第五話 初パーティー1
「中級ポーションの素材の採取?だめだ、あんなオークが沢山いるような場所、新人一人が行けるような所じゃねぇよ」
冒険者ギルドの受付の男――カルロに聞いてみた所、先の回答を得た。
……ううんダメか。
クエストを請けるにはいくつか制限がある事がある。
その一つはレベルだ。
一定のレベルを超えていなければそのクエストを請けることができない。
恐らくこのクエストもそれに該当するのだろう。
キラービーとの戦闘でまた一つレベルを上げたとは言えまだレベルは6。
請けることが出来ないクエストは多いだろう。
あるいはパーティープレイ推奨のクエストなのかもしれない。
パーティーか……。
こうしたMMORPGではソロでプレイするよりはプレイヤーが複数人でグループを組んで活動する事が多い。これをパーティーと言う。
パーティーのメリットは味方の援護を得る為、より長い時間より強く沢山のモンスターを相手にできる事だ。
デメリットとしてはモンスターの経験値がパーティー人数分分散されてしまう所にある。
序盤のレベルが低いうちは一人で活動したほうが経験値取得の効率がいいし、取得しているスキルが少なくパーティーとして仲間を支援できることが余りできないので敬遠される事があるが、レベルが上がりより強いモンスターを相手にしなければならない時はパーティーのほうが効率がよかったりする。
延々と一人でプレイするよりは仲間と話ながらプレイするほうが楽しい――そういう会話目的でパーティーを組む人も多いだろう。
まあこれは過去にやったMMORPGでの事なので、このAnother Worldは同じかどうかはわからないが。
しかし、いずれはパーティーに参加する必要があるだろう。
そう考えるとつくづく最初の出会いが惜しまれる。
あの時知り合いになっていれば今頃パーティーを組んで悩まずに済んだかもしれない。
実は前にプレイしたMMORPGでパーティーにはちょっとした思い出がある。
そのゲームはパーティーマッチング機能と言う機能があって、登録すればレベルや職業といった情報を表示し他のプレイヤーにパーティー参加希望を告知する機能だった。
当時はMMORPGを余り知らない初心者の俺もパーティーマッチングに登録してみた。
しかしいくら待てども声がかかることはなかった。
パーティーマッチングの画面上には俺のキャラクターの名前しか残っておらず、あとから登録した他のプレイヤーは早々にパーティーに誘われていくというなんとも惨めな結果で一日を終えた。
それでもくじけなかった俺はパーティーマッチングに登録し続け、ようやく五日目にパーティーに誘われたのだ。
喜び勇んでパーティーに勧誘してくれた人に返事――従来のゲームなので文字で――をした。
だが勧誘した人は回復役を探していたらしく、たまたまパーティーマッチング画面の俺の下に表示されていたプレイヤーと間違えて勧誘したらしい。
ゴメン、別の人と間違えたんだ――その言葉にその日は心が折れそのままログアウトした。
これはあとで知った事だが俺が選択した職は単体火力はそこそこで、妨害スキルが多いもののモンスターにはあまり効果がない対人戦向きかつ狩りには不向きな職で、パーティーには誘われにくいMなプレイヤーご用達の地雷職業だったのだ。
だから今度は自分からパーティーに誘うようにしたのだが、その職業の人とはちょっと……と敬遠され断られる始末で、最後には同職業のやつらと一緒にパーティーを組んだり、パーティーマッチングに登録して名前が残った事を今日も互いに売れ残ったなとネタにし、奇妙な仲間意識を持ちつつプレイしていた事があった。
あれはあれで楽しかったが今回はそんな事がないと思いたい。
マジシャンは高い火力が売りの職業だし、あそこまで酷いことは無いだろう。
今はとにかくレベルを上げて、クエストを請けられるようにするしかない。
パーティーに関してはその時また考えよう。
カルロに新たな別のクエストが無いか聞くか。
だがその前に髭面の男が傍によってきた。
ん?一体なんだ?
「おい、クエストを請けるなら俺達と一緒に請けないか?」
……パ、パードゥン?
今こいつはなんて言った?
「実は今回請けるクエストには人が足りなくてな。適当な奴を募集してるんだが、お前参加してみないか?」
え、今俺パーティーに誘われてるの?
マジか?
「……何故俺なんだ?」
思わず声に出してしまう。
だってギルドにはスキンヘッドや顔に深い傷を負った賊をやったほうが似合うんじゃないかと思うほど屈強そうな男が十数人ほどいる。
プレイヤーかどうかはわからないが、一人もプレイヤーがいない可能性は低いし数合わせならそいつらでもいいだろう。
まあゲームだと外見が必ずしも強さに直結するわけじゃない。
子供のような小柄な少女でもどてかい武器を携えて縦横無尽に大暴れするなんて光景も有り得るが、低レベルの俺を誘うメリットは余りないように思える。
「お前新人だろ?実はこっちにも新人が二人いてな。そいつらを鍛えるためにこのクエストを請けたんだが、新人二人とお目付け役一人じゃ何かときつくてな。できれば同じ新人同士でパーティーを組めないかと思ったんだが」
……成る程。そういう事か。
パーティーを組んでモンスターを倒しても、パーティーのメンバーに経験値が分配されず取得できないパターンがある。
その一つはパーティー内のメンバーのレベル差が10を超えた場合だ。
例えばレベル15のキャラクターとレベル5のキャラクターがパーティーを組んだときは経験値の取得は可能だが、レベル4のキャラクターと組んだ場合はどれだけモンスターを倒しても経験値を取得できない。
これは極端にレベルの高いプレイヤーがレベルの低いキャラクターとパーティーを組んで、いち早く低レベルのキャラクターをレベルアップさせるというパワーレベリングと呼ばれる行為の一つで、それをさせないための処置である。
こうしたパワーレベリングは余り推奨されない行為だ。
それにはいくつか理由がある。
一つは低レベルのプレイヤーが他者に頼り過ぎるようになり、狩りで自分が何をすればいいか学ばず技術の低い下手なプレイヤーになってしまう点だ。
こうしたプレイヤーは味方を犠牲にしやすく、他のプレイヤーから嫌われる傾向がある。
他にも安全にレベルアップできるため長時間の狩場の独占などの問題もあり、いざこざに発展したりネットで晒されたりととかくトラブルになりやすいのだ。
中には強い補助魔法をかけたり、強力な武器を貸すこともパワーレベリングと扱うこともあるが、純粋に初心者を助ける人もいるのでその線引きは難しい。
個人的には過度に援助しすぎないほうが、プレイヤーとしては楽しめると思う。
それはさておき、そうした問題があるからこちらに声をかけてきたのだろう。
……なんて幸運なんだ!
もしかしてこれをきっかけに仲良くなって今後もパーティーに参加しないかなんて勧誘をしてもらったりしちゃうんだろうか!
嬉しさの余り顔がニヤケそうなのを必死に抑える。
まだだ、まだどんなクエストを請けるのか、どんなメンバーなのかちゃんと聞くべきだ。
パーティーの組み合わせやクエストによっては戦力になるどころかお荷物になる可能性もある。
初のパーティーで請けるクエストだ。
なるべくなら成功させたいじゃないか!
それにここで喜んだら友達がいないぼっちプレイヤーだという恥ずかしい印象を与えてしまう。
俺、自重しろ!
「……その前にどんなクエストを請けるのか、あとパーティーメンバーについても確認したい」
喜色が混じらないよう細心の注意を払い返答する。
髭面の男は理解の色を示した。
「よし、じゃあこっちに来てもらえるか。今から仲間を紹介する。ああ名乗るのが遅れたな、俺はハボックってんだ。よろしくな」
ハボックに連れてこられたテーブルには三人の男女がいた。
彼等がパーティーメンバーになるんだろう。
「紹介するぞ、こいつらが今回一緒にクエストを請ける予定のメンバーだ」
一人の男は茶髪青目で腰に長剣を帯び、シャツの上には鉄製であろう胸当てを身につけている。
なかなか体格もよく、こちらを見て笑みを浮かべる好青年だ。
印象は爽やか体育会系といったところだろう。
二人いる女性のうちの一人はやや厚手で青と白の衣装――法衣だろうか――を着た二十歳ぐらいの紫のショートヘアと目をしたおっとり系の女性だ。
最後の一人は耳が長い、――エルフだ。
彼女は長い金髪で赤い目をしており、きつそうな顔をしている。
革の胸当てをつけ矢筒を背負っており、傍に弓が置いてあるからアーチャーだろう。
「ケイオスだ。よろしく頼む」
「リーアムっす、宜しく頼むっす」
「エミリアです」
「……コーネリアよ」
俺の挨拶の後、体育会系、おっとり系姉さん、エルフっ娘がそれぞれ自己紹介する。
外見から判断すればウォーリアー、ヒーラー、アーチャーだろう。
パーティーではモンスターの囮となり盾役のウォーリアー、回復や補助役のヒーラー、遠くのモンスターを引き寄せたり、火力の補助になるアーチャー。
パーティーのバランスは悪くない。
ここに火力である俺が加われば、戦力としてはまずまずではないだろうか。
パーティーは最大で六人入れるが、四人でも別に問題はない。
「挨拶も終わったところでクエストの話をするぞ。旅人からの証言で南西にコボルトの群れを見かけたそうだ。そいつらの討伐が今回の目的になる。報酬は参加メンバーで分配。それでいいか?」
妥当な所だろう。了承したと頷く。
「じゃあ準備が出来次第行ってくれ。遠くは無いし日帰りで着くだろう。パーティーリーダーはエミリアだ。彼女の指示に従ってくれ」
「宜しくお願いします、ケイオスさん」
優雅に一礼をするエミリアさん。
するとウインドウがポップアップする。
『エミリアさんからパーティー参加の要請がありました。参加しますか? 』
……勿論OKだ!
パーティー参加を念じ、俺はパーティーに加入した。