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白守探偵事務所

20XX年某月某日―――世界は突如として異世界と融合した。


異世界。それはファンタジー作品などでお馴染みの言葉。

剣やら槍やらで冒険し、魔法で好き勝手やり、挙句の果てにはドラゴン討伐や魔王退治等々など。まさに夢の世界と言っていい所だ。


そんな世界と現実世界が融合した。


ケモミミを持つ獣人、美形ばかりのエルフ、火を噴くドラゴン、そして驚かせる妖怪等々etc・・・。

まさにファンタジーそのものと言わんばかりの人々の住む世界と人間の世界が突如として融合したのである(二度目)。


当然、両方の世界でそれは大きな混乱が生じた。


―――しかし世界が融合してから三十年。思いのほか新たな形の『人類』はなんやかんやで状況に適応してしまっている。


そんな混沌極まり、尚且つこれが日常な世界で、様々な『人』が暮らす都市『ホロブライト』は、今日も平常運転。

そのホロブライトに存在する『大空町』の風間通りに、一つの私立探偵事務所が存在する。

いろんな人の依頼を引き受け、それを解決する、探偵事務所とは名ばかりの『万事屋(なんでもや)』。


その名を『白守探偵事務所』。


今日も突然、誰かがその扉を叩く――――。



・・・・・



ホロブライト大空町風間通り。三階建てビルの二階。そこに白守探偵事務所の扉は存在する。


―――ズドォォォォォオン!!!


今、その扉が爆散した!

・・・・失礼、突然の事で読者も困惑している事だろう。

それでは事務所の中を見ていただこう。

「―――おい」

爆発で吹っ飛んだ事務所内。そこにいるのは三人の人影。

「なんで今スイッチ押した?ヤバイものだってわかってたよな?なのになんで押すの?バカなの?それとも謀反か下剋上か!?そんなにこの事務所吹っ飛ばしたかったのかァ!?」

この黒髪で辛気臭そうな顔をしている木刀を腰に差した男はこの探偵事務所の所長の『白守(しらかみ)終一(しゅういち)』。

「いや、だって『押せ』って書いてあったから押しただけだけど・・・」

その爆発の目の前で黒焦げになっているのは灰髪の少年、名を『(そら)』。

「けほっ、けほっ・・・もー!せっかくお洋服が焦げ焦げだよぉ・・・どうしてくれるの?」

ひっくり返っていたまま起き上がったのはピンク髪天真爛漫美少女『空条(くうじょう)なゆた』。


そう、この三人こそこの白守探偵事務所のメンバー。

ふざけた愉快な連中である。


「くっそ、片付けんのめんどくせー」

「ダメだよ。こんな場所、エレーナちゃんに見せられる?」

「エレーナの事は出すな」

「ねえ終一、これどこだっけ?」

「ああ?一体なに・・・どこから出てきたそれは」

いそいそと吹っ飛んだ部屋を元に戻そうと頑張る三人。穹が手に取ったのは言葉では形容できない謎の物体だった。

ちなみに何故この部屋が吹っ飛んだのかと言うと、謎のスイッチを穹が押したからである。

スイッチだけである。突然出現した。それを『押せ』と書いてあった為に穹が押したからである。

「あのー」

そんな中で、吹っ飛んだ扉の方から何者かの声が届いた。

「あ?」「ん?」「お?」

見ればそこには一人の中学生の少年がいた。

「・・・依頼に、来ました」




どうにか客用のソファとテーブルを元に戻し、終一たちはやってきた中学生の少年を招き入れる。

「姉さんを探してほしい?」

少年の依頼内容を物凄く簡潔に説明するとそれだ。

「オレん家、父ちゃんと母ちゃんが事故で死んでて、だから姉ちゃんがたくさんのバイトを掛け持ちしてなんとか食べていけてるって生活してるんだ」

「親戚連中はいねえのか?」

「いないよ」

終一がそう尋ねると、少年はそう答えた。

「いないんだ・・・」

「だけど、一昨日から姉ちゃんが帰ってこなくなって・・・その日は、バイトが立て込んでるって思って気にもしなかったんだ。だけど、朝になってもいつも朝ごはんを作ってくれてる筈の姉ちゃんの姿がなくて、だから、何かあったのかって思って・・・それで、ここの事を思い出してきたんです。お願いします、どうか姉ちゃんを探してください!」

必死に頼み込んでくる少年。その必死さは見ての通り。それなら依頼を引き受けないわけにもいかないだろう。

「終一、なんとかしてあげよう?」

「ガキ相手、それも貧乏ってなるとそれほどたかれなさそうだな」

「発言がクズ!?」

「お、お金ならある!」


そうして少年が出してきたのは分厚い諭吉さんだった。


「「「Wow!?」」」

「父ちゃんと母ちゃんのへそくりを引っ張り出してきたんだ。お願いします、どうか姉ちゃんを・・・」

「終一、受けよう」

「こんなチャンス二度とないよ!受けよう受けよう!」

「お前ら俺のこと何も言えないだろ!?」

金の前では誰もがゲスくなるのだ!

そんな訳で終一はがっくりと頭を下げてその札束を受け取った。

「分かった。その依頼、うちの事務所で引き受ける」

「あ、ありがとうございます」

「よぉし!頑張るぞー!」

「早く行こうなゆ!お前も来い!」

「え?あ、あぁぁああぁああ!!?」

ドッタバッタと急いで事務所を飛び出す穹となゆた。穹の腕には少年が俵の如く抱きかかえられている。大金を前にしてテンションがハイになっているらしい。

取り残されたのは終一だけだった。

「ったく、あいつら」

そんな二人の様子に呆れつつも、終一も立ち上がって追いかけようと歩き出す。

「・・・・ん?こいつぁ」






そうして、彼らは聞き込みを開始した。

少年が知る限りのバイト先を当たり、そこの店員や店主に、少年の姉の行方を尋ね、探し続けた。

しかし、誰も彼女の行方を知らず、得られた情報はあまり多くは無かった。

「誰も行方を知らないなんて・・・」

「少しは様子がおかしいとかあるものじゃないのぉ?」

「っというか、昼はアダルトショップで夜はキャバ嬢ってどういう生活してんの・・・?」

わりとぶっ飛んだ経歴である。

そもそもどういう経緯を辿ったらアダルトショップで働く事になるのか意味が分からない。

「っで?終一はなんでそんなにやる気ないの?」

「いや、今週のジャ〇プ買い忘れたって思って」

「ものすごくどうてもいい事!?真面目にやってよ百万だよ百万!しばらく飲んで遊んで暮らせる金額だよ!」

「美味しいもの食べ放題!」

「どんだけ金に囚われてんだよテメェら」

ぬぼーっと終一はベンチにもたれかかって公園を見渡していた。

そんな終一の様子に呆れつつ、なゆたと穹は顔を合わせる。

「あとはお姉さんの友達とかに話しを聞くしかないか?」

「でも、バイトで忙しくしてるのに、働いている所以外で知り合いとかいる?」

少年は今すぐにでも泣きそうだった。

「姉ちゃん・・・」

「大丈夫!必ずうちらがお姉さんを見つけるから」

そんな少年をなゆたが慰める。しかし、ここまで手掛かりが無いのもまた事実。

立往生も良いところだ。

「なあ、お前の周りで何か変わった事がないか思い出せないか?」

「変わったこと?」

「うん、なんでもいいんだけど・・・・?」

「そういえば、昨日、学校から帰るときになんか喧嘩が起きてたような」

「喧嘩?」

「うん、たぶん、酔っ払いの喧嘩だったと思うんだけど・・・」

「・・・・」

少年の言葉に、なゆたと穹はふと、終一の方を見る。

終一は鼻をほじりながら公園の出入口へ視線を向けていた。

「・・・昨日、帰りが遅くなって、それでべろんべろんになって帰ってきてたような気がする」

「じゃああんなにやる気がないのってもしかして二日酔い?でも朝からそんな風には見えなかったよね?」

「一応、水飲んでたしもうお昼過ぎてるからそんなことはないと思うけど・・・・」

そんな感じの事をひそひそと話し合うなゆたと穹。しかし、今はそんな関係のない事を話していても仕方がない。

今は、少年の姉の行方を探さなければならない。しかし、手がかりがない。

まるで迷路に迷い込んだ気分だ。

そんな二人を他所に、ふと終一がベンチから立ち上がって、公園の四方にある出入口の一つへと向かう。

「終一?どうしたの?」

「少しここで待ってろ」

そう言って、たったと公園から出ていく。その様子を、穹、なゆた、少年の三人はぽかんとした様子で見送った。

そうして終一が出入口を左に曲がって、姿が見えなくなって十数秒。

「ぐわ!?」

「「「!?」」」

突然、終一が出ていった出入口から左にある出入口から男が一人飛び出してきた。

その後に、終一が姿を現す。

「な、なにすんだテメェ!?」

飛び出して倒れている男はよく見るとかなりガラが悪い。そんな男の怒鳴り声など無視して終一は顔をずいっと近付ける。

「お前こそ、なんで俺たちの後をつけてた?何?ケツでもおっかけておっ起ててたか?変態らしく発情期にでも突入してたかこの野郎」

「え?いや、別にあんなガキのケツおっかけてたわけじゃあ・・・」

「へえそうかい。じゃあ・・・」

終一は男の頭をぐわしと掴んで、顔面を近付けると、少し声を低くして尋ねる。

あの女の弟(・・・・・)のケツを追っかけてたのかい?」

「―――っ!?」

男の顔が強張った。





そこは人目のつかない廃工場地帯。そこには何十人というガラの悪い者たちが多く集まっていた。

その廃工場の奥、に、一人鉄骨に縛られた女性が一人いた。

「まだか・・・」

その中で、一人、ボロボロのソファに座り、これまら趣味の悪いジャケットを着たガラの悪そうなフードを被った男が、不機嫌そうに呟く。

「まぁだ弟の方は捕まんねえのか?」

「へえ・・・まだ連絡はきやせん」

「チッ、昨日に続いて今日もか。何してんだよカスどもが」

男は持っていた缶を後方へ投げ捨てる。それが、音を立てて地面に落ちる。

「上手くいってりゃあ、今頃大金が・・・」

その時、廃工場の扉が開く。がらがらと音を立てて、外の光を差し込ませながら開く扉から現れたのは、それはもうズタボロの男だった。

「ん?ケラウ!?」

その顔に見覚えがあったのか、一人のゴロツキが声をあげる。

しかし、ケラウと呼ばれた男は、糸の切れた人形のようにその場に倒れ込み、その背後にいた男の姿を見せる。

「どうも、白守探偵事務所です」

男―――終一が相も変わらない辛気臭そうな顔でその姿を現す。

その背後には、穹、なゆた、そして少年がいた。その少年が、工場の奥にいる縛られている女性の姿を見つける。

「姉ちゃん!?」

「っ・・・・!浩太?」

終一が工場内に足を踏み入れる。

「なるほどな。やっぱりどこぞの大金持ちの孫かなんかだったか」

「・・・なんの用だよ、オジサン?」

ソファに座る、おそらくはリーダー格であろうゴロツキが終一をじっと見つめる。そんな視線を気にせず、終一は話を続ける。

「そこにいる女とこのガキは、おそらく両親ともにかなりの金持ちのとこの跡取りだったんだろう。だが、勝手な想像だがどちらの家からも結婚を反対されて、駆け落ち気味に縁を切った。こっちのガキが親戚がいないと言ったのも、そもそも知らなかったからだろ。だが、何かしらの理由でお前らはこいつらが金のある家の人間と関係があると知って、誘拐したって所か」

終一の推理を聞いて、男はにやりと笑う。

「お見事、探偵と名乗るだけはあるなぁオイ。それで?オジサンは俺たちにどうして欲しいんだ?」

「そこにいる女を返してもらう。まあなんだ。これ以上罪を重ねる前に、さっさと手を引いた方がお互い身の為じゃねえか?」

「それを聞いて大人しく従うとでも?」

周囲のゴロツキたちが終一たちを囲む。

「こいつら・・・」

「ん?どうしたの?穹」

「なんで全員、帽子やフード被ってんだろ?」

「そういえば・・・・」

穹たちの疑問に答えるように、頭や顔を隠している全てのゴロツキが、その姿を現す。

「・・・全員、獣人か」

「その通り」

フードを被っていたリーダーが立ち上がり、そのフードを外す。

その頭部に見えるのは、片耳だけの狼の耳。

「・・・面倒だな」

「くくっ・・・この耳はこいつのジジイにとられたもんだ。だから、こいつを餌に奴らに復讐してやるのさ。だからよぉ・・・」

リーダーである男の声に彼の仲間である獣人たちが一斉に構える。その体にはところどころ傷がある。

「ここで死んでくれよ、『人間』!」

一斉に襲い掛かる獣人たち。

「穹、なゆた。そのガキ守ってろ」

終一は、二人にそう指示を出すと、腰に差していた木刀を掴む。

「はっ!人間風情が、そんなもんで俺たちに勝てるとでも―――」

飛び掛かってくる獣人たち。それに対して、終一は木刀を引き抜き―――。

「ギャーギャー喚くな近所迷惑だろうがァ!!!」

「「「ぐわぁぁあぁああああ!!?」」」

一薙ぎで複数の獣人を吹っ飛ばした。

「な!?」

その光景に、リーダーは目を見張る。

吹っ飛ばされた獣人たちはそのまま壁や打ち捨てられた機械に突っ込んでいった。

「悪いがこっちも依頼だァ。お前らの境遇には同情するが、だからと言ってなんも知らねえガキ二人を攫って使い潰そうだとか、ンなつまんねえことしてんじゃねえよ」

「ぎっ・・・テメェに一体何が―――」

「お前らの復讐に巻き込むな。お前らの相手は、その『人間』ってのを代表して俺がしてやるよ」

右手に持った木刀を、左脇に抱えるように構えて、終一はこの場にいる全ての敵に向かって言う。

「かかってこい畜生ども。その鬱憤、俺が受け止めてやる」

「調子に乗りやがって」

獣人たちの表情が、怒りに染まる。同時に、牙や爪、普段なら隠している獣特有の武器が、その姿を現す。

「人間風情が、俺たちに勝てると思うなァ!!!」

獣人たちが一斉に襲い掛かる。

しかし、終一の表情に焦りはない。それどころか、変化する事もなく、木刀を握り締め獣人たちを迎撃する。

振り抜かれた木刀の一撃。それが獣人たちを打ち据え、再び吹っ飛ばす。

打ち、薙ぎ、叩く。襲い掛かるもの全てを木刀の一刀の元に叩き伏せ、終一は瞬く間に獣人たちを次々にノックアウトしていく。

「すごい・・・」

その光景を見ていた少年はそう漏らす。


本来、獣人は人間の数倍の身体能力を持つ。嗅覚や視力、張力がもちろんのこと、夜行性であれば夜目も十二分に持つ。何より、その身体能力は一歩間違えれば鉄すら引き千切る。

無論、その耐久性も含めてだ。とても人間では対抗できるほどの事ではない。


それなのに―――

(なんで、あんな人間一人に、何十人もやられてんだよ!?)

終一は既に、半分以上の獣人を叩きのめしている。

木刀一本で、一方的にだ。

「クソっ、それなら・・・!」

その時、獣人の一人が狙いを穹たちの方へ向ける。

「先にお前らから―――」

それを見つけた穹。

「ん?」

こちらに向かってくす獣人を見た穹は、その獣人の方へ体を向けた。そして穹とその獣人がぶつかった時―――

「ぐぎゃああ!!?」

鼻から血をまき散らしながら、獣人の方が吹っ飛んだ。

「はあ!?」

それを見た獣人たちの動きが止まる。見れば、そこにいるのはどっから取り出したのか分からないバットを振り抜いた穹の姿があった。

「ホームラン」

丈夫そうな鉱石のような素材でできているバットを片手に、穹は獣人たちを威嚇するようにバットを構える。

「こいつもかよ!?」

「クソッ・・・ぐべえ!?」

気付けば、もう数は残り僅か。このままでは全滅も必至だろう。

終一は変わらず木刀一本で無双。穹はなゆたと少年の傍を離れず、なゆたも少年を守りながら周囲に睨みを利かせている。

このままではワンサイドゲームで計画が失敗に終わる。

「それ以上動くなぁぁああ!!!」

それを察知してか、一人の獣人が、爪を伸ばし、少年の姉を掴み上げて爪を突き付けていた。

見ての通り人質だ。

「そこの人間、この女を殺されたくなけりゃ、それ以上動くな。抵抗もするなよ」

それを見た終一は、その場で立ち止まり、穹もなゆたも下手には動かない。人質を取った獣人は、それを見てにやりと笑い、更に要求を突き付ける。

「よぉしいいぞ。そのまま武器も捨てな」

「・・・・」

「捨てろって言ってんだよぉ!!!」

獣人の怒鳴り声が響く。これ以上、興奮させれば少年の姉は無事では済まないだろう。

だから終一は、そっと木刀を手放した。彼らは獣人の動体視力で、それがゆっくりと落ちていくのが見えて、その口端に笑みを浮かべた。


しかし、その笑みはそのまま凍り付くこととなった。


「・・・はぁ?」

人質をとっていた筈の獣人の身体が、飛んできた『矢』が刺さった途端、瞬く間に凍ってしまったのだ。

「な・・・にが―――」

その理由は、なゆたにあった。

いつの間にか、その手にあった弓と矢。それによって、なゆたが人質をとった獣人を狙撃したのだ。

そこからは早かった。手放した木刀を蹴り上げ、再び手に取り戻した終一は、残った獣人を片付けるべく走り出す。

「・・・・お姉さんたち、何者?」

「え?うちら?んー・・・」

少年に尋ねられたなゆたは、考えるように視線を彷徨わせる。

「ただの探偵だよ」

そんなにっこりとした笑顔で出した答えに、少年は唖然とした。

だが、そんな中で、ついに終一と敵リーダーが激突した。

終一が振り下ろした木刀の一撃を、リーダーの男が腕を交差させることで防いだのだ。

「ふざけやがって」

「っ!」

その場からすぐに飛びのく終一。

一方の狼の獣人は、不機嫌丸出しの顔で終一を睨みつける。

「なんで、人間であるテメェらが、俺の仲間を・・・・」

その体が、突如として膨れ上がる。それだけじゃない。その体から一気に灰色の毛が生え、全身を覆う。顔の形も変わり、鼻と口が一緒に伸び、顔全体もまた毛に覆われる。

そうしてその場に現れたのは、一匹の二足歩行の狼。

「・・・・人狼か」

「その通り・・・これが俺の本当の姿だァ!」


人狼―――人に化ける狼の怪物。

獣人と違う点は、その一点にあり、力を抑えている人間形態から力を解放する獣化形態に変化する事が可能であり、出力を調整できる点により、獣化形態中は獣人よりも身体能力が高い。


そして人狼は『獣人』ではなく『亜人』に分類される。


獣化した人狼が終一に襲い掛かる。その勢いは、まさに人間どころか獣人のそれを超えている。

鋭い爪の一撃が、工場の鉄の機材や地面を切り裂く。

「フハハハハハ!!!どうした人間!オレの爪や牙が怖くて、反撃できないかぁ!?」

これまで終一に攻撃は一切当たっていない。だが、その猛攻に終一は反撃できないでいる。

周囲の獣人たちは、その姿を見て、煽り立て歓声を上げている。

そうして避けている間に、終一は壁際に追い込まれ、退路を失う。

「もらったァ!!!」

そこへ、右手の爪の一撃が終一に向かって叩きつけられた。

「あ!?」

「ひゃっほう!当たったァ!!」

「ざまぁみろぉ!」

少年の目には、終一の頭を潰されたように見えた。

「大丈夫」

だが、穹となゆたには分かっている。


あの程度じゃ終一はやられない。


「なん・・・だと・・・!?」

人狼の腕力を前に、人間の腕など割り箸も同然。掴めば容易く手折る事が出来るほど、人狼の力は凄まじく、人間の身体は脆い。それが絶対の事実。覆しようのない力の差の筈だ。


それなのに、終一が木刀を柄と切っ先のそれぞれを掴み、人狼の爪の一撃を防ぎ、あまつさえ止めていた。


全力で押し込んでいる。だが、それでもそれ以上進まない。

「ぐ、ぎぎ・・・!!!」

凄まじい形相で終一は人狼の腕を押し返している。だから、人狼はそれ以上どれほど力を入れても動かなかった。

「なんでだ・・・なんで、人間風情に―――」

「だから・・・」

人狼の身体が、後退する。人間の力で、さがる。

「ギャーギャーギャーギャー喧しんだよ!!!」

終一が、人狼の右手を弾き飛ばす。

「バカな!?」

「人間が、どうして・・・!?」

動揺が止まらない。体が強張る。目の前の人間に、勝てるイメージが湧かない。

(この人間が、怖い・・・!?)

「さあ、躾の時間だ」

終一の木刀が、人狼の頭を打ち据える。

そのまま二撃と続き、凄まじいラッシュが人狼に叩きつけられる。幾度となく、人間離れした膂力による連撃が、人狼へと叩きつけられていく。

そして最後の一撃が炸裂し、吹っ飛んだ人狼はそのまま工場の壁を突き破り、沈黙する。

その体は、先ほどの半端な人と獣の間の身体へと戻っていた。

場が、静まり返っていたが、その中で木刀を肩に担いだ終一は、残った獣人に目を向けると。

「まだやるか?」

そう、告げた後の彼らの行動は、言うまでもないだろう。




「姉ちゃん!」

少年が、助け出された姉に抱き着く。

「ごめんなさい、心配かけたわね・・・」

姉の方も、心底安心したのか涙を流していた。

その様子に、探偵事務所の面々は笑みを浮かべる。だが、視線は再び、拘束された獣人たちへと向けられる。

「終一、この人たち、どうするの?」

その一方で、なゆたは氷で拘束した獣人たちの事を終一に尋ねる。

「境遇には同情するが、こいつらは俺たちの依頼人に手を出そうとした。その上、誘拐もしてるんだ。警察に突き出すのが妥当だろ」

「でも、この人たち、人間に酷い目に合わされてたんだよね?なんだか、可哀そう・・・」

「俺たちに出来るのは、犯人を見つけてそれを警察に引き渡す事だけだ。それに、お前がそんなに気に病む必要はない」

「え?」

終一は操作していたスマホの画面を見せた。そこにあるのは、とある資産家の記事だった。

「こいつらの爺さん婆さんはそれなりの資産家だが、こいつらの言う非人道的行為はしていない。確かな筋だ」

「じゃあどうしてあんなこと言ったんだろう・・・」

「こっちを動揺させる為の嘘かなんかだろ」

その時、微かな笑い声と共に人狼の口角が上がる。

「ククク・・・嘘なものか」

「もう起きたのか」

穹となゆたが思わず武器を構えた。

「今でも思い出せる。あの男のうすら寒い笑いを・・・耳をそぎ落とされた痛みを・・・それを思うと、人間への憎悪が止まらねえ・・・テメェら人間は悪魔だ。俺たち異外人(いがいじん)を玩具にして、その命を弄ぶ・・・・テメェらも結局そうなんだろ。そもそも、なんで―――」

人狼が目を閉じたタイミング。そこで終一はさっと人狼に近付いた。


べりっ


そんな音と共に、無い筈の人狼の片耳がぴょこんと姿を現した。

「え?」「え?」「え?」「え?」

「「「・・・・・え?」」」

その場にいた全員が、唖然とした。穹も、なゆたも、少年も、少年の姉も、そして今起きた獣人たちも。

「は?・・・え、あ・・・」

ずどん!と人狼の顔のすぐ横に、終一の足が叩きつけられた。

「あっれれ~?おっかしいぞ~?なぁんで無い筈の君の片耳が無事なのかなぁ?」

「あの、その・・・・」

「もしかして特殊メイク?それともまさかずぅっと隠してたってことなのかなぁ?」

「いや・・・えっとぉ・・・」

「つ・ま・りぃ、君はみんなを騙していたわけだ。そうなると、今さっきお前が言った言葉が全部正しいってことはありえないよなぁ?」

終一の顔面が、人狼の顔面に迫る。その表情は、人狼だけにしか分からない。

「騙すなら耳斬り落とせよ」

「ひぇ」

終一の詰め寄りはそれで終わった。人狼は、解放されたと思い、強張っていた体の力を抜いた。


が、終一の蹴りが顔面に炸裂し、再び工場の壁をぶち破って吹っ飛んでいった。


「「ああ・・・・」」

その光景に、穹となゆたは呆れる他なく、少年たちは言葉を失っていた。

「お前のような奴がいるから異外人の格が下がんだろうが」

終一は額に青筋を浮かべながら、最後にそう吐き捨てた。





「今回は、本当にありがとうございました」

警察が到着し、獣人たちが護送車に乗せられている中で、終一たちは少年の姉からの感謝を受けていた。

「お姉さんが無事で良かったよ。また何か困った事があったら、事務所まで来てくれると嬉しいな」

「どんな依頼も全力で解決。それがうちのモットーだからな」

そんな中で、姉の傍にいる少年の表情はどこか浮かばない表情であった。そんな顔の少年に、終一は視線を向ける。

「依頼は終わった」

少年の肩がびくりと震えた気がした。

「依頼料は貰った。だからもう気にすんな」

「え?」

終一の言葉に少年は顔を上げるが、その表情を見ることなく、終一は歩き出す。

「帰んぞ」

「あ、待ってよ終一!」

「おーい!」

立ち去っていく終一を追いかけ、白守探偵事務所の面々はその場を立ち去っていく。

そこに残ったのは、警察の保護を待つばかりの二人の姉弟だった。




そうして帰路についた彼らは―――

「うへへ~」

なゆたはこれまた嬉しそうな気分あげあげ状態でスキップを刻んでいた。

「何をそんなに喜んでんだよ」

「だってぇ、あんな大金貰っちゃってぇ、これからどうしようかなぁって思ってぇ」

「あ、そういえばそうじゃん!最新のゲーム機買おうゲーム機!」

「何言ってるの、大容量メモリーカードをたっくさん買うんだよ!」

「どんだけカメラ取るつもりだ・・・ってか、今回の依頼料はたかだか一万円程度だぞ?」

二人の動きが固まった。

「・・・・今なんて?」

「だから、報酬は一万円だぞ?」

「ま、またまたぁ、うち見たんだからね?たっくさんの諭吉さんの束、あれが一万円だなんてありえないよぉ」

「ああ、あれか。これの事か?」

どっから取り出したのか、終一が少年がもってきた分厚いお札の束を出して、それをなゆたたちに向かって投げる。

「え!?ちょ、わあああ!?」

それを穹が慌ててキャッチ。そうしてそのお札の束を見た穹となゆた。

「・・・・あの、終一?」

「なんだ穹?」

「これ、真っ白なんだけど・・・・」

「ああ、一番上の万札以外、全部偽物だぞ」

「「・・・・・」」

ついに停止してしまうなゆたと穹。そんな二人の肩をぽん、と叩き、終一は二人を置いていく。

「「・・・・・・うわぁああぁあぁああああああああ!!」」

若い男女の方向が、夕焼けの穹に轟いた。




そうして、事務所のあるビルに到着した終一たち。百枚が一枚になったショックに、とぼとぼと歩く穹となゆたが終一の後ろをついていくという形だ。

そんな三人の後ろから一人、小さな少女が走ってくる。

「パパ!」

その声に、終一は振り返ると、その終一に少女が飛び込むように抱き着く。

輝くような金の髪と尻尾、ぴこぴこと動く狼の耳。人狼とは違う、狼の獣人『狼人(ウェアウルフ)』の少女だ。

「エレーナ、今帰ったのか?」

「うん、ただいま、パパ!」

終一に頭を撫でられ、綻ぶような笑顔を浮かべる少女の名は『白守エレーナ』。終一の娘である。

「エレーナちゃぁん!」

「わ!?どうしたのなゆたお姉ちゃん?」

「聞いてぇ、今日の依頼で騙されたのぉ」

「よしよし、今日も頑張ったんだね」

「エレーナぁ、俺の事も慰めてぇ!うぇええん!」

「よしよし、お兄ちゃんもえらいえらい」

「小学生に慰められていいのかお前ら・・・」

エレーナに慰められて面白おかしくだばーと涙を流すなゆたと穹に終一は呆れる他なかった。

「ったく、仕方ねえ。今夜はこの金で美味いもん食いに行くか」

「「ほんと!?」」

「無駄に食いつきいいなお前ら!?」

復活して踊り出す穹となゆた。そんな二人を見て呆れる終一に、エレーナはそっと近づく。

「今日もお仕事お疲れ様、パパ」

「ああ、ありがとうな、エレーナ」

「二人とも!早く行こう!あ、姫香も誘おっか!」

「終一!中華いこう中華!あつあつのお汁出る春巻食べよう!」

「どこの世界の春巻だよ」



これは、突然異世界と融合した世界でなんやかんやで『探偵事務所』をやっている彼らの物語である。

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