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姉に全てを奪われた追放令嬢、辺境の執政官になったので村を発展させます 〜犬人族の少女と始める辺境内政スローライフ〜  作者: 織部


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執政官の巡回


翌日、私たちが屋敷に到着すると、すでに数十人もの村人が集まり、出迎えてくれていた。

「こんなに村人が来てくれるなんて……」


 ひと通り挨拶を終えると、私はマークスに村の人口について尋ねた。

「そうですね。どれくらいでしょうか? 正式な数字は知りませんが、このところ増えているので、数百じゃないですか?」


「そんなにですか?」

 私は首を捻り、リュックから『ワールドエンド報告書』を取り出した。

 それは、私が追放されたその足で役所を回り、自ら作り上げたものだ。


 役所の人たちとは魔物討伐の兵站担当をしていて仲が良かったため、彼らは進んで資料を集めてくれた。

 前世での経験や知識が役に立ち、彼らとは有意義な議論ができていたと思う。


 それに私は、他の貴族たちと違って傲慢な態度も取らず、無理も言わなかったことで、彼らの信任も得ていた。

「残念、というのは失礼ですが……シズカ様がいなくなるとは……」


「遠いけど、ぜひ遊びに来てね。来てもらえるような村にするから」

「はい、みんなで行きます」

 別れを惜しんで、泣いてくれた女性職員もいた。

 報告書に書かれた人口は、四十九人。もちろん最新だ。


「やはり記憶通りね。……ミラーは、まだ来ていないのかしら?」

「呼びに行きましょうか?」

 行動の早いマークスは、すでに荷馬車へ向かおうとしていた。


「待って。ここはアレンに任せて、私も行くわ。村も見て回りたいし」

「執政官殿の巡回ですね。それなら、領地旗を付けましょう。荷馬車ですが」


 倉庫で見つけた「ウルフェンハルト領ワールドエンドの旗」を、アレンたちが汚れを落とし、荷馬車に取り付けた。

 村人たちから拍手が起きる。

「美しい旗ですね!」


「子供の頃に見たことがある」

 旗には、ウルフェンハルトの守護獣である白き牙狼と、エベレスの地が描かれていた。

 四大公爵家の中で、最も古い歴史を持つウルフェンハルト。


 その起こりは、僻地であり飛び地でもあるワールドエンド。

 起源の地だからこそ、価値のほとんどない土地であっても手放さない。それが誇りだった。


 これまでマークスの牧場と私の屋敷を往復するだけだったため、村を見て回るのは初めてだった。

 村はエベレス山脈の麓一帯に広がり、思っていた以上に広い。


「何をしているのですか?」

「役所の地図が古くて役に立たないの。数年に一度は作り直す決まりなんだけどね」

 地図に新しい道や田畑、住居を書き込む私を、クロエとマークスが珍しそうに見ていた。


「何もやっていなかったんですね。ミラーって」

 クロエは思ったことを口にし、マークスは一瞬、難しい顔をした。

「それも、これまでよ」

 私は、すでに決断していた。


「それじゃあ、まずは長老たちに会いに行きましょう」

 マークスから村の有力者について話を聞いているうちに、最長老の屋敷へと辿り着いた。


 年季の入った門構えが、この村での彼の立場を無言で物語っている。

「少しお待ちください。呼んできますから」

「いえ、こちらから伺います。事前の連絡もしていませんし……」


 そう言って、私はマークスの後に続いた。

「ロン爺さん! 執政官様が挨拶に来られましたよ!」

 その声に応えるように――いや、待ち構えていたかのように、老人はすでに門前に立っていた。


 仁王立ちで腕を組み、隠す気もない敵意をこちらへ向けてくる。

「マークス、お前は相変わらず人が良いな」

 低く、刺すような声だった。


「何もできない小娘が来た、という話はとっくに聞いておる。まあ、わしら村人に迷惑さえかけなければ、それでいい。大人しくしておれ」

 吐き捨てるように言い放つと、老人は背を向け、屋敷へ戻ろうと歩き出した。


「――ちょっと待って、爺ちゃん」

 その前に、小さな影が素早く回り込んだ。

 クロエだ。

「何も、わしには用はない。とっとと帰ってくれ」

「……あなたは、シズカ様の何を知っているですか?」


 震える声。それでも、クロエは一歩も退かなかった。

 拳をぎゅっと握りしめ、必死に言葉を紡ぐ。

「主様は……頑張り屋で……とても優しい人です。いつも、自分のことは後回しにして……誰かを守ろうとするです。だから……知らない人が、悪く言うの……いやです」


 一度、息を吸い込み――

「主様は……そんな人じゃないです」

 その叫びが、空気を震わせた瞬間だった。

 屋敷の奥から、数匹の犬が飛び出してきた。ロンの飼い犬たちだ。


「ガルル……!」

「ワオーン!」

 牙を剥き、唸り声を上げながら――


 彼らは、主人であるはずの老人へ向かって吠えていた。

 怒りと拒絶を、はっきりと示すその姿に、ロンは言葉を失う。

 小刻みに震えるクロエの肩を、私はそっと抱き寄せた。


「もういいのよ。帰りましょう」

「挨拶は……済ませたもの」

 すると犬たちは踵を返し、今度は私の足元へと集まった。

 体を擦りつけ、尻尾を振り、疑いのない親愛を向けてくる。


「……待て」

 掠れた声で、老人が呟いた。

「わしの犬が……わしに向かって吠えるなど、今まで一度もなかった。こやつらは……何を、言っておるんだ?」


「じいちゃん」

 クロエは腕を組み、まっすぐに問い返す。

「この子たちが、何を言いたいのか……わからないの?」


 クロエの言葉に、長老のロンは沈黙した。


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