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姉に全てを奪われた追放令嬢、辺境の村を再建します〜愛犬が転生した犬人少女と始める内政スローライフ〜  作者: 織部


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エレノア 下


「エレノア、貴女には家政長の立場として、家全体を見てもらうわ!」

 侯爵の妻である、シズカたちの母が言った。ウルフェンハルト家の使用人たちの世代交代を行ったのだ。


「どうしてですか?」

「やはり、感性が古いと駄目なのよ。貴女のように、遊学し、一流の専門家から学んだ者の知見が無いと……」


 だが、それはアカリの発案のようだった。エレノアは、口にこそ出さなかったが、ウルフェンハルト家の時代遅れの古臭さを感じていた。


「恐ろしい子だ」

 人を使うのが上手いが、容赦も無い。

 主人に発令された以上、職務に就く。だが、シズカのことが、心配だった。彼女には、気のおけるメイドがいない。


 質素で、遊ばず、本を読むだけの地味な彼女に仕えるメイドたちは暇そうにしていたし、つまらなそうだ。だがその本も、ただの娯楽ではなく、魔物の生態や戦術書といった実務的なものばかりであることを、エレノアはまだ深く理解していなかった。


「席を外していいわ。用があったら呼ぶから」

「わかりました」

 一方、アカリは、他の令嬢たちとの茶会、ハイキングなどの行事が定期的に行われていた。メイドたちは絶えず準備に追われる。


 結果、アカリのメイドを増やし、シズカのメイドを減らす。エレノアも、対応する時間を取られ、シズカを見れる時間は無かった。

 やっと暇ができて、シズカの部屋を訪ねた。


「シズカ様、新しいお召し物の準備を?」

「お姉様の着なくなった物を直してくれれば充分よ。余ってるでしょ。勿体無いわ」

 アカリの浪費も、シズカの倹約で助かっている。レオに予算追加を要請して、嫌な顔をされなくて済んでいるのも事実。だが、バランスが悪すぎる。家としての在り方が歪んでいるように思えた。


「何か欲しい物は?」

「特に無いわ。でも、私、魔物討伐隊に参加するから、冒険者の服が欲しいわ。安くていいわ。丈夫な物」


「魔物討伐隊ですか……わかりました」

 彼女が、新しい一歩を踏み出そうとしている。最上級の物を手配しようと決めた。

「ええ、それとポーション類一式。お金使わせてごめんなさい!」

「シズカお嬢様は、ウルフェンハルト家の令嬢です。準備せねば、家が恥をかきます」


 こう言えば、彼女も気が楽になる筈。彼女の身の安全のために、薬を手配する。通常の市販品ではなく、軍用にも回される特級品を――エレノアは心に決めた。


 侯爵令嬢が、前線やダンジョンに潜ることは無いはずだ。だが、不安で堪らない。

「行ってらっしゃいませ!」

 どんな大事な用があろうが、エレノアは魔物討伐に出かけるシズカを必ず屋敷で見送ることに決めた。


 その日は、四大侯爵家の後継者と目される者たちの集いだった。

「おい! アカリ、お前の妹。魔物討伐隊なんだって? 魔術凄いのか?」

 南部侯爵の子息で、アカリの一学年上の男が聞いた。


「使えないわ」

「はぁ、じゃあ、ただの人気稼ぎか。呆れるな」

 社交的で、明るい彼女が、珍しく怒った表情で、先輩の若者を睨みつけた。


「あのねぇ、私の前で、シズカのことを馬鹿にしないで。あの子を馬鹿にしていいのは、私だけ。それとあの子は頭が良いわ」

「ただの学科学年一位だろ。俺もお前もだろ?」

「違うわ。そう言う意味じゃない。彼女の本当の凄さを知っているのは、この大陸で私だけよ。そして、永遠に私の家来よ」


 その理由を言わず、アカリによって、話題はすり替えられた。

 アカリの茶会は、消音魔術によって普段は会話が聞こえない。だが、男性のいる会は消音魔術が禁止されている。


 だから、エレノアにも聞こえた。

「アカリも認めている、いや知っている」

 エレノアは、自分が見えていないことに、焦りを感じた。


 悔しい。どうすれば理解できるのか? レオに聞くなんて負けを認めることになる。

 彼女は変装して、冒険者ギルドに顔を出した。本来であれば、侯爵家の家政長が自ら足を運ぶなどあってはならない。身分が露見すれば、家の威信にも関わる。それでも確かめずにはいられなかった。


 そして、ギルドの中で、テーブルに腰掛けて酒を飲んでいる顔の広そうな剣士に声をかけた。

「シズカって子のこと聞きたいんだけど。教えてくれない?」

 テーブルの上に、すっと金貨一枚を置いた。かなりの大金だ。


「はぁ、シズカ、シズカ様のことか? 何を探ろうとしてるんだ? 教える訳ないだろう」

 剣士は、椅子から立ち上がり叫んだ。

 周りにいる冒険者たちが一斉にエレノアに注目する。しかも敵意を持って。


「おい! お前何者だ?」

「シズカ様を知らないとは、冒険者じゃないな」

「危害を加えようとしてたら許さんぞ!」

 エレノアはあっという間に、冒険者たちに囲まれた。うっすらと敵意と殺意すら感じる。


 ただの人気者ではない。ギルド長が慌ててやってくる。

「何をしてるんだ、お前たち?」

「いや、この女が、シズカ様のこと、探ってやがるんだ!」


「わかった。俺が尋問する」

 エレノアは、ギルド長に連行されて応接室にきた。彼女は変装を解き、名を名乗った。

「ウルフェンハルト侯爵家 家政長 エレノアです」

「はぁ? 何をやってるんですか? 私はギルド長 子爵のクリスです」


「ごめんなさい。シズカお嬢様が迷惑を掛けてないかなと」

 髭面のクリスは大笑いした。

「反対ですよ。ここにいる高位の冒険者は、魔物討伐に参加をしたことのある奴らばかりです。その時に、彼女に世話になったり、助けられたり」


「想像もつきません」

 クリスは、シズカの貢献を熱く語った。

「このギルドにもよく顔を出して頂いてます。冒険者の奴らの相談に乗ったり、援助をしたり。すいません。それがギルドの仕事だと言われてしまうかもしれませんが」


「いいえ、よくわかりました。お騒がせしました」

「裏口からお帰りください。いつもポーションを補充してくれる家政長がいるとシズカ様から聞いてますよ」


 クリスは、裏口の扉を開けてくれた。

「やっと見えた。少しだけ」

 エレノアは嬉しくて、ほくそ笑んだ。


 シズカが屋敷に戻らず、ワールドエンドに向かったと聞いて、エレノアは動いた。

「急いで準備しないと。執政官の服をオーダーして。他に何がいるかしら……」


 荷台付きの馬車に荷物を載せ、御者を待った。

 もちろん、御者はあの男だ。今頃、主人と喧嘩してるだろう。


「御者がいないのよ。誰が、ワールドエンドに運んでくれるのかしら?」


 そうやって、彼らは、シズカの元に向かった。


お読み頂きありがとうございます。とりあえず間章はここまで。


明日も20時すぎ更新予定です。

よろしくお願い申し上げます。

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