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第三十六話 悪意

「ファイア・アロー」


 炎の矢が大地を焦がす。断末魔と共にどうと倒れた吸血鬼。どうやらこの街のモンスターはこれが最後らしい。四方から響いていた戦いの騒音がいつの間にか止んでいる。


 シャラントから離れてクレルモンに向かう道中、こうした吸血鬼が支配している街を解放するのもすでに二度目だ。格上のモンスターばかりなので一人では太刀打ちできないのだが、屈強そうな戦士たちとパーティーを組み、彼らによって俺は守られている。その牙は決して俺に届かない。

 同じあつらえの鎧に身を包んだ彼ら(ちょっとうらやましい。ギルドで揃えているんだろうか)はラウルさんのギルドのメンバーで、積極的に話すことは無い。一言二言かわす程度の関係だ。ちょっとは仲良くなりたいんだけど、筋金入りのぼっちプレイヤーに無口なプレイヤーとの小粋な会話をするなど無理に近かった。

 彼らとはほぼ四六時中一緒に行動しているんだけど、ラウルさんのギルドメンバーって全員ログイン率が高いんだよね。俺も夏休みに入って結構な時間費やしているけど、それ以上にずっとログインしているような。それこそ二十四時間ログインしているんじゃないかと思うぐらいだ。ほんといつ休んでいるんだろう。トップクラスのギルドになると、やはりモチベーションが高いらしい。


 どうして俺がこんなことをしているか、今更クレルモンへ向かっているのか。実はラウルさんたちのギルドがクレルモンを攻めるそうなので、ラウルさんに誘われて彼らのギルドに同行しているからだ。

 ただ、以前の最短距離のルートでは無くやや北東寄りの迂回したルートを通っている。もしかするとまだあの橋が直ってないのかもしれない。あれっていつ直るんだろう。や、やり過ぎてしまったかな?


 その道中にも吸血鬼が支配する街があったので今日はその街の解放を行ったのである。複数の街を所有するだけの戦力と余裕があるなんてさすがは大手のギルドだ。確かに一つのギルドが複数の街を所有してはいけないとイベントには記載されていない。実際もう一つ他の街の解放を済ませていた。このイベント期間中はギルド同士の陣取り合戦になるだろう。

 ただ同行して便乗するのも気が引けるのとレベル上げも兼ねて俺も戦闘に参加している。俺が戦闘に参加することを伝えると、ラウルさんがギルドメンバーとパーティーを組むように勧めてくれたのだ。低レベルの俺に護衛だなんて。ラウルさん、護衛のみなさんありがとう。

 そのパーティーのおかげで結構モンスターは倒せた。「祝福の書」も使っているし、敵のレベルも高かったせいかレベルはそこそこ上がっている。あまり迷惑もかけたくなかったから、空いた時間にソロでレベル上げしているのも功を奏したのかもしれない。まだ転職するまでには十分ではないけどね。


 しかし人が多い。事を終えた兵士たちが街の中を巡回している。他にもモンスターがいないか警戒しているのだろう。

 ラウルさんのギルドが移動するともはや行軍と言って差し支えないぐらいの規模だ。プレイヤーだけにしては多すぎることから、NPCも混じっているのだろう。領地を所有するとそこに住むNPCを雇って行動も指定できるのだろうか。まだイベントの難易度が高く領地を所有したギルドも少ないせいか、領土取得後の情報はwikiにも出回っていないので実際のところはわからない。本当にNPCまで操作できるものなのだろうか。

 もっとも二次職であるサモナーの召喚獣も言ってしまえばNPCである。傭兵のNPCを雇うなんて他のゲームでも存在する。まあ既存のゲームでこの規模のNPCに命令できるゲームは存在しないと断言できるが。この『Another World』の多様なNPCなら十分にあり得る話なので不可能だと断言はできない。ううん、謎だ。


 まあ考えても仕方ないか。俺が領土を得てNPCを操作するわけではないのだから。wikiの情報が出そろったら調べてみよう。


「おーい、ケイオス」


 一通り見回り一段落すると多数の護衛を引き連れてローザ、もといロズリーヌが近付いてくる。シャラントにいた時のドレス姿ではなく、以前に着ていた身動きのしやすい軽装に近い。うん、こっちのほうが見慣れているせいか、落ち着く。ドレス姿は緊張して心臓に悪いんだ。


「姫殿下、はしたないですぞ」


 ラウルさんも一緒だ。そういや、ロズリーヌと話すときはいつもラウルさんが一緒にいるな。ロズリーヌはラウルさんの言葉に不満げのようだ。


「わかっています、叔父上。ですが、ほんの少しの息抜きぐらいよいではありませんか」

「しかしのう。まったく、このことに関してはいつも意固地になられて譲られませんな。少しの間だけですぞ」


 なんだかんだいってラウルさんはロズリーヌの意向を尊重する。というよりロズリーヌに甘々である。やっぱり姪っ子は目に入れても痛くないのだろう。


「こういう時は窮屈で仕方ない。そう思わないか?」


 ロズリーヌに話を振られ、俺も頷く。大勢の人に囲まれて彼女と気軽に話すっていうのはちょっときつい。保護者付きなら特に。

 その言葉にロズリーヌは気を良くしたらしく、対照的にラウルさんの表情は渋くなる。


 ラウルさんって、ひょっとすると――俗にいう親バカなのではないだろうか。

 そう考えるといろいろ符合するのだ。年頃の少女であるロズリーヌと仲の良い俺を近づけまいとロズリーヌの傍を離れようとしないのではないか。

 伯父という立場である以上、心配なのは仕方ないのかもしれないが少し過保護すぎる。友達と遊んでいる傍に保護者が常にいる状態だ。はっきり言って居心地が悪い。どちらか一方とだけならそういう気兼ねをしなくてもいいんだけどな。


「こりゃ、ケイオス。お主が同調してはいかんぞ。これでは姫殿下を抑えきれぬではないか」


 と俺に言われても困る。ここで俺が言ったら絶対不機嫌になるぞ、彼女は。しかしこの時だけはどうも味方がいない。誰も火の粉を浴びたくはないのか、ロズリーヌの行いを正すようにと促す視線に貫かれる。そりゃあ、卑怯ってもんじゃありませんかね。

 それに俺はそんなに彼女の態度が悪いとは思わない。


「かなり荒らされているな、ここは」


 ロズリーヌは周囲を眺め寂しげにつぶやいた。吸血鬼の支配した街は場所によって被害が違うらしい。クレルモンは無人のようなものでこそあったが、建物まで荒らされておらず人さえ戻ればすぐに日常に戻れそうだった。だがこの街にはNPCはおろか家屋が無残にも崩壊しているものもあり、崩壊していなくても建て直しが必要な家屋も散見された。

 これはさっきの戦闘の影響によるものではない。おそらく吸血鬼によって街が荒らされたのだ。街によっては解放に時間がかかり過ぎるとこのように街中を荒らされてしまうのだろうか。せっかく解放したとしても街の建物やNPCはすぐに戻らないようである。サーバーメンテナンス中に復元するつもりなのだろうか。……そんなこと公式には一言も書いていないのに。割と重要だと思うけどな。

 もしかして領地持ちは都市開発シミュレーションゲームのように街の復旧も行わなくてはならないのだろうか。それはそれで面白そうだけど。


「早くクレルモンを吸血鬼から解放できるといいな」

「……そのためにこれだけの兵が集まったんだ。絶対に解放して見せる。ケイオス、お前も力を貸してくれるか」

「ああ、もちろんだ」


 クレルモンはゲーム開始時のスタート地点であり、プレイヤーの活動拠点になる重要な場所だ。このイベント以来、コミューンで活動しているプレイヤーは少ないらしい。そんな数少ないプレイヤーは難を逃れてクレルモン周辺の街に避難している。しかし、一度解放され既にギルドが所有している領地ならばともかく、まだ解放されていない街はイベント対象のままだ。その街もいつ何時クレルモンの二の舞になるかはわからないのである。

 だから早くクレルモンを解放したい。初心者だけじゃなく、他のプレイヤーだって不便を強いられているのだから。それにこのギルドにもお世話になっているから、力になれるならなるべく力になりたい。よし頑張るぞ!


 ***


 ケイオスにつけた監視役の報告から見て取れるケイオスは不審な点が多かった。


 表面上彼は問題行動を起こしていない。あまり人当りの良くない人間なのか積極的に人間関係を築こうとはしないが、軍の行動を乱すことはせず従順である。初めケイオスから軍に同行することを聞いたときはその機に乗じて何か仕掛けてくるのではとラウルは勘繰っていたが、少なくとも戦闘に関して彼は非常に協力的であった。

 報告の中で気になったのは彼が魔導師として加速度的に成長していることだ。常人とはかけ離れた才能を持つ人間もいるがそれとは一線を画している、いや何かが違うようにラウルには感じられた。


 短期間で成長し強くなることはまれにある。特に魔導師の場合、新しい魔法を覚えると差は顕著に表れる。しかし彼の場合はそれだけではない。最初は未熟な魔導師程度の威力しかない魔法だったのが、たった数日で平均の魔導師を上回るほどの威力に増しているのだ。剣を振るう者で例えるなら戦闘中に突然筋力が上がったようなものである。支援魔法を使うならともかく普通では有り得ないことだ。

 最初から実力を隠していた可能性もあるが、それならば何故今になって実力を晒しているのかがわからない。擬態なのかどうかラウルにさえ彼の意図をまったく理解できなかった。


 さらに彼の不審な行動と言えば、定期的に彼が姿を消すことだ。具体的に言えば食事中や就寝などの時にどこかへ姿を消すのである。外部の誰かと連絡を取っているのかもしれないが、それをひた隠しにするのではなく兵の前でも平然と転移魔法で転移するのだ。転移魔法を使える魔導師が少ないためあまり一般的には知られていないが、本来転移魔法はポータルと呼ばれる場所への移動しかできない。彼の転移魔法は新種の転移魔法だ。

 その間彼がどこに行っているのかと問うと、本人曰く食事や睡眠をとりに帰っているそうである。戦場なのにまるで店に出勤する雇われ店員のような行動でしかない。嘘をつくならもっとましな理由があるのではないか。


 このようにケイオスは不可思議な行動を繰り返し、ラウルを惑わせていた。ケイオスが敵方の間者という線は薄い。しかしこの浮世離れしすぎた行動はラウルに一抹の不安を抱かせる。


(これ以上時間もかけておられんしのう。直接会い、奴の腹の内を確かめてみるか)


 クレルモン到着まで時間は無い。ラウルの懸念はケイオス以外にもあった。

 ヌムル公爵、マイエヌ公爵と連絡が取れない。竜を飛ばして使者を送ったのでもうこちらに戻ってきていてもおかしくない。

 単に時間がかかっているのであれば問題ないが、この街と同じようにすでに敵の手に墜ちていて連絡が途絶えた可能性もある。もし両公爵の戦力がそのまま敵側についてしまえば、ラウルが保有する戦力では太刀打ちできない。そうなってしまってはコミューン全土を覆う内戦へと発展してしまう。かといって、兵を引き上げるわけにもいかない。この街のように徐々に吸血鬼は支配地を拡げているのだ。

 巧遅より拙速。いかに手早くクレルモンを奪還し、コミューンの民を味方につけるかにかかっている。


 ***


「お主に聞きたいことがあってのう」


 ロズリーヌと話した後、ラウルさんに呼び出された。あとで二人きりで話がしたいと。真剣な目をしているし、重苦しい雰囲気が漂っている。よほど大事な話なのだろう。ロズリーヌに過保護なラウルさんが二人きりで大事な話……。ま、まさか彼女との関係を聞くつもりではないだろうか。


 やばい。心の底からびびっている。これは絶対ロズリーヌとのことに違いない。いわゆる「うちの娘とどういう関係なんですか」的な奴だよ。それの姪っ子版だよ。

 彼女との間にやましいことは一切ない。断じてない。仲は良いかなとか、これってもしかして友達って呼べるんじゃないかとか、そういうことなら考えているけれど男女の関係では決してない。


「いや難しい話ではない。お主がどうしてクレルモンへ同行したのかと思ってのう。こちらから誘ったのもあったが、お主自身何か理由があったのではないか?」


 想定していた質問と違い拍子が抜けてしまう。そう言えば言ってなかったか。ロズリーヌさんと離れたくなかったからです、なんて答えたら有罪確定の裁判が開かれそうだ。茶化せる雰囲気は一切ない。実際のところはそういった理由ではないが。


「もしクレルモンが解放されたら、仲間と再会できるかなと思ったんだ」

「仲間?」

「ちょっと前まで一緒に冒険していた仲間がいてさ。クレルモンに一緒に行かないかって誘っていたんだ。だけどちょっとした事故ではぐれてしまって、それきりだ」

「……そうか」


 タイミングが悪かった。オープンβテストでサーバーが落ちた影響で会えず、正式サービスでもイベントが重なったせいで探す暇も無かった。

 でも諦めるには早いと思うんだ。確かにきちんと約束した訳じゃない。この広い世界で再会するのは難しいかもしれない。もっと探すのにいい方法だってあるかもしれない。

 だけどもう一度彼女たちと――アレクシア様とイレーヌさんに会いたいって、その気持ちは確かだから。


「でもクレルモンがあんな事になっていたら、いつ再会できるかなんてわからない。俺だけじゃない。あれだけの広い街だと活動する人だって多いはずだ。俺と同じ思いをした人だっているかもしれない。だからずっとあのままにしていちゃいけないんだ」


 ラウルさんたちのギルドならきっとクレルモンを解放できると考えている。彼らにはお世話になったし、少しでも借りを返しておきたい。だから同行し協力しているんだ。でも、あまりにも微力すぎて借りが増えているような状態だけどね。


 ラウルさんは俺をじっと眺めていた。


「お主は優しいの。しかも仲間思いじゃ」

「仲間思いとは少し違うかもしれない。結局は自分が寂しいだけだと思う。ずっと一人でいた時間が長くてせっかく仲間ができたのに一緒にいられなくなったから寂しかっただけなんだよ。そんな時にロズリーヌと会えたのは俺にとって僥倖だった」

「姫殿下を、ロズリーヌ様も仲間だと思っておるのか」

「もちろん。正確に言えば仲間に、友達になりたいって思っている。シャラントまで一緒に旅をした仲だからな」

「ふむ、そうか。儂の取り越し苦労じゃったようじゃの」


 あ、やっぱりロズリーヌとの関係を疑っていたのね。ラウルさんが考えるような男女の関係ではないのだ。


「ケイオス。伯父としてロズリーヌ様を友人と思ってくれるのは嬉しく思う。じゃが、あまり大っぴらに友人であることを口外してほしくないのじゃ。これはお主の事を思っての忠告でもある」


 その言葉は納得できない。だが反論を口にする前に、ラウルさんの言葉に引っかかった。彼の立場だから忠告しているのかもしれない。彼はギルドメンバーから丁重な扱いを受けている。それは忠誠に近く、イレーヌさんがアレクシア様へ向ける献身に似ている。彼がギルド内で重要な立場、ギルドマスターやギルドの幹部だからだろう。

 そのせいだからかもしれないが、ラウルさんのギルドメンバーはみんなロズリーヌに対しても姫にかしずくように対応している。彼の姪である彼女はギルドメンバーにとっても身内であり、大事な相手なのかもしれない。

 だが、俺はあくまで彼女と友人になりたいと思っている赤の他人だ。俺はラウルさんのギルドメンバーと仲がいいわけでもないし、知り合いというわけでもない。ぽっと出の俺が彼女と、ラウルさんと対等な関係の友人だったら角が立つ。

 実際ロズリーヌと一緒にいるとき、何かをとがめるような視線も混じっていたもんな。ラウルさんが同席していたのも、暴発する危険性を考えていたのかもしれない。それが原因で人間関係を悪化させたくはないのだろう。最悪の場合、ギルド解散なんて話に発展するかもしれないし。


 そう考えると、あまり強く反論する気にはなれなかった。納得しきったわけじゃないけれど、ギルドの人間関係をぎくしゃくさせたくはない。力なく俺は頷く。


「ロズリーヌ様は難しいお立場のお方じゃ。友と呼べる者はおらん。じゃがお主のような存在がいればロズリーヌ様のお心が休まるというもの」


 あれ、ロズリーヌってぼっちだったの。ぼっちプレイヤーとしてちょっと親近感がわいた。でも、彼女は活発で友達がいっぱいいそうなイメージだったんだけどな。リアルでは友達がいないタイプだとか。

 もしかすると家庭の事情というやつで友達ができないのかもしれない。転校が多いとか。ラウルさんと長年会えなかったのもその理由かも。もしそうだとしたらかなり複雑な家庭環境だな。


「儂とてロズリーヌ様を支え続けていたい。だが儂はいつまでも傍にいることはできん。だから、もし儂がおらぬときにロズリーヌ様がお困りになられたならお主が支えてやってほしいのじゃ」

「わかった。約束するよ」


 頼りになるかはわからないけど、力になれることならなりたい。


「それと……ロズリーヌ様はきれいじゃが、絶対に手を出してはならぬぞ」


 急に真顔に戻るラウルさん。あ、やっぱりこの人親バカの類だ。




「年齢に似合わず子供のように無知で純真な男か。思えば王宮で過ごすロズリーヌが悪意を持って近付く者に心を開くことはあるまい。無意識に見抜いていたのかもしれぬな。どのように生きればあのようになれるのかの。そのようなものを言葉巧みにたぶらかす。全くもって反吐が出る。……悪意があるのは儂の方じゃ」




 クレルモンに到着したがクレルモンの城門は固く閉ざされていた。俺が馬車を暴走させた際に壊したバリケードは撤去されているのか、あるいは扉の内側にあるらしい。しかし今までの街は城壁の無い小さな街だったから内部に入ることはできたが、こうも扉が閉ざされているとははてさてどうしたものか。

 城壁を前にラウルさんたちのギルドも進軍を停止し、作戦会議を行っている。ここにいるのはラウルさんのギルドだけではない。ラウルさんのギルドほどの規模ではないが、大なり小なり他のギルドも集まっている。そのせいでこの地に集まる人数は倍以上に膨らんでいるのだ。どうやらラウルさんの呼びかけで集結したらしい。ラウルさんはここを本気で解放する気のようだ。十分な戦力だと思うが、それだけ敵も多いのだろう。


 作戦会議が終了したのかラウルさんが俺に近付いてくる。ロズリーヌの姿もあったがなにやら憤慨しているようで、そのままどこかへ行ってしまう。気になって視線だけ追い続けたが、ラウルさんの声に中断する。


「ケイオス、お主に頼みがあるのじゃ」


 なんだろう? きょとんとしながら彼の話に耳を傾ける。


「クレルモンをこのまま攻略するのは難しい。基本的に防衛側が有利じゃし、クレルモンの城門を壊すには時間も被害も甚大なものになるからのう。そこでじゃ、転移魔法でクレルモンの内部に直接侵入して、内部から城門を開く」


 転移魔法――「ワープ・ポータル」か。確かにポータルは城壁の内側にあるので、城壁の防備を気にすることなく内部に侵入できる。あるとすれば内部にいる敵がどの程度いるかで話が変わってくる。「ワープ・ポータル」で転移できる人数は自分を含め六人だけだ。少人数では転移に成功しても、敵が多ければなすすべなくやられてしまうのではないだろうか。仮に何度も往復して兵を連れ出すとしても、「ワープ・ポータル」はポータルへの転移になるのでこの場とクレルモンのポータルとのピストン輸送は不可能である。


「無論寡兵ではすぐに制圧されてしまうのでな。本隊はここで待機するが選抜した兵を一旦最寄りの街に集結させ、そこから転移させる」


 なるほど。ポータル間ならピストン輸送は可能だ。開門した後、待機していた本隊が突入し本格的な戦闘に移るつもりなのか。


「しかしのう、この作戦には一つ穴があってな。転移魔法が使える魔導師が少ないのじゃ。そこでお主にそれを頼みたいということじゃ。お主は確か転移魔法を使えるであろう?」


 確かに「ワープ・ポータル」は覚えている。だけどまだ正式サービスが始まってから一度も使ったことないのに、なんで知っているんだろう? もしかするとパーティーを組んでいたギルドメンバーから俺のレベルを聞いて、おおよそのスキル構成を予測していたのだろうか。まあ、マジシャンにとって必須に近いスキルだ。当然あるものだと思っていたのかもしれない。

 しかし、マジシャンは少ないのか。ううん、結構大仕事になりそうだ。


「皆のためにクレルモンを早く解放せねばと姫殿下は心を砕いていらっしゃるようじゃ。実においたわしい。ケイオス、姫殿下のために力を貸してはくれぬかの?」

「わかった、力を貸そう」


 さっき怒っていたのもそのせいだったのか。ロズリーヌはあまりレベル上げをしていないから厳しい。うん、彼女の分までやれることはやらないとな。


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