表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
姉に全てを奪われた追放令嬢、辺境の執政官になったので村を発展させます 〜犬人族の少女と始める辺境内政スローライフ〜  作者: 織部


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/13

歓迎の宴、出立の夜

広場の向こうでは、村人たちが料理や酒を並べ、楽器を手にした者たちが、音程の合わない演奏を始めている。

村娘たちは輪になり、演舞の段取りを確認していた。

まだ何も始まっていないのに、空気はすでに熱を帯びている。


そして私は、純白のドレスのまま、庭の会場に姿を現した。

私を見た村人たちは、息を呑んだように静まり返った。


「……似合わないのかな」

小さく呟き、恥ずかしさに視線を落とす。

「なんて美しいんだ!」

なぜか、カリオンの大声が響く。


どうして、あいつがいるのだ。

遅れて、大きな拍手が起こった。

「あ、す、すみません。司会のマークスです」

「おい、しっかりしろ! 見惚れてるな!」


村人たちの笑い声が広がる。

「し、執政官様から一言、いただきます!」

おどおどと、彼は声を張った。

私は、顔を上げる。


ロン爺や、初めて見る顔もいる。

皆、こちらを見ていた。

そこに、不信や嫌悪はない。

この人たちは――私が護る人たちだ。


「ご紹介にあずかりました。執政官のシズカです。未熟な点も多いですが、この領地の発展と、皆様の幸せのために働きます」

そして、乾杯。

私の歓迎会が、始まった。


私の前には、途切れることなく村人の列ができていた。

祝いの言葉、感謝の言葉、世間話。どれも温かいが、長い。

その横で、エレノアが静かに列を捌いている。


話が長くなりそうな相手には、自然と一歩前に出て、柔らかく区切る。

手慣れたものだ。

料理の匂いが、風に乗って漂ってきた。


どれも美味しそうだが、今は食べる暇がない。

それに、ドレスを汚す未来が容易に想像できた。

「クロエは、先に食べておいで」

「いえ……」

クロエはそう言いながら、一瞬エレノアの顔色をうかがった。


「シズカお嬢様。そろそろ席につきましょう。少しは腹に入れませんと。クロエ、取ってきなさい」

「はーい!」

返事と同時に、尻尾が勢いよく揺れた。

嬉しそうに駆けていく後ろ姿を見て、思わず頬が緩む。


「クロエを甘やかしすぎかな?」

「そうですね。結果としてシズカお嬢様が、ご自分にも優しくなれるので賛成ですが……時と場合です。ここは公式の場です」

正論だった。


「エレノアの言う通りね。……そういえば、私を甘やかしてくれたの、貴女だけだったわね」

幼い頃の記憶が、ふと蘇る。

まだ彼女が、私だけのメイドだった頃。


「そうでしたか?」

本気で覚えていない顔だ。ただ、彼女は優秀すぎた。すぐに昇進し、私の元を離れた。

――結局、彼女にとっては仕事だったのだろう。


『我が家の愛情は、すべて妹に注がれていた』

それは、私が認めたくなかった事実だ。

アカリは、私より幼い頃に前世の記憶を取り戻し、大人たちを巧みに操った。仮病や怪我で心配を引き、甘え、愛情を独占していった。


「エレは、自分が甘やかしたとは思ってないだけですよ」

いつの間にか、レオナールが会話に割り込んできた。

屋敷の入り口階段の上に席を作りながら、肩をすくめる。


その言葉に、珍しくエレノアが目を伏せた。

クロエが料理を運んできた。一目で分かる。つまみ食いをしてきたのだ。私はハンカチを取り、口元を拭ってやる。


「違うよ! 味見しただけ!」

「ありがとう。選んでくれて」

「うん! シズカ、一杯食べさせる!」

尻尾を振り、目をくりくりさせる。

……本当に可愛い。


やがて、楽器の演奏が始まった。

「一曲、踊ってくれませんか」

声をかけてきたのは、カリオンだった。

その目は真剣で、冗談の色はない。

私は断れなかった。


貴族令嬢の端くれとして、一応は踊れる。

いつも私は壁の花で、姉は社交界の華だったが。

村人たちが自然と輪を作り、庭の中央が空いた。踏み固められた土が、即席の舞踏場になる。

彼が、私の手を取る。


「楽しみましょう」

そこに、いつもの冷たい表情はなかった。

「……酔ってるの? これから討伐でしょ?」

「そんなものは余興だ。安心しろ。今が本番さ」

「馬鹿なの?」

彼のダンスは、とても上手かった。


私の拙さを、すべて計算に入れている。

「僕を信じて」

彼のリードに身を任せると、踊れる人間になった気がした。

彼の手が、常に私を支えている。いつの間にか、曲は地方の民族舞踊へと変わる。


「知らないわ」

「俺だって知らない。真似しよう」

 村人たちの動きを見ながら、無心で踊る。考えるのをやめると、不思議と楽しかった。

視線の端で、クロエが村人に混じって踊っているのが見えた。


私の疲れを察したのだろう。

「ありがとうございました」

彼は爽やかにボウをし、私はカーテシーで返した。席に戻ると、エレノアが黙って茶を注いでくれた。

「ワインが飲みたいところだけど……」

「今夜は我慢です」

「わかってるわ」

 既に、この後の予定を、エレノアたちに話してある。


 やがて、村に伝わる歌が合唱され、宴は終わった。村人たちは各々片付けをし、挨拶をして去っていく。

「困ったわね。寝具すらここにはないわ」

「いえ。既に部屋に運び入れております。申し訳ありませんが、お古です」

 急ぎ必要な生活用品は、村人から買い取ったらしい。二人とも、仕事が早い。


「カリオンは?」

「外におります」

階段に、彼はいた。

チーズをつまみに、ワインを飲んでいる。

「そろそろ出発でしょ。そのくらいにしなさい」

「わかった。執政官様たちも準備してくれ。……少し醒ましてくる」


彼は井戸へ向かって歩き出した。

本当は、「ありがとう」と伝えたかった。

でも、声は小さすぎて届かなかった。

「ん?」

振り返った彼に、首を振る。


「そうだ。さっきは楽しかった。ありがとう」

そう言って、裏庭へ消えた。

私は寝室に戻り、暗視の目薬をさして冒険者の装備に着替える。

クロエが震えているのに気づき、手を握る。


「あの指輪がある。大丈夫」

「違う……シズカに何かあったら嫌。離れ離れになるのが嫌」

 抱きしめると、彼女の震えは止まった。

峠までは、レオナールが馬車を出してくれる。


「ここで待っています」

「心強いわ」

 最悪でも、ここまで戻ればいい。ウルフェンハルト家の家宰は、名だけではない。武を持つ名前だ。

「ははは、そんな心配はいらない」


カリオンの声が、夜に溶ける。私たちは、彼について森へ入った。


お読み頂きありがとうございます!


明日も、20時更新します。

フォローお願いします。


モチベーションがあがります。ぜひ!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ