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第八話 王都へ

第七話の一部に内容改変があります。


変更を伴ってしまい申し訳ありません。

今後ともご声援よろしくお願い致します。

PK勘違い事件から十日。

クエストを幾つかこなして、いつの間にかレベル11になっていた。

相変わらず一人でプレイしている。

たまにハボック達を見かけるが罪悪感で胸がズキズキと痛むので会えば軽く会釈する程度の交流しかしていない……。


まあそれはさておき。取得したスキルもかなり増えたが、反面問題にも直面している。


まずは敵がこちらの一撃を耐えるぐらいにHPが高くなってきた事。

マナ・ボルトはステータスの知能を上げ続けているので威力は向上しても、同レベル以上のモンスターには火力不足で1発だけでは仕留められなくなり、新規に取得したスキルも強力ではあるがMPの消費量が多く、再詠唱リキャストにかかる時間が長いため連発出来ず、一撃を貰う事が多くなってきた。


そのせいでもう一つの問題が表面化しつつある。

それはポーションの回復量の問題だ。いくらマジシャンがひ弱と言ってもレベルが上がれば多少なりとも向上する。

最大HPが増え、被弾しても一、二撃程度なら堪えられるが回復しなければいけない値も大きくなっていく為に最下級ポーションでは追いつかなくなっているのだ。

現在は下級ポーションを使うようにしているが、これも直に回復量が足りなくなるだろう。


それにメールディアではマナポーションも手に入らない。

先程言ったようにスキルが強力になればなるほどMPの消費量は増える。

MPは自然回復できるとは言え、MPの回復量は微々たるものでスキルを使用し続けたら、供給分を上回るほどだ。

更にマジシャンのMPはHPよりも最大値は高いのでこれを完全回復するとなると長い時間を要する。

回復している間に襲われたら、もう杖で殴りつけるしかないのだ。


自然回復やマナポーション以外の回復手段は無いのか――実の所二つほど手段がある。


一つはMP吸収スキル「マナ・スティール」だ。

その名の通り敵のMPを奪い、自分のMPとして吸収するスキルである。

ただこれはとある理由で取得できないのだ。


これを説明するにはスキルの取得条件に触れなければならない。

まずスキルを取得するには「スキルポイント」が必要になる。

これはレベルが上がる毎に1ずつ上がり、これを消費する事でスキルを取得または強化できるのだ。

因みに強化とは取得済みのスキルの威力や射程、効果範囲、詠唱や再詠唱の時間の短縮などのスキルの効果が上がるのだ。

ただし消費するMPも多くなるが。

例えば俺はマナ・ボルトを強化してLV3にしている。

……最近はもっと強力なスキルに割り振れば良かったんじゃないかとちょっと後悔気味だ。

いや強化したおかげで今まで使えたんだろうけど。


話を戻そう。

スキルを取得するにはスキルポイントが必要になるがそれとは別に条件が存在する。


それが二つ目の条件、スキルの取得経路の問題だ。

スキルを取得する際に表示するスキルウインドウを見ると一目瞭然なのだが、スキルはマナ・ボルトのような初期スキルを最上段としたツリー構造になっている。

下段のスキルになればなるほど強力・利便性の高いスキルになるのだが、その一つ上段に存在するスキルを取得しない限り、下段のスキルを取得できない仕組みになっている。

つまり上段のAとB、下段にCのスキルがある場合、AとBの両方を取得しなければCは取得できないのだ。

その仕組みに加えスキルポイントに限りがある為、全てのスキルを取得できないし、欲しいスキル――俺の場合は高範囲高火力スキルを取得しようとすると必然的に一定の取得経路が出来てしまう。

「マナ・スティール」はその経路から外れた位置にあるスキルに当たり、これを取得しようとすると多くのスキルポイントが必要になり、欲しいスキルを諦めなくてはならない。


その為スキルによるMP回復は無理だ。


もう一つの方法はエンチャントである。

エンチャントとは武器や防具の生産時に特定の素材を加えて特殊な効果を付与する事だ。

例えば攻撃速度の上昇や属性攻撃への耐性上昇などがあげられる。

そうした能力の中には敵にダメージを与えた場合にそのダメージ量の数パーセント分HPやMPに回復させるものがあるのだ。

元々高火力が売りのマジシャンにしてみればとても相性のいい方法だ。

だがその素材はよほどのレアアイテムらしく殆ど流通していない問題がある。


そうした問題点があるため、現状はマナポーションぐらいしか回復手段がないのである。

しかしメールディアにはマナポーションは存在しない。


だから拠点の変更が必要だろう。

次の目的地は考えてある。


カスタル王国の首都である王都マウクト。

メールディアよりも店の数が多いらしいし、装備の強化にもうってつけだ。


早速旅の準備をしよう。

メールディアには移動に一週間近く費やしたけど今度はもっと近いといいな。










「おお……ついに完成したか!」


初老の男が歓喜の声を上げた。

辺りは漏斗や乳鉢、黒色の液体を詰めた瓶が散乱しており、薬品の臭いが立ち込めている。


カスタル王国の王立魔法研究所に所属するこの男――イズラエルはそのような瑣事は気にもとめず薬品入りの瓶をまるで稀少な宝石を得たかのように大事そうに手に取り眺めている。


事の起こりはある一通の手紙からだった。

それはメールディアに住むかつての教え子からの手紙。

滅多に手紙のやり取りを行う事は無かったが一体何が起きたのかと不安に駆られたが内容は予想していたものではなかった。


新種の薬――「霊薬」。

既存のポーションとマナポーションの両方の効果を持ち合わせる神秘の秘薬なのだという。

製法までは記載されていなかったが、材料となる物やメールディア周辺での採取場所を事細かに記載していたのである。

どうやら道具屋を営んでいる彼の息子がとある冒険者から聞いた話であり、その薬品は実在するのかという問い合わせだった。

更には失伝したはずの最上級ポーションと最上級マナポーションの素材、採取場所まで書き添えてある。


霊薬は当然聞き覚えがない。

伝承でエリクサー、エリクシールというような伝説の妙薬があるのは聞いた事があるが、あくまでも架空の薬とされたものだ。

彼が現在行っている研究はそのような薬品を作り出す事だった。

流石にそこまでの妙薬を作り出せるとは考えてはおらず、少しでも効能がある薬が作られればと考えていた程度に過ぎなかったが。


まさか有り得ないと否定するのは簡単ではあったが、教え子が嘘をつく事は考えにくいし、自身の経験からその素材同士を組み合わせ調合を試した記憶は無い。

彼が研究してきたことはあくまでポーションの素材をベースに薬効を高める発想だったので、ポーションの素材と全く異なる素材のみの調合には目が余りいっていなかったのである。


ならば試してみるか――。幸い素材はメールディア周辺でしか取れない物ではない。

この王都周辺でも採れるものだし、すぐに取り寄せる事も可能だろう。

これが嘘ならばすぐにわかるはずだ。

自分の研究を忘れ気晴らし程度のつもりで始め、殆ど期待などしていなかった。

研究の労苦を知る分、簡単に新薬ができる訳がないと考えていたのである。




――できてしまった。


取っ掛かりとして最下級霊薬の調合に挑み、一通りポーションやマナポーションの製法で試し中級ポーションと同様の製法であっさりとできてしまったのである。

あまりの衝撃にその後の記憶は無く、翌日目が覚めた時に夢だったのかと愕然とし、だが完成品が傍に置いてあった為に現実と認識してからは年甲斐も無くはしゃいでしまった。


そこからは毎日研究室に篭りきりだ。

中級以上はどうやら通常のポーションの製法では作れないため、彼は成分の抽出や配合比率を徹底的に試し、ようやく今日中級霊薬完成にこぎつけたのである。

この喜びで思わず声を上げてしまったのも仕方がないと言わざるを得ない。

彼の研究は行き詰まって最終地点がどこなのか、そこへ至る道すら見失っていたのに、霊薬という存在で新たな道を見つけたのだから。


しかし完成し終えて幾分か冷静になると霊薬という大発見についてどう扱えばいいのかという悩みが頭を過ぎったのである。

恐らく教え子もこの問題に直面したからこそ、魔法研究所の研究員である自分に相談したのだろう。

研究所の所長のような強欲な者にこれが知られれば忽ち所長自身の功績としてしまう可能性が高い。

自分の功績にしてしまうのも元をただせば素材を教えた冒険者のおかげなので憚られる。


そもそもその冒険者は何故霊薬の素材だけを知っていたのか。

クエストで素材の採取を頼まれたことがある――それはない。

採取を頼んだであろう依頼人が霊薬や最上級ポーションの存在を秘する必要性がない。

仮に秘密にするのなら一介の冒険者にわざわざ霊薬の存在を教えることはないだろう。


過去の遺跡か遺物を解読して霊薬の存在を知った――これも可能性が低い。

それならば冒険者自身がその情報が正しいかどうか疑問に思うはずだ。

それが正しいか調べるにしても街の道具屋の少年に確認するだろうか。

しかも採取場所まで教えて。

だとすると冒険者は霊薬ができることを知っていた事になる。


そう街の道具屋の少年に教える程度の知識としかその冒険者は考えていない。

つまり自分の生涯かけてきた研究に匹敵するほどの功績になる新薬が取るに足りない知識だと考えている。

それは価値を知らない余程の馬鹿かあるいは――想像を絶する程の知識を有した賢人なのではないか。


調合技術の進んだ国の出身者である事も考えたが、それだけ進んだ技術があるのならば他の者の噂になっていてもおかしくないはずなのにそんな噂は聞いたことがない。

ならば個人でその知識を得たという事になる。


そんな賢人が何故霊薬の素材と採取場所のみ教えたのか。

賢人ならば製法も知っていておかしくない。

それに何故冒険者などやっているのか疑問が次々と沸いてくる。


ええい情報が足りない――まずは教え子に冒険者の子細を教える事、あわよくばその冒険者を自分に引き合わせるように――いや自分から伺うべきか。

賢人に会うのに礼を逸してはならない。

自分から会いに行くべきだ。


というより会いたい。これだけの知識に価値を感じない賢人は一体どれ程の知識を有しているというのか。

知りたい。その知識の深淵に触れたい。


そして彼の功績を知らしめねばならない。

霊薬は技術的にも軍事的に見ても多大な功績だ。

魔物の脅威が増し、オークが北方の領土を脅かす今、軍を派遣する事を検討している。

そこに霊薬があればどうか。

ポーション、マナポーションと分けて持ち運ぶ必要が無くなり兵站の常識を一変してしまうだろう。


所長に話しても駄目だ――ならばその上――国の最高指導者である国王陛下。

陛下ならば賢人の価値を理解し強欲で利権に目敏い宮廷雀どもを黙らせ、かの賢人を研究所へ招聘なさるだろう。

今は一人でも優秀な人材が必要なのだ。


無名の賢人、ケイオス――。

彼は一体どのような人物なのか。

イズラエルはまだ見ぬ賢人に思いを馳せた。

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