹に刺さった木片も取り除かれていない。
身体が急速に冷たくなっている様に思えた。
「ふうむ。まさか、私の攻撃をあえて受けるとは……考えましたね」
「っ!?」
ほんの数瞬。生存への希望を持った自分が情けなくなってくるようにアイアースには思えた。
声に向かって身を起こすと、アイヒハルトが腕を組みながら大岩に背を預けてこちらを見つめている。
その表情は相変わらずの不敵なものであり、それが絶望を告げる死の天使でしかないことを改めて認識する。
「ほう? まだ立ち上がり、私に挑む元気が残っていますか。良いですよ。なぜだか、あなたは一目見たときから、簡単に殺したくはないと思っていました」
立ち上がったアイアースを満足げに見つめながら、アイヒハルトはそう口を開く。
「なぜだ? 俺は……、貴様とは面識も、なにもない……」
「なぜでありましょうねえ……。強いてあげれば、あなたはあの亜人と同じ匂いがします」
「…………」
「下等人種風情で、私の遊びを邪魔をする。あの女がいなければ、あなたは衆目の前で私に切り刻まれ、塵となっていたものを……。しかし、何故、ここまであなたが気にくわないのですかねえ……?」
「下等だと? お前のような人間に比べれば……っっ!?」
「今、何を言おうとした? 小僧」
先ほど、自身を救う形になった女性のことを、侮辱するアイヒハルトに苛立ったアイアースであったが、気付いたときには眼前に迫ったアイヒハルトによって首筋を思いきり掴まれる。
「てめえ……の、方が……、下等だって、……言ってんだよ」
「ふ、ふっふっふっふ。この期に及んでそれを言うか? 貴様、実は下等生物どもが化けているのであろう。先ほど、母親のことを口にした際に逆上したのは、人間である母を侮辱されたことを悔やむ亜人の血故かっ」
狂ったような笑みを浮かべ、詩を奏でるように言葉を連ねるアイヒハルトの顔をに蹴りをいれ、後方へと飛び退る。
圧倒的弱者による反抗に、アイヒハルトがそれまでの笑みの浮かんでいた表情が、一気に修羅のごとき面貌へと変わっていく。
「そこまで言うのならば、言ってやるよ。俺の父親は、ゼノス・ラトル・パルティヌス。母親やリアネイア・フィラ・ロクリス。この地、この国において、至尊の地位にあった人間とそれを支えた『人間』だっ!!」
腹の内からそう叫ぶアイアース。それは、絶望を打ち払うべく絞り出した最後の意地であったのかも知れない。しかし、それを聞いたアイヒハルトの表情は、修羅のごときそれから、再び狂気を纏った笑みへと変わっていく。
「…………そうか。そこまで、身を血に染めながら、全身を傷つけつつも貴様が立つのは、そう言った理由があるのか。くっくっく……、生きる価値のない皇族どもの唯一の特性であったな。女系遺伝が常であるこの世にあって、唯一その縛りから逃れている。唯一の男系遺伝を持った一族……。人間である貴様から、ティグ族のクズ共の匂いを感じたのはそう言った理由かっ」
そう言って、アイヒハルトはゆっくりとアイアースに向かって歩み始める。
アイアースもまた、痛みに悲鳴を上げる全身に鞭打ち、剣を構える。もはや、勝機はないが、黙ってやられわけには行かなかった。
自分の脳裏に浮かぶ人間達。革命の露と消えた父や母達、自身とともに戦うことを選んでくれたハインやフェルミナ達。そして、先日であった新たな仲間となるべき人間達。
そして……、今も帝都で孤高の戦いを続ける一人の女性。
彼らの姿が走馬燈のように、脳裏を駆け巡っていく。ふと、頬に熱い何かが流れる。
拭ったそれは、月明かりに照らされながら、鮮やかに赤く輝いていた。
「ふっ……、大望も復讐も果たせず倒れることを悔やむか……。だがな、それを悔やんだところで誰も同情などどこにもないぞ?」
アイアースが流した涙を目にしたのか、アイヒハルトはそれまでの笑みから、失望のこもった表情を浮かべてそう口を開く。
「守るべき者、果たすべき大望。そんなものが、生き残れる理由になる……でもいうか? そんなものは、弱者が抱くだけの戯言なのだよ」
そう言って剣を振り上げるアイヒハルト。最後を悟り、アイアースは目を閉ざす。
(父上、母上……皆、今、そこに参ります)
剣が風を切る音が耳に届く。なぜか、それがひどくゆったりとした戯曲のように思える。だが、それはアイアースの首を落とすべく、確実に近づいてきていた。
死は目前。だが、絶望よりも悪夢の終わりを予感させる希望がアイアースの脳裏には浮かんでいたのかも知れない。
そして、その希望は意外な形で姿を現すことになる。
「その弱者の戯言が、やがては人を救うのだ」
声とともに耳に届く金属どうしが激しくぶつかりあう音が意味に届く。
「な、き、貴様はっ!?」
アイヒハルトの声とともに、振るわれる一対の剣。目を見開く一瞬の間に決着はつき、アイヒハルトの身体は切り刻まれ、鮮血が月明かりに照らされて光り輝く。
その不気味な光の中に佇む一人の女性。輝く銀色の髪のそこには、意志の強そうな切れ長の目が光を纏い、その両の腕には赤く染まった双剣が握られていた。
(姉上…………?)
意識が途切れる刹那、女性の姿を目にしたアイアースの脳裏には、そんな声にならない声が響き渡っていた。




