お姉様と呼ばれた日
「お口に合いますと良いのですが」
私のレシピを再現してるが、この地方の野菜を使ってるスープ、マークスの牧場の牛乳とチーズ、エレノア特製のパン、果物は、ベリーとさくらんぼ。
「シズカ様もお食べ下さいね!」
「朝、食べたばかりなのに……」と言いたいところだが、エルフたちの手前そうもいかない。
エルフたちは、料理を前にして固まっている。
「さあ、頂きましょう?」
「は、はい。このスープは……」
「さっき、お話しした友人のラファとよく作ってたスープよ。もちろん、季節によって野菜は変わるけど。好きなものだけ食べてね」
エルフは、偏食だと思っている私は無理強いはしない。
スープを口にして、泣き出すエルフたち。私の困惑した顔に、セレディナが答える。
「故郷の味なんです。いえ、パンも美味しいです」
「この、果物も全て美味しいです」
その言葉に、私は少しだけ胸を撫で下ろした。
「良かった。遠慮せず食べてね」
何故、彼女たちが売られたのか。どういう経緯かは、まだ聞けていない。
きっと、簡単な話ではないのだろう。けれど私は、無理に聞き出すつもりはない。
心を開くのを、待つつもりだ。
「少なくとも、我が故郷の者と、シズカ様がご友人なのは間違いありません。失礼な態度を取り続け申し訳ありませんでした」
一族の最年長の男が謝り、他の者も続いた。
「いえ、さっきも言われたけど、ミラーは執政官代行、今回の罪は我が領のせい。だから償いをするのは当然です」
口にしながら、自分の立場の重みを改めて噛みしめる。
「それよりも、ラファの話を聞かせてください。シズカお姉様」
セレディナは、頬張りながら、私に言った。よく食べる子だ。まるでリスみたいだ。
え? お姉様って。思わず瞬きをする。けれど、悪い気はしなかった。
私は、ラファが魔物討伐で活躍した話を聞かせた。
「彼は、魔物を吹き飛ばすと、なんと岩をも削り、私たちは窮地を脱したの。あの時、彼がいなければ、私はここにいなかったかもしれない」
自分で言ってから、静かに息を吐く。
いつの間にか、全員が私の話を聞いている。そして、英雄の話を聞く子供のように目が輝いている。
英雄譚は、人の心を少しだけ強くする。しかも彼女たちの英雄だ。
「シズカ様、そろそろ……クロエもいつまでも食べてないで!」
エレノアの言葉で、エルフたちとの食事会は終了になった。
「はーい!」
テーブルの端で、何故か同じように食事をしていたクロエに私は笑ってしまった。こうして笑える時間があるだけでも、今の私は幸せだ。
「また、聞かせてください。ラファーガ様の暮らしぶりとか」
エルフたちは、しぶしぶ席を立つ。
「彼女たちは疲れてるから、部屋を準備してくれるかな? でも……」
獣人族と差別になってしまうかな。
執政官として、そこは慎重でなければならない。
「気になさる必要はありません。こちらの方は、シズカ様のご友人のお身内です。つまりお客様です。それと、我が領の被害者です」
「そうね。そこはきちんと説明しておかないとね」
「主様、私にお任せを!」
クロエが、獣人族のみんなに説明をしてくれるらしい。ちょっと心配だが、彼女は、信頼される種族らしいし問題無いだろう。
※
「執政官様、これはどうしたのですか?」
マークスが、アレンやプロストたちと、屋敷にやって来た。そして、私の屋敷にいる獣人やエルフを見て驚いている。
「今日は改築はお休みですよね」
「ええ、皆、ゆっくりしてたみたいですが、うちなんかは、牧場ですからね。それに、朝から、騎士団の往復を見ましたし……」
心配して誘い合わせて、駆けつけてくれたらしい。
もう、隠す必要はない。奴隷商人からの解放作戦は終わったから。
「そうですか、ご説明しましょう。応接室の方へ」
私は、彼らに昨日の夜から起きた事を説明し、協力をお願いした。
「ですので、しばらく彼らは、この領地に滞在します。お願いというのは、彼らの屋敷と仕事を準備すること、それと、余分の頂いていた税を皆さんにお返しすることです」
「やっぱりな、ミラーは、最初は大人しかったらしいが、最近ではやることが横暴だった。ウルフェンハルト本領へも直訴しようと話し合ってたんだ!」
ドワーフのアレンは、怒りを顕にした。
怒りがあるということは、この土地を大事に思っている証拠でもある。
「そうでしたか、ご迷惑をかけました。ワールドエンドの執政官としてお詫びします。税は、ウルフェンハルト家から借りてお返しします」
私は頭を下げる。
これは私の責任だ。
だが――
「やめてください! 執政官様。それに、税についてはそのうちで構いません。それよりも、前向きな話をしましょう」
お茶を持ってやって来たエレノアの眼光が鋭く光っていた。
前向きな話。そうだ、止まっている暇はない。
私の屋敷の周りは、ウルフェンハルト侯爵の管轄地なので、そこに獣人族の住む長屋を建てることを考えた。
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