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姉に全てを奪われた追放令嬢、辺境の執政官になったので村を発展させます 〜犬人族の少女と始める辺境内政スローライフ〜  作者: 織部


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2/13

幽霊屋敷の執政官邸

新作 本日 二話目です。

「私は、朝ご飯お腹いっぱい食べてきたから、全部食べて。それと、傷を治すわ」

 クロに、クロエに世話を焼けるのが、とても嬉しい。


 彼女は微笑みながら、私にもたれ掛かり弁当を食べている。

 彼女の仕草にはどれも、クロの仕草がある。私が間違う筈がない。


「腐れ縁……運命の糸は素晴らしい」

 昨日とは正反対の言葉を、私は口にした。

 私は、クロエと手を繋ぎながら、峠を降った。


 峠から見えた町側の湖と、ワールドエンド側の牧場。

 そのどちらもが、今は同じ距離にあるように見えた。


「私がいなくなって、どうだった?」

「……寂しかった」

 クロエは、私の手を強く握ってきた。


 苦い過去を、思い出させてしまったのだろう。

「今度は、置いていかないよ」

「絶対だよ!」

 峠を降りて、私の屋敷を探す。


 宿の主人は、すぐにわかるよと言っていたが……。

 牧場で作業をしている、立派な体格の中年男に声をかける。


「すいません。ウルフェンハルトの屋敷は何処でしょうか?」

「ウルフェンハルトの屋敷だって……。あ、あの幽霊屋敷か。ところで、お前たち何者だ?」


 他所者への警戒感を露わにして、鍬を振り上げている。

「執政官になりました。シズカです。よろしくお願いします」


 私が名乗ると、彼は言葉遣いと態度を、急変させた。

「ん、そうか。失礼をしました。牧場主のマークスです。ちょっと待ってて下さい。ご案内します」


 荷馬車の御者傍席に乗せてもらい、村の中心にある屋敷へ向かう。

 クロエは、私の膝の上だ。


「仕事中なのに……」

「構いませんよ。ところで、王都からですか?」

 彼は、私のことを根掘り葉掘り聞きだそうとする。


 私の情報は、田舎特有の噂話として、あっという間に広がるだろう。

 だから、細心の注意を払って話す。

「はい。色々とわからないので、教えて下さい」

「執政官代理のミラーを紹介しますよ。つきました。ここです」


 屋敷の庭。

 草が伸びていて、屋敷の入り口が見えない。

 マークスは、荷台から鎌を取り出すと、手慣れた動作で道を作る。


「おじさん、私もやる!」

 クロエが、小走りをして、小さな鎌を借りて手伝う。

 可愛い。

 屋敷の入り口の扉を開ける。


 もわっと、中の埃が屋外に吐き出された。

 まさか、ここ迄酷いとは……。

「掃除道具を貸してもらえませんか?」

「もちろんです。どうぞ」


 マークスの荷台に積んである道具を一式借りた。

 彼は、私たちに道具を渡すと、ミラーを呼びに行くと言って立ち去ってしまった。


「さて、明るいうちにやりましょう!」

「はーい!」

 私たちは、スカーフを顔に巻いて、屋敷の掃除を始めた。


 ウルフェンハルトの別荘ほど広くはないが、それなりに部屋数はある二階建ての建物だ。

「洗い場と、調理場と、食卓。それと、寝室」

 今日の目標は決めた。


 掃除に熱中していると、馬車の音がした。

「えっと、執政官様。ミラーさんを連れて来ましたよ!」

 ミラーは、偏屈そうな背の低い年老いた男だった。


 焦った顔で、私を見た。

「屋敷の管理も、執政官代行の仕事だと聞いてましたが……」

 私は、挨拶もしない無礼な態度に、思わず口走った。


「そ、そうなんですが、いきなり来られても準備が……王都から書状も届いていませんし……」

「数日すれば届きますよ。急ぎ着任しましたので」

 私は一刻も早く、王都を離れたかった。


 だから、順番が逆になってしまったのかもしれない。

「疑ってはおりませんが、真偽の程が……」


 ――いや、それは疑っているだろう。

 私は、口に出しそうになるのを堪えた。まあ、そう言うだろうと、私は想定していた。


 やむなく、私はリュックから取り出した。

「数日すれば届きますよ。それと、ここに侯爵の任命書があります」

 それは、父が私へ投げつけた、絶縁状の一つだ。彼が官僚の端くれであれば、理解するだろう。


 実はもう一通、貰っている。だが、それは誰にも見せない。

「失礼しました。執政官」

「いえ、管理とは、いつでも使える状態にしておくことです。手伝って下さい!」


「ちっ」

 ミラーの舌打ちが、はっきりと聞こえた。

「じゃ、俺たちは、井戸が使えるようにするよ!」

 マークスは、場をなごますように、率先して作業に加わってくれた。


「助かるわ。マークス」

「お安いご用です。ミラーさん、やりましょう」

「はぁ」

 ミラーが、何も気を遣わないことには腹が立った。面白くないのだろう。彼の経歴を調べた私は、腹を立てなかった。


 寝具は、寝るのは無理な程、汚れていた。

「何度か洗濯するか……いっそ、新しく買うしかないかな」

「今日は、俺の家に泊まって下さい! 妻と娘も紹介したいですし」


 結局、マークスの家に泊まることになった。

 出迎えた三歳の子供、小さいマークスの娘ケーシーには、最初怖がられたが、すぐに打ち解けた。


 もふもふなクロエを、新しく与えられた人形のように、可愛がっている。

「歳を取れば、毛が抜けて、人に近くなるんだからね!」


 べたべたと触るケーシーの手を、振り払えず、クロエが根をあげている。

 彼女は、気を許したもの以外には触られたくない、孤高の存在なのだ。


 私も、首を振る。

「いや、そのままでいて欲しい」

「もう、ご主人様迄」

 クロは、嬉しそうに笑った。


 食堂で、牧場で働く若い男二人組の青年、妊娠しているマークスの妻と一緒に、食事をした。

 料理を出し終わると、若い女性の使用人二人も、席についた。


「執政官様、全員で一緒に夕食を取ることにしておりまして、お許し下さい」

「いえ。大人数での食事なんて、久しぶりで」

 この世界では勿論、前世でも、殆ど無い。大人数は苦手だったけど、そんな機会も無かった。もちろん、給食は除いてだけど。


 最初は、私のことを気にして、会話も少なかった。だが、マークスが「就任のお祝いです」と酒を振る舞ってからは、会話が弾んだ。


 マークスは、若い妻との馴れ初め話をし、私は、使用人たちから王都の流行について、あれこれ聞かれ答えた。流行に疎い私の答えは適当だったが。

「そろそろ、良い時間だ。解散しましょう。明日も早いしな」


 ケーシーは、とっくにソファで眠っている。

 私たちは、時折、牛たちが鳴く静かな牧場を、少し散歩することにした。

「シズカが、あんなに楽しそうに話すなんて」


 クロエが、耳を動かしながら、私を見る。

「そうかしら。相手に合わせて、いただけだよ」

 でも、そうかもしれない。


 澄んだ夜空には、双子の小さな月が、連れ添って地上を照らしている。

 夏の初めとはいえ、夜になると肌寒いのが、ここ、ワールドエンドなのだ。


「さて、明日も屋敷の修理よ!」

「はーい! でもシズカと寝られて、幸せ」

 私もだよ。


 私は言葉に出さず、彼女の頭を撫でた。


 牧場の前を一台の馬車が町に向かって、土埃を立てて通り過ぎて行くのを、私は何気なく観ていた。


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