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猫みたいに、  作者:
2/2

過ごしたいとは思ったけれど

『』の中身は猫語ということで。



茫然自失。

頭の中から覚えた受験用四文字熟語を引っ張り出すぐらい、たっぷり混乱して。

逃げた猫たちが恐る恐る戻って私の顔を覗き込み。

そして、下敷きにしていた大猫…というよりはかなりぽっちゃり系の猫を引っ張り出してから。彼らは横一直線に整列する。



『新しいボス!

 これから、よろしくお願いします!』



一糸乱れぬ礼…とは、言えない。

小さい猫が、勢い余って前に転がったから。


――そんな感じで、ボス、はじめました。







さてはて、野良猫の生活といえば、まず人は何を思い浮かべるだろうか。


一日中ダラダラ?

年がら年中自由気まま?



……うん、私もそう思う。


正確に言えば、そう思っていた。


けれど、世の中やっぱりそんなに甘くない。


ボスになってから数日で、私はそれを悟っていた。


人間においては生活に大切な三つの要素、衣食住。

猫にとっては基本、食住のみだが、それの確保がまた難しいのだ。


まず、食。 食べ物。 腹を満たすもの。猫になってから、まずはじめに諦めたのが人と同じような食事だった。

というか、食料の調達ですらどうすればいいか分からない。

ボスであることを盾に食料の要求も考えたけれど、前ボスはそれで求心力…いや、求猫力を失ったらしいのだ。

それを聞いてなお同じことをできるはずもなく、かと言って残飯を漁るほど人間も捨てられず。



次に住。

当然だけれども、屋根があるベッドの中で眠れるはずもなく。

しかも季節は冬真っ只中、毛皮があっても寒いものは寒い。

しかも私、猫としては小柄で痩せっぽちらしいから、なおさらだ。



これは、と思った。


これは、人としての知識をフル稼働させなければ、生きていけない…!








狙うは飲食店。

人の良さそうなおばさん、もしくはウエイトレスである。


人が途切れた頃を見計らって、オープン席に座る彼女らに近寄って。


大切なのは可愛らしさ。

あとは庇護欲を掻き立てられればなお良しだ。



「あら、猫ちゃん」



第一印象は大切だ。

物影からひょこりと顔を出して、様子を伺ってみる。

そして、小首を傾げながらにゃあと鳴いた。 見よ、この角度!

恥を忍んでナワバリの猫たち相手に練習したのである。

可愛くないとは言わせない。


また、そんな可愛さアピールをする一方で、私はお姉さんたちの反応を見定めようとする。

古今東西、女子供は可愛いものが好きと相場は決まっているけれど、生物の好みだけは読めるものではない。


嫌悪の感情はないか、じっと観察しながらも近寄れば、彼女らは軽く手を伸ばしてくれる。

ここまでくれば、こちらのもの。


ごろごろ懐くも良し、ツンデレ風味にするりと近づき遠ざかりを繰り返しても良し。

けれど今日の私は、どちらでもない手段をとる。


ゆっくりと近寄って、ふんふんと匂いを嗅ぐ。

むむ、これは…ハンバーグソース?

とりあえず、近寄るが触らせないというスタンス。 これを保っていると……



「レイア、あのネコちゃんはまだ…いるわね。

 ほらほら、猫の大好きなお魚よ~」


そう、これなのだ!


人間だった私が思うに、人というのは届きそうなモノはそう簡単に諦めない。

しかも、目の前にソレがあるのなら尚更だ。


今みたいに、目の前には可愛らしい猫(私のことだ)が居て、けれど手を伸ばせば触れそうな所で逃げられる。

こっちに興味は持っているようなのに…となれば、なんとか触れたいと思ってくれるようで。


自慢じゃないけれど、この方法で食べ物を食べ損ねたことは、ない。



「ちょっと大きくないですか、それ…」

「だって他に無かったんだもの」



その手には小さめの鰤っぽい魚。

焦らない、焦らない…と思っても、どうしたって喉が鳴る。


皿ごと地面に置かれた瞬間、思わずかぶりついてしまっていた。



『んまーい!!』



と叫べども、聞こえるのはニャアだろう。

この体、どうやら味覚も猫になってしまっているようで、濃い味は中々体が受け付けてくれない。

生魚にも耐性のある野生の動物になっているのである。


おっと、忘れていた。

いったん魚を置いて、おばさんの方に体を寄せる。



「おやおや、可愛いねえ」

「あ、ずるーい!」



うんうん、焦らなくても大丈夫だよ、と思いながら、

手を差し出してきたお姉さんの方にも頭をぐりぐりと擦り付けた。

愛想を振りまいて、可愛さをアピールする。


そうして、ついと離れると、にゃんとひと鳴き。


かじったけれどもまだまだ身がある魚を銜え持ち、私はたったか住処へと向かった。




今日はまさしく大漁だ…!!




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