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おれの恋にはライバルが-【絶対】-あらわれる ~小四から高三まで~  作者: 嵯峨野広秋


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1/2

小四の恋

 みんなわかってねーんだ。

 もうとっくにレースははじまってるんだぜ?



「おれ? 好きな子? いるよ」



 まわりのヤローどもがざわめいた。それに反応してウルフがこっちをジロリとにらむ。ウルフっていうのはクラスで一番ケンカつよくて級長までしてるヤツ。

 風のウワサで、おれはあいつがホレてる女の子の名前を耳にしていた。それは女子の級長のマヤマさんだ。


「だれだよ、いえよ」


 ダチの友川(ともかわ)がおれの肩に手をおく。

 授業のあいだのみじかい休み時間。おれたちは教室の真ん中で、いつもの四人でかたまっていた。


「もったいぶんなや」


 背はひくいが気がみじかくケンカっぱやい高山(たかやま)が腕をくむ。


「たのしみたのしみ」


 と、おもしろがってるこいつはおれたちの中でただ一人の女子。天パでカミナリ小僧みたいな髪の、よくわかんないヤツ。


 おれは少々デカめの声でいった。



「マヤマさんだ!」

 ――「ちょっとカオかせよ」



 放課後。

 すごいスピードでおれはボコられた。

 出だしから、パンチとかじゃなく、両肩をつかまれてハラにヒザでドン!

 こんなの勝てるわけねぇと思った。こいつケンカなれしすぎだろ。



「いってー…………」



 だが、ダメージはそんなでもなかった。

 まあ、親とか先生にバレないぐらいでテカゲンしたんだろーけどな。

 運動場から元気な声がきこえてくる。放課後の運動場は六年がシめてるから、たぶんそいつらだ。

 つくづく小四ってのはどっちつかずなポジだよな。

 低学年ほど甘やかされず、六年のやつらほど自由にやれずでさ。


「わー、いたそー」


 体がびくっとなった。

 地面にぶったおれてるおれの耳もとで、急に女子の声がしたからだ。


「チカかよ。びっくりさせんじゃねーよ」

「めんご」

「おれ……顔とかハレてないか?」

「ちょっと赤いぐらい」


 よっ、と体をおこす。

 ここは学校のはしっこ。給食を用意するための部屋の窓が目の前に会って、落ち葉がたくさん地面に落ちている。

 チカが天パの髪を指先でくりくりしながら言う。


「ウルフのいかりを買ったのだ」


 それはそのとおりさ。

 おれは、こうなることがわかってた。

 あいつはマヤマさんが好きで、ほかの男子に「手ぇだすな」っていうオーラをだしまくってたから。


「いいんだよ。それよりチカ、おまえは『わかってる』か?」

「ふぇ?」

「まぁ…………だよな」


 ところどころカワが切れてるランドセルをしょって、おれは一人で家にかえる。

 いいんだこれで。おれはみごとなスタートダッシュをきめた。



 けっこん相手をみつけるスタートを、な!



 おれは人生のだいぶ先までかんがえた。

 じいちゃんぐらいの年までかんがえた。

 かんがえたら結論がでた。

「いい女とのけっこん」こそ、幸せなんだって。

 じゃあ、その「いい女」とどうけっこんするか?

 けっこんできるようになってからじゃ、おそい。

「いい女」が「いい」なら「いい」ほど、さっさとだれかとくっついちまうからだ。そんなの当たり前の話だ。



「おっはよう! マヤマさん!」



 顔にバンソーコ―はったおれは、翌日の朝、元気よくそういった。


「え……うん、おはよ……」


 少しおどおどしながら言う彼女は、今日もかわいかった。

 いいトコの子みたいないい服に、シャラッとしたながいカミ。

 ぜったい将来「いい女」になる「いい女の子」だ。


 おれは毎日彼女に声をかけた。

 あきれられながらもかけた。

 マヤマさんの友だちに「しっしっ」と犬のようにあしらわれてもかけた。

 かけたかけた。とにかくかけたんだ。



 ――冬のある日、


 

「おはよう、遠藤(えんどう)くん」


 にっこり、と笑顔。しかも、


「今日もさむいね」

「え? ああ、そうそう。おれもそう思う」


 話もできた。

 話、ってほどのモンじゃないけど。

 こいつは、すごい進歩だ。


 おれ、遠藤(すばる)は確信した。


 彼女こそ、おれの「いい女」だと。


 放課後。


「おい」

(げっ。ウルフ!)


 靴箱のところで靴を地面にパンといきおいよく落としたところで、うしろから声をかけられた。


「なんだよ。なんもしねーよ」

「え?」

「おまえ、よくメゲずにがんばったな。すげーよ」


 それだけいうとウルフはぺしゃんこのランドセルを肩にかけて歩いて行った。


(なんだあいつ……みとめてくれたのか、おれを)


 あいつとはマヤマさんをとりあうライバルだと思ってたのに。

 あっけなく、ウルフはレースからいなくなった。

 じゃあ、このレースはもうおれのぶっちぎりってことだ。


(やった!) 


 独走ってやつだ。

 もはやおれがすべきは、ゴールテープを切ることだけ。


「ねぇ、いいこと教えてあげよっか」


 と、しゃべりかけてきたのはマヤマさんの友だちの子。

 前に「しっしっ」てした子だけど、今はおれのことをきらっていないようだ。


(あや)はさぁ」綾ってのは彼女の下の名前。「筋肉質な人が好きなんだよ。だからキミも筋肉つけるといいよ」


 筋肉。

 まじかそれ。

 おれ、どっちかっていうとヤセてるほうだからなー……。


「腕を太くしたい? 急にどうしたよスバちん」

「タカ。せめておまえぐらいにはしたいんだ。おまえ、どういうことしてる?」


 高山は首をかしげた。

 こいつはおれより背はひくいが、ガタイはおれよりいい。


「わからん。まー腕立てとかしてみぃや」


 言われたとおり、その日の風呂あがりにしてみた。

 きっつ。

 ちょっとしかできない。

 次の日、友川にも相談した。

「地道にやるしかないだろ」とオトナな意見。


 だよな、と納得した次の日。

 三学期のはじめ、うちのクラスに転校生がきた。



「うっす」



 おぉ――とひくい声のどよめき。

 がらりと教室の戸をあけて入ってきたのは、あるく筋肉。


「趣味はボディビルっす。自分、全国大会小学生の部で優勝してるっす」


 またしても教室がどよめいた。

 パ……パツパツの半そで白Tシャツ。バキバキのふとももとふくらはぎがのぞく短パン。

 いやいや。

 ありゃたしかにすげー体だが、それがいったいなんだって……



「すごーい! さわっていい?」



 休み時間。

 だれよりもはやく転校生のところに行ったのは、だれあろう、マヤマさんだった。


「かったーい。石みたい」


 心なしか、すでにうっとりした目であいつを見てるような……。


 そこからのスピード感はヤバかった。



「家、近いね。じゃあ、私といっしょにかえろうか」

(えーっ!?)


「またうちに遊びに来てね。パパとママもいつでもOKだって」

(えーーーっ!!?)


「昨日わたしたチョコ……ちゃんと食べてくれた……?」

(えーーーーーっ!!!??)



 おれの心はズタボロになった。

 とどめがこれ。


「あ……おはよう、マヤマさん」

「おはよー」


 すこしはなれたところで、


「さっきの男子、(あや)ちゃんの友だちっすか」

「ううん」彼女のうしろ姿。長い髪がイヤイヤをするように左右にゆれる。「ただの同級生」


 ガン!!!!!! とおれはハートに大ダメージをもらう。

 ……。

 あーあ、

 おれもまわりみたく、ファミコンだのミニ四駆だので遊んでりゃ、こんなことにはならなかったのに。

 こんな形で、

 さみしく転校って――



「はい。みんなで遠藤くんを拍手でおくってあげましょう」



 友川も高山も、やけにクールに見送りやがる。


 おれは、三学期の途中で親のつごうで転校。


 つまりおれのクラスに転校生がきたのはそういうことだ。〈あき〉ができる予定だったんだな。



「すばるー! すばるー!」

 


 チカはわんわん泣いてる。

 いつのまにかおれたちのワの中に入ってるへんな女子だと思ってたけど、

 おまえいいやつだったんだな。


(とにかくおれは、どこに行ったって、おれのレースをつづけるぜ)


 おれが「いい女とのけっこん」を思うようになったきっかけは、

 ほとんど毎日やってた親同士のケンカだった。

「おまえができたからけっこんした」なんて、あのヤロー言わなくてもいいことまで言いやがって。

 あのオヤジは最低だ。

 せいせいするぜ、名前も、あいつのじゃなくなったしな。


 ちなみに、

「いい女」ってのは、おれとの「相性がいい女」っていう意味だ。

 見た目はそれほど気にしてない……まあ、マヤマさんは見た目もかわいかったけど。



来生(きすぎ)(すばる)です。よろしくおねがいします」



 そして新しい小学校で、

 おれは五年生になった。

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