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第三十話 ブランデンブルグ防衛戦3

お詫び


第二十九話にてライノスのサイズを7mにしていましたが修正して4mにしました。

 土塵を巻き上げ、ごつごつとした硬そうな皮膚を持つライノスはまるで砂糖に群がる蟻のように、ブランデンブルグの街中を目指し市壁に殺到していた。

 全長四メートルを超える巨体だというのに、直進に限っての俊敏さは疾風の如く早く、そしてその勢いは怒涛のように押し寄せて来る。

 けれどもそんな彼等を阻む大きな壁が存在した。


「はああああッ!」


 イレーヌはライノスの鉄のような皮膚でも最も脆弱な前足の膝を交差する一瞬で六度突き――余りに一瞬の出来事に周囲は何回突いたのかさえ視認できなかった――、その巨体をどうと崩して動きを停めさせる。

 そしてそのまま倒れて動けなくなったライノスの前に戻り背を向け一回転すると。


「邪魔だぁぁぁっー!」


 迫り来るライノスに向けて文字通り蹴飛ばした。一般的な女性より長身とは言え、たかだかライノスの半分に満たない彼女の蹴撃は、その場で眼に収めた人間ですら思考を非常識という単語で埋め尽くしていく。巻き込まれたライノスは絶叫しながら波紋のように倒れていった。


「あ、有り得ねぇ……」


 その呟きは一体誰のものだったのか。それがわからぬほど周りの兵はイレーヌの仕出かした行動に飲まれていた。


 呆然としたせいで一拍遅れるもイレーヌのきつい視線で我を取り戻し、転がり倒れ身じろぎするライノスの腹部に目掛け魔法や矢の追撃が入る。


 尤も彼女もここまでの大惨事になるとは思っていなかった。

 ケイオス曰く攻撃に特化したバーサーカーと呼ばれるものになった彼女は、確かに以前に比べ速さや力強さが向上していた事には気付いてはいた。

 それでもアレクシアの支援魔法があるとは言えまさかここまでのものだとは予想だにしといなかった。せいぜいその巨体を吹き飛ばすだけだと思っていたのだ。

……それでも充分一般的な思考から掛け離れているのだが、それに気付いていないのはケイオスやアレクシアに思考が毒されているのを未だ気付いていないのだ。


 ケイオス達のパーティーでの役割では主に回避をし敵を引き付けるのが役割であった彼女に取って、足場の確保は非常に重要な要素である。

 死体に足を取られて動けなくなるのではその役割を存分に果たすことはできないからだ。

 これが普通のパーティーならばせいぜい死体の数は十に満たないために少し移動すればいいだけの話なのだが、あの無尽蔵な体力を持つケイオスが一緒なのである。

 五十や百近い数を延々と狩り続けても息切れ一つ起こさない、本当に魔導師かと疑うような常識はずれな体力馬鹿のせいで足場が死体だらけになることはよくある光景だった。

 だから自然と足場確保の為に邪魔になった敵を蹴り飛ばすようになったのだ。そしてそのパーティーでの役割をこなす事で彼女は圧倒的な速度と強靭な脚力を身につけたのである。


 ちょうどいい――巨体であるが故にいつもより本気で蹴った事で起きたアクシデントではあったものの、魔法のような広範囲の攻撃手段を持たない彼女にしてみればまとめて屠れる都合のいい攻撃でだった。


 ブランデンブルグの市壁が崩れたのはこの一カ所でしかないのだからライノスの侵攻は自然とここに集中している。幾らでも弾が存在するのだ。だったら利用しない手はない。

 手頃な敵を見付けるためにイレーヌは視線をさ迷わせる。


「『スリープ・クラウド』!」


 アレクシアは地上戦に移ってから少しでも敵の侵攻を抑える為に状態異常系魔法を解禁していた。

 グリフォンとは違いライノスは足が停まれば侵攻できない上、獣系魔物であるライノスは睡眠や麻痺といった攻撃が通用するのだ。

 複数を対象とした浅い睡眠を引き起こす『スリープ・クラウド』や短時間ながら光の鎖が相手を捕らえ麻痺を引き起こす『パラライズ・チェイン』がライノスの怒涛の勢いを削いでいく。

 けれどもライノスはただ猛然と轢き殺す為に突撃してくるだけであった。


(……妙ですね。何も考えていないのかしら?)


 未だ手を変えず押し寄せてくるライノスを見てアレクシアは違和感を感じていた。

 先程までのグリフォンとの戦闘が印象に残っているせいか、ライノスに対してプレッシャーや手強さを感じなくなっていたからだ。

 何故ならばグリフォンは本当に狡猾で攻め手が上手くいかなかったらすぐに攻撃を止め策を高じてきたのに対し、ライノスはまるでそれしか知らないように単調に同じ場所へ突撃しかしない。

 もちろんライノスの戦力は防衛側より大幅に上回るので犠牲を無視し力押しすれば戦術として考えればおかしくはない。しかしグリフォンと示し合わせて押し寄せてきたのであれば、これは余りにもお粗末なように思えたのだ。


(魔物が群れて街に襲い掛かる事自体珍しいのですが、それ以上にここまで単調な攻撃も珍しいのですが)


 アレクシアは思考を打ち切る。彼女にしてみれば手強くなくない敵の方が助かるのだ。

 グリフォンは大きく数を減らしたとは言え未だ健在だが残った市壁の兵との戦闘は続いている為、空からの支援は殆どない。

 グリフォンが加勢すれば二面もの敵を相手取らなければならないのだ。叩けるうちに叩けばいい。

 ひたすら状態異常系魔法で単調なライノス達を翻弄していく。


 そうして睡眠によって倒れたライノスの一体をイレーヌは思い切り蹴り飛ばした。分厚い皮膚が陥没し絶命しながら他のライノスを巻き込み土埃を上げた。

 そして攻撃を促す為にイレーヌは近くの魔導師に視線を合わせる。


「ひっ!?」


 目があった男性の魔導師から悲鳴があがる。

 何故味方から悲鳴を上げられなければならないのだ――と彼女は内心ぼやいた。いくら剣の道に入ってから色恋に疎くなったとはいえ、年頃の女性としては少々複雑な気持ちにさせられる。

 結婚するつもりや予定などないが、これでは嫁の貰い手はないのではと少し気落ちした。


(こうなったのもあの馬鹿のせいだ……! 今度会ったら一発殴ろう!)


 この戦いを乗り越えたらこの場にいないあの魔導師に例え八つ当たりだとわかっていても一発殴る。

 そう考えると楽しくなってきた。

 そんな気持ちを抱きながら再びライノスと対峙する。


 ライノスを打ち倒すのが先かライノスが蹂躙するのが先か――死力を尽くした戦いは根比べの様相を呈してきた。





 街から流されてどのぐらいたったのだろうか。目的もわからずただひたすら歩くイベントとかまじ鬼畜の所業である。一体何のイベントなんだろう?思い当たる節がないんだけど。

 もしかするとこれはまだ見つかってない未知のイベントなのかもしれない。


 この『Another World』は広い世界観であるが故に未だ全てのイベントが見つかった訳ではなかった。今でも攻略wikiは新しいイベントが報告される位で全てのイベントを網羅していないどころか、発生条件がはっきりしないイベントだってたくさんあったりする。

 それにこれだけ大掛かりなイベントなら、もし誰が見かけていればwikiや掲示板で何かしら発見報告が挙がっていてもおかしくないだろう。俺が報告自体を見落としている可能性もあるが、未知のイベントの可能性が高い。

 街全体を使ったようなこんな大掛かりなイベントなのだから余程発生条件が厳しいイベントなんだろうな。


 まあイベントも気になるがそれは置いておいて、なんとか脱出しなくちゃと思い集団から出ようとする。

 しかし集団を囲うように展開していた兵士らしきNPCに列を乱すなを怒られる始末。

 どうしよう。二人が待っているのに。

 あ、そうか。『ポータル・ワープ』使えばいいのか。戦闘中で邪魔される事もないし。


 思い立ってすぐにブランデンブルグの『ポータル』に転移する。

 どうやらさっきの集団が街のほぼ全ての住人なのか周囲は無人のようだ。

 急いで冒険者ギルドに向かう。遅れたけど大丈夫かな?きちんと謝らないと。


 冒険者ギルドに到着したけれど、そこも無人だった。NPCすらいない。

 くそ、待ち合わせ時間から大分経っているし既にログアウトしちゃったのか?

 でもそれにしてはNPCすらいないのはなんでだ? さっきの集団に紛れていたんだろうか。

 ああ、こんな大事な時に限ってあんな変なイベントなんて起こらなければよかったのに!


「あれ、まだこんなところに冒険者がいたのか?」


 突然背後から声をかけられ振り返ると兵士ぽい男が一人息をきらせながらこちらを見ていた。


「まあいい。今魔物が街に押し寄せてきている。生き残りたいならお前も手を貸せ!」


 魔物? なんでモンスターが街を襲うんだ? 普通街中は安全地帯であり、モンスターの侵入を許さないと思うんだが。

 待てよ、ひょっとしてあの意味不明な徒歩イベントはもしかしてこれが原因か?

 モンスターの襲撃があるから住民が逃走した。どうして街中のNPCが外へと出ていくのかわからなかったが、成る程そう考えればおかしな事ではない。

 今までのRPGの常識で考えれば有り得ない事だけど、高度なAIを持つこのゲームのNPCならばこんな連動したイベントが起きてもおかしくないかも。


 気にはなるけどもそれより二人の事が優先される。イベントに参加なんかしている暇は無い。


「悪いがここで人と待ち合わせしているんだ。一緒に行く事は出来ない」


「待ち合わせ? もしかして他の冒険者か? それならここにいた奴らは全員北の市壁に集まっているぞ。冒険者は全員強制参加だからな」


 強制参加イベント!? そういうのもあるのか! 

 全員参加となるともしかしてアレクシア様達も参加しているんじゃないか? 待ち合わせ時間にこなかったからそちらに向かったんじゃ……。

 なら向こうで彼女達を探さないと!


「わかった、そこに連れていってくれ」





 で着いた訳だが、北の壁人多すぎ。百人二百人ってレベルじゃない。うちの学校で全校集会で集まった人数、千人より人が多いんじゃないかこれ。 プレイヤー、NPCがここまで参加していると二人を探し出すのは無理ゲーに近い。どうしよう。


「ま、魔物が来たぞーっ!」


 見上げればグリフォンが襲来してきてるし。仕方ない、戦うしか無いのかな。戦っているうちに見つかるかもしれないし。

 さっさと終わらせたいけど乱戦だし邪魔にならないような魔法を使わないと。


「『マナ・バレット』」


 光球が三つ現れ俺の周りをぐるぐると円を描き回り始める。

 『マナ・バレット』は『マナ・スフィア』を強化した魔法だ。『マナ・スフィア』のスキルレベルを上げても威力や精度、射程が増えるだけだが、『マナ・バレット』はそれらに加え光球の数自体が増える。

それぞれの光球は任意で操作でき、集中して攻撃したり複数の敵に向けて放つ事ができる便利な魔法だ。

 ウィザードの基本的な魔法であり、『サンダーストーム』を取得する上で取得した魔法の一つである。

 ほんとは『マナ・バースト』や『サンダーストーム』で薙ぎ払いたいけど、これだけ参加者がいると他のパーティーが戦っているモンスターまで巻き込んで所謂『横殴り』になってしまうし、マナー違反には成りたくない。


 他のプレイヤーが捉えきれないグリフォンを中心に『マナ・バレット』を操作し、一体一体倒していく。

 ……倒しきるのに時間かかりそうだ。『インテリジェンス・シールド』は控えておこう。

 ってなんかグリフォン爆発してるんですけど!しかも爆撃してきて壁壊れてるし!

 壁って壊れるんだ、ってここ危なくね?





 撒かれた油によって火が付き濛々と火の粉が巻き上がる中、全戦力を集中してライノスが迫る。

 イレーヌの奮戦はライノスに相当な出血を強いて、気付けばもう視界に収まる程度までに数を減らしている。

 それでも兵の矢が尽き、魔法が尽きていくにつれ兵の被害が増大していった。

 そしてとうとう――。


「……そんなっ、魔法が!?」


 アレクシアが展開していた全ての結界が明滅し、掻き消える。全ての支援魔法が途絶えた事を意味していた。

 『メンタル・シールド』も『アディション』も展開し続けるほどマナを消費する魔法である。

 いくら『ドラゴンソウル』でマナを吸収できても、攻撃が少なくて回復量が少ない状態で消費量が上回っていればいつかはマナも尽きるのだ。

 豊富な範囲攻撃手段を持ち『ドラゴンソウル』を使用したマナの回復量の多い『ウィザード』と違い回復手段が乏しい『セージ』のもう一つの弱点だった。

 既にマナポーションを使い切りもはや回復の手段などない。


「アレクシア様、お下がり下さい!」


 と、イレーヌが叫ぶ。しかし限界まで戦い続けた彼女に体力など残されてはいなかった。

 そんな彼女にライノスは容赦無く迫る。

 そして衝突――。

 体格差や重量差いずれも上回るライノスからしてみればアレクシアなど路傍の石のような存在であろう。

 アレクシアの身体に浮遊感と激痛が走り次第にその痛みが薄れていく。まるで鉛のように重かったはずの身体が解き放たれていくかのように感覚が喪失していった。


 ああ、これはいけない何とかしなくては――そう思ってもその感覚から逃れる事はできない。

 彼女が宙を舞う間、ゆっくりと景色が流れていく。

 もはや魔法の支援を無くした兵達はライノスによって蹂躙されている。ごめんなさい、守りきる事ができなかった――そうアレクシアは心の中で詫びた。

 必死の形相でこちらに手を伸ばしライノスの群れに飲み込まれた己の従者の姿があった。ごめんなさい、私の我が儘で貴女をこんな死地に残してしまった。そして付き合ってくれてありがとう――そうアレクシアは謝罪と謝意を心の中で呟いた。

 意識が途切れ始める。途切れたら自分は生きていないだろう。と、アレクシアは酷く冷静に状況を把握していた。


 ただ最期に――。思い浮かべたのは黒髪のオッドアイの少年の姿だ。

 あの人は無事だろうか。死力を尽くした自分をあの人は褒めてくれるだろうか。それとも不甲斐ないと叱るだろうか。

 いずれにせよもう二度と会うことはできないだろう。だからせめて無事でいてほしかった。本来この戦場にいて欲しくなどない。

 いるならば街を捨て置いても逃げてほしい。そう願ってしまうのである。

 けれどそんな願いだけではなくもう一つ彼女は願ってしまった。最期に一度でも彼に会いたい――と。

 それは酷く身勝手で浅ましい願いだ。一方が叶えばもう一方は叶うことなどありはしない矛盾をはらんだ願いだ。


 だから必ず一方の願いは叶う。


 大地にその身をたたき付けられる瞬間、アレクシアに衝撃が走った。僅かに残る感覚がほのかな温かさを感じ取る。それは冷たい大地では決して味わう事の無い感覚であった。

 意識を集中して自分を抱きとめた人物を見つめる。


 その顔を見定めた時、消えかけていた心に宿る炎がぐらりと揺れた。


「……先生っ……」


 意識が消える瞬間に叶ったのは最愛の少年との再会だった。





 このイベント過酷過ぎだろ。グリフォンが高い位置から攻撃できるとほんと手の出しようがない。敵の数も多過ぎるし。バランス修正されないかな。

 唯一の救いは何回か見えた光の柱、つまり『メンタル・バースト』を使っている人が一人しかいないらしく(ここには他職やマジシャンぽい人は一杯いるけどセージ志望の人はいないのかな?)、それがアレクシア様の可能性がある。

 尤も移動しようとすると持ち場を離れるなと怒られ、その場所が崩落したのでとにかくグリフォンを徹底的に打ち落とす事にした。気分はシューティングゲーム感覚。

 大半が途中でやられていたせいかグリフォン戦は一通り落ち着いたと思う。グリフォンも殆ど見かけない。

 NPCも結構やられていて死体を晒していた。流石に目を背けたくなる光景だった。


 漸く落ち着いて崩落しかけてた場所に目を向けると結構苦戦しているようだ。――見つけた。アレクシア様とイレーヌさんだ。いてもたってもいられず駆け出していた。

 市壁を下り走って二人の姿を視認する。調度アレクシア様の魔法がきれたらしい。まずい――酷く嫌な予感が走った。このままじゃライノスにやられる。

 『マナ・バレット』を詠唱してライノスに向かわせる。

 ……けれど間に合わなかった。ライノスに光球が届く前にまるで自動車と衝突したかのような彼女の姿を見て、空間が凍りついたような感覚を覚える。


「――アレクシアーっ!!」


 叫びながら宙を舞う彼女に手を伸ばす。間に合え、間に合え、間に合え!

 音を置き去りにするかように全身が彼女を助けるための行動を起こす。落下地点へ最速で走り、アレクシアを抱き留める。

 血を流し虚ろな彼女の表情を見て、血の気が一気に引く。


「アレクシアっ、アレクシアっ!!」


 泣きそうになりながら何度も彼女の名を呼んだ。それに気付いたのかアレクシアが僅かに笑みを浮かべてまるでそれが最期のようで――。


 嫌だ、彼女が死んじゃうなんて嫌だ。死ぬ……。死んだらどうなる?


……ペナルティが与えられて『ポータル』で復活するだけだ。


 ……ゲームじゃん。これはゲームなんだから彼女を助ける事ができるはずだ!

 インベントリからポーションを取り出し彼女にかける。蒼白になった彼女の顔に赤みがさしていく。

 ほっとした。例えゲームでも仲間を死なせるのは辛い。なまじ彼女の死がリアル過ぎたから冷静でいられなかったし。

 まだ目を覚ます気配も無いが自動車並の速度で突進してきたライノスに轢かれたのだからびっくりして気絶してしまうのも当然だろう。

 それにしてもイレーヌさんはどうしたんだろう? これだけライノスに囲まれていると何処にいるかなんてわからないよな。


 まだ意識を取り戻していないアレクシア様を抱き抱えつつ俺は壁の外へとライノスを倒しながら歩みを進め壁の外に出た。

 他のプレイヤーやNPCは侵入したライノスの群れへの対応に追われていて、誰もこちらに来ていない。つまりこれは『横殴り』にはならない。好都合だ。


「『ダブル・スペル』」


 ゲームである以上、仲間が死ぬ事なんて当たり前かもしれない。だけどぼっちプレイヤーだった俺は今まで一度もそんな経験も無かった。

 だからだろうか。アレクシア様がやられた時は冷静ではいられなかった。

 いや今も冷静ではない。寧ろぐつぐつと煮えたぎるような怒りが俺の心を占めている。


 だからぶつけてやるんだ。目の前のライノスに。

 俺の大事な仲間に手を出したあいつらに。

 俺が現時点で出せる最強魔法をぶっ放してやる!


「『サンダーストーム』っ!」


 天に暗雲が立ち込め辺りを真っ暗にした瞬間、俺の怒りに呼応するかのように無数の稲妻が街に迫っていたライノスを飲み込んだ。

 僅か数秒間ではあるが激しい閃光によって直視する事が出来ず状況が把握できない。断末魔すら稲妻が落ちた際に起きた轟音で掻き消される。

 視界が戻ると夥しいほどのライノスとグリフォンの死体が広がっていた。

 上空を飛んでいたグリフォンもまとめて倒したらしい。

 それでもライノスの全てを倒し切れてはいなかった。

 尤も街とライノスとの間は恐らく数キロ単位ほどぽっかりと穴が空いたように壮絶な骸だらけの空間ができてはいるが。

 全力でやったスキルレベル最大の『サンダーストーム』はマジで凄い。こんな魔法使い所はあるのだろうか。

 激しい戦い最中だというのに一瞬にして辺りが静まり返っていた。あ、やかましかったですね。すみません。でもゴメン。もう一回やるつもりなんだ。


 そんな状況でもライノスは死を恐れずにこちらへと向かって来る。味方の屍を踏み越えて。まるでそれしか知らないように。

 こちらもそれにあわせて二度目の『サンダーストーム』の詠唱を行い十分に引き付けた後、第二波も殲滅した。

 第二波で外にいる敵は打ち止めのようだ。あとは街中に侵入したライノス達だけである。

 市壁の上からどっと歓声が沸く。イベントが終わったのかな?


 やっと二人と落ち着いて話せる。まだ気を失っているアレクシア様を安全そうな場所に下ろし、イレーヌさんを探そうとした時、視界が暗転した。


 あれっ? どうしたんだろ? と焦る俺の目の前にメッセージが表示されていた。


『Connect Error ネットワークから切断されました』


 ネットワークトラブル!? なんだってこんな時に!

 復旧手順を済ませ幾度か再ログインを試みるも結局その日はログインする事ができなかった。 意気消沈しながらふて寝を決め込む。

 ううっ、どうしよう。

 まだアレクシア様とイレーヌさんにコミューンへ一緒に来てくれるか、何時何処で待ち合わせるかも話していないのに。でもコミューンに行くと以前に伝えたしコミューンに行ったほうがいいのかな。


 二人の事を考えていると不意にあの時の光景が浮かんだ。

 あの時の光景は凄く衝撃的で妙に生々しかった。アレクシア様が本当に死んでしまうかのようで気が気では無かった。


「……ゲーム、なんだよな」


 心から漏れたようにぽつりと呟いた言葉を俺は自覚することはできなかった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 主人公を持ち上げる展開は結構ですがマッチポンプは見ていて気分が悪いですね…。
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