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第十七話 オープンβテスト

Another Worldのクローズドβテスト終了から二週間、ようやくオープンβテストが始まる。


このクローズドβテストとオープンβテストの最も大きな違いはテスターとなるユーザーの人数制限の有無だろう。

クローズドβテストはテスターの人数が制限されていて、オープンβテストは人数の制限はない。

開発者ではないのであくまで私見ではあるが、クローズドβテストはゲームの進行に致命的な障害が無いかどうかをチェックする事に重きを置き、オープンβテストはより正式サービスに近い形で運用することにより、サーバーへの負荷やゲームバランスの微調整と正式サービスを意識したテストになっているのかもしれない。


オープンβテストは一ヶ月半。やや中途半端な期間に感じるが、この計算でいくと正式サービス開始は7月の中旬。つまりは学生の夏休みに合わせて開始する事を狙っているんだろう。


ただ世界初のVRMMORPGなのに、こんなタイトなスケジュールで大丈夫なのかな。

未知のゲームシステムな訳だからどんな不具合があるかわからないだろうしもっと長くてもいいような気がするんだが。

まあオンラインゲームは据置のゲーム機とは違ってソフトウェアを更新できる――ゲームの修正ができるので後々問題が起きても修正できるから、余程致命的な不具合がなければ多少不具合が残っていてもサービスを開始することは少なくない。

昔のMMORPGで正式サービスは始まったけど不具合が多過ぎて「お金を払ってβテストをさせられている」とユーザーが怒りの声を上げて運営のサポート用掲示板が大炎上した事もある。

Another Worldではそうした問題が発生しないで欲しいな。


さっきも言ったようにゲームの修正を行うために先程からソフトウェアの更新――アップデートが行われている。

結構時間がかかっているから、クローズドβテストで見付かった不具合や新機能の追加が多いようだ。

更新を待ちながらAnother Worldの公式サイトを目を通す。更新された内容を見るためだ。


やはり不具合の修正が多いが幾つか新機能も追加や仕様変更もされている。

不具合の修正は項目が多過ぎて全てに目を通すのは面倒だったので、新機能と仕様変更に目を通した。

新機能の追加の一つはプレゼントインベントリの追加だ。

これは受け取り専用のアイテムインベントリで、課金アイテムやイベントなどで運営から配布されるアイテムを格納するものだそうだ。

課金アイテム――ユーザーがゲーム内で使用できるアイテムを現実の通貨で購入できるアイテムの事である。

例えば他のゲームだと課金アイテムには一定時間取得できる経験値を2倍に増やしたり、移動速度を上げる乗り物といった戦闘などで役立つアイテムや、ステータスやスキルをステータスポイントやスキルポイントに戻して、ステータスやスキルを振り直すリセットアイテム、防具とは異なったキャラクターの見た目を装飾するアイテムなどが存在する。


まだβテスト中で課金アイテムは購入できずどのようなアイテムがあるのかは詳細不明だが、オープンβテスト参加者にはテスト参加のお礼として経験値取得2倍のアイテム「祝福の書」が五つ配られるようだ。

なんともありがたいものである。


また一部バッドステータスに仕様の変更があるらしい。

バッドステータスとは状態異常、つまり戦闘が不利になる状態のことだ。

バッドステータスは毒、火傷、鈍足、麻痺、睡眠、封印が存在する。


毒、火傷は一定時間持続ダメージ――DoT(Damage over Time)を受ける状態の事だ。その毒に仕様の変更が起きている。

ダメージ量や持続時間の下方修正とスキル毎によって別の毒を喰らった状態になるように修正されたのだ。

つまり相手を毒状態にするスキルがAとBの二つ存在しそのスキルを使われ毒の状態異常になった場合、AのDoTとBのDoTを両方受けなくてはならなくなるのだ。

ただし解毒に関してはスキルや解毒剤を使うことで全て解消できる仕様になっている。

HPの低い職業は頭の痛い仕様変更でありアサシンやハンターといった毒スキルが多彩にある職業には朗報だろう。


鈍足はその名の通り移動速度が低下する。マジシャン系ならば水属性でも氷を扱う魔法を使うと稀に鈍足状態させる事ができる。


麻痺と睡眠はそれぞれ身動きが取れ無くなる状態異常の事だ。

麻痺は一定時間身動きが取れず、睡眠も同様だが一度ダメージを喰らえば起きて行動ができる。


最後の封印はスキルが一定時間使用できなくなるスキルだ。

魔法スキル主体の俺は是非とも回避しなければならない状態である。


尤も麻痺や睡眠以外は回復薬が存在するのでそれを購入すればいい話で対応策はある。

麻痺やら睡眠もヒーラーから状態回復スキルを使って貰えれば回復はできるのだ。

序盤はそんな状態異常スキルを使うモンスターはいないのでその頃までにパーティープレイできていれば問題ないが。

……パーティー組めるのかなあ……。

クローズドβでも結局一回しかパーティー組めなかったしな。

ううん、……まあネガティブに考えても仕方ない。

オープンβは積極的にいこう。


オープンβもマジシャンでプレイするつもりだ。

今回は「祝福の書」もあるわけだし、クローズドβテストによって得られたモンスターを狩りやすい狩場の情報も攻略wikiに存在するわけで上手くいけば二次職に転職できるかもしれない。


二次職とは一次職――俺でいうとマジシャンよりもより強力なスキルを習得する事ができる職業の事だ。

条件は一次職でレベル50に到達しなければならず、更に対応する二次職の転職クエストをクリアしなければ転職できない。

また、二次職は戦闘系の一次職であれば3つの中から選ぶ事ができる。

例えばウォーリアーの場合、攻守に優れたナイト、防御力が高くヒーラー系魔法スキルが使えるパラディン、防御力は低いが攻撃スキルに特化したバーサーカーが存在する。

マジシャンも当然二次職は三種類存在するのだ。


一つはウィザード。

これはマジシャンの長所を突き詰めた職業で、大火力の魔法スキルを活かした魔法使いの職業だ。

対集団戦に置いては全職業最強と目されている。


二つ目はセージ。

マジシャンとはうって変わって攻撃スキルは乏しいが、味方へのバフや敵へのデバフ(能力を弱体化させる事)のスキルを持ち合わせている。

個人で戦うのは苦手だが、パーティーで戦うと総合的な火力が上昇するタイプの職業らしい。


三つ目はサモナーである。

召喚獣を異界から召喚し戦わせる職業だ。

召喚獣だけに戦わせるわけではなく自分でも戦う事ができるので、個人戦では先の職に比べれば強く手数で敵を翻弄する戦い方ができるらしい。


どれも魅力的な職業だ。攻略wikiでのオススメの職業はセージである。

セージのバフはヒーラー系のバフとは別扱いになり、パーティーに所属するメンバー全てに効果があるため、パーティーの総合的に火力を上げる事ができるからだろう。

パーティーメンバーとしても自身の能力が上がって活躍できたほうが楽しいだろうしな。


しかし……実際のところセージの育成は厳しいだろうというのが俺の所感だ。

何故ならばセージのスキルは「精神」のステータスに依存するものが多いからである。


「精神」それから「知能」のステータスはMPの上昇や魔法系スキルや魔法攻撃力、魔法防御力に影響を及ぼす。

「精神」は魔法防御力を大きく上昇させ、主に回復系スキルやバフ系スキルの効果に影響する。

「知能」は魔法攻撃力を大きく上昇させ、主に攻撃系スキルの効果に影響する。

「精神」を上げても魔法攻撃力は上がるが「知能」ほどは上昇せず逆もまた同様の結果になるのだ。

スキルに注釈が無ければその法則に従ってスキルの威力が決定する。


つまりセージのスキルは「精神」に依存して威力が変動するのに対し、一次職のマジシャンは「知能」が高くないとスキルの威力が下がるためスキルを十二分に活用するためのステータスが相反しているのである。

ステータスは一度振ってしまえば二度と変更できない現状では、セージに転職するつもりなら最初から「精神」にステータスポイントを割り振るぐらいしか方法しかない。

だがマジシャン最初のスキル「マナ・ボルト」からして「知能」の数値で威力が増減するのだから、序盤から育成が大変なのは目に見えているのだ。


そう考えると少なくとも今回に限ってはセージを目指すのは止したほうがいいな。

となるとウィザードかサモナーのどちらかになるか……。

それぞれに欠点もある。

ウィザードはスキルは強力なのだが、詠唱、再詠唱に時間がかかり過ぎる欠点があるし、サモナーは召喚中は常にMPを消費するためMPが枯渇しやすいといった欠点があるのだ。

ううむどうするか。

両方のスキルを比較しつつ考え込む。

こう、スキル構成を考えるのはなかなか楽しい。

限られたスキルポイントで如何に「ぼくの考えた最強のスキル構成」が実現できるかと妄想するのは何も俺だけではない。

実際ああだこうだとAnother Worldの掲示板での議論は白熱している。

そんな掲示板に書き込んでいる一部の有志によって既に非公式のスキルシミュレーターが作られていた。

これはレベルに応じてどのスキルを取得するかシミュレートすることができるのだ。

それを使いつつ、うんうん唸りながらジクソーパズルのピースを当て嵌めるようにしながら双方のスキルのスキルを見比べること10分。

いじくり倒しているとふと気付いた事があった。

これならもしかして欠点を潰す事ができるんじゃないか、と。

もしかして、と思いスキルシミュレーターを操作していく。

――まるでピースがキチンと嵌まるかのように想像したスキル構成がキッチリと当て嵌まった。

ふ、ふふふ。いいじゃないか。これは。

確かに必要となるスキルポイントが多いため完成にはかなりレベル上げが必要で期限付きのオープンβでは到達できないかもしれない。

だが面白そうだしやって見る価値はあるだろう。


目標も定まり悦に浸っている頃、ようやくアップデートが終了した。

よーし、早速やるぞー。

ログインし、キャラクターの設定を行っていく。

クローズドβのキャラクターデータは削除されたので一から作り直しだ。名前は勿論ケイオスで、と。

キャラクターの設定は性別や容姿を変更することができる。

前はなるべく自分の容姿に似せたから今回もそれに合わせる。

作り上げたキャラクターを見てちょっと悪戯心が沸き、体重のパラメータを一気に増加させる。

途端にドンとふくよかになる体をみて思わず吹き出してしまった。

うわー、俺って太ったらこんな感じになるんだな。

尤もステータス上では変化しないし、痩せていようと太っていようと関係はない。

機敏な太っちょシーフや幼女ウォーリアーなんてのもやろうと思えばできるのだ。


せっかくだからと思い髪型をメガ盛り風にしてみたり、銀髪オッドアイにしてみたり色々実験してみる。

最終的には身長より高くそびえ立つ髪を有した太った変なキャラクターが出来上がっていた。

やばい設定いじりすぎた。

ええと、体重を戻して髪型を変えて……と。元に戻ったかな?

気を取り直していくぞっと。


開始しようとすると、スタート地点の選択肢が現れる。

マウクト、シュトルブリュッセン、クレルモンの三つから選べるようだ。

マウクトはカスタル王国の首都だったはず。

シュトルブリュッセンはヴァイクセル帝国、クレルモンはコミューン連合国の都市だったと思う。

前回はいきなり何も無い森の中だったから街の傍に変更されているようである。

やっぱりあれもバグだったのかもしれないけれども。


カスタル王国はクローズドβで行ったから別の場所、シュトルブリュッセンにするか。

幸いヴァイクセル帝国周辺も攻略wikiには載っていたし。

さあ、新しい冒険の始まりだ!










カスタル王国で名を馳せた英雄ケイオスはエルダートレントを倒した後一時期行方不明であった。

当時の王であるウィルフレッドは彼を招聘する為に冒険者ギルドに彼の探索を依頼した。

しかし軍に同行していた冒険者からケイオスの存在が周囲に漏れ、恩賞目的で彼に成り済ました者が後を絶たたず、結果依頼が取り消された事が記録されている。


その同時期に隣国であるヴァイクセル帝国にも彼の名と同じ者が現れている。

しかし魔導師であり黒髪で容姿は似ていたのだが、青と黒のオッドアイであった事から当時目の色を変化させる事など技術的に不可能であった為に同名の別人として冒険者ギルドでは扱われた。

しかし彼が遺した功績から考えて英雄ケイオス本人ではないかというのが現在の有力な説である。


どうやって、何故目の色を変えたのか未だ学界でも論争が続いている。

有名になりすぎた為に身動きが取れなくなる事を嫌い秘術を用いて瞳の色を変えたという説があるが、それならばわざわざケイオスの名を名乗る必要があったのかと反論が起き、行方不明の間に何らかの事故があり魔眼を宿したのではないかという説や「ケイオス」と言う名は優秀な魔導師の集団の名称であり関係者ではあるが全くの別人だと突拍子もない説をあげる学者もいた。


現代においても誰もが知る英雄譚に登場する実在した英雄ケイオス。

彼が遺した謎は多く未だ全てを説き明かせてはいない。

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