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第十九話 魔導師と侍従と才無し少女2

評価3万、PV275万、お気に入り1万件突破しました。

沢山の感想と応援ありがとうございます。

ここまで続いたのも読んで頂き評価・感想を送って頂いた方々の御蔭です。


この場を借りて御礼申し上げます。



キャッチコピー的には

「互いに(真実が)伝わらない物語」

始まります。

「私はマリー・アレクシア・フォン・サヴァリッシュです。アレクシアで構いません。ケイオス、今日はよろしくお願いします」


「侍従のイレーヌだ。くれぐれもアレクシア様に粗相の無いようよろしく頼む。それにしてもこちらが雇うのに本当に何も必要ないのか?」


「ああ、必要ない。クエストが完了したらその報酬分山分けにしてもらえばいい」


アレクシアとイレーヌさんが顔を見合わせるがそんなにおかしな事を言っただろうか。

パーティーを組もうと言ってみたら、護衛の礼に前金でお金を払うとか、何だか俺がお友達料金でも支払わせているようで複雑です。

できれば金銭が絡む事の無い健全な友誼を結びたいものである。

それにしてもツッコミどころのある自己紹介だ。

まずイレーヌさん侍従って何。

そんな職業Another Worldにはないから。

どうみても貴女、腰にぶら下げている刺突剣からしてウォーリアーなんですけど。

そしてアレクシア……ミドルネーム名乗っている人に初めて会ったのでどう呼べばいいかわからないけど、まずキャラクター名は15文字だからそんな長い名前つけられないし、フォンって昔の貴族が使うやつじゃなかったっけ。


最初はもしかして何かのイベントかと思ったけどクエストを受注していないところから彼女達はプレイヤーの筈だ。俺が知らないだけで貴族になるようなイベントでもあるんだろうか。

でも爵位を得るようなシステムもないし。


待てよ、これってもしかして貴族とメイド的な関係のキャラ設定のロールプレイなのか……?

稀にゲームやらアニメのキャラクターの名を借りてそのキャラクターになりきってプレイする人がいるけど、もしかして彼女達もそうしたごっこ遊びなのだろうか。

MMORPGのRPGはロールプレイングゲーム、役割を演じるゲームだからそうキャラを作ってプレイする人がいてもおかしくないけども。

確かにアレクシアは凄い美少女キャラクターだし何処かの深窓の令嬢と言われれば納得できるかもしれない。


俺自身も口下手だから会話する時は相手に不快にならないよう心掛ける程度ならしているが、これはもう別ベクトル、完全に別人になりきったロールプレイだな。

……意外とホントのお嬢様だったりして。

とりあえずスルーしておこう。

初対面で空気読まずにツッコんでギクシャクした関係になるのはまずいだろ。


彼女達が受けたクエストはブラッドラビットの討伐クエストである。

ブラッドラビットは臆病で可愛い外見とは裏腹に体当たりが強くレベルは3~7。

初心者向きの敵である。


『イレーヌさんからパーティー参加の要請がありました。参加しますか? 』


パーティー招待のウインドウメッセージを承諾しパーティーを組む。

パーティーに所属する事でパーティーウインドウに表示されるようになった仲間情報――レベルを見る。

アレクシアが3、イレーヌさんが14。

14って凄いな。オープンβ始まったばかりなのに。

今までずっとやりこんだんだろうか。

……うん、14?


「二人ともパーティーを組むのは初めてか?」


「ええ、初めてですがそれがなにか……?」


なるほどだから知らなかったのか。

二人とももしかするとMMORPG自体、これが初めての全くの初心者なのかもしれない。


MMORPGは専門用語が多かったり、ゲーム独自のルールも多い。ましてや世界初のVRMMORPGでは普通のMMORPGとも違いは多いはずだ。

けれど、いくつか他のMMORPGをやった経験があると共通しているシステムやルールが存在するのも確かだ。

パーティーを組んだ際にレベル差で起こる制限なども内容は違えど似たようなルールは他のMMORPGにだって存在する。

だから二人ともパーティープレイ未経験かつMMORPG未経験者ではないかと予測する。

忠告しておいた方がいいだろう。


「イレーヌさん、貴女はパーティーに参加しない方がいい」


「……なんだと」


俺の一言に彼女の眉が釣り上がる。

言い方が悪かったかもしれないが、これはハッキリと伝えなくてはならない。

何故ならこのゲームではパーティーでレベル10以上開きがあるとモンスターを倒しても経験値が取得できないからだ。


「貴女のレベルは違いすぎる。貴女が直接戦えばそれだけアレクシアの成長を疎外するだけだ」


思案しているのか少し間を置きイレーヌさんが答える。


「……つまり戦わなければいいのだな。わかった。だが傍に控える分には差し支えなかろう。それから!アレクシア様と呼べ!貴様馴れ馴れし過ぎるぞ!」


「ああ、わかった」


本人がいいといったけれど、いきなり初対面で呼び捨てはまずいか。

見た目が年下なのでついそう言ってしまったが。

メイド的なイレーヌさんの気に障ったようだ。

流石に様はどうかと思うが、アレクシア――様もなんか困惑しているし。

戦えなくても傍にいたいなんてよっぽど仲がいいんだな。


まあロールプレイをするような間柄だからリアルでも友達なんだろう。

大丈夫、きっとすぐにパーティーが組めるレベルになるはずだよ。


パーティーを組み直そう。

パーティーを作るために一旦パーティーを解散させる。

パーティーを組むのは一度パーティーウインドウで、パーティーに加入させたい相手を視認しつつパーティー招待のボタンを押せば、相手に招待メッセージが届く仕組みになっている。凄い仕組みだよね、これって。

失敗しないとは思うけど初めてだから念を入れてじっとアレクシア様を見つつパーティー招待を行う。

おお。反応早い。

パーティーちゃんと組めたし。


……それにしても、時折アレクシア様の表情が複雑そうな……いや陰りを見せるのは一体なんでだろう。




シュトルブリュッセンから東の草原。

この辺りがブラッドラビットの出現ポイントである。


「あれがブラッドラビットですか。事前に調べて知ってはいましたが意外と大きいのですね。あっ逃げられました」


こちらの姿を見た子犬ほどの大きさの真っ赤なうさぎはそそくさと逃げ出した。

ちなみに赤いのは返り血で真っ赤に染まっているのではなく血のような赤さを毛を持つだけだ。

それにしても初心者なのにきちんとwikiで調べてきているんだな。

蛇足かもしれないけど念のためブラッドラビットの説明はしておくか。


「ブラッドラビットはこちらの姿を見ると逃げ出す習性がある。幸いここは草原だから茂みに身を隠して襲えば確実に先手を取れる。こちらが手を出せば襲い掛かってくるが、命が危うくなると逃げ出す事も多いから逃げ出す前に倒すといい」


「ほう、詳しいのだな」


イレーヌさんが感嘆の声を上げるがアレクシア様は何処か不安げな表情を浮かべている。

どうしたんだろう?

あっそうか、大きくはあるが見た目はただのうさぎだ。

言動からみて初見みたいだしそれを愛らしく感じてしまい、手が出しにくくてそれを悩んでいるのかもしれない。

……今更だがこういうのって動物愛護系の団体が抗議したりしないんだろうか。


アレクシア様の表情が変わる。どうやら覚悟を決めたようだ。

レベル3のブラッドラビットを見つけ慎重に近付きアレクシア様が杖を構える。

彼女もまた俺と同じマジシャンだ。

俺と似たステータスの振り方――「知能」に大半振っていればレベル3のブラッドラビットだと「マナ・ボルト」で一撃かあるいはブラッドラビットが逃げ出しそうになるぐらいのダメージは与えられるはずである。


「ケイオス、その」


直前になりアレクシア様が口にするのを躊躇うかのように言い淀む。


「恥ずかしい話なのですが、私の魔法は大して強くありません。恐らく倒すには到らないでしょう。ですから逃す前に援護をお願いします」


……もしかしてこの子は――。

今までの彼女達の言動、表情からある推論が頭に浮かぶ。

いや考えるのは後だ。


「わかった。アレクシア様が先制して直ぐに援護するからよく狙って」


俺もアレクシア様が狙うブラッドラビットに杖を向ける。

それを見たアレクシア様は微かに杖を握り締めて「マナ・ボルト」を放った。


紫の電撃が直撃したブラッドラビットは衝撃で身が震えるが微々たるもので彼女の言ったようにが倒れるほどではない。

結果アレクシア様の攻撃ではブラッドラビットの敵対心を上げるだけになった。

敵対心――MMORPGではヘイトと呼ばれ、ダメージを沢山与えたり挑発系スキルを使うとその値が高くなり、基本的にその数値が一番高いキャラクターに敵の攻撃が集中しやすくなる。


パーティープレイではマジシャンのような防御の弱い職業を守る為にウォーリアーのような防御力に優れた前衛職業がヘイトを集め守るのが基本だ。


当然攻撃してヘイトを得たアレクシア様にブラッドラビットは突撃する。

それに合わせて俺も「マナ・ボルト」を放ちとどめを刺した。


呆気無く倒れたブラッドラビットを見て、アレクシア様とイレーヌさんの顔色は明るくなる。

やっぱり、ウサギさん虐待で暗くなっていたわけじゃないんだね。


「流石ですね。私ではこうもうまくはいきませんから。私一人では危険を伴うでしょう」


そう言ってアレクシア様は憂いを帯びながら微笑んだ。


「……私一人じゃ何もできない。どうして私だけ魔法の威力が低いのでしょうか」


ぼそりと彼女が呟いた言葉が耳に届く。

そうか、やっぱり彼女は――。

その言葉を聞いて先程浮かんだ推論が確信に変わった。


彼女はこのゲームを楽しめていない。

その理由は彼女の魔法の威力に問題があったからだ。


こう考えれば幾つか疑問が解ける。

今までの憂いの表情はその事を気にしたからなんだろう。


どうして美人、美少女の彼女達がパーティーに誘われなかったのかのもわかる。

確かにイレーヌさんが凄い剣幕で怒鳴っていて近寄り難いものがあるけれど、見た目綺麗な二人なら下心のある男に誘われてもおかしくなかったはずだ。

恐らく彼女の魔法の威力が低く戦力にならない事が知られたから敬遠されていたのだろう。

こう言っては何だがパーティーの中で敵の殲滅役を担う火力職のマジシャンの火力が大した事が無いのでは、パーティーに貢献しにくい。

ましてやただでさえHPが低く、低防御力しかないマジシャンでは盾にもならずヒーラーのように回復や支援スキルがあるわけでもないのだ。

効率を重視するようなプレイヤーならばお荷物扱いにされてしまい、パーティーに寄生していると揶揄されるだろう。

だから仲の良いイレーヌさん以外からパーティーに誘われる事が無かったのだ。


だがソロでプレイするにしても彼女の魔法の威力が低すぎて大変なのだろう。

周りがサクサクと敵を倒す中、一人だけ苦戦しているのではフラストレーションが溜まってしまうかもしれない。


MMORPGの楽しみ方はプレイヤー次第で千差万別だとは思うが戦闘職はやはり戦いの中にこそ楽める事の比重が多いと俺は思う。

レベルを上げて強くなったり、強敵に打ち勝ったり、PvP(プレイヤー同士の戦い)で競い合ったり、パーティーの中では上手く連携したり、味方のピンチを救ったり。

たまには全滅の憂き目に合うかもしれないけれど、それすらも仲間と分かち合う。


だけど彼女はまだそれを経験できていない。

だからつまらなく感じてしまっているんだろう。

イレーヌさんがいなければ彼女もまた俺と同じぼっちプレイヤーかゲームを辞めていただろう。

今後それが続けばいつかはゲームをやらなくなってしまうかもしれない。


そうじゃない。

このゲームはAnother Worldは決してつまらないゲームじゃないんだ。

このゲームの楽しさを体感するには彼女が抱えている問題を改善しなくてはならない。


彼女の魔法の威力がどうして低いのか。

それは彼女が「精神」のステータスを上げているマジシャンだからだ。

「知能」を上げていなければ「魔法攻撃力」が低くマジシャンの魔法スキルの威力は一段と低下するし、「マナ・ボルト」は「知能」の数値が直接影響する。

だからこそ彼女の魔法の威力が低かったのだ。

「魔法攻撃力」は他のプレイヤーの検証結果で導き出された隠しパラメータだ。

ステータスに表示されない為に初心者が勘違いしてもおかしくはない。


もちろん彼女が他のステータスを上げている可能性もあるし、ステータス自体上げてない事も可能性もある。

けれど狩りに行くモンスターをwikiできちんと調べるような初心者がマジシャンの育成方法について見落とすとは考えにくい。

wikiにはマジシャンの育成方法――ステータスの振り方についても記載されている。

二次職をセージで奨めていたから当然「精神」を中心にあげるようなステータスの振り方を記載していた。

勿論「知能」を中心にあげるステータスの振り方も記載していたが、パーティーで強いと強調されていた「精神」振りの方がインパクトは強いだろう。

だから彼女がそのステータスの振り方をしている可能性が一番高いのだ。


彼女が「精神」を上げているのなら取れる方針は三つある。


一つはキャラクターを削除し、新たにキャラクターを作り直して「知能」に振り直す方法だ。

再度レベル1からのやり直しだが、レベル3なら時間もかからないし一番確実な方法である。

しかし、ロールプレイするほどの彼女なら自身のキャラクターに愛着を持っているかもしれないし、初対面の俺がいきなりキャラクターを作り直せと言うのは口憚れる。


二つ目は今後レベルアップしたら「知能」に振ってしまう方法だ。

今までの「精神」に割り振った分を取り戻せない分、時間がかかる事がネックだし、やはり最初から「知能」を振り続けていたキャラクターに比べ能力的には若干後塵を拝す為、中途半端すぎてこの方法はダメだろう。


最後にこのままのステータスの振り方を変更しない方法だ。

はっきり言えば一番キツイ。

何か効率的な戦い方でも確立されていればいいんだけど……。


スキルウインドウを開いて、もし「精神」にステータスを割り振った場合のマジシャンのスキル構成について考え直す。

「精神」の数値が直接影響するスキルもゼロではない。

「メンタル・バースト」――自身を中心に一定範囲の敵を攻撃するスキルは「精神」に威力が依存する。

だがそのスキルはかなりレベルを上げないと覚えられないので、その間をどうするか……。


考えろ――散々昨日スキルは見てきたんだ。

火力の低い彼女でもパーティーで貢献したり一人で戦える方法は本当に無いのか――?




……あった。

これらのスキルならば「知能」にも「精神」にも依存しない。

幸いスキル取得経路も「メンタル・バースト」を取得できるルートにあるため問題は無いだろう。


あとは彼女の、アレクシア様の選択次第だ。


「アレクシア様」


俺の声に二対の視線が集まる。


「今のまま強くなりたいか」


今のステータスの振り方のままで強くなりたいのだろうか。

首を横に振るのなら例え何を言われてもキャラクター削除を奨めよう。

だがもし首を縦に振るのなら――。


「……強くなれるのですか?」


「方法はある。ある魔法スキルを覚えれば今よりずっと強くなれる」


アレクシア様は俯き逡巡する。

イレーヌさんの視線が圧力を増すのを感じたが気にしない。

険悪な雰囲気の中、アレクシア様は微かに、でも確かに頷いた。


だったら答えは一つだ。

彼女に期待させたのは俺の言葉だ。

俺の我が儘と言っていい。

だから最後まで責任を持って見守ろう。

彼女がこのゲームを楽しいと感じて本当の意味で笑えるその時まで――。

「今のまま強くなりたいか」


この言葉だけだと意味が不明ですが次回で説明します。

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