第七話 初パーティー3(修正版)
12/06/01
展開の一部を修正しました。
感想で指摘を受け自分でも納得するような内容でしたので修正しました。
内容改変で申し訳ありません。
今後ともご声援よろしくお願い致します
コボルト――ファンタジーRPGでは、人間の子供並の小柄な身長で狗頭の亜人であり、大抵の場合は雑魚モンスターとして扱われるやつだ。
因みに元はドイツの伝承にあるいたずら好きの妖精らしい。
ちょっとした豆知識な。役に立たないかもしれないけど。
Another Worldでも他のファンタジーRPGと同様に狗頭の人型モンスターである。
涎のような物を垂らす狂犬を連想させるような醜悪なものだ。
……かわいいワンコだったら手が出せなかったかもしれない。
今そいつを後を追い掛けている最中だ。
たまたま見つけたコボルトを倒そうとした時に、
「恐らく斥候だと思います。せっかくだから後を追い掛けて群れを探しましょう」
とのエミリアの発言に従い、追跡中なのだ。
この世界のモンスターの行動範囲は広くかれこれ20分は追跡している。
幸い草原から道なりに森林に入り山に向かう途中でコボルトを見つけた為、隠れる場所は山ほどあるから追跡は容易だったが。
木陰や岩の陰に姿を隠しながらついた先は朽ちた小屋と洞窟だった。
「昔の坑道みたいですね。廃坑になって人がいないから、コボルトが住み着いたのかもしれません」
「じゃあ中に入るしかないっすね」
エミリアがカンテラを片手に持ちつつ、リーアムが先頭に立つ。
坑道の中は意外と広く今のところ脇道は無い。
時折ぽたりぽたりと水が落ちる音やコボルトであろう鳴き声が聞こえ、足元を見ればコボルトが食い散らかしたものなのか動物の骨が散乱していた。
腐敗臭がして不快になる。ここまでリアルに再現しなくてもいいのにな。
しばらく歩くと空洞に出た。
カンテラの明かりに照らされて見えるは10匹のコボルトだ。
どうやらこちらの明かりで気付いていたらしく、既に戦闘体勢である。
こちらも臨戦体勢だったからそのまま戦端が開いた。
結論から言うと……先刻遭遇したジャイアントモールのほうが強かったかもしれない。
数は多かったがコボルトのレベルを見ると5~8。
その上こん棒のようなもので殴りかかってくるだけの単純攻撃しかしてこない。
数はあの10匹だけでなく奥にも倍はいたが、リーアムに斬り捨てられ、コーネリアに貫かれ、エミリアに殴られ骸と化す(勿論俺も戦いはしたけど)
ちなみにみんなそれぞれレベルがひとつ上がっていた。
最初の集団の時に上がったので、その影響か次の集団の時は倍にも関わらず余裕を持って倒している。
たった一つでもレベルアップの恩恵は大きいようだ。
それにしても、これなら俺は必要無かったんじゃないか……?
なんでわざわざ俺を誘ったんだろう。
てっきりハボックがレベル制限でパーティーにいれられず戦力が落ちるからだと思ったんだけど。
もしかしてあれは口実だったのか?
だとすれば何故だ……。
……ま、まさかPKか!?
PK――Player Killer、つまりモンスターでは無くプレイヤーを狩るプレイヤーの事だ。
プレイヤーを狩り持ち物を奪う事ができるのでゲームによっては忌避される行為だが、このゲームでも設定すればPKは可能である。
アサシンなんて対人戦に強い妨害スキルやPKすればするほど威力が強くなるスキルを持つモロPK推奨職もあるくらいだ。
相応のデメリットがあるがPK行為は容認されている。
そしてそのPK行為を楽しむ輩も決してゼロではない。
つまり話としてはこうだ。
確実に倒せる初心者とおぼしき人物をパーティーに誘う。
クエストを進行させているように見せかけて人気の無い場所へ誘導する。
クエストを完了させたと思わせて油断した所で牙を剥く。
この場所は街から程遠く、全くといっていいほど人気はない。
襲われたとしても誰も助けには来てくれないだろう。
ま、まずい。彼等は俺より強い上に三人がかりでは勝ち目がない。
「どうしたんすか、そんなに怖い顔をして」
乏しい光源の中振り返るリーアムの顔は今までの好青年の雰囲気が無く、何処かおどろおどろしいものを感じる。
コボルトの血が滴る剣が自分に振り下ろされるのを幻視した。
ひっと声を漏らしそうになるのを必死に押し止める。
「なによ、どうしたの?」
不審そうな顔でコーネリアが問う。
むしろ俺があなたたちはPKなんですかと問いたい。
返事は矢が返ってきそうだから言わないけど。
機嫌が悪そうだったからあんまり見てなかったけどサラサラの長い金髪に左の三つ編みっぽいの似合ってますね。
だけど今はその美しさすら恐怖に変わる。
くそう、美人なのに残念エルフめ。
「どうしたんですか?なにか問題でも」
エミリア、さっきのジャイアントモールで感じた恐怖は俺に向けられるのでしょうか。
だとしたら大問題です、俺的に。
ど、どうすればいい。まだPK疑惑でしかない。
もし間違ってたら大恥だしこれから気まずくなる。
となれば相手がしかけてこない限りこちらは手の出しようが無いのだ。
いっその事逃げるか?
いや三人もいるし、アーチャーという強力な遠距離攻撃を持つ相手から何の策もなく逃げるのは無理だ。
ログアウトするにもログアウトは10秒ほど無防備状態になり、その間に攻撃されるとログアウトはキャンセルされてしまう。
スパイダーネットをかけて逃走するのも無理だ。
スパイダーネットは移動速度の減少だから攻撃速度の減少にはならず、アーチャーの矢に対しては効果がない。
彼等からは逃げられない。もし予想が現実になったら勝てないまでも一矢ぐらいは報いたい。
いつでも襲われてもいいように、しっかりと戦う準備をしておく。
もし相手が攻撃してきたら、いつでも対応できるよう杖を握りしめ、レベルが上がり新規に取得したスキルをいつでも使えるようにジッと様子を伺った。
するとどうだろう。その雰囲気を感じたのか場の空気が変わる。
緊張に思わず喉を鳴らした。
そしてほの暗い闇からすっと人型の何かが現れる。
まさか彼等の仲間か!
目をこらし一体それが何なのか見極める。
それはリーアムの背後に立ちギラリと鈍く光る物を振り上げた。
……違う、これは仲間ではない!
「ファイア・アロー!」
リーアムに向けて炎の矢が飛ぶ。
「ケイオス!あんた何を!」
コーネリアが叫ぶ。
カンテラよりも明るい炎の矢はリーアムの横を通り過ぎた。そしてそのまま彼の背後の何かに着弾した。
「わっと!なにするっ……えっ!」
リーアムが批難するが背後の異変に気付いたらしい。
ファイア・アローは炎属性の攻撃魔法で着弾した地点から小範囲に燃え広がる魔法である。
炎に包まれた何かは、更に何かに燃え移った。それにより辺りが照らされて状況がはっきりと視認できるようになる。
そこには骨の姿をした人型のモンスターがいたのだ!
「スケルトン――!まだ他にも敵がいたっすか!」
「成る程、さっきのコボルトはいくらなんでも弱すぎでした。恐らく元々居着いていたスケルトンを倒している最中で消耗していたんでしょう」
「じゃあ、あんたがさっき殺気を出して警戒してたのも私達を攻撃するのが目的じゃなくて」
「こいつの気配に気付いたって事っすか。流石っすね」
……いやそれは深読みのし過ぎなんだが。
むしろPKされるかもしれないとビクビクしていたら背後にモンスターが見えただけなんだけどな。
だがそれを伝えるわけにもいかない。
………………。
「……まぐれだ」
謙遜も過ぎると厭味っすよとリーアムが言うけど、ほんとまぐれだから!
だからその尊敬の眼差しはやめて!
視線がもの凄く痛いから!
恥ずかしい!
PKされるんじゃないかと疑心暗鬼になって警戒してただけ――なんて言えない!
今多分顔が真っ赤だろうけど、気付かれてないよな。
結果から見れば良かったけどスケルトンいなきゃ、どうなっていたことか。
そこにいてくれてありがとうスケルトン。
君のお陰でなんか救われたよ。
よく考えれば彼等が俺に対してPKするメリットがない。
俺が持ってるお金はすぐに稼げる程度のものだし、珍しいアイテムもない。
パーティーなんて組んでPKをやったらすぐに足がつくし、そもそも人気のある場所で誘うわけがないか。
こんな面倒をしなくてもPKしたいなら狩り場で待ち伏せすればよっぽど効率がいいだろうし。
ああなんて酷い勘違いをしたんだろう。
これ以上の勘違いは無いだろうな。
……俺って最低だな。彼等は純粋に俺を誘っただけなのに、こんないい人達を勝手に疑うなんて合わす顔がない。
だからこのクエストが終わったら暫く彼等とは距離を置こう。
クエストを完了し、メールディアに戻った後アイテムと報酬の分配をして、その日はすぐにログアウトした。
メールディアの冒険者ギルドの扉が開く。
入ってきたのはハボックだった。
他のパーティーメンバーであるエミリア、リーアム、コーネリアはすでにギルドに戻っておりテーブルで寛いでいた。
「で、ケイオスはどうだった」
カルロが彼等に聞く。
カルロは彼等にある依頼をしていた。
不審な新人ケイオスの監視及び調査である。
「お前達と別れた奴の後を追ったが、気付かれたのか巻かれたようで見失った。宿も調べたが泊まっている形跡もない。街の門番も見かけていないようだ。一体何処へいったんやら……」
気配を消しそれなりに尾行にも慣れている筈のハボックがため息をつく。
彼はずっとパーティーの外からケイオスを監視していたのだった。
「それは無理もないかもしれません。さっきもコボルトを倒して油断していた私達より先にスケルトンの気配を察知し、警戒されていましたから。そうした察知能力が非常に高いのかもしれません」
エミリアがフォローを入れる。
「ああ、あれはヤバかったっすね。ケイオスが気がつかなきゃこっちがやられてたかもしれなかったっす」
「あえて殺気を出すことで私達に警戒しろって促したのよね。まったく一言くらい言ってくれてもいいのに」
コーネリアがぼやく。だが微かに笑っている事からケイオスを責める為に言ったわけでは無い。
「言葉よりも先に行動して欲しかったんだろう。一時的にでも自分が疑われても構わないと思ったんだろ」
「普通味方に殺気なんて出してたら錯乱して味方殺しをする気じゃないか疑われるのが普通っすからね。炎の矢が迫った時は本気でやられるかと思ったっす」
「まったく不器用なんだから……」
「ですが戦い方は器用ですね。魔法の精度が高く、自分の魔法が通用しないと悟るや否やネル(コーネリアの愛称)を活かした戦い方に切り替えましたし。スケルトンの時に炎の魔法を選んだのも、アンデッドと予測した上で弱点となる炎を使ったのでしょう」
「予想はついてたが、戦闘の素養は高そうだな。因みに今回の素材の採取も素晴らしかったが、実際見てどうだった?」
カルロの言葉に一同が困惑する。
「なんていうか……手品見たいに魔物の姿を消したっすよ」
「次に取り出たら、綺麗に採取された素材だけだったわね……。一体死体はどこに消えたのかしら」
「転移……いや空間への収納魔法だと思うんですが、採取までするとなるとどういう原理か想像つきませんね」
「なんか夢でも見てるような光景だったよな……ありゃ」
「なんだ肝心の所はわからないのか」
カルロの呆れ声にコーネリアは烈火の如く怒り叫ぶ。
「見ればどんなに理不尽かわかるわよ!どう考えても人が持ち運べない量を次々と謎の空間に消していくのよ!しかも出す時はバラされて出てくるし。しないとは思うけどそれが一体どうなっているのか聞いて、なんなら確かめてみるかなんて言われたらゾッてするわ!」
コクコクと頷く一同。
あれは触れてはいけない何かなのだ。
だからもうあれはああいう魔法なんだと認識したほうが精神衛生上いい。
目撃者は皆そう結論付けたのである。
「ああ、わかった。だから落ち着けって!それで奴の素性はどうなんだ?」
余りの剣幕に話題を変えるカルロ。
「オオサカとかいう異国の学生らしいです。王国に間諜にきた様子では無かったので魔法の修業を目的とした旅人ではないかと」
「この辺りの噂に詳しくないからこの王国に来たのはごく最近だと思うっす。父親はサラリーマンという職業に就いてるらしいっす」
「息子が学生であり魔導師であるから推察するに、王国の宮廷魔導師のような高位の役職だと思うわ」
「ただ貴族にしては装備が平凡なものばかりでしたし、高価な品物は何一つ身につけていませんでした。流石にゼロというのもおかしいような気がします。尤も収納魔法で隠されていれば別ですが」
「もうちょっと詳しく聞きたかったっすけど、ネルが……」
「あれは、その……悪かったわ」
「まあ、いいじゃねぇか。初っ端からケイオスの奴は警戒してたようだからな。こっちの思惑にわざと乗ったんだ。明かしてもいい情報のみ出したんだろうよ」
「こっちの依頼も予想していたって訳か。洞察力も優れているって事になるな」
監視の依頼者も大方察しがついていたのだろう。
だからあえて釘を刺すことは無くこちらの茶番に乗ってくれたのだ。
新人が思い付くような思考ではない。
「戦闘、採取に優れ、仲間を助ける為には自分を厭わない、更に洞察力も優秀。素行の問題も無しか。……謎も増えたが。なんともはや有望な冒険者だな」
「少なくともカルロが疑うようなタイプじゃないな。むしろうちのパーティーに欲しいぐらいだ」
「ん?優秀な冒険者は一人でも抱え込みたいし、お前のところならば問題無いが……欲しいのか」
「……ちょっと待って!あいつを誘うのはいいけど、もう少し実力をつけてからにしたいわ。今のままだとあいつの足を引っ張るだけになってしまうし、そんなのはゴメンよ」
「オレもネルに賛成っす。少なくともケイオスに肩を並べる位の腕前になりたいっす」
そう意気込む新人組。
どうやらケイオスの存在はいいように働いているらしい。
予期せぬ若手への影響にハボックは喜びを隠せなかった。
「そう言えばコボルトを倒す途中から急に剣が軽く感じたような気がして威力が増したっす」
「リーアムも?私も弓の威力が上がったんだけど……。あれはなんだったのかしら」