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第二十二話 魔導師と復讐者1

あえて言おう。

ぼっち完!ぼっち完!ぼっち完ッ!

ぼっちプレイ終了のお知らせである。


アレクシア様のレベル上げに付き合って楽しそうな彼女の笑顔を見た後、そのまま彼女達と一緒にパーティーを組み続けている。


彼女達と付き合っていてわかった事は彼女達のロールプレイが割と現実に即したものらしく、アレクシア様の仕草を見ても違和感を感じる事が無い。

本物のお嬢様なのかもしれないな。

本物のお嬢様――若い異性を相手に会話なんて俺としてはハードル高すぎだったんだけど、気を遣ってくれているのかゲームの話が中心なので非常に話しやすい。

リーアムと話した時もゲームの話題で盛り上がって以降、Another Worldの設定はいろいろ調べている分話題に事欠かないのだ。

だからクエスト前はアレクシア様とゲームの設定やらスキルの話で盛り上がっている。


一方イレーヌさんはあまり会話には参加しない。

なるべく彼女とも話したいが率先して話すタイプでは無いようだ。

アレクシア様を見るときは微笑んでいたりするのでつまらないようではないけど、ゲームの話に興味は無いらしく俺とアレクシア様との会話を見て呆れていたりしている。

つい熱く語っちゃったりするからだろうな。ちょっと恥ずかしい。


そんな二人のおかげで毎日楽しくプレイできる。

この調子で新しいパーティーメンバーも見つかればいいな。


今日も冒険者ギルドの待合所で彼女達を待っていたんだが……。

何故か俺の周りに悪人面の屈強そうな男が三人。

なんだろうね。イベントではなさそうだけど。

リアルだったらこの時点で逃げてるだろうな。


「おい」


あ、はいなんでしょうと一人の男の顔を見る。


「お前は確か……貴族の女の二人組と一緒にいたよな」


「ああ」


アレクシア様とイレーヌさんの顔が浮かぶ。彼女達がどうしたというのだろう。


「だったらもうあの二人とは関わるな」


……は?


「わからねぇのか、てめぇが邪魔だって言ってるんだよ」


……なんで初対面の人にこんな事を言われなければならないんだろう。

なんか腹が立ってきた。


そもそも彼女達と俺を切り離して一体何を――ははん、読めたぞ。

こいつら彼女達をナンパしたいのか!

確かにAnother Worldで出会った女性でも彼女達の容姿は群を抜いている。

だからお近づきになりたいという気持ちも男ならわからないでもない。

……それでも小学生か中学生くらいのアレクシア様狙いってどうみてもロリコンだろうけどな。


だがあくまでこれはゲーム。

しかもキャラクターは自由に容姿を弄る事ができるのだ。

つまり極端な話をすれば綺麗な女の子でも現実は中年のおじさんがプレイしている可能性もある。

それなのにゲームの中で出会い系みたいにナンパするのは俺には理解できない。


まあナンパまではいかなくとも女性キャラクターをチヤホヤとする傾向があるのは確かだ。

実際に可愛いキャラを演じ(天然な人もいるのかもしれないが)マスコット的またはアイドル的な存在を『姫』といい、その『姫』に対してアイテムを貢いだりする男性は少なからずいるらしい。

まあ行き過ぎて「周囲から支援してもらうのが当たり前」だと考えるようなはた迷惑な『姫』は『非女ひめ』と揶揄され周囲から敬遠されやすいのだが。


それはともかく、アレクシア様とイレーヌさんはリアルでも女性のような気がする。

しかしそれ以前にゲームの設定を話す位ゲームが好きな純粋にゲームを楽しんでいる人達なのだ。

だからこそナンパ目的の奴は近付けたくないし、さらに周りを脅してまで彼女達に近付こうとするこいつらの捩曲がった根性が気に入らない。

怒りに任せて相手を睨みつけながら答える。


「断る。彼女達がどう付き合おうと関係ないだろう」


「なんだと、このガキ!」


いきり立つ男達。ううっ、さすがに強面だから迫力あるな。

だけど引くわけにはいかない。


「おいっ、来たぞ」


男の一人が何かに気付き、注意を促す。

視線を送るとアレクシア様とイレーヌさんが冒険者ギルドに入ってきた所だった。


「ちっ、小僧覚えてろよ」


舌打ちしながら男達は冒険者ギルドから出ていく。

あんな小物臭のする台詞初めて聞いたかも――なんて気が緩んだせいかくだらない事が頭に過ぎる。


「先生、おはようございます」


それにしても、ナンパか。

キャラクターが可愛すぎるってのも大変なんだな。

VRMMORPGだとこうした問題が増えるのだろうか。

俺は現実と殆ど変わらないような容姿のキャラクターだから特に何も言われないけど。


「先生?どうかされましたか?」


あっといかんいかん。考えに耽っている間にアレクシア様達が既に目の前まで来ていた。

上の空でいつもと違う雰囲気の俺を見て思わず問い掛けた――そんなところだろう。


「いや何でもない」

嫌な事はきっぱりと忘れてゲームを愉しもうかな。




レベル上げは順調である。

パーティープレイで加速度的に効率が上がっているのと、wiki情報、取得経験値を増やす『祝福の書』のお陰もあり現在ではクローズドβを越えるほどレベルが上がっている位だ。

レベルアップする程レベルアップに必要な経験値が増える為、経験値をたくさん持つ強いモンスターと戦わなくてはならなくなる。

だが強くなればなるほどモンスターは街から離れる傾向がある為に徐々に移動に割く時間が増えてきた。

これでは狩りの時間が短くなってどうしようかと思っていたらそれを解決するスキルを覚えたのである。

『ワープ・ポータル』――いわゆる転移系の魔法だ。

大きな街や遺跡などの近くに存在する『ポータル』に転移する事ができる。

ただ転移先は一度訪れた事がある『ポータル』でなければならない制限があるが、パーティーごと移動できるので格段に行動範囲が広がった。

今はまだ行きを徒歩で帰りを『ワープ・ポータル』で移動しているが、今後の事も考えて狩りに行くついでに『ポータル』を探す事も並行して行っている。


ただスキルを覚えるマジシャン、ヒーラー(ヒーラーも同一スキルを覚える)なら移動は楽だけど、他の職業は覚えられないのでパーティー推奨って事ですね。

くそっ、なんてぼっちプレイヤーに優しくない仕様なんだ!

……まあ狩場に何日か篭って戦うスタイルなんだろうな。



それにしても、だ。

今日はやたらとモンスターが多い。

MMORPGにおける効率的なレベル上げのコツは、自分のレベルより2~5低いモンスターを大量に狩る事なのでそれを意識して狩りを行っているけど、それにしてはいつもより多いんだよね、なんでだろ。

まあいいか。そっちのほうが都合がいいし。


「ケイオス!アレクシア様!」


モンスターを引き付けているイレーヌさんが叫ぶ。

イレーヌさんは持ち前のスピードを生かし、敵の攻撃を避けつつ相手のヘイトを取る所謂『回避盾』というモンスターとの壁役を担っている。


「スリープ・クラウド」


そこにアレクシア様がモンスターを集団で眠らせ、アレクシア様が捉えきれなかったモンスターを


「マナ・エクスプロージョン」


俺が爆殺し、その間にアレクシア様が眠っているモンスター集団の中心に移動し


「メンタル・バースト」


アレクシア様を基点にした光の奔流がモンスターを飲み込み打ち倒すのだ。

それすら逃れたモンスターはイレーヌさんが突き殺している。

イレーヌさん、フェンシングとか習ってるのかな。素人でもわかるくらい凄い堂に入っているけど。


実の所、火力職が2人もいて範囲攻撃を覚えると火力を持て余し気味になっていた。

だから遠方にいる敵をこちらに引き付ける『釣り役』とアイテム回収係を俺が担っていたんだけど、今日は敵が多い分釣り役すら必要ない。

もうじき二次職も見えてきたな。







なんだアイツは!――カール・フリードリヒ・フォン・ノイラートは目の前の光景に憤慨していた。


事の起こりは魔法学園で彼女を見かけた時だった。

マリー・アレクシア・フォン・ザヴァリッシュ。

彼女の姿を一目見たその時から彼は彼女に心を奪われていた。

少年の二度目の恋である。

なんとか彼女との接点を持ちたいと考えた。


しかし取り巻く環境は最悪といっていい程だった。

『才無し』と蔑まされるほどの魔法の落ちこぼれだった彼女は疎まれ次第に授業にも出なくなり、かといって近付けば他の貴族から睨まれる。

下級貴族の男爵家の彼では上級貴族の不興をかうわけにはいかない。

どうにもならない現状にもやもやしながら日々を過ごしていた。


そんな彼に好機が訪れたのは彼女が課外実習に参加する事が決まった時だ。

てっきり参加しないと思っていた『才無し』のアレクシアも実習には参加するらしい。

友人のいない彼女と一緒に行動するような貴族はいない。

ならば課外実習の間は他の貴族の視線が向けられる事は無いという事だ。


そう思いついてからの彼の行動は早かった。

冒険者を金で懐柔しアレクシアのパーティーに参加させないように仕向け、課外実習が行えず困り果てた彼女に手を差し延べる――そうした筋書だったのだ。

その筋書は途中までは上手くいっていた。

雇っていたはずの冒険者がキャンセルしたせいで身動きが取れなくなった彼女の姿。

思惑通りに行き過ぎて笑いが止まらないくらいだった。

あとは偶然を装い声をかけるだけ。


だが彼が彼女に近寄る前に一人の男の声が遮った。

異国の魔導師らしく自分よりやや年上の少年が彼よりも早く行動に出たのである。


なんだそれは――想定外の出来事に愕然となるが、もう状況を覆す事はできない。

あっさりとパーティーに加わってそのままクエストに出かけてしまったのである。


しかし相手は珍しい異国の少年。

あくまで一時的な旅費でも稼いでいるのでは無いかと思い直す。

幸い課外実習は何度も行われる。

なら今回失敗した所で次があるだろうと気を取り直した。


だがその予想は外れ、あの男はアレクシアと共にいる。

どうしてあの男が彼女の隣にいるのだ。

どうしてあの冴えない男が彼女に近付けるのだ。

――そして、どうして彼女は普段見せなかった見惚れるような笑顔をあの男に向けているのか――。


我慢の限界だった。

元々我が儘一杯に育てられたフリードリヒからしてみればよく耐えたものである。

だから彼は――。


「で、坊ちゃん。あのガキを貴族様から放せばいいんですかい」


「ああ二度と近付かないように徹底的にやってくれ」


荒くれ者を雇い実力行使に出るという愚挙を犯したのだ。


「これでよろしいのですか、フリードリヒ様。事が知られればアレクシア様も黙ってはおられませんよ」


唯一事情を知る侍従のレギナルトは主の命に従っているが当然ながら乗り気ではないようだった。

伯爵家の令嬢に男爵家の子息がちょっかいをかけるなどばれれば実家を巻き込んでの大惨事になる。

賢明な人間であればそれは避けたい事態なのだ。


「ふん、見つかる前に戻るのだから問題ないだろう。最悪切り捨ててもいい奴らだ。平民の一人や二人どうなろうと構わないさ」


「私も平民の出なんですがね……」


ぼそりとレギナルトが呟くがフリードリヒには聞こえていない。

もはや邪魔者がいなくなったあとの事しか考えていなかった。


しかし結果はアレクシア達が来た為に失敗に終わる。

あの男――ケイオスが一人きりになるのは極稀だ。

冒険者ギルドで集合してすぐに出掛け、戻ってきても翌日の準備の為に一緒に道具屋に足を運ぶ。

そのあとケイオスの足跡はぱったりと途絶えるのだった。

アレクシアと集合する前ぐらいしかタイミングが無いのである。


「あいつめ、どうにかして引きはがせないものか」


悔しさを隠そうともせずぎしりと歯噛みするフリードリヒ。

しかし良案が浮かばない。

そんな彼の姿を見て雇い入れた荒くれ者の一人がニヤニヤと笑いながらフリードリヒに入れ知恵をする。


「へへっ、坊ちゃんいい方法がありますぜ」


「なんだ、言ってみろ」


「簡単な事でさあ。奴らが魔物と戦っている間に他の魔物をけしかけるんでさあ」


「なに……そんな事をすればアレクシアの身に危険が及ぶではないか!」


「そこで坊ちゃんの登場ですよ。貴族の嬢ちゃんが襲われそうになった時に偶然通りかかり颯爽と救い出す。あのガキは貴族の嬢ちゃんを護り切れずお役御免。一石二鳥でさあ!」


――ケイオスが聞けばこれはMPKと呼ばれる悪質な行為なのだがそれを指摘する者はいない――。


(そんなの上手くいくわけが無いだろう)


レギナルトは冷静に荒くれ者の提案を切って捨てた。

偶然を装ったとしても余りにも不自然過ぎるタイミングだから普通なら疑ってかかるだろう。

それに学園での成績の悪い主がアレクシアという枷を持ちながら魔物を倒すことができるかと言われればはなはだ疑問である。


しかし正攻法でアレクシアがフリードリヒに好意を抱くかと言われるとレギナルトは否定せざるを得なかった。

容姿は肥満体でお世辞にもかっこいいとは呼べず、性格も傍若無人そのものである。

家格でみても伯爵家と男爵家で負けており、とにかく勝算が持てない。

これで主を好きになる女性がいたら相当な物好きだろう。


「ふむ、いい案だ。なかなかやるではないか。もし上手くやれば報酬を上乗せしてやろう」


勝算が持てない要素に『主は大馬鹿だ』と追加された瞬間である。

なにかあれば飛び出すしかないか――とレギナルトは一人真剣に覚悟を決めるのだった。


彼等は街の外での彼女達の姿を知らない。

未だアレクシアを『才無し』としか見ていなかったのである。




「……あれはなんだ」


茫然としながらも声を搾り出す事ができたフリードリヒはある意味凄いなと呆れ半分に感心した。


「そうですね、地獄の光景か虐殺の類でしょうか」


アレクシア達の周りは魔物の死体で溢れ返っていた。

たまにあの男が死体を掻き消しているがそのすぐあとに新たな骸で埋まる。

数としては100では済まないのではないだろうか。

正しく地獄のような光景に見え、数の上では虐殺される側の彼女達がこの地にいる魔物を殲滅するかの如く虐殺しているのである。


断じて課外実習で見かける光景ではない。

あれは貴族が討ち取りやすいように一度に相対する魔物の数は1~2体ぐらいに制限したいわばスポーツのような狩りである。

四方を敵に囲まれ生き残る為に必死に足掻く蠱毒の壺の中のような状況だった。

いやよくみれば、彼女達――あの男にはまだ幾分の余裕があるような気がする。


「フリードリヒ様、アレクシア様は確かに『才無し』と呼ばれる程魔法の才能が無かったんですよね?」


「ああ、『マナ・ボルト』すら満足に使いこなせないはずだったぞ。一体どうなってるんだ?しかも僕が知らないような魔法まで使っているぞ」


『才無し』と呼ばれた少女の姿はそこには無い。

あるのは未知の魔法を使う一角の魔導師の姿だ。


「……これでもやるんですか?」


「くっ当たり前だ!あんなに無理をしていればいつかは体力が尽きる。その時に助けに入ればいい!」


(いやあんな数相手に助けられるわけないぞ、こりゃ)






結局、彼女達が危機に陥る事は無く、先に魔物を誘導していた荒くれ達が疲れて倒れるという結果で幕を閉じた。


「畜生!僕は諦めないからな!」


無駄に闘志を燃やす主を見てレギナルトは溜息をつくのだった。

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