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姉に全てを奪われた追放令嬢、辺境の執政官になったので村を発展させます 〜犬人族の少女と始める辺境内政スローライフ〜  作者: 織部


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奴隷狩りの騎士

本日三話目です。

翌日の朝、屋敷に向かうと、そこにはワールドエンドの村人が、何人も集まって待っていた。

「全員ではありませんが、声をかけてまして。だけど少ないな……」


 集まったのは、十人ほどだ。

「さて、どこから取り掛かりましょうか?」

 辺境の村民は、自分たちで小屋や屋敷の修理をしてしまう。慣れたものらしく、私が指示を出す前に、すでに屋敷の点検を終えていた。


床を踏み、壁を叩き、天井を見上げる。その動きに、無駄がない。

「さて、執政官殿。お打ち合わせをしましょう。こちらへ」


青年のドワーフ、アレンが、片付いた食卓の上座へと私を招いた。

工房と建築を生業にしているらしい。手には、すでに簡単な図面がある。

村人たちから、各自が点検した箇所の報告が始まった。


「必要品と買い出しリストは僕が作るよ」

それは、ルナの村に降り立った時に見かけた、研究者風の若者プロストだった。

「やはり、壁紙は張り替えた方がいい。執政官殿、好きな色味やデザインは?」

「特に……」

「王都から取り寄せることも出来ますよ!」

「安ければ……」

熱のこもった議論が交わされ、リストは次々と増えていく。


私は、少しずつ焦りを覚え始めた。

「ちょっと待って下さい。予算があるので……」

「そうですね。ミラーさんに聞かないと……あれ? まだ来てないのか?」


 その一言で、村人たちはようやく、彼がいないことに気づいた。

「昨日の夜、ルーナに向かって行ったのを見たぞ! どうせ、焦って寝具を買いに行ったのさ!」

「ははは、違いない。でも、焦る奴を見たかったな」


「徴税の時の鬼の形相しか、知らないからな」

笑い声が上がる。不在を知り、揶揄ってるように見えるが、言葉の端々に棘がある。

 彼は嫌われているのだろう。鈍感な私でも、感じ取ってしまった。


午後になる前には、昼食を持って家族連れがやって来て、さらに人が増えた。

「ここは、私たちだけの屋敷じゃない。村の政治をするところだったわ」

 私は、考えを改める。


「初めまして、執政官様!」

「よくぞ、お越しになりました。執政官殿」

 次から次へと挨拶をされるが、人を見分けたり、顔と名前を覚えたりするのが苦手な私は、正直、困ってしまった。


「ご主人様、私が覚えておきますから安心してください!」

隣にいるクロエの声が、心強い。昼を過ぎると、さらに村人がやって来る。

私を値踏みするような視線を向ける者もいる。

マークスの牧場の者たちも、奥さんを除いて全員集まっていた。


その場にいる人数は、いつの間にか数十人に膨れ上がっていた。

「よし、どんどん作業をするぞ!」

アレンの指示のもと、雨漏りの修繕や床の張り替えが始まる。


必要な材料が次々と運び込まれ、庭に生えていた草も、あっという間に刈られていった。

「今日はこんなもんかな!」

 夕方には作業終了するのが、ワールドエンドらしい。


「明日も来れる人はよろしく! まだ、大勢来てないから声を掛けて! さ、今日も我が家へ」

「ズルいぞ! マークス。執政官殿、本日は我が家へ!」

そんなやり取りが繰り返されている、その時だった。


王国の騎士数人が、馬に乗って屋敷の前へと現れた。

空気が、一瞬で張り詰める。

「何の用ですか?」

私が声をかけても、彼らは私を一瞥しただけで、屋敷に集まる村人たちを見回している。


「お! そいつだ!」

一人の騎士が、クロエを指差した。

「どけ! そいつは奴隷だ。逃亡したらしいから、捕まえに来た」

クロエの顔が、はっきりと引き攣った。


私は即座に一歩前へ出て、彼女を背に庇う。

「ルーナ町の王国騎士団ですよね?」

「ああ、そうだ。我らは王国直属の騎士団だ。一般国民が偉そうにするな。特に辺鄙な村民の癖に!」


「王国では、奴隷制度は禁止されています。ですから逃亡ではなく解放です。法律を知らないのですか?」

「はぁ、そんな法律知らんな。痛い目にあいたいのか! 逃亡犯を匿ったお前も罪人だ!」


騎士たちは馬を降り、剣を抜いた。

だが、その動きには迷いがある。

私は戦闘など出来ないが、魔物との戦闘の場には幾度も立ち会ってきた。


これは殺意ではない。ただのこけおどしだ。

「私は、ワールドエンドの執政官。この地は、ウルフェンハルト侯爵領。そして、ここは執政官の官邸です。ここで剣を抜いて、私に向ける意味……分かりますか?」


「ふざけるな! そんな出まかせ!」

そう言いながらも、騎士たちは慌てて敷地の外へ下がり、剣を収めた。

「執政官様、任命状をお見せしてはどうですか?」

マークスが、小声で提案する。


「侯爵様からの書状は、簡単に見せびらかす物ではありません。そんな物より……」

私は、見せかけの剣を抜かずに、騎士たちの首領の目の前へ掲げた。


「あ……ウルフェンハルトの紋章」

見せかけの剣も、少しは役に立つ。

武の者には、武の言葉が通じる。

「先ほどの話ですが。奴隷が逃げたとか何とか……私の従者を指差して、随分と失礼ですね」


「申し訳ございません。人違いでした。奴隷など認めておりません。ここへは、挨拶に来ただけです。帰るぞ!」

「いや、人違いじゃ……」

余計なことを言いかけた部下を殴りつけ、騎士は馬に乗ると、逃げるように去って行った。


「はぁ、挨拶もせずに。困ったものね。きっと、奴隷商人に小銭で頼まれたのでしょう」

「怖かった……」

泣き出したクロエを、私は強く抱きしめた。

私だって、怖い。


何が怖いって、彼女が私の側からいなくなることだ。

「皆さん、ごめんなさいね」

揉め事を起こしてしまったことを、村人たちに謝罪する。

「いいえ、これが執政官様のお力なんですね!」

「あの、ごろつき騎士兵長の顔、見たか? もうルーナの連中は好き勝手できないぞ!」


村人たちは、思い思いに声を上げた。

「おい、みんな! 明日の夜は、執政官様の歓迎会だ!」

マークスの音頭に、村人たちが応える。

「おー!」

「やった! 好きな酒が好きなだけだ!」

私は、この村の執政官だ。


守るべきものが、はっきりと輪郭を持って見え始めていた。


もしよろしければ、フォローをして頂けると幸いです。明日より、毎日20時投稿致します。

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